■ センコネタ

「あのカラクリ中は狭くて嫌じゃ、自由に歩かせてくれぬか?」
コンピューターの中から喚び出されたセンコの第一声はそれだった。
何本にも分かれた尻尾を舐めて毛並みを整え、四本足を地面につけたままお尻を高く上げて体を伸ばす。
「はぁ、なんというか、無理」
自分を喚び出した少年の気の抜けた返事に大きく伸びていた体から力が抜けて、べたっとお腹が地面にくっつく。
ペッペッと尻尾を舐めたときの毛玉を不機嫌そうに吐き出し、老狐は目を細めて主人を見上げる。
「おい人間、あまりワシを舐めるではないぞ、ワシはお前よりずっと長く生きており……」
終業式の校長の挨拶よりも長くなりそうな狐の説教に、条件反射で主人の口から欠伸が出る。
噛み殺そうとする気遣いも無い欠伸にセンコの耳が激しく動いて苛立ちを表し、戦闘の連続で疲れているのか
いつもにも増してやる気の無い少年は、曖昧に笑ってごまかそうとする。
「センコ老、マスターを困らせてはいけませんよ」
気が済むまで説教をさせておけば全てが丸く収まりそうな状況を悪化させるためとしか思えないタイミングで、妖精がやって来た。
厄介者を見るような目であっち行けと追い払う仕草をする主人など眼中に無いのか、
話に加わったクー・フーリンは爽やかな好青年らしさの象徴である白い歯を光らせる。
「えぇい、貴様のように未熟軟弱無知無能な妖精の指図など受けぬ!」
気に入らないという感情をむき出しにして鋭い爪で床を引っ掻くセンコを、クー・フーリンは心配そうに見下ろす。
「あまり興奮なさるとお体に悪いですよ」
狐の湿った黒い鼻から勢い良く白い息がふき出す様を、主人の目ははっきりと確認した。
ときどき絡み合ったまま解けなくなり、解いてくれと仲間にお尻を向ける原因となっている枝分かれした尻尾をピンと立て、
グルルと獣のような唸り声を上げる。
その瞬間だけ、まともに喋られるより唸られた方が動物らしくて可愛気があるなと、
どうでも良い点でクー・フーリンと主人の考えは一致していた。
「ワシを老いぼれ扱いするでない若造! 紙のように脆い鎧ごと足を噛みちぎられたくなければな」
威嚇しているつもりなのかクー・フーリンの周囲をぐるぐる回り、再び唸る。
そんなセンコに対し困ったように軽く肩をすくめ、
「私は同じ妖精族として貴方を尊敬しております。教えていただきたいことがたくさんあるので、
無理をなさらずお体を大切にしていただきたいのです」
と、嘘偽りの感じられない真剣な表情でクー・フーリンが訴えた。
それでもしばらくセンコは威嚇することを止めなかったが、クー・フーリンの態度が変わらないことを確認すると、
急に床に寝そべってそっぽを向いてしまった。
「あ……」
素っ気無い反応をされてクー・フーリンが不安そうに狐の顔を覗き込もうとすると、
「それでは共に行動する中でワシの生き様から何を学んだか言ってみよ」
センコは億劫そうに、しかし妖精の賛辞を期待して耳をピクピクさせながら訊ねる。
尻尾までパタパタと数本動いているところを見ると、期待のあまり逸る気持ちを抑えきれないらしい。
ゲイボルグを片手に、白い鎧の騎士は慎重に考えてセンコを焦らすだけ焦らしてから応えた。
「はい、貴方のように長生きするためには、図太い神経が必要なのだということを……」
生きいきとセンコの生き様から学んだこととやらを語るクー・フーリン。
しかし、それを聞く狐の目に凶暴な光が宿り、いったんは引っ込んだ爪が再び伸びる。
頭の中で第二ラウンドの開始を告げるゴングが鳴り響き、悪魔たちの主人である少年は痛む頭を抱えた。



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