ニャー
並中最強の風紀委員長である雲雀の膝の上に、何故かその場に似つかわしくない可愛い薄茶の子猫が鎮座していた。
ツナは応接室に入るなり、暫くその奇妙な光景に目を奪われる。
「どうしたの」
「…雲雀さんこそどうしたんですか?その子猫」
「あぁ学校に来たら校庭に居てね。放っておいたらついてきたんだ」
子猫の喉をくすぐるとゴロゴロと嬉しそうに鳴く。
「その子猫が自分から、雲雀さんについてきたんですか?」
「…ひっかかる言い方をするね」
「あ、いや、その…雲雀さん群れるの嫌いだって言ってるから珍しいなと思って…」
「別にこんな弱い動物にまで強制しないよ。僕が嫌いなのは弱いくせに、群がって強くなったと勘違いする奴だけだよ」
楽しそうな表情でくすりと笑う。
「そ、そうなんですか。あ、それよりその子猫名前はつけてないんですか?」
人間以外にほんの少しだけ寛容だったとはいえ、雲雀が動物に名前をつけているとは思わないが、凶悪な顔で笑う雲雀の気を逸らせるために尋ねてみる。
「つなよし」
「はい?何ですか?」
「君のことじゃないよ」
「え………まさか、この子猫の名前がつなよしなんですか?!」
「そうだよ」
「な、何でオレと同じ名前なんですか!」
「だって他の名前なんて思い付かなかったし、呼んだら返事したし」
ねぇ、つなよし?子猫に向かって言うと、確かにニャーと返事をしている。
雲雀の中で一番最初に思い付く名前が自分であったことは嬉しいのだが、それを猫につけるのは如何なものか。
何とも複雑な心境である。
それよりも気になるのが、雲雀はツナと話している最中ずっと子猫を撫でていることだ。
意外に動物が好きなんだろうか。そんな疑問が頭を過ぎる。
ツナと話す時はツナの方を見るが、それ以外は視線がずっと子猫に注がれている。
表情はあまり変化しているようには見えないが、何処か楽しそうにも見える。
…せっかく獄寺君の制止を振り切ってまで遊びに来たのに、ちょっとつまんないなぁ、なんて思ってしまう。
でもあの雲雀に懐いた猫に興味はある。ちょっとだけ触ってみたくなり手を伸ばす。
「あ」
「え?」
ガリッ
「っ!」
「…この子僕以外に懐かないみたいって言おうとしたんだけど、遅かったね。…つなよし、無闇にひっかくもんじゃないよ」
…オレの怪我を心配するよりも猫が優先ですか。じわりと滲む血と一緒に視界も滲んでくる。
「…オレ帰りますね」
「綱吉?」
ツナは雲雀が何か喋る前に応接室を出る。
別に雲雀が自分の心配をしてくれるなんて思ってた訳じゃない。むしろあれぐらいで心配されたら、オレの方が心配になる。
子猫に対しても特に動物が好きではないが、嫌いでもないのでひっかかれたことに腹は立ちはしない。
雲雀が猫を好きなんて意外な一面も見れて、ちょっと子猫に感謝したいくらいだ。
けど、少しくらい何か言ってくれてもいいじゃないか。悲しいのか腹が立つのか、自分でもよくわからない。
それから数日間、何となく雲雀と顔を合わせづらくて応接室に行かなかった。
雲雀は普段授業に出る事なく応接室に居るので、応接室にさえ近付かなければ雲雀に会う事は滅多にない。
その日も雲雀に会わないように早々に帰ろうとしたところ、何処からか猫の鳴き声が聞こえた。
猫が学校の敷地内に迷い込んで来るのはそんなに珍しいことじゃない。
けど、数日間前に聞いた鳴き声と随分似ているような気がする。まぁ、猫の鳴き声なんてほとんど同じに聞こえるが。
しかしやたらとニャーニャー鳴いている。声のする方を探して見るが、なかなか見つからない。声は随分近くで聞こえるのだが、姿は確認できない。
ニャー
上から聞こえる。
見上げるとそこには、校舎の2階とほぼ同じくらいの高さまで伸びている木の枝に数日前に見た子猫がいた。
どうやら降りられなくなったようで、枝の中程にしがみついたまま動かない。
ツナは周りを見渡す。梯子か脚立でもないかと思ったが、そう都合良くあるわけがない。
しかも雲雀を避ける為、人気のないところを通っていたため周囲に人も居ない。
ツナがオロオロしている間に、子猫はだんだん枝の先端の方へ進んでいく。
どうしよう。
猫は高い所から落ちてもきちんと着地できるって聞いた事があるけど、まだ両手に収まる大きさの子猫が、この高さから落ちても大丈夫なんだろうか…?
ツナが悩んでいる間にも子猫は少しずつ移動していく。
ツナは意を決して木によじ登る。
体育祭の棒倒しで木登り練習をした甲斐があって、危なげなく登ることができた。
恐る恐る下を見ると結構な高さだ。子猫もこんな気持ちになって降りられなくなったのだろうか。ともかくここまできたら助けるしかない。
枝の方にしがみついている子猫をチッチッチッと呼んでみるがこちらを一瞥しただけで来ようとはしない。
仕方無く、慎重に子猫の方へと進んでいく。
あと、少し…。
ミシ
嫌な音が聞こえた。
ツナと子猫が乗っている枝が根元から折れる。
子猫が落ちる…!
咄嗟に手を伸ばすが、あと少しで届かない。
このまま地面に叩きつけられたら流石に痛いだけじゃ済まないだろうな。何処か他人事のように考える。
「綱吉!」
ドサッ。
予想していたのとは違った衝撃。
そこは雲雀の腕の中だった。
「雲雀さん…。あ、子猫は?!」
ニャオ
子猫はどうやら自分で着地できたようで何事も無かったかのように何処かへと歩いてく。
拍子抜けしたものの、とにかく子猫が無事で良かった。安堵の溜息が漏れる。
「綱吉」
「はい?」
「はい、じゃないよ」
「え…?」
「猫ならあのぐらいの高さどうとでもなるでしょ。何で君まで一緒になって落ちて、しかも頭から落ちてくるんだい」
「えーっと、猫を助けようとして身を乗り出したらそんな体勢になってたみたいで…」
「もう、いい」
はぁと溜息をつき雲雀がツナを強く抱きしめる。
「あまり心臓に悪い事はしないでくれる?」
「すいません…。けど、雲雀さんなら子猫の方を助けると思いましたよ」
「は?」
「だって、雲雀さん猫好きなんでしょ?」
「いつ、僕がそんな事言ったのさ」
「え、だって雲雀さん、この前オレが応接室に行った時に、ずっとあの子猫ばっか、構ってたじゃないですか」
「あぁ…触り心地が良かったのと、愛着が湧いたからだよ」
くしゃりとツナの頭を撫でる。
「愛着?」
「…あの子猫の毛色と名前にね」
後日談
「雲雀さん、あの子猫前と違って雲雀さんに対して怯えてませんか?」
「ん?あぁ、この前綱吉を引っかいた後、二度としないよう徹底的に躾けたからね」
「躾け…ですか」
「そうだよ。何したか聞きたい?」
「………いえ、結構です」
自分と同じ名前を持つ子猫に同情を禁じえない。
反省
本日仕事中ずっとこの小説携帯で打ってました(死)何だか猫が好きなので、どうにかして猫の話を…!とずっと思っていたので、とりあえず満足。
けど、もっと猫の可愛さをアピールしたい…!!って、それじゃあリボーンと関係なくなるよ><
そんなわけでヒバツナで雲雀に猫耳って話書いてみてもいいだろうか。
すんごい昔にりぼんでやってたねこねこファンタジー(名前はうろ覚え)みたいな設定で。