■ ヨスガ‐3

彼が歩を進めるたびに空から耳を覆いたくなるような悲鳴とともに何かが降ってきて、綺麗な水を湛えた水面はその度に大きな波紋を作る。
泣いても叫んでも、この地獄から弱者を救い出してくれるスーパーヒーローは現れないだろうということを彼はその場に居合わせた誰よりもよく理解していた。
だから天使の群れが不吉な色で聖地の天井を覆い尽くそうと、次ぎは自分の番だと半ば諦めの気持ちで助けを求めるマネカタを前にしても平然としているのだ。
「結局マガツヒはマネカタから搾り取るのか、それが一番楽そうだけどな」
フトミミを助けて欲しいと弱々しく引き止めるマネカタの手を煩そうに振り払い、最奥に通じる扉に手をかける。
「君のことを信じているんだ、君が良い悪魔だって……僕達のことを助けてくれる悪魔だって!」
最後の力を全て注ぎ込んだ精一杯の声にも彼は応えようとしない。
彼に付き従う悪魔のみがマネカタの血の様に赤いマガツヒで汚された聖地ミフナシロを痛まし気な表情で見つめるが、天使の行為を止めようとはしない。
動揺した気配もなく最奥へと向かう人修羅と悪魔たちの背に、マネカタたちの絶望したような眼差しが突き刺さった。

勢い良くマネカタの頭をひねりつぶした千晶は満足そうな笑みを浮かべていた。
その側にはマネカタたちの希望の象徴であったフトミミが地に這いつくばって苦渋の表情を浮かべている。
マネカタの体から流れるマガツヒで水面は赤一色に染め上げられ、その中にまるでゴミを投げ捨てる感覚で新しいマネカタの死体が投げ込まれる。
圧倒的な力を持つ者に弱者が抵抗した末の光景に千晶は酔いしれているようだった。
「彼女を止めないのですか?」
と問いかけるクーフーリンに葛城は静かにしろと口許を手でふさいだが、その気配にフトミミが気付き必死の形相で力を貸すように訴えかけるが、葛城は真剣に聞いていないようだった。
「あら、史人君来てくれてちょうど良かったわ、いくら片付けてもきりがないのよ」
ゴズテンノウから授かった黒い凶器を愛しそうに操りながら千晶が声をかけた時、はじめて
「派手にやっているようだな」
と今まで見てきた光景に対する感想を呆れた様な顔で述べる。
「弱い者は惑わすのよ、自分じゃ何もできないからって、あなたもしかしてコレに同情しているの?」
信じられないといった風に首をすくめフトミミを指差す千晶に参ったなと葛城は苦笑いを浮かべる。
「正直ここまでやることはないだろうと思うけど、必要なら仕方ないな」
その言葉に千晶が嬉しそうに高笑いし、縋る様に成り行きを見ていたフトミミの表情が怒りに染まる。
怒りに突き動かされて戦闘体勢をとるフトミミに、葛城は久しぶりとあまりにも状況に似つかわしくない挨拶をして控えていた仲間を呼び寄せる。
「こいつで最後なんだろ、僕が始末してやるよ」
気合をため、勢い良く殴りかかるフトミミの拳を避けながら人修羅は千晶に宣言した。

「おのれ……おのれ悪魔め!」
髪をふり乱し、葛城が放った業火に焼け焦げた衣服をまとったフトミミは、気を抜けば崩れ落ちそうな体を鞭打って雄叫びを上げる。
「ただ闇雲に突撃してくるだけじゃ僕の仲間を倒す事はできないよ、サカハギの方がまだ手ごたえあったなぁ」
デカラビアに物理反射シールドを張る様に指示し、傷ひとつない葛城がフトミミを挑発する。
信じていた者に裏切られたという怒りも手伝って挑発の効果は抜群のようだ。
相変わらず気合をため突撃するという戦法を繰り返すフトミミの体は、そのたびに透明な物理反射シールドに跳ね返された自らの攻撃によるダメージを受けてぼろぼろになる。
「弱いよフトミミ、その程度の力しか持たないマネカタが本気で自分達のコトワリによる世界を作れるとでも思ったのか、
お前を信じてついて来たマネカタが哀れだと思わないか?」
ついに立つ力を失って地面に膝を付いたフトミミのすぐ横に立ち、葛城は問いかける。
「皆のものよ……許せ……」
固く握り締めた拳を地に叩きつけ悔しそうに人修羅の顔を見上げ、次いでミフナシロの天井を仰いだ後フトミミはぐったりとその身を地に横たえた。
「ありがとう、邪魔者は片付いたわ」
恍惚の表情を浮かべ、貯められていた膨大なマガツヒを開放した千晶はヨスガの守護を降ろすための呪文のような言葉をつむいでいく。
フトミミも巨大なマガツヒの流れの1つに巻き込まれ溶け込んで消えていった。
「見ていますか、あなたが実現したくてもできなかったコトワリがついに守護をえて成立しますよ」
この場に居ない誰かに人修羅は興奮し、夢中で語りかける
一瞬の静寂の後、張り詰めた空気を激しく振るわせるいかずちが天から神々しい筋を作り、その衝撃の跡にヨスガの守護がゆっくりと姿を現す。
「禍々しいコトワリに似合わぬ美しさだと思わぬか?」
デカラビアの問いかけにやや間を置いてから葛城は応じた。
「力あるものは美しいと千晶は言っていた、僕はそうは思わないけれど……」
バアル・アバターがどこかへと飛び去り、静寂が戻ったミフナシロの中心部で葛城はイケブクロの方角に向かって少し寂しそうに微笑んだ。



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