コーヒーの入ったマグカップを2つ手にリビングに戻ると、彼の視線は山積みになったプリントに注がれていた。
「急に来てしまって、迷惑ではなかったですか?」
ふいに、真剣な顔で聞かれて。仕事に追われていたことを思い出す。
「今日、仕事が大変だと、からのメールにありました。
とても会いたかったけれど、迷惑になってはいけないと思って、電話もしないつもりでした。
でも、近くまできたら、部屋に明かりが点いているのが見えて。それでも、声だけ聞いて、
帰るつもりだったんです。本当にごめんなさい」
差し出したカップを、申し訳無さそうな顔で彼は受け取る。
「大変ってほどでもないよ。明日までに、採点するだけだから」
さっき、彼の視線の先にあった解答用紙の山を指差すと。
「手伝いましょうか?2人でやった方が、きっと、早いです」
「えっ……?」
「そんなに驚くことですか?僕は英語は得意ですよ。少しは役に立てると思います。
それに、早く終わらせれば、その後、とゆっくりできますから」
////ゆ、ゆっくりできますからって、何を?……いや、何をとかそういう問題じゃなくて。
「でも・・・・そういうわけには・・・・」
戸惑っていると。
「僕は、別の高校に通っていますから、お手伝いしても特に問題ないですよね?さあ、早く、始めましょう」
そう言って避けてあったプリントをテーブルの上に載せる。
「ペンと、解答例、貸していただけますか?」
やる気満々らしい。
彼と一緒にいると、本当に驚かされることが多い。
言われるままに、ペンと解答例を手渡すと。
「と同じ学校じゃなくて、良かったです」
彼は小さく笑った。
その言葉は。わたしは別の時に思ったことがあったけれど。
教師と生徒。
恋人と呼べる関係なんて、考えられないのに。
学校が違うというだけで、普通に一緒にいられるなんて、なんだか不思議だ。
結局。
彼のお陰で、10時を回る頃には全ての採点が終わった。
なんだか、ほとんど彼にやってもらったような気がしなくもないんだけれど。
「ありがとう。千晴くん。1人だったら、きっと夜中まで終わらなかったよ。遅くまで、ごめんね?」
「いえ。時間は大丈夫です。僕の学校は、明日、休みですから」
「あ。そうだったよね。はぁ……わたしも、休みだったら良かったのに。いいなあ、きら高は」
なにげなく言うと。
さっきまで隣にいたはずの彼に、ふいに後ろから抱きしめられていた。
「駄目です。がきらめき高校にいたら、きっと、僕とこんな風には一緒にいてくれないと思います」
わたしの肩に頭をつけて話す彼の声は、少し震えていた。
そういう意味で言ったわけじゃなかったんだけど……。
「僕が気持ちを伝えた時、あなたは年齢のことを気にしていました。
もしも同じ学校なら、そこまでさえ辿り着けなかったと、僕は思います。そんなのは、嫌です」
やっぱり、そうなのかな……。
わたしも同じこと、考えたことがあるけれど。
「ねえ、千晴くん」
わたしを抱く彼の腕に、自分の手を重ねる。
「わたし、きっと、きら高で先生してたとしても千晴くんのこと、好きになっちゃうと思う。……教師、失格だよね」
わたしの言葉に背中で彼は。
「やっぱり、はズルイです」
電話の時と同じ台詞を呟く。
「どうして?」
彼の方に振り返ると。
「僕が、離れられなくなる方法を、全部知っているからです」
ジッとわたしの目を見つめて言うと、彼はやわらかくその唇を、わたしのそれに重ねた。
「今日は、と一緒に眠りたいです」
緩く抱きしめられたまま、耳元で囁かれて、身体が熱くなった。
「明日のお昼にわたしが帰ってくるまで、ここで待っていてくれるなら、いいよ」
その提案に、彼は。
「待たないと思いますか?」
そう言って微笑むと、もう一度唇を重ねた。
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土曜日休みなのは、きら高ではなく、萌高でした、確か。
そして、決定的な管理人の欠陥に気づきました。
「糖度、高めの話は表では、ムリ」
病気です。極めて危険です。当然この話には続きがありますが。
「ちはるん、鬼畜モード」な展開に仕上がっております。
「それ、読みてぇ」などと言う、壊れた方はいらっしゃらないと思われますので、
upされることはないでしょう。アホですみませぬ。
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