綺麗で残酷な人。 他人の温もりを教えておいて 快楽を教えておいて 何も言わないまま姿を消した…綺麗で残酷な人。 部屋には荒い息遣いとベッドが軋む音が響く。
「っあ、あ、やっ…は、ん」 「っ、10代目…!」
甲高い声が一際大きく洩れ、ビクビクとツナの身体が小刻みに震える。
「獄寺君…いつもごめんね…」 「いえ、これは俺が望んだ事でもありますから、10代目が気になさる必要はありませんよ」 「…ありがとう」
ツナが弱々しく微笑むと、獄寺は女性が見れば腰が砕けそうな甘い笑顔を返す。
「どういたしまして。必要であればいつでもお呼び下さい」
ツナが何とも言えない複雑な表情になる。
「…後少しだけ側に居てくれる?」 「えぇ、貴方が眠りにつくまでここに…」
うとうととまどろむツナの頭を柔らかく撫でて、やがて寝息が聞こえるようになったのを確認してから一礼して部屋を後にする。
「よお、ツナを抱いてたのか」 「お前か…」
ツナの部屋を出てすぐ、壁に凭れるようにして山本が立っていた。
「10代目の部屋の前で何してんだ?」 「あー久しぶりに帰ってきたから、ツナ抱こうと思って来たんだけど、先客が居たみたいだったからな―」 「そうか…」
それきり黙り込む獄寺を見て山本はハァ、と溜め息をつくと苦笑しながら自分の眉間を指す。
「獄寺、ここすげー皺寄ってんぞ。ツナの前でそんな顔すんなよ?」 「わぁってるよ。あの人の前ではしてねぇよ」 「そんならいーんだけどな。…ツナの様子はどうだ?」 「…相変わらずだ」 「そんな辛そうな顔すんなら抱くのやめちまえばいーだろ」 「今更やめるなんてできるわけねーだろ」 「まーな。ずっと、ずっと好きで初めて抱いた時は…ちょっと複雑だったけど嬉しかったもんなぁ」
愛しい、慈しむような表情でツナが寝ているであろう方を見て山本が呟く。
「普段はまるで性的なものを感じさせないのに抱いたらそんなイメージが吹き飛ぶくらい妖艶で 「…あぁ、ツナをそんな風にしたのはオレ達じゃねえのが悔しかったっけ」 「例えアイツの身代わりであっても構わないと思ってた…どこかでその内オレの事を好きになってくれるんじゃないかなんて自惚れてた。
ドンっと激しく壁を殴り付ける獄寺。
「ツナが起きるぞ…少し落ち着けって」 「あぁ、わりぃ…けど、アイツが3年前に10代目を置き去りにしたせいで10代目の心は未だ傷ついたままだ。 「で、結局抱いた後はツナが寝ている間に部屋を出るか、一緒に寝るかの二択になった…
獄寺と山本以外にも、ツナの事を好きな人間は山ほど居る。
3年前の春。ツナは誰が見てもわかるほど憔悴していた。
『アイツの代わりにお前らが抱いてやれ』
と、言ってきたのだ。 獄寺も山本もツナの事はそういった意味で好きだった。 そして泣きながらアイツの名前を繰り返しながら縋ってきたツナを見て…抱いてしまった。
ツナは薄っすらとまどろみながらも後悔していた。また獄寺に抱かれてしまった。獄寺の気持ちを利用してしまった。 本当はこんなちっぽけな自分の事を好きだと言ってくれる人達に差し出すようなものではない。
綺麗で残酷な人。 反省 |