■ おつかい

セタンタは人修羅から受け取ったマッカの入った袋を落とさないよう、しっかりと握り締めてアサクサの街を急いでいた。
出発する寸前まで本当に1人でアサクサに行かせて大丈夫だろうかと迷っていた主人の態度に腹の虫が納まらないのか、表情は不機嫌そのものだ。
自分を頼りない子供扱いした人修羅を見返すためにも、セタンタはこのおつかいをできるだけ早く済ませて無傷で戻るつもりだった。
「光玉4つに浮き足玉3つ…光玉4つに…チャクラドロップが9つ…」
頼まれた品物の個数を間違えないように繰り返し確認しながら急ぐ。
チャクラドロップだけはターミナルを出てすぐの道具屋に売っていないため、セタンタは先にガラクタマネカタの店を目指していた。
立ち並ぶ施設を抜け、もう少しで地下道入り口に着くとセタンタが気を緩めるその瞬間を狙っていたかのように、不吉な影が妖精の前に立ちはだかった。
「何の用ですか?」
警戒して立ち止まったセタンタを見下ろし、全身紙でできたような巨大な生き物はグッグッと不気味な声で笑った。
人修羅がセタンタを1人でアサクサの街へ行かせることを躊躇った原因は、マネカタたちを排除して我が物顔で街を歩き回るヨスガの悪魔にあった。
守護が降りてヨスガの悪魔たちが創世に向けて敏感になっている今、異なるコトワリを支持する者同士の争いが激化し、その争いにセタンタが巻き込まれることを恐れたのである。
そんな人修羅の不安を打ち消して更なる信頼を得るためにも、セタンタはこのおつかいを失敗させるわけにはいかなかった。
目の前の化け物をにらみつけて、槍を構えて威嚇の姿勢をとる。
「汝、何用でここに来た?」
セタンタの威嚇に全く動揺した気配を見せず、紙でできたような背の高い悪魔が訊ねる。
人修羅と共にミフナシロで戦っていたときに同じような悪魔を何体か見かけたが、結局一度も戦わずに終わってしまったため、
今その時と同じ悪魔を目の前にしてもどのくらいの力量なのか見当がつかず、セタンタは悪魔の感情を下手に刺激しないよう慎重に言葉を選んだ。
「私は主人に頼まれて道具を買いに来ただけだ、それ以外何の目的も持ってはいない」
怪しまれないよう冷静さを装った妖精の返事に、紙でできた悪魔は体をくるりと回して納得がいかないという風に低く唸った。
「主人とは誰のことだ、汝の支持するコトワリは何か?」
悪魔が体を回すたびに表と同じ構成の赤い背中部分が現れ、血に染まったような凶暴な色に脅されているような気がしたセタンタはますます気を引き締めた。
人修羅はミフナシロで千晶と再会したとき、彼女の頼みを断って3体の大天使と戦っている。
主人は人修羅だと言えば目の前のヨスガ悪魔は激怒するだろうが、嘘をついてこの場を切り抜けることはセタンタの信念が許さなかった。
「私の主人は人修羅様だ、私に支持するコトワリはなく、ただ自分の主人に忠誠を誓うまで」
意思の強い目を向けてはっきりとした口調で答える妖精に、表情の変化に乏しい悪魔の全身が怒りでぐらりと傾いた。
「汝、死すべし」
声が途切れた瞬間、地を這うような不気味な呪文が辺りに響き渡り、呪文を中断させるためにセタンタは構えた槍に気を込めて薙ぎ払った。
槍から鋭い風の刃が生まれ、一直線に身動きせずに呪文を唱え続ける悪魔へと向かう。
自らが生んだ風圧によって巻き上がった砂埃に目を細める妖精の足元からどす黒い煙が立ち登り、間一髪後方に飛び退ってセタンタは呪殺らしき魔法から逃れた。
「外したのか…」
まったく被害を受けずに次ぎの呪文を詠唱し始める悪魔との距離を詰め、セタンタは悔しそうに呟く。
最初の魔法は間一髪避けられたものの、次ぎの魔法も避けられる自信はない。
呪いの言葉が形にならないうちに早く決着をつけようと、集中力を高める魔法を唱えて心を落ち着かせたセタンタは、悪魔に向かって力いっぱい槍を放り投げた。
しかし渾身の力を込めて投げつけた槍は、特殊な膜に阻まれたかのように悪魔の体に傷ひとつ負わすことなく地面に落下する。
反対に悪魔の魔法が形を成してセタンタの体を捕らえた。
「うわあぁぁぁ!」
心臓を棘だらけのロープで締め付けられたような激痛と、その激痛さえどうでも良く思えそうなほどの頭痛が一気に駆け巡り、セタンタは地に膝をついて苦しみの声を上げる。
握っていた袋が落ちて派手な音を立てて大量のマッカが辺りに散らばっていく。
その音にセタンタはなんとか意識を保つことができたものの、虚脱感に襲われて指一本動かすことができない。
つるりとした紙の手が、倒れたまま動かないセタンタのマフラーを握って自分の顔の高さまで吊り上げる。
きつくなったマフラーに首を絞めつけられて苦しげに空気を掻いていた手足が力を失い、薄く開いていた目が何度か瞬きを繰り返したあと閉じられた。

頭に強い衝撃を受けたような重い痛みを感じてセタンタは薄く目を開いた。
頬に当たる風は冷たく気持ち良いのに、全身を生暖かい空気に覆われているように感じて気持ち悪さに身震いする。
気だるさを伴うその熱は状況を判断しようとする意識の邪魔をし、わけが分からないままセタンタはもつれる舌を動かした。
「う…くっ…」
ぼやける視界は一面真っ白で、その白がなんであるか妖精には分からなかった。
ただ体の芯に何かが絡みついて、そこから感じる体の内側を痺れさせるような刺激が不快で仕方なかった。
痛みとは違う種類のもどかしさを感じさせる熱は意識がはっきりしてくるにつれ叫び声を上げそうなほど強いものとなり、
セタンタは可能な限り刺激を与えてくる何かから逃れようと身を捩る。
白い視界が途切れて散らばるマッカが映り、口内に砂のような細かい粒を感じたとき、セタンタは一気に自分がおかれた状況を思い出した。
白い壁の正体がはっきりしたことにより、太腿まで覆うブーツを残して脱がされた下半身に絡まる物の見当がついてセタンタは顔を引きつらせる。
「やっ、やめっ…!」
熱や柔かさを一切持たない紙でできたシキオウジの指は、熱を帯びるセタンタの中心を執拗に擦り上げる。
「うぅ…っ」
じりじりと昂まっていく快楽に浮かされて妖精の目じりに涙が滲み、シキオウジの巨大な体の下で小さな体が小刻みに震える。
先端から先走りがこぼれ落ち、その露ごと無機質な固い手の平が扱いていく。
機械的に敵対する者に屈辱を与えようと手を動かし続けるシキオウジはなにも喋らず、そのことがセタンタの恐怖を煽った。
湿った音と、渇いた口からもれる喘ぎ声のみがセタンタの聴覚に木霊して感覚を狂わせていく。
指の角ばった部分が敏感になった先端を突き、上ずった声を上げてセタンタは全身を激しく痙攣させて熱を解放した。
「はぁ…っはぁ…っ」
胸を上下させて荒い呼吸を繰り返しながら、これで終わったのかとセタンタはわずかに残っていた体の力を抜いた。
しかしその思いとは裏腹に、精に濡れたシキオウジの手は熱を出し終えたばかりの妖精のモノを再び包みこむ。
ただ包みこむだけで触れられていないにも関わらず、熱を解放する前よりずっと鋭敏になった感覚は強烈な刺激をセタンタに与え、嗄れた喉から声にならない叫びが上がった。
大きく見開かれたセタンタの目が自分の反応をうかがうシキオウジの目と合う。
何の感情も読み取れない作り物独特の表情に、先ほど感じた恐怖がわき上がって熱を帯びたセタンタの背筋を冷たくしていく。
恐らく意識がなくなるまで続けられるだろう地獄のような行為に抗う術もなく翻弄される妖精の意識に、ぼんやりと主人の笑顔が浮かんで消えた。



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