今、獄寺隼人は大変貴重な体験をしている最中だ。



最愛の人にこれでもかと言うほど強く抱き締められているなんて
照れ屋のツナからは滅多にしないことで至極幸せだ。

それはもう、出来ることなら惜しみないほどの愛を込めて抱きしめ返して
ベッドへ直行したいくらいに。

だが、ツナから『絶対に、動かないで!』と言われている。

こんな状態でいつまで我慢していられるだろうか…。
とりあえず命令を守る為に意識を飛ばして
今日の出来事を振り返る。

 

 

 



授業が終わって帰るかと言う時に、見た事ない女子3人がオレらのところにきた。


『獄寺君、ちょっと時間いい?』

『あぁ?』

『獄寺君に用事あるんだけど…』

『オレはねぇよ』

『そんなこと言わないでさぁ。すぐに終わるから!ね?』

『…獄寺君、オレ先に帰ってるから、話聞いてあげなよ』


明らかに告白しようとしているのに、あまりにも突き放した獄寺の言い方にツナが助け船を出す。
ツナに言われて渋々と言った感じで了承する。

『…わかりました。でも、すぐに終わるので教室で待っていていただけますか?
用事が終われば迎えに行きますんで』

『ん、わかった』

 

 

 

 

一応人気のない校舎の裏庭まで移動する。
が、相手は先ほどと変わらず3人。
何の為に人気のない所に移動したのか理解に苦しむ。

まぁ、そんなことはどうでもいいから早く10代目へを迎えに行かなくては。
気は進まないが、用件は何だと促す。

『実は、前から好きだったんだけどー、もし良かったら付き合ってほしいなぁと思って』

『断る』

『な、なんでよ!誰とも付き合ってないんでしょ?
なら、付き合ってくれても良いでしょ?!』

 

どうやら断られるとは思ってはなかったらしい。
酷く狼狽してキャンキャンと吠えてくる。
一緒に居た女達もそーだそーだと騒ぎ始める。

 

『何でも何も、付き合いたくないからに決まってんだろ』

『!!』

 

ふ、と視線を上から感じたので見上げると
校舎の窓から10代目が此方を見ていた。

待たせすぎたか。こんなことに時間をとられている場合じゃないな。

意識が完全に10代目に向いていた為に
オレは全く気がつかなかった。

告白してきた女がオレに向かって歩いてきていることに。

 

『ねぇ、少しの間だけでも良いから、付き合ってよ』

 

そう言って、あろう事かそいつはオレの腕に抱きついてきた。
無遠慮に胸を押し付け、媚びるような瞳で。

10代目が見ている前で…!
オレは些か乱暴に腕を払う。
女が尻餅をつくが知ったことではない。


『うるせーよ…!少しだのそんな程度の付き合いがほしいなら
適当にその辺の奴らにでも言っておけ』

 

羞恥で顔を真っ赤にさせた女が泣きながら喚くが、
オレはそんなやつに目もくれず
10代目が居た方を見上げる。

居ない。

裏庭から10代目が先ほど見えた校舎へと入り探すが、
何処にも10代目の姿は見当たらない。
教室かと思って行って見たが、
やはり教室にも居ない。

窓から外を見ると、帰宅する集団の中から
見覚えのある姿を見つける。

10代目だ!

オレは急いで玄関へと走って
10代目の所へと行く。

 

『10代目!』

『…』

『あの、10代目』

『なに』

『怒ってらっしゃいますか?』

『何で?』

 

無表情なままでオレの呼びかけに淡々と答える10代目。
オレがさっきの女の事に関して不可抗力だったと説明しても
態度は変わらず、結局10代目の自宅に着くまでそのままだった。

 

 

 

 

 

 

10代目を家まで送った後、オレもマンションに着くがすぐに10代目の家へと向かう。

やはりこのままなんて耐えられない!

 

抱きつかれたのは事実だから
それは言い訳のしようもない。
だから、許してくれるまで何度でも謝ろう。

そう思ってマンションを出たら。

そこには10代目が立っていた。

 

『10代目?!どうし…いや、オレも今10代目の家に行こうとしたんです。
とりあえず部屋に上がってください』

 

やっぱり喋ってはくれないけど
それでも嫌がる素振りは見せなかったので
ほんの少しだけホッとする。

 

『そこらへんに適当に座っててください。
今、飲み物を入れますから…』

『獄寺君…』

『はい!』

 

やっと10代目から話してくれて思わず力の入った声が出てしまう。

 

『こっちきて…』

『あ、でも飲み物は…?』

『飲み物はいらない』

『わかりました』

 

10代目に言われたとおり隣まで行く。

 

『そこに座って』

『はい』

 

その場にすとんと胡坐をかいて座ると

10代目がオレに向かい合うように

オレの足の上に乗ってきて

ぎゅうっと抱きついてきた。

 

 

 

「じゅっ…!」

焦ってオレが思わず腰を浮かすと

「動かないで!」

その言葉に忠犬よろしく動きがピタリと止まる

「絶対に、動かないで!」

 

 

こうして幸せだけど辛い状態になっているというわけだ。
情けないことにあれから数分経つが未だに動けずに、
腕は10代目を抱きしめようと中途半端な位置で停止している。

怒っているのかと思って顔を見ようとしても
10代目はオレの首にぎゅっとしがみついていて
顔もオレからは見えない位置にある。
僅かに白い項が見えるくらいだ。

どうしたものか…
10代目の命令とあらば命に代えても聞くつもりだが
流石にこのまま蛇の生殺し状態では厳しいものがある。

 

「あの、10代目。放課後の事ですが…。
本当に申し訳ありませんでした!」

「…」

「他の事に気をとられていたとはいえ、10代目以外の人間に抱きつかれるなんて…」

「他の事って…なに?」

「え、いや…その、10代目が此方を見てらしたんで、
早く終わらせなければと思って…」

「それで抱きつかれたの?」

「はい…」

「マフィアなのに、一般人に抱きつかれるまでわかんなかったの?」

「め、面目ありません!」

 

全くもってその通りだ。
いくら10代目に気を取られていたとは言え
あの至近距離での気配に気付けないなんて…
しかも相手は素人。これじゃあ右腕失格だ。
オレは返す言葉もなくうな垂れる。

 

 

 

シュンとうな垂れる獄寺君を見てチクリと胸が痛む。

違う、違うんだ。
オレはこんな事を言いたくて獄寺君の家まで来たわけじゃない。

別に獄寺君に怒っていたわけじゃない。
…そりゃあ、ちょっとは…ムッとしたけど。
けど、日頃からよく告白されている獄寺君の事だから
こんな事もあるんじゃないかとは考えていたのだ。

押しの強い子なら付き合わなくても良いからキスしてとか
そんな事言ってくるんじゃないかなとか。

そう、考えていたりしていたのだ。
だから実際にそんなことがあっても
(獄寺君がするわけはないと思うけど)
きっと絶対に必死に謝ってくる獄寺君を見て
少しの嫉妬をして笑って許してあげようと思っていたのに

 

現実はどうだ。

この胸に渦巻く感情は。

 

予想とは少し違ったけど獄寺君に抱きついてきた女子。
そして案の定必死に謝ってくる獄寺君。
ここまでは概ねオレの考えた通りだった。

けれど、笑って許すはずだったのに。
オレの顔は笑う事を忘れたかのように強張っている。
女子が獄寺君に抱きついているシーンが
いつまで経っても瞼に焼きついて離れない。

オレは何を思って笑って許せるなんて思ったんだろう?

獄寺君がオレを想ってくれているように、
オレもまた同じくらい…いや、それ以上に獄寺君の事を想っているのに。

 

 

未だ腕の中でシュンとしている獄寺君の頭をソッと撫でると
オレは謝罪の言葉を口にする。

「ごめん…八つ当たりしてる。
獄寺君が悪いわけじゃないんだ」

「いえ、10代目が仰った事は正しいです。
オレがもっと気をつけてなければならなかったんです」

「ううん、オレが獄寺君に話し聞いてあげるよう頼んだんだよ?
本当は行って欲しくなんてなかったのに、
物分りの良い振りをしてたんだ…
しかも自分で行ってって言ったくせに嫉妬して…だから、ごめん」

 

今、10代目はなんて…?

 

「嫉妬、してくれたんスか?」

「…うん」

「10代目が、オレに?」

「うん」

 

途端にシュンとうな垂れていた獄寺がパァッと明るい表情になっていく。

怒って呆れたのかと思っていたのに
10代目が嫉妬してくれていたなんて…!

どうしよう、すげー嬉しい。
顔が緩みそうだ。
緩んだ顔を見られないように10代目をきつく抱きしめる。

 

「獄寺君…?怒ってない?」

「怒ってなんていませんよ。
むしろ嬉しいです!」

「呆れてたりしない?だって、オレ…
凄く自分勝手なこと言って、嫉妬までして…」

 

さっきとは逆にツナがシュンとなる。

それに対して獄寺は

 

「オレだって普段から10代目に馴れ馴れしくする山本や、
アホ牛とかバカ女に嫉妬してるんですよ?
もし悪いと思うなら…もっともっと嫉妬してください」

 

ニコッと屈託のない笑顔でとんでもない要求をしてくる。
けれど、もう物分りの良い振りはしない。
ツナも笑顔で返す。

 

「うん…!」


 

反省
獄寺ハピバって事で、もう一本くらいアップできるかと思ったけど無理だった…!中途半端だけど、誕生日中にアップしたいので無理矢理切ってみた(おい)
後編はまた後日アップします><
後編、というか続きは直接この文章の後にアップします。
14日の夜中に後編アップ!
何だかツナと獄寺の気持ちを交互に書いてたら訳がわからなくなってきた…(ありえない)
ホント熱で考えがまとまらないです…。文章の繋がりがおかしいと思ったらメルフォとかでご指摘くださると助かります。
中途半端なアップした上、粗品で申し訳ありません…!

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