愛 の 夢。 いつもと同じ放課後。 明日の準備なんかも全部終えて、このまま帰ろうと思ってたんだけど、 なんとなく音楽室の前で足を止めてしまって。 そう言えば高校の頃、ここで氷室先輩がピアノ弾いてるの、何度か見かけたな……。 そんなこと考えてたら、ほとんど無意識に、ピアノの前に座ってた。 ピアノを弾くのは、本当に久しぶりだった。 高校生の頃までは、ショパンが好きで、家で弾いたりしていたけれど、 大学で大阪に行ってからは、全然機会がなくて。 たまに帰省した時にちょっと触ったりする程度だった。 でもそれも、もう、随分前のことだ。 急に弾こうと思っても、指が思うように動かない。 あの頃、普通に弾けたはずの曲も、全然指が回らない。 リストの「愛の夢」くらいならいけると思ったんだけどな……。 「愛の夢」で思い出したけど。氷室先輩が弾く、「ため息」好きだったな。 友達にせがまれて弾いてたっけ。 ピアノを前にしたまま、思いを巡らせていたら。 「何をしている」 ふいに扉の辺りから声を掛けられて、振り返ると。 そこに立っていたのは今まさに思い出していた、その人だった。 「何をしている、と聞いているのだが」 言葉はきつかったけれど、口調と表情はどこか優しくて。 いつもこんな風ならいいのに……なんて思いながら。 「いや、ちょっと、久しぶりに弾いてみようかな?と思ったんですけどね。さすがに指、 動かないみたいで固まってたところなんですよ」 苦笑しながら言うと、すぐ傍まで近づいてきて。 「君がピアノを弾けたとは、初耳だな」 なんだか嬉しそうな顔、してる。 「氷室先輩みたいに上手じゃなかったですけどね」 わたしの言葉に、少し顔を赤くして。 「いや、なに。////そんなことよりも。。その呼び方はやめるように言ったはずだが」 早口で捲し立てる。 なんだか笑ってしまう。 日頃冷静で嫌になるほど完璧なのに、慌てるとホントにメチャクチャで。 「あ。でも、今他に誰もいないですし。それに、氷室先輩も。呼び方、昔に戻ってますよ? 最近はわたしのこと、先生、なんて呼んでませんでした?」 「!!!//////」 さっきよりも更に顔が真っ赤で。 この人のこういうところ、すごくかわいいって思う。 いつも怖がってる生徒達が、こんなトコ知ったら相当ビックリするよね。 ……て言うより。好きになっちゃうかも。 「まあ、どっちでもいいじゃないですか。それになんだかここにいると懐かしくて。 思い出しちゃいません?」 笑いかけると。 「そうだな。だが、妙なものだ。君がこの春ここに赴任してくるまでは、思い出すことなどなかった。 それなのに、がいるというだけで、時々私は自分が教師であることを、 忘れてしまいそうになることがある」 うわっ/////す、すごいこと言われたような……淡々と話してるけど。気づいてるのかな? 「氷室先輩?なんだか、それ、愛の告白みたいですよ?」 「!!!/////いや、そうではない。そんなことを言っているのではない。 私はただ、自分が高校生であるような錯覚を起こすと言いたかっただけであって……」 ……ホント、かわいい。こんなに大きな身体の男の人が どうしてこんなにかわいいんだろう。 「冗談ですよ。そんなことより、あの曲、聴かせてくれませんか?」 わたしは立ち上がって、半ば強引にピアノの前を譲った。 「あの曲、とは?」 その言葉は、本当はわかっているのにわざと聞いているような、 どこか笑みを含んでいて。 「さっき、わたし、『愛の夢』を弾こうと思ってたんです」 予想していなかったであろう答えに、一瞬訝しげにわたしを見たけれど。 「つまり、こういうことだな」 少し笑って。 聴かせてくれた曲は、リストの「ため息」だった。 +--+--+--+--+--+--+--+--+--+--+--+--+ ええと。ごめんなさい。いや、リストつながりっちゅうことで。 意外と柔軟な零一さんを、おひとつどうぞ的な。(できてないし) 惹かれ合っていることに、無自覚なふたりを書いてみたかったのですが ちと、苦しかったですかね? ああ。先に断りましたし、許してください(懇願) はっっ、一部実話じゃありませんか。 くりえいちぶ(恥部?)な能力が欠落している香りムンムンです。 脳内零一さんを搾り出すために、サントラの火山性微動聞きながら書いたのが敗因? |