■ あるじさまの勝ち

「どうしても行くというのですね?」
若々しい印象を与える柄のマフラーで下唇まで覆い、少年の体格では着ぶくれしているようにも見える白い鎧を身に着けた妖精がツンと唇を尖らせる。
拗ねた表情は子供っぽさを残す妖精の顔によく似合う。
「そんなこと言ったって仕方ないだろう、僕は自分の家に帰りたいんだ」
妖精の相手をしている人修羅も負けずに口を尖らせて見せるが、こちらは可愛げの欠片さえ無い。
不満から一変、主人の揺るぎない決意を聞いた妖精は、グスッと鼻をすすって悲しそうに目を伏せる。
睫毛に水粒を認め、人修羅は"うーん"と困ったように唸りながら、少年妖精の柔らかそうな白い頬を抓って引っ張った。
「あ、……じゃないですか」
抗議する声に力は無く、再び鼻をすすったためか、肝心な部分は聞き取れない。
「セタンタがそんな甘えん坊だとは知らなかった、聞き分けの無い子だと知っていれば仲魔にしなかったよ」
意地の悪い発言にもかかわらず、言われた方のセタンタは上半身裸の主人の体にしがみ付く。
"あぁ全く"と呆れ気味に呟いたものの、人修羅はギュッと体を密着させるセタンタの頭をどこか嬉しそうにわしゃわしゃと撫で回した。
「どこにも行かないで下さい、置いていかないで下さい」
切実な願いを告げるセタンタに対し、人修羅はうなずくことなく黙って髪をなで続けている。
次第に主人との別れを拒むセタンタの声に嗚咽が混じり始め、抓られて少し赤みを帯びた頬に涙が流れた。
白い頬を濡らす水滴を拭うように人修羅は舌先で涙の筋を辿り、熱を持った涙袋に口付ける。
「泣き顔のセタンタを見るのは楽しいけど辛いな」
「辛かったら行かないで下さい」
静かに首を振る主人に諦めきれないともう一度"行かないで下さい"と少年妖精の口が動く。
「ごめん、それでも僕はお前にさよならを告げなくちゃ……」
残酷な言葉を吐く口を、セタンタは自分の唇を重ねることで封じた。

人修羅が太腿にセタンタを乗せる形で向かい合って地面に腰を下ろしている。
鎧を脱いだ少年の体は細く、この小さな体のどこにあの槍技を繰り出す力が潜んでいるのかと人修羅は驚いた。
二の腕や腹筋は筋肉が付いていてかたい物の、手袋に守られていた指は想像より綺麗で傷が無い。
その指が主人を快楽に溺れさせ、自らもその中で溺れようと、人修羅のモノを丁寧な手つきで擦り上げている。
頬と同じくらい白いセタンタの肌を指で味わいながら、人修羅は少しずつ高まっていく自分の欲望に身を任せている。
「セタンタ」
呼びかけに応じて擦る手を止めてぼーっとした顔を向ける妖精の額に人修羅は軽く口付け、背中に手を回す。
少年の背の窪みに沿って下降した人修羅の指は、腰部から更に下に潜り込む。
セタンタは体を強張らせたが、安心させるように再び主人が額に唇を付けると、恐る恐る力を抜く。
「そのまま」
指示をしてから指を口に含んで唾液で濡らし、探り当てたセタンタの中心に人修羅は力を込めて濡れた中指を挿入しようとする。
「いっ……」
上げそうになった悲鳴を下唇を噛んで抑え、代わりにセタンタは膝を曲げることによって痛みを軽減しようとした。
その努力のお陰か、中指は妖精の内部に侵入を果たし、今度は人差し指を迎え入れようと内壁を押し広げるように動く。
「あっ、……んぅ」
異物感と奇妙な刺激に戸惑ったセタンタの太腿が震え、侵入した指を追い出そうと締め上げる。
「だめだセタンタ、力を抜け」
人修羅が耳元で囁きながら空いた方の手で妖精のモノをに刺激を与えると、深呼吸をする要領で息を吐いたセタンタは怯えた目で主人の顔を窺いながらも、命令通りに少しずつ力を抜いていく。
「大丈夫、大丈夫……」
優しく暗示をかけた人修羅は人差し指を中心に潜り込ませ、抵抗を押し返しながら挿入させた。
内部に押し込まれた指はセタンタの中心を慣らそうと蠢き、途切れ途切れな声を上げながら妖精は苦しそうに眉を寄せる。
「やっ、あっ、あるじさま……もっ……やぁ……」
声は途中からすすり泣くような哀願に変わり、身を捩って嫌がる妖精の中心から人修羅はようやく2本の指をずるりと引き抜いた。
大きく開いたセタンタの口から深いため息がこぼれ、緊張していた身体が弛緩する。
「立てるかセタンタ?」
なぜそんな質問を主人がするのか理解できずに首をかしげるセタンタの腰を、人修羅の両手が支えて持ち上げる。
次の瞬間、主人の指に散々弄繰り回された部分に硬いものが接触し、セタンタは喉を鳴らして息を呑んだ。
「やだっ、いやだっ、あるじさま!」
願いは無視され、先ほどまで自分の指で刺激を与えていた人修羅のモノをくわえ込むように、持ち上げられたセタンタの身体はゆっくり降ろされていく。
"主様主様"と、少年はかたく目を瞑って必死に叫び声を上げ続ける。
指で慣らしたとはいえセタンタの中心は挿入するモノと比べれば狭く、痛みに泣き叫ぶ少年妖精の目から涙がこぼれ落ちた。
ほぼ根元まで主人のモノを埋め込まれると、セタンタは震えながら人修羅の体にしがみ付く。
自分に痛みを与える存在にも関わらず、縋り付けば自分を救ってくれる存在だと信じて抱きつくセタンタの背中を、人修羅は愛し気に撫でた。
「あるじさま、抜いて」
セタンタはとにかく自分を苦しめる質量から完全に解放されたくて訴えたのだが、それは逆効果となって妖精の感覚を狂わせる。
人修羅が腰を動かすと共に挿入されたモノと内壁が擦れ合い、その摩擦がセタンタの体に痛み以外の刺激を覚えこませる。
「ひぁっ! んっ……あぁっ……」
次第にセタンタの息遣いは荒くなり、擦れるたびに上がる悲鳴はじょじょに甘く切ない声音に変化していく。
体に密着した妖精から直接伝わる震えや熱、しがみ付く腕の力が人修羅の行為を激しくし、すっかり力の抜けたセタンタの体を思うがままに支配する。
快楽に翻弄されながら、
「許してくださいあるじさま、許してくださいあるじさま……」
と、命令に逆らったり失敗したときに人修羅に叱られていつも口にする謝罪を、セタンタはうわ言のようにかすれた声で繰り返す。
突き上げられるうちにセタンタは射精し、わずかな刺激を与えられただけで放置されていたモノから出た液が人修羅の腹を濡らす。
「セタンタ、セタンタ」
名前を呼びながら、ぐったりとして声も出せずに弱々しい痙攣を示すだけとなった妖精の内に人修羅は精を放った。

「主様」
高潮し、涙でぐっしょりと濡れた顔を上げてセタンタが微かに呼びかける。
人修羅の熱は少しずつ妖精の体内から引き抜かれ、流れ出た精液が地面に小さな液溜まりを作る。
「こんなことをしても、貴方がこの世界に留まってくださるはずが無いのに、私は、私は……」
後悔したように呟くセタンタの涙を指で拭い、人修羅は
「すまない」
と謝りながら、深く妖精に口付けて嗚咽を消した。



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