緞帳(どんちょう)のように重く暗い空。シトシトと小降りだったのは、少しの間だけ。 台風の影響か、突然の大降り。大粒の雨は激しく窓を叩き、地面に当たっても元気に跳ね返る。 ただでさえ空が暗くて、雨のせいで何所にも行けなく憂鬱だというのに、さきほどから重い雲の上でゴロゴロと嫌な音が響いている。 ツナは雷の稲光も嫌いだが、それ以上に落ちる瞬間の大気を震わせて伝わってくるあの感覚が怖かった。 いつもは煩いくらい騒がしいのに、何でこういうときに限って居ないんだよ。そう呟いても返ってくる返事はなく、代わりに返ってくるのは雷のみ。 雷の震動が少しでも伝わってこないようにと布団を頭から被る。 その時ひときわ大きな音が鳴る。どうやら何所かに落ちたようだ。しかも困ったことに部屋の明かりも落ちる。停電だ。 一人で居るときに限ってこれだ。
と、雷の音に混じってトントンと部屋の戸をノックする音。
「10代目、失礼します」 「獄寺君?!どうしたの?」 「あ、すいません、何度かインターホン鳴らしたんですけども、誰も出なかったので勝手に上がらせてもらいました。
とても良いタイミングで来てくれた獄寺に思わず抱きつくツナ。
「来てくれてよかった…」
心底ホッとした声音で呟く。
「以前、雷が怖いと伺っていたので、もしかしてと思って…」 「うん、ありがとう!停電になるし、チビ達も居なくて少し心細かったんだ。でも、こんな天気の中わざわざ来てくれたの?濡れなかった??」 「あ、実はちょっと買い物の帰りに通ったんですよ」 「買い物してたんだ。何買ったの?」 「これですよ」 そういって荷物をガサガサと漁ると、出てきたのはキャンドルだった。 「アロマキャンドルってやつで、リラックス効果とかがあったりするみたいっスよ」 「へぇー、聞いたことはあるけど見るのは初めてだな」 「これで少しは10代目の気分が安らげばいいのですが…」 キャンドルに火を点けると、暗かった部屋が仄かに明るくなる。 「結構明るくなるねー。少しだけ香りもするし…」 「そうっスね。なかなか趣がありますね」 「うん。ちょっとだけ気分、落ち着いてき…ひゃ!」
落ち着いてきたと言おうとした瞬間に、また近くに雷が落ちる音が響く。
「大丈夫っスか?10代目」 「う、うん、ごめんね」 「いえ、お気になさらずに。怖いようでしたらこのままでもオレば全く構いませんよ」
ニコニコと笑いながら、ツナを自分の腕の中に閉じ込める。
「あ、そういえば、人の心臓の音を聞くのもリラックス効果があるらしいっスよ」 「心臓の音?」 「えぇ、試しにオレの心臓の音聞いてみて下さい」
ツナが獄寺の胸に耳を寄せる。トクントクンと規則正しく心臓が鳴っている。
「どうですか?」 「んー…、獄寺君の心臓の音しか聞こえない。落ち着く…」
そのまま目を閉じて獄寺の心臓の音にだけ耳を傾ける。 獄寺はツナが起きないように、細心の注意を払いながらツナをベッドへ運ぶ。 ツナの手を振り解かないようにして、指先でキャンドルの芯を揉消す。 眠っているツナを抱いて獄寺も目を閉じる。
「おやすみなさい、10代目…」
額にキスを送ると少し笑ったような気がした。 後で起きたツナが
「眠っている間もずっと良い香りがしてて、凄く安心して眠れた」
と、獄寺に言うのだが…アロマキャンドルはツナが眠ってすぐに消されている。 反省 |