■ 右(ラファエル)の方へ進んだ

賭けの決着が付いてからまだそんなに時間は経過していない。
仲魔たちの間に特別な変化は見られない。
ロキが賭けで大量のマッカを手に入れ金持ちになった以外、何も、少なくとも表面上は穏やかに時間は経過している。
東京議事堂に侵入したは良いものの、氷川にたどり着く前に騙し絵にひっかかって散々な目に遭った人修羅は、池袋に戻ってきてから対策を立てることに必死になっている。
クー・フーリンやオーディンは主人と共に騙し絵を攻略する方法を探っているが、多くの仲魔は好き勝手なことをして時間をつぶしていた。
ロキは銀座に戻りニュクスのバーで手に入れたマッカの大半を消費し、ラクシュミは主人から用事を言い付けられた分けでもないのに忙しく動き回っている。
オオクニヌシはと言えばなにもすることが無く、暇な時間を持て余していた。
人修羅に付き合うにしても、オーディンくらいの知恵者がいればオオクニヌシが知恵を貸す必要は無い。
ラクシュミを手伝おうにも、賭けが終わってからというものラファエルを選んだ鬼神に対する女神の態度は冷たく、話しかける隙も与えてもらえない。
自己鍛錬に励もうにも、漠然とした不安が纏わりつき、それが払拭されるまでやる気が起こる気配はなさそうだ。
漠然とした不安。それがどこから生じているものなのか、鬼神には見当が付いていた。
坑道での賭けはアマテラスの負けに終わった。
負けたという事実に対し魔神が取り乱す様子は無く、ラファエルも要求は後で伝えると言ったきりで、その後の経過はつかめない。
"なにも変化が無い"からこそ、裏でなにが起こっているのか見えず、オオクニヌシの不安は高まっていく。
賭け自体も、賭けが成立してだいぶ経った状態でもオオクニヌシはその存在すら知らなかった。
秘密裏に物事が進められ、取り返しの付かない事態になってから全貌を知って後悔することになる。
ラファエルを選びアマテラスを敗北させたことに責任を感じているオオクニヌシとしては、その見えない部分が不安で仕方なかった。
煌天が近づいているせいか、残っている元マントラ軍の悪魔たちは何となく落ち着かなく池袋全体が騒がしい。
この不安も煌天が精神に良からぬ影響を与えているせいだと自分を納得させても、込み上げてくる不吉な予感は治まらず、オオクニヌシはザワつく胸を押さえて表情を曇らせた。

受胎後の世界のどこから電力が供給されているのか不明だが、電力を消費して動く機械類は池袋において特に活躍している。
60階に続くエレベーターは悪魔も感激する便利さだが、室内を明るくする照明器具も地味に役立っている。
しかし、その部屋に設置してあるはずの照明は悪魔が暴れたときに壊されてしまったのか、床にガラス片を残して機能していない。
それにもかかわらず、部屋は小さな太陽を持ち込んだかのように明るく眩い。
光は天井から吊るされている物体から放たれているようだった。細長い輪のようなものがふたつ、揺れることなくぶら下がっている。
「……満足か?」
不思議な照明の下でふたつの影が動く。
片方は目の前のものをじっくりと観賞し、もう片方は遠慮ない視線を嫌って顔をそむける。
両方とも冷えた床に腰を下ろし、距離を開けずに向かい合い顔を見合わせている。
一方はアマテラスだが、常に身に着けているはずの装飾品は見あたらず、眩しい光を放ってはいない。
もう一方はラファエルで、
「これではあの悪魔と見分けがつかないだろうな」
と、質問に応じることなく軽く納得した様子でうなずいた。
アマテラスの目が天井へ向く。吊るされているふたつの輪は、よく目を凝らしてみれば彼の装飾品であることが分かる。
賭けに勝った者の権限により、大天使は魔神から装飾品を取り上げ天井に吊るした。
光を奪われたアマテラスはオオクニヌシそっくりで、そのことを指摘された魔神はますます嫌そうに眉を顰めた。
「余計な口を利く暇があるならば早く用件を言うがいい」
敵意を剥き出しにする魔神の首にラファエルの手がかかる。
首を絞められるのかと思いアマテラスは咄嗟に身を強張らせたが、指は絞めつけることなく親指で喉仏の辺りを撫でるのみだった。
「では理由を聞かせていただこうか、賭けに応じてまで人修羅に干渉する理由を」
魔神は苦しそうに目を伏せた。低い声で、要求を拒否する。
「他のことなら応じるが、それは言えない」
目はすぐに開いたが、話したくないという強固な意思が見て取れる。
喉仏に触れていたラファエルの親指に力が入ったが、アマテラスは口を閉ざしたまま決意を変える気配がない。
大天使は軽く首をかしげて笑った。
「私から逃げられるとお思いか? どうやら貴公には力の差というものを思い知らせた方が良いようですね」
何度か瞬きをし、魔神はきつく口を結んだまま吸った空気を飲み下した。
ラファエルの指が喉の動きを感じ取る。
「お前たち異国の神族どもにこの私が簡単に屈するとでも思っているのか? 天使風情が思い上がるな」
低い怒りの混じった声が、はっきりとしなかった大天使の笑みの意味を明らかにする。
目を細め、唇の端を吊り上げ、反抗的な態度を取り続ける目の前の悪魔を最も効果的に痛めつけるための方法を考え愉しんでいる笑顔。
生意気な魔神が泣き叫んで許しを請う姿を見てみたいという大天使というイメージからかけ離れた残虐な欲求が自分の中に生じていくのをラファエルは感じた。
手がアマテラスの首から離れて足首をつかむ。
「ならば、その言葉が真実かどうか、試すことにしよう」

薄めの布で作られたズボンの裾がラファエルの手によって少しずつたくしあげられていく。
露になった肌の上に唇が触れ、舐めるように緩く擦り、時に赤く跡がつくほどきつく吸う。
程よい硬さの脹脛から柔らかな内腿まで、丁寧過ぎるほど時間をかけた行為にアマテラスは次第に息苦しさを感じ始める。
ラファエルを蹴り飛ばして逃げることは容易いが、賭けの敗者という立場にある今、逃げてさらに弱さを見せることはアマテラスのプライドが許さなかった。
太腿の付け根に大天使の顔が近づくにつれ、熱い息や硬く尖った髪が絶え間なく点のような刺激を与え、魔神の足先が小さい反応を見せる。
「熱くなってきましたか」
「誰が」
吐き捨てるように否定するアマテラスのきつい目が丁度顔を上げたラファエルを睨みつける。
しかしラファエルの冷えた手がズボンの中に潜り込むとその目に戸惑いが生じ、眉を寄せて悔し気な表情を形作った。
「なるほど、さすがの貴公でもここをこうされると辛いようですね?」
ラファエルの指は、魔神から屈辱とそれ以上の快楽を引き出そうと器用に動いて形をなぞる。
「……っ」
小さな悲鳴が魔神の口からこぼれ、細い肩がぴくりと震える。
アマテラスのモノに指を絡めたまま、ラファエルはもう片方の手を魔神の上衣の中に差し入れ別の所からも刺激を加えていく。
指は次第に魔神の身体から変化を引き出し、上半身を支えるのもやっとという状態でアマテラスは声を押し殺して耐えている。
ラファエルの指が動くたびに身体を支える指先が跳ね、そうなってしまう原因の感覚を否定するようにアマテラスは何度か首を振った。
「貴公のことだ、他の者に身体を与えるのはこれが初めてなのでしょう?」
憐れむような声に魔神が否定することもできずにいると、大天使は羞恥心を煽るようにわざと耳元に口を近づけて、"悪くない"と囁く。
耳にかかる息に身を竦ませ、アマテラスは声を上げないように食いしばっていた顎の力を緩め浅く息を吐く。
その隙をついてラファエルは上衣に差し込んでいた指を魔神の口内に押し入れ、閉じられないように固定した。
アマテラスは驚いて目を見開き、すぐに指を噛み切ってやろうと顎に力を込める。
しかし下半身をきつく弄られて思うように身体が動かず、喉をひくつかせて腰を浮かせる。
ラファエルの手は魔神のモノを根元から先端まで激しく擦り上げて一気に追い詰めては、先走りを塗りつけるようにゆるゆると指の腹で撫でて焦らす。
「も……やめっ」
嫌々するように首を振り、アマテラスは達せられない苦しさから気を散らそうとする。
口内を舌に絡むように掻き乱す指が生じさせる音と、もう片方の指が生じさせる音。
ぬるい温度を伴う卑猥な湿った音に、魔神は聴覚までもが犯されていくような気分に陥った。
気が強く隙を見せないアマテラスのあまりの快楽に潤んだ目を見つめ、耳にねっとりと舌を這わせながらラファエルが囁く。
「強請ってごらんなさい、楽にして欲しいと私に許しを請うのです」
どこを触れられても辛いのか、意地悪く焦らすラファエルの指の動きに耐え切れずにアマテラスが白い喉を反らせる。
火照り熱に浮かされた顔は魔神の表情をいつもよりずっと幼く見せ、そのギャップに興奮して大天使は息を呑む。
「誰が……許しなど……!」
苦しい呼吸の合間に弱く吐き捨てられた言葉にラファエルが口の形を歪める。
上下から責めを続けていた手の動きを止め、腕の中に抱え込むように魔神の体を引き寄せる。
快楽の余韻で思うような抵抗もできないアマテラスは、膝まで着衣を脱がされ後孔に触れられると顔をそらして唇をかみ締める。
「今ならまだ間に合いますが?」
悪意に満ちた声が魔神に屈するよう交渉を持ちかける。
アマテラスの不安そうな目に迷いが生じ、降参を告げるために唇が開く。
悔しくてたまらないのか、目の端から涙を一筋こぼし、アマテラスは屈辱に満ちた声をやっとのことで絞り出した。
「許して下さい。だから、もうこれ以上は、止めてくれ……」
「嫌ですね」
魔神が自分に許しを請うことを計算に入れたようなタイミングでラファエルが拒否する。
逃げ出そうとするアマテラスをしっかり押さえ込んで腰を浮かせるように持ち上げ、硬くなった自身を露出させて慣らしていない後孔にあてがう。
恐怖でアマテラスは背中を丸め、服の上からゆっくりとその丸みを撫で、ラファエルは強く腰を突き上げた。
「っく!……ぁ……うぁっ……!」
腰が進むたびに痛みを訴える悲鳴が上がり、脚が突っぱねられ爪先が床を引っ掻く。
ぐいぐいとラファエルは己の物をきつい魔神の内部に押入れ、ついに根元まで埋め込んだ。
強烈な圧迫感に嫌悪で顔を歪ませたまま、ぎゅっとアマテラスは身を縮める。
自身を締め付けられたラファエルが低い呻き声をもらし、さらに相手を追い込み自分も快楽を得ようと、埋め込んだ物を引き抜いては挿入する激しい動きを繰り返す。
アマテラスはただ強烈な痛みに耐えることで精一杯の様子だったが、ラファエルが射精を許していなかった魔神のモノを再び扱くと、苦痛と快楽の両方に翻弄され大天使の羽を強く握り締める。
少しして魔神が前屈みに熱を解放し、ラファエルもアマテラスの内部に何度か続けざまに精を放った。
体を繋げた状態のまま、ぐったりした魔神が大天使に身を委ねる。
胸に柔らかな重みを感じ、ラファエルは呼吸を落ち着ける間もなくアマテラスに口付け舌を絡める。
天井から吊るされた光を見上げることもしない目は虚ろで、魔神は状況を考えることさえ億劫なようだった。
執拗に求めるラファエルの舌に諦めたように弱い反応を返すアマテラスの頬を、ほどけた長い黒髪が覆った。

「なんだお前、そこでなにをしている?」
邪教の館の前でうずくまっていたオオクニヌシは、ハッとして顔を上げた。
声をかけてきた悪魔を見上げる目は不安から安堵へ、安堵から再び不安に変化する。
「……、賭けで負けた貴方がどんな目に遭っているのか心配になってしまって……」
正直に応えると、鬼神を見下ろしていたアマテラスが声を出して笑った。
オオクニヌシはそれを見て怒ったようだった。
「笑って済ませないで下さい、真剣に悩んでいる自分が情けなくなる」
怒鳴り声に魔神は笑うのを止め、いくぶん真面目な態度で鬼神と向き合った。
オオクニヌシは立ち上がり、アマテラスの顔をまじまじと見てため息をつく。
「どうした?」
珍しく気遣う声に、
「自分と同じ顔をした方が辛そうな顔をしているのを見るくらいなら、あのとき貴方を選んでおけばよかったと思って」
と鬼神は後悔し、再び重苦しいため息をついた。
逆に魔神は深く息を吸った。嫌なことを表に出さないよう奥底に封じ込めてしまおうとするかのように。
「賭けのあと、貴方が主殿に干渉する理由を考えました。理由無く動く貴方ではない、目的があるのだろうと思いまして」
アマテラスは不快感を示すようにわずかに眉を動かしたが鬼神の言葉を止めることはしなかった。
確信が持てないのか下唇を親指でなぞり、断定を避けて訊ねる口調でオオクニヌシが続ける。
「貴方は私に譲らせたこの国を他の悪魔が支持する勢力に支配させたくなかったのですか? 我々へのこの国の人間の信仰を奪われたくなかったのですか?」
返答を求める鬼神の視線を受け、魔神はしばらく沈黙を守ってから観念して頷いた。
オオクニヌシは何故か笑った。
自分にも大いに関係する理由だというのに、それを一切打ち明けてくれなかったアマテラスを憎む気持ちと、打ち明けてもらえなかったことを悲しむ気持ちが混ざり合う。
同じ国の出身だからといってアマテラスに信頼されているとオオクニヌシは全く思っていないが、それでもギリギリのラインで守られていた何かがあった。
どんなに罵られようと、酷い目に遭わされようと、体だけでなく精神まで癒されてしまう常世の祈りのような一面が確かにあった。
それが消えてしまい、空っぽになった寂しさを埋めるためには笑うしかないというように、乾いた笑いが空しく響く。
「貴方は勝手だ! 私から奪ったものに関わることだというのに、当の私になんの相談も無く自分ひとりで何もかも決めてしまったのか!」
信じられないというふうに額を押さえて肩を竦めるオオクニヌシに、アマテラスの顔に強い感情が湧く。
「お前に話したからといって何になった? 敵に生気を提供するか? 足手まといになるくらいなら関わらせない方がよほど……」
いつもは何を言われても他人事のように聞き流せる魔神の言葉が、今は耐え難いほどの苛立ちを鬼神に感じさせる。
感情が昂ぶり、オオクニヌシは自然とアマテラスの胸倉をつかんでいた。
そのままの格好で悪魔たちは睨み合っていたが、片方の悪魔の身体から緊張がふっと抜けた。
「それでもお前が、私のことを嫌っていて、憎んでいて、殺したいと思っていたとしても……」
"助けてくれるというのなら"と消えそうな声を耳のそばで聞き、オオクニヌシは目を閉じる。
胸倉をつかんでいた手を魔神の背中に回し、鬼神は憎くてたまらない存在の肩口に顔を埋めた。
「私が欠けては、貴方ひとりではなにもできないのだということを覚えていただくために、喜んで助けになりましょう」
オオクニヌシが自分にしているように、アマテラスも鬼神の冷たい鎧が覆う背中に手を回す。

賭けの続きが、誰も知らないところで始まろうとしていた。



PC用眼鏡【管理人も使ってますがマジで疲れません】 解約手数料0円【あしたでんき】 Yahoo 楽天 NTT-X Store

無料ホームページ 無料のクレジットカード 海外格安航空券 ふるさと納税 海外旅行保険が無料! 海外ホテル