■ ヨスガ‐1.5

最近…といっても仲魔になったばかりだからずばりここがおかしいとは言えないけれど、葛城の様子が変だとブロブは首をかしげる。
といってもブロブには他者から見てここが首だという部位が無いので古参のダツエバに、
「なにもぞもぞと動いておるのじゃ、伝えたい事があれば言葉で言えばよかろう?」
と注意を受けたりしてしまい、少し落ち込んだりする。
ブロブが葛城の異変に初めて気付いたのは大地下道でマネカタと遭遇した直後だった。
マネカタの姿を見たとたんに仲魔を置き去りにする勢いで走り出した人修羅の表情はとても嬉しそうに見えた。
何故嬉しそうなのかはブロブがいくら意識を集中させて考えてみても分からなかったが、少なくとも自分が魔石につられて強引に仲魔になったときよりは嬉しそうだった。
「餌を見つけて喜んだのかねぇ、それなら早く喰っちまいたいところだけど」
ダツエバの予想に反して葛城はマネカタたちに手を出さなかった、土から作られたと説明されて不味そうだと思ったのか、ただ単にお腹が空いていなかったのかと仲魔たちは邪推したが、
説明を受けた後の葛城から笑顔は消えていた。
なぜ変なのかダツエバが言うように直接葛城にたずねれば良いのだが、悲しむべきことにブロブと葛城の間には深い言葉の溝が存在しており、どんなにブロブが真剣に言葉を伝えようとしても、
「大丈夫、君と別れようなんて思わないよ」
と勝手に解釈されて頭を撫でられたり、ひどい時には
「僕に何の不満があるっていうんだよ、僕の首から角が生えているのがそんなに気に入らないのか?」
などと逆切れされ、しばらくブロブを弁護する仲魔と人修羅との間に気まずい雰囲気がただようこともあり、その事件があってからブロブは人修羅に話しかけるのをやめた。
ただやはり葛城が変だと気になってマネカタを味見する事もできないため早く元に戻って欲しいと思う。
ブロブがどうやって自分の思いを誤解無く伝えようかと悩んでいた丁度そのときアイテム類の準備を終えた葛城が
「そこにいたのか」
とブロブを発見して近寄ってきた。
「ウ、ウルィィ…?」
悩みの種が接近してまだどうするか決めていなかったブロブはひどく慌てたが、人修羅にはただ震えているだけにしか見えなかったらしく、
「腹減ったか?」
などと言いながらチャクラドロップをぽーんと放り投げる。
いつもなら真っ先に飛びついてきて投げられたチャクラドロップを口でキャッチするブロブだが、今回は慌てていた事もありキャッチし損ねて
ブロブの側に落ちたチャクラドロップはそのままの勢いで転がり続け、拾おうとして階段でつまづいた人修羅ごと水面に落下した。
「…まぁこんなこともたまにはあるさ」
派手に転んだ主人を心配して這いずり寄ってきたブロブにずぶ濡れの姿を晒して人修羅は頭を振って水を払っていたが、
払いのけた水滴が紫色の体に当たってじっとりと湿っていく様子を見て複雑そうな表情でコンクリートの地面に上がる。
「お前でも僕のこと心配してくれるんだな」
垂れがちな目でじっと自分を見上げているブロブを抱え上げ、人修羅は深いため息をもらす。
「お前になら弱音はいても他の奴らにばれる心配ないよな?」
呟かれた言葉にブロブの体がざわざわと反応し、人修羅はくすぐったそうに肩をすくめる。
「マネカタって僕と形が良く似ているだろ、この世界が壊れる前はあんな形の"人"がいっぱいいて、僕のトモダチもみんな"人"だったんだ」
動きを止めて腕の中でじっと自分の話に耳を傾けるブロブを抱いたまま、人修羅は手すりに腰掛けて話を続ける。
「だからマネカタを見ていると僕の友達や家族を思い出して寂しくなる、あいつら本当に"人"にそっくりなんだよ」
「ィ…?」
ブロブは葛城の腕の中でふにふにしながら何となく主人の様子が変になった理由を理解できたような気がした。
"寂しい"と口にしたわりに人修羅は笑っていたがその笑い方はどこか不自然で、ブロブの心を不安でいっぱいにする。
「でももう僕は"人"じゃない、友達はお前たち悪魔であり"仲魔"なんだ、僕だって"悪魔"なんだ、もうとっくに受け入れたと思っていたのに…なんで今になってこんなにも苦しい」
語尾は震えていてよく聞き取れなかったし、人修羅自身が必死にこみ上げてくる言葉を飲み込んで言わないようにしていた。
直接触れている肌が熱を帯び、自分を抱いている腕に力が入ってブロブはつぶされぬよう人修羅の腕から抜け出して地面に着地する。
「あっ、ごめん」
腕の中にいた物体が逃げたことに気付いた人修羅が弱音を包み隠さず吐き出してしまったことに恥ずかしさを感じたのか、
赤みを帯びた顔でブロブに謝ってからやってしまったという風に両手で顔を覆ってため息をもらす。
「…!…!」
今こそ自分の想いを伝えてなんとか人修羅を元気付けたいとブロブは意味のある言葉をかけようとしたが、発音がおかしいのか少しも立ち直った様子の見えない人修羅の足元に近づいて頭をすり寄せる。
足首辺りの柔かい感覚に気付いた人修羅は
「お前、かわいい奴だな」
と手を伸ばしてぷにぷにしたブロブの感触を楽しんでいたが、ふとなにか思いついたのか自分の目線の位置までブロブを持ち上げて悪戯っぽい表情を浮かべる
「辛くなったら仲魔に慰めてもらえば良いんだよな、弱音を吐くと侮られそうだから何か理由付けて」
そこでしばらく考え込んでから
「そうだ、仲魔入りの時の儀式ってことにすれば良いんだ、新入りはまず僕の手と足に忠誠の頬擦り…じゃおかしいからキスか?」
急にいきいきし始めた葛城の変化を素直に喜んでざわつくブロブを見て自分の考えに自信を持ったのか、人修羅の目が嬉しそうに細まる。
「そうそう、それで慰められっぱなしじゃ悪いから僕の方から仲魔にお返しのキスをするんだ、完璧だー!」
人修羅の叫びは地下道を震わせ、何か面白い事が起きたのかと2階で寝そべっていたネコマタが
「ニャー、なになに?」
と好奇心に目を輝かせて駆け寄ってくる。
最も集まった仲魔たちに"新しく考え付いた仲魔入りの儀式"を説明した直後に
「それを一般的に権力にモノをいわせるセクハラ行為っていうニャー!」
とツッコミを入れたネコマタの鋭い爪で大怪我をしたことは、人修羅の暗い想い出の1つになってしまったようだが
それでも元に戻った主人を見詰めるブロブは嬉しそうに体を揺すった。



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