■ 続・てんしですから

ミフナシロから帰ってきてからというもの、あの場で告げたことは全て冗談だったのかとパワーが気を落とすほどドミニオンの態度は普段と変わらなかった。
カグツチの塔を舞台に三つのコトワリがついにぶつかり合い、上級天使たちがみな塔に向かい手薄になったヨスガの宮殿をこれまで以上にしっかりと守るため、
下級天使たちの配置や物資の確保に追われてそれどころではないのだろうと思い込むことによって、パワーは不安を紛らわしていた。
「宮殿が襲撃されれば塔で頑張っている同胞が不安になってしまいますもの、ここは私がしっかりと警備いたしますわ」
張りきるエンジェルにその場を任せ、パワーはドミニオンの姿を探すために羽をはばたかせた。
居残ったオニたちにまぎれて忙しなく飛び回る伝令担当のエンジェル、寄り集まって今後について雑談するライジュウたちの光。
それらの中に青髪の天使の姿がないか低空飛行を続けながらパワーは視線を彷徨わせる。
"私のことが好きではないのか"と訊ねたドミニオンの表情は冗談を言っているようには見えなかった。
疲れて調子がおかしかったとはいえ、あの言葉が軽い気持ちから出たものだとパワーは思いたくなかった。
ドミニオンの言葉と共に、絡めあった舌の痺れを伴う温かさや、引き寄せたときに頬をくすぐった髪の柔らかな感触などを想いだして、パワーは緩みそうになった表情を引き締める。
あの体をもう1度抱きしめたい、鎧の上からではなく直接肌を触れ合わせて体温を感じ取りたい。
今まで封じ込めてきた感情が、ミフナシロでの出来ごとによってより具体的な欲求となってパワーを苦しめていた。
「ドミニオンを見なかったか?」
伝令を伝え終えたのか飛び回るのをやめて壁際で羽を休めているエンジェルにパワーは声をかける。
赤い鎧を身につけた自分より位の高い天使の出現に、崩していた姿勢を正したエンジェルが緊張のためか甲高い声で応じる。
「はい!ドミニオン様でしたら先ほど上の階へお連れしました」
その言葉に違和感を感じてパワーは訝しげに聞き返す。
「1人で行ったのではなくお前が連れて行ったのか?」
その疑問に、説明が足りなかったことに気付いたエンジェルが恥ずかしそうに両頬を手で押さえながら、慌てて理由を語った。
「えぇ、廊下で眠っていらっしゃったので部屋までお連れした次第です」
「そうだったのか、休めといったのだが」
ミフナシロから帰ってきてもろくに休みも取らずに動き回るドミニオンの姿を想像して、パワーは深々とため息を吐く。
エンジェルに発見されたから良いものの、無防備な寝姿を晒して万が一天使に反感を持つ者などに襲われたらどうするつもりだったのかと変な心配をするパワーに、エンジェルが遠慮がちに声をかける。
「もしお会いになられるのでしたら、どうか無理なさらないようにとお伝え下さい」
本心からの願いに分かったと軽くうなずき、パワーは階段を登った。

ドミニオンは部屋のすみっこで縮こまるように眠っていた。
休憩を取るための椅子やベッドはなく、部屋に運んでもらおうと廊下と比べて寝心地が改善されたようには見えない。
睡眠の邪魔にならないように羽を使わず静かに歩み寄ったパワーは、手の平をドミニオンの口元にかざして息をしていることを確かめてから安心したように腰を下ろした。
呼吸をするたびに顔にかかる青い髪が微かに揺れる。
安らかな寝顔は一度だけ見たことのある大天使の神々しい美しさを思い出させ、パワーは息をすることも忘れてその寝顔に見入った。
眠る天使に触れたいという欲求がじょじょにパワーの心の中で高まっていく。
柔かそうな頬に、ウェーブがかった髪に、染みひとつない綺麗な羽に、ミフナシロで自分の口を塞いだ唇に、
その全てを欲望の命じるままに貪って自分だけのものにしてしまいたいという、破壊衝動にも似た思いにパワーは思わず身震いする。
空気が急に薄くなったようにパワーは感じた。
息苦しさと焼かれるような胸の痛みの中、触れたいという欲求と必死に戦いながらパワーはドミニオンの寝顔から視線を外せずにいた。
「ドミニオン」
かすれた声で名を呼び、ぴくりとも反応しない天使へと震える指先を伸ばす。
ガチャリと鎧から生じる耳障りな音も最早気にする余裕がないのか、指先は動きを止めずドミニオンの唇へと接近していく。
あと数センチ、あと数ミリ、唇の感触を思い出してごくりと唾を飲み込んでパワーは目を細めた。
その瞬間名前を呼んでも目覚めなかったドミニオンの目が開き、細い指先が引っ込めようと逃げるパワーの手首をしっかりとつかむ。
「あっ!」
あまりに突然の出来ごとにただ驚きの声を上げるパワーの目をじっと見詰め、ドミニオンはつかんだ手首を自分の方へと引き寄せる。
先ほどまでしっかりと閉じられていた唇が薄く開き、パワーの中指をそっと銜える。
誘うようなその仕草に思考能力を奪われ、パワーは銜えた指の腹を生温い舌で舐めるドミニオンの艶かしさに煽られるままもう片方の手で触れたいと願った頬を撫でた。
痺れるような感覚を残して指が唇から離れ、代わりに待ちきれないというように素早く顔を近づけたパワーの口が覆う。
「お前の行動があまりにも遅いから…」
唇が離れたすきに熱を帯びてわずかに赤みの増した顔で批難するドミニオンの言葉ごと封じて、パワーは夢中で温かな口内を探った。
「あのときの言葉は冗談だったのかと心配になった」
荒い息遣いと共に胸の内を告げるパワーに、激しく肩を上下させるドミニオンが理解できないといったふうに首を横に振る。
「心配したのはこちらの方だ、お前は急によそよそしくなるし」
「それは貴方の方だろう」
すぐに反論したパワーを不満げににらみ付けるドミニオンに低い声で囁く。
「何ごともなかったように振舞って、だいたい私が散々休めと忠告したのにそれを貴方は無視して…」
本気で怒り出したパワーに悪かったよとひと言だけ謝り、ドミニオンは怒りを鎮めるためにまだ何か言いたそうなパワーの口を軽く塞ぐ。
説教を諦めたのかもごもごと動いていた口が閉じられ、ドミニオンの背中に伸びた手が感触を楽しむように羽を弄んだ。
「うわっ!」
パワーの指が羽に触れた途端ドミニオンの上半身が反って悲鳴のような声がこぼれる。
構わずに指を這わせる手の動きを止めようと腕をきつくつかんで止めてくれと訴える視線を無視し、パワーは特に敏感な付け根を執拗に擦る。
そこが一番の性感帯なのか、触れられるたびに体が強張り腕をつかむ手の力が抜けていく。
「あっ…も…やめっ」
途中まで声が漏れないよう唇をきつく噛んでいたドミニオンは、あまりに強い刺激に耐え切れなくなったのかわずかに目を潤ませて苦しげに喘ぐ。
何度触れられても新たな快楽が押し寄せるだけで一向に解放される気配のない責めの辛さから少しでも気を散らすためか、
羽に触れていない方の手を弱い力でつかんで痛々しいほど勃ち上がった下腹部へと誘導する。
「はね…より…ここを…っ」
ドミニオンの反応を貪欲に楽しんでいたパワーは、解放へ向けての快楽を強請る視線に下腹に重くたまっていく熱を感じながら白衣の裾を捲くり、刺激を待ちわびるドミニオン自身を握る。
すぐに上がった嬌声に理性も何もかも吹き飛ばして、パワーは手の動きを早めていった。

「大丈夫か?エンジェルから無理をしないように伝えてくれと頼まれたのに、逆に無理をさせ過ぎてしまった」
心配そうに顔を覗き込むパワーに、額に汗を浮かべたドミニオンが息を整えながら応える。
「下等な人間や獣どものような行為、我々は天使失格だ」
「そうかもしれません」
この期に及んで後悔したようにため息を吐くドミニオンに、パワーは呆れて顔をしかめた。
しばらく沈黙が続いた後、ドミニオンが急に笑い出してパワーを驚かせる。
「お前は私が言ったことを全て真剣に捉えるのだな、今のは冗談だ、冗談」
からかわれたと知って気を悪くしたのかパワーが不貞腐れていると、ドミニオンは笑うのを止めた。
「けれどもお前のことを好きだというこの感情は冗談ではない、それだけはいつまでも覚えておいて欲しい」
真剣な声に深く頷いたパワーは、自分の気持ちを伝えるためにしっかりとドミニオンに口付けた。



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