出逢った瞬間、不思議な気持ちになった。

今までに味わったことがないほど、胸がざわざわした。



「生徒さん」

なんて呼ばれて、ニコニコしている場合じゃない。

あの人の特別に、わたしはなりたいんだから─────。













Unexpected turn
















腕時計と、目の前の扉を交互に見つめながら、ここまで来てしまったことに少し後悔していた。

その場所は自分にはあまりにも不似合いで、見た目以上に扉が重く厚いものに思えたから。

看板に『CANTALOUPE』と記されていることを除いては、それほど特別ではない、普通の扉が、

まるで、聳え立つエベレストかなにかにも見えそうな勢いだった。




─────この扉を開けたら、あの人に逢える。でも……。




普通なら接点があるはずもない相手。

ジャズバーの店主なんて、高校生の自分から見たら、対等な立場になることなど不可能な相手。

担任の氷室先生に車で送ってもらった帰り道、たまたまトラブルに遭った所為で偶然知り合った、

ただそれだけの人。


なのに、気になって。


頭から離れなくて。


ひとりで3度ほどお店を訪ねてみたけれど、あっさり門前払い。

まともに相手をしてくれる気配すらなく、未だにお互い名まえも知らない。


わたしが彼を呼ぶ時は「マスターさん」

彼がわたしを呼ぶ時は「生徒さん」


そんな、あまりにも遠い雰囲気の存在なのに。


出逢いの一瞬で胸の中に住みついた不思議な相手。



けれど、その人にとっての自分は、「友人が勤める高校の生徒」でしかないのは明らかで。

なんとかしてそれを変えたいとわたしは思っていた。



─────子どもだと思われたくない……。




いつもより、少しでも大人に見えるような服装で、ひとつ年齢が大人になる日を決戦の日に選んだ。



─────特別な日の始まりに、あの人の傍にいたい……。



相手にしてもらえないのが目に見えている状況のわりに、計画が大胆すぎた所為か、

さっきから扉に手を掛けては、戻す…という行為をわたしは何度も繰り返していた。






6月1日23:00─────。

あと1時間で、なんでもない普通の日からわたしにとっての特別な日に変わる。



─────どうしよう…時間がなくなっちゃう…。


散々迷った挙句。

意を決して扉をグイっと開いた瞬間、怖くなって思わずそのまま閉めてしまう。




─────ああああ。怪しすぎる、怪しすぎるっ、自分っっ!!!



あまりのことに頭を抱えていると、内側からゆっくり扉が開いた。







「あれ……ひとり……?危ないよ。こんな時間に。

 とりあえず、おいで?変なヤツに連れて行かれても困るし」



自ら穴を掘ってでもどこかに入ってしまいたいほど、恥ずかしさに顔を赤くするわたしを

特に気にする様子もなく、勝負を挑もうとしていた相手は、あっさり自分のテリトリーに招き入れた。







■ ■ ■






店内に入ると、他に客の姿は無かった。

所在無く視線を彷徨わせていると、彼は従業員達に、





「今日はもういいよ。後はやっておくから」



などと声を掛けた後に、その店ではあまり多くない、ボックス席のひとつにわたしを促す。







「ちょうど、閉めようと思ってたんだ。少しそこで待っててよ。こんな時間に放り出したのが

 零一にバレたら、殺されかねない。まあ、もっとも?キミを放り出すつもりなんかないけどね」




悪戯っぽく笑う表情に、何か妙な違和感を覚えつつも、曖昧に頷いて、

言われるままにその場所に座った。

どうしてここにわたしがいるのか気にならないんだろうかとか、何か困ったことがあったのかと思って

気を遣って何も聞かないようにしているのかとか、それ以前に自分に全く興味がないのかなどと、

グルグルと色々なことを考えて、わたしはひとり混乱していた。




そんなわたしを他所に、彼は残っていた片づけを進めつつ、従業員が帰ったのを認めると、

ゆっくりと歩を進めて、静かに正面に座った。




確かめるようにわたしの瞳をジッと見つめて。









「……俺にどうして欲しい?」







唐突に投げかけられた言葉に、わたしは更に混乱した。

その質問の意図も理解できなかったけれど、その前に他に聞くことがあるのでは?などと

頭では色々考えても、それを言葉にはできなかった。

具体的に何をして欲しいとかそんなことを考えていたのではなく、

ただ、目の前の人の特別になりたかっただけで。

それがたまたま、今だっただけで。



どこから何をどう話せばいいものか、と躊躇っていると。








「キミが何も言わないなら、俺がしたいように、しちゃおうか」






一瞬何を言われたのかわからなかった。

不意に立ち上がってわたしの隣に座り直す彼に思わず身構えると、彼はクスッと小さく笑って。

腕の中に簡単にわたしを捕らえて、チュっと掠めるように頬に口付けた。

驚いて目を大きく見開くのを見てまた笑うと、今度は唇に。

下唇を甘く噛むように少しずつ解しながら、徐々に唇を開かせてその内側に舌を入れてくる。



─────!!!!ちょっ///////////ちょっと待って!!!



不意に入ってきた舌に、思わず彼の胸に腕を突っ張って、抵抗した。

名残惜しそうに彼は唇を離すと。





「……嫌?」



不思議だと言わんばかりの表情で聞く。

その、答えに詰まるような質問にわたしはただ、顔を赤くするばかりで。

そもそも、なぜ今、こんなことになっているのかもよくわからなかったし、

その先に起こることなど、想像もできなかったけれど。






「あの、名まえ……教えてください」



質問には答えられそうになかったから関係のないことを言った。

彼は少しの間考えて、今度は意地悪く微笑むと、






「……内緒」





一言だけ言ってから、また唇を重ねて、慣れた手つきでわたしの着ているものを取り払っていく。

下着だけの姿にされたわたしは、軽々と抱き上げられて、彼の膝の上に乗せられた。

自分の身に起きていることを、ちゃんと自覚する暇も、抵抗する隙も与えてくれないまま、

彼はわたしの唇を塞いでいて。

彼の片手で背中の金具が外されたことに気づいた時には、

下着と身体の間にできた隙間から差し込まれた手が、

わたしの胸の片方の膨らみに柔らかく触れていた。





「……んっっ……」




息を飲むようなわたしの素振りを満足げに一瞥すると、彼はそのまま膝の上にわたしを横たえて、

左手でやわやわと膨らみを揉みしだきながら、右手は腕やわき腹をなぞり、ジワジワと下へ下へと

移動させていく。


抵抗したいのにできなくて。

何か、考えなければいけないことがあるはずなのに。

聞かなければいけないこともあるはずなのに。

彼の手の動きで、思考能力が簡単に奪われていく。



彼の左手が膨らみの先端に軽く触れ、わたしがビクリと震えた瞬間、

右手が下着の上から柔らかくわたしのその場所に触れて、耐えられなくなったわたしは、

思わず顔を両手で覆った。





「やっっ……ダメ……」




顔を覆っている手を外されて、恐る恐る目を開けると、意地悪く微笑む彼と目が合う。





「ホントに?」



その言葉と一緒に下着の隙間から指が滑り込んで、くちゅっ…と水音が響いた。





「…いやっっ………!!」



わたしが動揺している隙に、彼は残っていた下着を全て取り去って、

恥ずかしいぐらいに潤ったその場所に、ゆっくりと指を這わせる。

緩々と滑らせるように触れて、溢れる蜜を指に馴染ませながら、

すぐ傍にある敏感な場所に殊更優しく触れられて、自分の口から出ているとは思えないような、

甘い声と一緒にわたしの身体は大きく跳ねた。





「あっ……んんっっ……」



不意に内側に入ってきた探るように蠢く指は、簡単にわたしの弱い場所をみつけて、

そこを指の腹で擦るように抜き差しを繰り返す。

外側にある敏感な場所まで別の指で一緒に擦り上げられて、





「……っっ……やっ……はぁ…あああっ!!」



急速にもたらされる快感に、思わず身を捩ったわたしは、

彼の脚の上から崩れ落ちそうになった。





「ここじゃ、ツライかな」



独り言のように言ってから、彼はわたしを抱き上げて、

店の奥にある事務所のような部屋に入ると、仮眠用に置いてあるらしきベッドにわたしを横たえて。

店内より明るい場所に放り出された自分を改めて見ると、

身につけているのは、左手の腕時計だけで、急に恥ずかしくなって、思わず身を縮めた。





「恥ずかしくなっちゃった?」



またも、返事に詰まらせるのが目的なのか、答えを求めていないのか真意を量りかねるような

質問を投げかられる。

けれど、困惑しているわたしのことなどさほど気にしていないように、

彼は思いの外あっさりと間接照明に切り替えると、自分も白いシャツを脱ぎ捨てた。



薄闇にぼんやりと浮かび上がる、その軽々しい風貌には不似合いなほど、

滑らかで彫刻のように美しい筋肉質な上半身に、思わず目を奪われた。



彼は一瞬いつもの人懐こい笑みを浮かべてから、わたしに覆い被さると、

仕切り直しとでも言うように、髪を優しく撫でながら深く唇を求めてきて。

わたしの身体の強張りが抜けてくるのを待つように、その唇を少しずつ下へ下へと移動させていく。


その唇がいちばん敏感な場所に到達した頃には、わたしは脳が溶けるような感覚を味わっていて、

なぜこんなことになったのかとか、この人はどういうつもりでこんなことをしているのかとか、

さっきまで気になって、でも考えることすらできずにいたことが全て吹き飛んで、

何か考えようとすること自体無駄なことだとわかって、すっかり身を委ねていた。





内側に入り込んだ指が羞恥を煽るような音を立てても。

自分の口から信じられないような甘い声が零れても。

蠢く舌に翻弄されて無意識に腰が動いても。

それを気にする余裕すらなくなって、ただ彼によって与えられる快感に溺れていた。



不意に彼は執拗とまでも言えるような愛撫を中断して、

わたしの左手首に触れ、顔を近づけると小さく笑ってから、耳元に唇を寄せた。







「誕生日、おめでとう。ちゃん」




「!!!!!/////////?????」



驚きと湧き上がる疑問を言葉にする隙など与えずに、さっきまで内側にあった指とは

とても比較できないような熱がわたしの中に打ち込まれる。





「あっ…!!!んんっっ……」



指や舌で弄られるのとは全然違う。

急激に与えられた衝撃に思わず強く目を閉じると、身体が受ける快感とはべつの種類の快感が生まれる。



今、確かに彼がわたしの中にいる。

そのことが、今こうしている理由とか、彼の本当の気持ちとかそんなことはわからなくても、

不思議なほどわたしに幸福感のようなものをもたらす。



彼がゆっくりと腰を進めて、深く繋がった時、目を開けると、驚くほど愛おしげにわたしを見つめていて。

さっきまでの思考を奪うようなやり方ではなく、触れるだけの口づけが落ちてきた。





「ちょっと…予定外だったかな…」



彼がなんのことを言っているのかなんてわからなかったけれど、それを考える余裕もなかった。

多少苦しげにそんなことを呟いた彼は、緩急をつけてわたしの内側の弱い場所を器用に擦り上げる。

その動きは徐々に激しさを増していって、わたしの意識は飛びがちになっていた。

打ち付けられる刺激と、同時に与えられる充血した場所への摩擦に翻弄されていて、

何かとても大切なことを言われたような気がしたけれど、

小さく囁かれた彼の言葉は、混沌とした意識のわたしには届かなかった。








「好き……だよ?キミのこと。初めて逢った時から」







■ ■ ■







腕の中に抱きこまれたまま、優しく髪を撫でられる手の感触に、

わたしは、白濁した意識を必死に掻き集める。



─────わたし……マスターさんと……///////!!!で、でも、なんで!?



見上げると、彼は苦笑いを浮かべた。






「たくさん質問がありそうな顔してるね…。困ったな」



聞きたいことは山ほどあった。

でも、何をどう聞いていいかもわからなかったわたしは、精一杯の抵抗を試みる。





「説明してください。色々、全部」



意識的にムッとした表情を作ってそんなことを言ったわたしを、彼はぎゅっと抱きしめた。




「ほぼ、ちゃんの所為かな?簡単に俺の理性吹き飛ばしてくれちゃってさ」



「わたし……なんにもしてないです」



予想外の言葉に思わず言い返すと、彼は大げさにため息をつく。





「そもそもちゃんはさ。顔に俺のこと好きって書きすぎなんだよ。まあ、そうは言ってもね?

 いきなりそこまでするつもりはなかったよ、最初は。けど、ちゃんと聞いたよね?俺。

 『嫌?』って。キミ、なんて答えたか覚えてる?」



酷い言われようだけど。大人の彼からみたら、わたしなんてそんなものかもしれない。

自分が何を言ったのか、記憶を辿ろうとしても、驚くことの連続だった所為かどうにも思い出せない。



首を傾げていると、彼は小さく笑った。





「あの時キミ、俺の名まえ聞いたよね。それってどう考えても了解の意味でしょ。

 もうちょっと全力で嫌がってくれないと、止まらないよ。こっちも」





─────要するに、好き好き光線が出てたから、取って喰ったってこと、ですか…?




あまりに理不尽な言われように悲しくなって、わたしはその腕から本気で逃れようとしたけれど、

簡単に閉じ込められる。





「まだ、話、終わってないし。なんか忘れてること、ない?」



─────忘れてること……?



わたしは再び首を傾げる。





「俺がキミの名まえとか、誕生日知ってたことは、無視?」



「!!!……どうして、知ってたんですか…?」





「そんなことは教えられないよね。自分で考えてよ」




今度は彼の方がムッとしている。




─────ええと、……と、いうことはつまり……わざわざ聞いたってことだよね?

       あの簡単には教えてくれそうもない、ちょっと怖い先生に……。

       それってもしかして、マスターさんもわたしを………?/////////。





「あ!!わたし、マスターさんの名まえ、聞いてないです、まだ!!」



思い至ったことが恥ずかしくて、唐突に話をそらすわたしに彼は苦笑いしつつも、なぜか優しく髪を撫でてくれた。





「ああ。名まえ?千尋。日向千尋。好きに呼んでいいよ」



その言葉にわたしは嬉しくなって、思わず自分から彼に抱きついた。





「じゃあ……千尋さん。えっと……知ってるかもだけど……好き…です」



オズオズとわたしが言うと彼は声を上げて笑った。






「俺はさっき言ったから、もう言わないよ?」




「えええええーーーー!?いつですか !?わたし、聞いてないですーーーー」




彼の胸に腕を突っ張って見上げると、わたしの前髪に軽く触れて、額にチュっと口づけた彼は、

不意にとんでもないことを口走る。





「零一に報告しなきゃな」



「えええっ!?い、言うんですか……?」




突然の妙な言葉に驚くわたしに、彼はひと際意地の悪い笑みを浮かべた。






「今だけで終わりがいいなら言わないけど。……どうする?」



「!!!!!!」




順番がいろんな意味でデタラメだったような気がしなくもないけれど。

なんだか、からかわれすぎのような気もしなくもないけれど。


どうやら、わたしの誕生日の野望は意外にもあっさり達成されたらしい。



しかも。

意外と早く、彼の特別になれそう……って思うのは、楽観的すぎ?








end









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ええ……コホン。さすらいの旅人様〜。さすらいの旅人様〜。いらっしゃいますでしょうか。

いや、むしろいらっしゃらない方が……(汗)

マスタ×高校生主人公、リクから激しく脱線しております(ToT)

どんなリクだったかなんて、面影すらないので最早言えません(我ながら酷すぎる…)

宿題処理能力が衝撃的に低いため、ちょうどその時期になってしまいましたので、お誕生日仕様にしてみました。

意味があるように思えないところがまた、相変わらずスペシャルにヘボイです。

ヘタレ具合パワーアップ期間中とはいえ、これではあんまりだと思いまして、せめてもの償いに、

表現し切れなかったマスタの想いなどを、マスタ視点で書いてみたりして、ゴミ箱行き寸前です。

あ。いらないですね……すみません。捨てます(笑)


本気でダメダメで、ごめんなさいっっ!!!!

旅に出ますので捜さないでください……(ToT)





 

 

 

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