■ 3/29 公式のコラムを見て浮かんだネタ
もうそろそろ時間か。
ふと思い、鳴海は新聞の紙面をめくる。
いつもの足音が聞こえ、あぁやっぱりそうかと机の上で丸くなっている黒猫へちらっと視線を送った。
「ただいま所長」
扉の開く音と共に葛葉ライドウが探偵社に帰宅する。
日常から、非日常の世界の住人へ切り替わるために。
「お帰りライドウ」
新聞に目を通したままの姿勢で鳴海が出迎える。
ゴウトがこれでやっと退屈な時間から抜け出せるとばかりに前後の足を突っぱねて身体を伸ばす。
「それでは調査に行ってきます」
教科書の入った鞄をいつもの場所に丁寧に置き、代わりに回復薬や各種弾倉の入った道具箱を持つ。
ひょいっと飛び降りたゴウトが剣を咥えてライドウの足元まで運んでくる。
身を屈めて剣を受け取り腰に挿せば、その面構えからは学生の甘さが消えデビルサマナーとしての貫禄がのぞく。
「夕飯時までには帰ってこいよ」
事件に関する調査報告のためではなく、ライドウ自身の報告のために。
それが難しいことを知りながら、鳴海はついそんなことを言ってしまう。
「上手くいけば……。大学芋を買って帰りますのでおかずの心配はいりません」
扉に手をかけたライドウが苦笑混じりに約束する。
甘く美味しい大学芋を売る店は、彼が一日の調査を終える頃には閉まっていることだろう。
それを知りながらも、鳴海はこう付け加えることを忘れなかった。
「おっと、こちらの好物も忘れずに、な」
強敵との戦いに傷つき迷い、疲れきって帰ってくるだろう年若い青年が体を休める場所はここであると言い聞かせるように。
ライドウは了解と言う代わりに帽子の角度を少しずらし、足早に室内から出て行く。
扉が閉まると、そこでようやく鳴海は新聞を畳み葛葉ライドウの無事を願う。
今日を締めくくる食卓に黄色く甘い香りを漂わす探偵見習いの好物が並びますように。
■ 誰もがいちどは考えること
※ 悪魔Aと悪魔Bの、台詞のみの小ネタです ※
■ 第一回 サマナーさんのお名前
悪魔A「今度のサマナーの本名、お帰りなさいませご主人様っていうんだってよ」
悪魔B「へぇ」
悪魔A「俺、高慢って最高じゃんって感じだったけどよ、最近おばちゃんもいいかなって思ってんだ」
悪魔B「うん」
悪魔A「……。だって嫌だろ?」
悪魔B「何がだい?」
悪魔A「おお、ライドウ! いや、お帰りなさいませご主人様! キサマに忠誠を誓おう! なんて、恥ずかしくて言えねぇだろ?」
悪魔B「……。そうだね、いくらメイドカフェでイベントやったからって、僕たち悪魔は硬派だからね」
悪魔A「だろっ? だろっ? 大正ロマンに甘っちょろい要素を求めるんじゃねーってなぁ?」
悪魔B「ところで今回のサマナーさんは女性悪魔に高慢な性格の子がいないって知らないのかな?
僕たちにお帰りなさいませご主人様って言われても、きっとがっかりするよね」
悪魔A・B「………………。」
悪魔B「あ、それでね、僕は江戸っ子の方が似合うと思うよ、君には」
* これはもうお約束みたいな感じで
■ 第二回 電車でGO!
悪魔B「聞いて! 僕このまえ鉄の箱に乗ったんだけど、すっごーーく面白かったよ!」
悪魔A「あーあれ俺も乗ったけどよぉ、そんな面白くなかったなぁ」
悪魔B「えーっ? ちゃんとニンゲンに化けてから乗った?」
悪魔A「化けるわけねぇだろ、なんでいちいち俺がそんな面倒くせぇこと……」
悪魔B「ダメだよ。それじゃあ肝心のスリルを味わえないじゃないか」
悪魔A「ハァ? どんなスリルがあるって言うんだ?」
悪魔B「えーっとね、ニンゲンがすっごく必死になって追いかけてくるんだよ。
オニ顔負けの真っ赤な顔で、ムチンジョウシャするなーとかなんとか叫びながら。もー笑えるんだから」
悪魔A「ほぉー。そりゃ面白そうだな。よし、俺も試して……あ」
悪魔B「どうしたんだい?」
悪魔A「実は俺さ、あんまニンゲンに化けるの得意じゃねぇんだよな」
悪魔B「ちょっとくらい飛び出てたって平気だよ。ニンゲンは鈍いから気付かないさ」
悪魔A「いや、半端じゃねぇくらいヤバイんだ」
悪魔B「えぇー? それじゃ見せてみなよ、絶対ダイジョウブだからさ」
悪魔A「それじゃ…………。よっと、ほらよ。どうだ?」
悪魔A・B「………………。」
悪魔A「なんとか言えって」
悪魔B「…いやじゃわいな」
悪魔A「!!?」
* 悪魔は人間から見えないので乗り放題なんですよね、羨ましい。
■ 第三回 大人の遊び
悪魔A「へへへっ」
悪魔B「ど、どうしたの? なにか良いことでもあったの?」
悪魔A「実はな、遊郭に行ってきたんだな、遊郭」
悪魔B「ふぅん……。でも、つまらなかったでしょ?」
悪魔A「いや、いい女とイケネーことしてたまらねぇ感じだったぜ」
悪魔B「嘘だぁ! だって君、あんなに化けるのが下手じゃ、ニンゲンに相手をしてもらえなかっただろ?」
悪魔A「そう思うだろ? ところがだ、実は遊郭で偶然昔馴染みのネコマタと再会してよぉ、盛り上がっちまったんだなぁこれが!」
悪魔B「えっ、ネコマタちゃん……?」
悪魔A「そうさ。昔から美猫なことで有名な奴だったんだけどよ、久しぶりに俺に会って惚れ直したってよ。
うははっ、これだから色男は参っちまうね!」
悪魔B「………………」
悪魔A「ん? どーした、なに浮かねぇ顔してんだよ? そーかっ、お前も遊郭でいい女と遊びてぇのか?」
悪魔B「ちっ、違うよ! 僕ベツにそーゆーのキョーミ無いし。楽しかったんでしょ、良かったね!
じゃあ僕これから行くところがあるし、今日はこれでさよならするね!」
悪魔A「あっ、おいっ……って、何だあいつ急に……?」
* ネコマタは色っぽいけど引っかくからなぁ……。
■ 第四回 大砲どっかん
悪魔B「うぅー……」
悪魔A「よっ、久しぶりだなぁ? どこ行ってたんだ?」
悪魔B「武器を持ってて同じ服を着たニンゲンがいっぱいいるところだよ」
悪魔A「そりゃ、軍人の施設かなんかだな。その様子じゃ面白そうじゃねぇな」
悪魔B「大きな鉄の筒の中に隠れていたら、急に大きな音がして空中に放り出されたんだ。
もーびっくりして口から色んなものが飛び出ちゃったよ!」
悪魔A「そりゃ災難だったな。俺と一緒に遊郭に行ってりゃあ楽しかったのになぁ」
悪魔B「また行ったの? 鼻の下伸ばしてバカみたいだ」
悪魔A「ヘッ、お前みてぇなガキに俺様の楽しみを理解してもらおうなんざ思っちゃいねぇよ」
悪魔AB「………………。」
悪魔B「あのねっ……、僕、サマナーさんの仲魔になろうと思うんだ。
麻雀とか面白そうだし、サマナーさんのところにいる悪魔はみんな優しそうだし」
悪魔A「勝手にしな、コキ使われた挙句に合体材料にされちまっても構わねぇならな。
俺はもう行くぜ、これでも色々忙しいからな。じゃあなアバよ」
悪魔B「なんで僕、仲魔になるとか言っちゃったんだろう。そんなこと全然思ってもいなかったのに。
嫌だな。僕、こーゆうの嫌だな。痛いよ。寂しいよ。君と友達でいたいだけなのに……」
* 陸軍と海軍がいますが、電波塔を何かに見立てて笑い狂っている軍人さんが好き。
■ 最終回 いつまでも一緒
悪魔A「あっ、お前……! サマナーの仲魔になったんじゃねぇのかよ?」
悪魔B「うん色々あって。そっちこそ、ネコマタちゃんはもういいの?」
悪魔A「あいつ、"わちき、あんさんのことは好きでありんす。でも、痛いのは嫌でありんす"だってよ。
俺と一緒にいると痺れて辛いって文句言うもんだから別れちまったよ。相性が悪かったんだろうな……」
悪魔B「そっか、君も色々あったんだね」
悪魔AB「………………」
悪魔B「ここ、潮風が気持ちいいね! 僕、すっごく気に入っちゃった」
悪魔A「ちょっと湿っぽいけどな。騒がしくてなかなかいい場所かもしれねぇな」
悪魔B「……。あのね、僕は君に感謝しているんだ。君が僕を一緒に外の世界を見に行かないかって誘ってくれて、
タラスクさんの地下から地上に連れ出してくれたこと」
悪魔A「そんな小せぇこと感謝するんじゃねぇよ。あんときゃ俺も退屈だったからな、暇潰しの相手を探してたんだよ」
悪魔B「うん分かってる。でも、お屋敷の外に出て色んな場所を見て回って、それで今もこうして君と海を見てる。
それって僕にとってすっごく楽しいことだけど、君がいてくれなきゃつまらないって分かったんだ」
悪魔A「なんでぇ下らねぇ…………。
んでもまぁ、……、俺も、お前といるのは面白くて飽きねぇし結構好きだぜ」
悪魔B「ほんと? これからも僕と一緒にいてくれる?」
悪魔A「あぁうるせぇ野郎だなぁ全く……。いてやるから引っ付くな」
悪魔B「わーい! 僕たち同じ雷電属だし、相性バツグンだから別れる心配もないね!」
悪魔A「ちっ、これだからガキは。興奮してねぇで次はどこに行くか早く決めろよ」
悪魔B「えーとねぇ、お姉さんたちに人気の銀ブラしてみたいなぁ!
そしたらモダンボーイになっちゃうよね、僕」
悪魔A「あーあー分かった、銀座に行きゃあいいんだろ。グズグズしてねぇで行くぞアガシオン」
悪魔B「あっ、ちょっと待ってよライジュウさん、僕のこと置いてかないでよー!」
* 大道寺家の地下にこもっていたアガシオンをライジュウが外に誘い出したという設定でした。
どちらの悪魔も序盤はお世話になったと同時に電撃連発に苦しめられました。
モガはモダンガールの略ですが、モダンボーイの略はモボっていうらしいですよ。