陥落の瞬間。
「//////あの……色くん?」
「ん?」
肩越しに見上げると。「何か問題が?」とでも言いたげな表情で微笑んで。
さっきからずっと。
色くんはわたしを、後ろから緩く抱きしめたまま、離してくれない。
1月14日、火曜日の放課後。
明日は色くんの誕生日で。
何日か前、プレゼントは何がいいのか聞いたのに、ずっと教えてくれなくて。
今日になって突然、「欲しいものがあるから、放課後美術室に来て」なんて言われて。
思わず来ちゃったけど。
誰かに見られたりしたら、わたし、困る……。
「ねえ、色くん。ここ、学校だし。人が来たら困るから、離して?」
見上げるとまた微笑んで。
「ボクは気にしないよ」
「//////そ、そうかもしれないけど、わたしは気にするから」
「大丈夫。鍵はちゃんとかけてあるよ?」
あの。そういう問題じゃないと思うんですけど……。
「だって、離したらきっと、はボクの言うことを聞いてくれないと思うんだ」
そう言った彼の声は、どこか寂しそうで。
いつもの、自信に満ち溢れた彼とはなんだか違っていて。
さっきされたお願いを。
適当にはぐらかそうとしていた自分が、酷く嫌な人間に思えた。
明日の誕生日のプレゼントが決められなくて。
欲しいものを聞いたわたしに、彼が言った言葉は。
あまりに思いがけない内容で─────
「今夜、日付が変わる瞬間も、をこうして抱きしめていさせて?」
わたしはただ、彼の腕の中で抵抗するしかできなくて。
腕を解いてもらったら、どうやって言い訳して断ろう?そんなことばかり考えてた。
その結果が今の、寂しそうな声で。
わたし、どうしたら、いい……?
「プレゼントにならない気がするんだけど」
やっとの思いで搾り出した言葉に。
彼は小さく笑って。
「そう?でもボクには他に欲しいものなんてないんだ。だから、本当に欲しいものを言ったんだけど。おかしいかい?」
どうして彼は。こんなにも恥ずかしくなるような台詞を平然と言えるんだろう。
どこまでが本気なのか、時々わからなくなる。
「でもね?。良く聞いて?」
彼の言葉に顔を上げると。
「このままが、返事をしてくれないなら、ボクはこの腕を離すつもりはないから。結果は同じことになる
かもしれないね。うん。ボクはそれでもいいよ?」
平然とまた信じられないことを言う。
そんなの、もっと、困る。
もう、降参するしか、……ない?
ゆっくりと。深く呼吸して。
「……わかった。色くんがそう言うなら、それがプレゼントだって言うなら、それでいいよ」
思い切って、言ったけど。
彼だけに漸く聞こえる程度の小さな声だったけど。
消えてなくなりたい位に恥ずかしくて。
下を向いたまま動けずにいたら。
彼はわたしの身体を反転させて、向かい合うような形にして。
「良かった。こんな場所で夜を明かすなんて、美しくないからね」
少し意地悪な笑みを浮かべて言った。
そして、わたしの髪に指を差し入れて、殊更ゆっくりとそこに口付けると。
「じゃあ、続きはまた後で」
腰が砕けそうになるような言葉を残して、美術室を出て行ってしまった。
わたしはそのまま床にへたり込んでしまって。
どうして自分がここに残されてるのかも、よくわからなかったけれど。
少し我侭で、少し強引な彼に。
嫌と言うほど惹かれている自分に、漸く気づいた。
今夜日付が変わる瞬間に。
おめでとうの言葉と一緒に、伝えてもいいかな。
そんなことを考えて。
少し、笑った。
Fin
+--+--+--+--+--+--+--+--+
あの。ええと。ごめんなさい(号泣)
やっぱ、無理でした。無謀すぎました。
色サマと大人主人公で、甘い創作を……なんて、わたくしには不可能だということを
再確認しただけでした。こんなものを放置してしまって、すみません。
企画なのに、創作の数が足りなくて……(爆)
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