■ Hard counteroffensive

おかっぱ頭が、うっとりとした目つきでオオクニヌシの顔を見下ろしている。
「さて、これから私はどうなるのかなセタンタ?」
訊ねられ、セタンタと呼ばれた少年はそれまでの表情を真剣なものに変え、何やら悩み始めた。

人修羅が小銭を稼ぎに少数の悪魔を連れて弱い敵を狩っている時、残された仲魔たちは呼び出されるまで自由な行動を許されている。
がらんとした渋谷の空き部屋で話し合っている2体の悪魔も、そんな暇を持て余す留守番組みの一員だ。
正確に言えば、悪魔たちが来る前までこの部屋は空き部屋ではなかった。
思念体数体が部屋の隅で悪魔に食べられないための知恵を出し合っていたところにセタンタたちが遭遇し、
出て行かないと喰ってしまうぞとオオクニヌシが冗談半分で脅したところ、思念体が一目散に逃げていってしまったのだ。
部屋を占領してみたものの、2体の悪魔には特にやることがなく、下らないことで戯れているうちにオオクニヌシが危険な遊びを思いついた。
「お前と私で戦い、負けた方が勝った方の命令をなんでも実行するんだ」
すっかり退屈していたセタンタがこの提案に飛びつかないはずがなく、部屋はしばらく剣戟や魔法の衝撃音で大変騒がしくなる。
戦闘中は魔法に優れたオオクニヌシが優勢かと思われたが、結果が出てみればレベルの差でセタンタが勝利を収めていた。
勝負の決め手がオオクニヌシの会心攻撃がヒットした直後に炸裂したセタンタの猛反撃だったためか、オオクニヌシ本人は不本意そうにしている。
反対に勝ったと分かった瞬間から狂喜乱舞していたセタンタが、瞳を期待に輝かせてオオクニヌシに命令を下し始めた。
「まずは座って、それからそれから……」
命令したいことが次から次へと湧き出してくるのか、順序を整理することさえもどかしそうなセタンタにオオクニヌシは苦笑する。
オオクニヌシが正座ではなく脚を伸ばした格好で床に座ると、セタンタは嬉しそうに膝の上辺りで屈む。
セタンタが屈んでも2体の悪魔がお互い顔を見合わせるためにはオオクニヌシが目線を上に向ける必要があり、その関係から自然と妖精が鬼神を見下ろす形になっている。
うっとりとしたセタンタの目に不吉な予感を覚えたものの、少年の浅知恵では大したことは出来ないだろうと、このときオオクニヌシはまだ状況を甘く見ていた。

しばらく考えた後、次の命令を決めたのかセタンタは悪戯っぽく笑う。
「鎧を脱いで両手を上に上げて下さい」
オオクニヌシはすぐに命令を実行に移さず、沈黙したまま酷く興の冷めた視線をセタンタに向ける。
その視線を期待のこもった目で受け止め、なぜそんな顔をされるのかとセタンタは不思議そうに首をかしげる。
「あのな、セタンタ」
はぁ、とひとつため息をつき、オオクニヌシはようやく重い口を開いた。
「わきをくすぐるだけなら、鎧を脱ぐ必要はないと思うが?」
指摘された内容に対して反論する気持ちよりも、企みを見破られたことに対する驚きの方がセタンタにとっては大きかったようだ。
セタンタの感情の変化は全て至近距離にいる悪魔に伝わり、オオクニヌシは申し訳なさそうな顔で口元を押さえ、小さくふき出す。
微かな笑い声に気付いたセタンタはますます動揺して顔を赤らめ、その反応がオオクニヌシの笑いのツボを余計に刺激する。
「余計な推測は無用です! 命令には速やかに従ってください」
ついに妖精は声を荒げ、鬼神はしぶしぶ指示に従った。
オオクニヌシが鎧を脱ぎ終え元の位置に戻ると、セタンタは今度は屈まず太腿の上に馬乗りになり、不満そうな目つきで敗者の顔を眺める。
万歳の姿勢のまま次にセタンタがどんな行動を取るのかオオクニヌシは待ったが、妖精がなにも仕掛けてこないため緊張感が薄れたのか欠伸を噛みころした。
次に自分がしようとしていたことを見事に当てられ、それでも計画通りに進めるべきかとセタンタは悩んでいたが、
「早くしないと主が戻ってくるぞ」
というオオクニヌシの指摘に我に返り、急いで両手の手袋を外した。
しかし、セタンタのくすぐり技術はいまいちなようで、オオクニヌシは身を捩ることもなくくすぐられている。
どうにかオオクニヌシを笑い地獄に誘い込もうと、セタンタは半ばムキになって感じ易そうなポイントを探った。
耳の後ろから首筋、背中からわき腹、へそより下をくすぐろうとするセタンタに、大人しく全身を弄られていたオオクニヌシもさすがにストップをかける。
「もう充分だろう、これ以上やっても無意味だ」
くすぐろうと動く手首を掴まれ、セタンタはきょとんとした表情を浮かべた直後に、口の端を上げて意味ありげに笑った。
「この辺りが弱いんですね?」
掴む手を力任せに振り解いてくすぐり攻撃を再開しようとするセタンタに、常に平然とした態度を崩さないオオクニヌシも焦りを隠せない。
行為を止めさせようとする手と続けようとする手が互いに牽制し合い、ついに抵抗をくぐり抜けたセタンタの手は、勢いに乗ってオオクニヌシの股間を直撃した。
「グッ!」
口から飛び出しそうになる悲鳴をなんとか飲み込み、オオクニヌシは激痛と背筋が痺れるような感覚に必死で耐える。
耐えている最中も痛みで敏感になっている所にもぞもぞと何かが触れる感触があり、下唇をぎゅっと噛んでいたオオクニヌシは無言で視線を下に向けた。
「セタンタ……」
呆れの中にも戸惑いが滲み出る呼びかけに、セタンタが無邪気な顔を上げた。
オオクニヌシが何度目を凝らそうと、セタンタの手の平は先程打撃を与えた所を優しい手つきで撫でている。
悪びれた風のない子供そのままの顔に戸惑いは余計深まり、わざとらしく咳払いしてからオオクニヌシは落ち着いた声で告げた。
「止めてくれないか」
「何故? 痛かっただろうから撫でてあげているのに?」
逆に質問をされ、オオクニヌシは大袈裟に顔を顰めてセタンタの正気を疑った。
「何故って……お前、自分が他人のどこを触っているのか分からないはずないだろう?」
痛みは次第に薄れ、痺れとセタンタの指先が与える刺激が、また別の感覚をオオクニヌシの体にもたらす。
セタンタが乗っている太腿がぴくっと反応を示し、オオクニヌシの首筋に顔を近づけた妖精は軽い笑いの混じった声で囁いた。
「分かってやっているに決まっているでしょう」
「なっ!」
今頃になって本気で抵抗しようとするオオクニヌシの耳朶を舌で舐め、セタンタは息を吹きかけるように告げる。
「命令、抵抗してはいけない」
「馬鹿なことを、それとこれとは話が別だ」
肌が粟立つような感覚に襲われながらも抵抗を示し続けるオオクニヌシを妖精は正面から見つめた。
「敗者は勝者の命令はなんでも実行する、これは貴方が決めたルールです」
この言葉に、セタンタを正気にさせようと動き続けていたオオクニヌシの口は停止し、普段決して見せることのない表情が顔いっぱいに広がる。
抵抗する力は徐々に弱まり、オオクニヌシは覚悟を決めたのか目を伏せた。

「面白いですね、先程まで全く通用しなかったのに」
耳の後ろや背中を指の腹で柔らかく撫でながら、わざとらしく感心したような口調でセタンタが呟く。
もう片方の手は飽きずに下腹部を弄り続け、声が一緒に漏れないようたまった息を少しずつ吐き出しながら、オオクニヌシは微かに肩を震わせた。
上半身を支えるために床に押し付けているオオクニヌシの手の甲にセタンタの手が重なる。
目を伏せ、眉を顰めたまま切ない吐息をもらす鬼神の顔を覗き込み、妖精は嬉しそうに目を細めて笑う。
「マスターも、他の誰も見たことはないでしょうね、オオクニヌシのこんな表情」
これからもずっと私だけが知っている表情になりますねと不吉な同意を求めつつ、セタンタはオオクニヌシの肩口に顔を埋めた。
「大好きです、好きすぎてどうしていいか分からなくて頭がおかしくなってしまいそうです」
セタンタの告白に、それまでずっと伏せていた目を開いてオオクニヌシは妖精の頭に頬を預ける。
鬼神の脳裏を勝負に勝った瞬間の狂喜乱舞するセタンタの姿がかすめる。
「そうか、私は暑苦しい感情は苦手だ」
突き放すような台詞に、嫌々するようにセタンタは顔を肩に擦り付け、オオクニヌシは深いため息と共に想いを吐き出した。
「だが、嫌いではない」
弾かれたように顔を上げたセタンタが、勢い良くオオクニヌシに口付ける。
ぎこちない動きで絡み付いてくる舌に応えながら、オオクニヌシはセタンタにずっと保ってきた自分の理性を明け渡した。



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