氷の女神 vol.01
「ディーノさん」
チャイムが鳴って外に出るとそこには金髪の青年が居た。
キャバッローネファミリー10代目・ディーノ。愛称・跳ね馬。
「よお、ツナ!」
部下が居れば非の付け所のない彼も部下が居なければ運動音痴(獄寺隼人曰く:ヘナチョコ)だが。
「今ちょっとお客さん来てるんで……部屋で待っててもらえますか?」
「ん、判った」
階段に足をかけた瞬間、リビングから聞こえてきた少女二人の声。
「ミルク、入れる?」
(……一人は笹川京子か)
ディーノの頭の中で京子の姿を思い浮かべる。何度か逢ったことがある、ツナの想い人。
と云う事はもう一人は三浦ハルか。
そう踏んでディーノは階段を登り始めた。
「ありがと、京子ちゃん」
が、聞こえてきたのは違う少女の声。それもディーノが想像するに、かなり可愛い。
「ツナ!」
「は、はい?」
「知らない声がする」
「ああ……さんって言って……一緒に班の課題をするんですよ」
手短にツナは説明する。
そしてリビングへ消えていった。
結局、ディーノがを見たのは二階のツナの部屋から、後姿だけ。
「あ」
「どうしたんだ、ツナ」
間抜けな声をあげたツナにディーノはその手元を覗き込んだ。そこにあるのは可愛い、小さな携帯。それも最新機種だ。
「京子ちゃんじゃないだろうし……さんかな。やっぱりないと困りますよね」
「だろうな、やっぱり」
流石に無断で中身を見る訳にもいかず、ツナとディーノは外からその携帯を眺める。
と。
着信を示す、ピンクのランプが点滅し、流行の曲ではなく、クラシックの曲が着信を報せる。
…一度、二度……。
何回かの後、それは途切れた。そして、間髪入れずもう一度。着信が何処からかを示すプライベートウィンドウに表示されているのは公衆電話の四文字。
「はい、もしもし?」
見かねたディーノが携帯を奪うようにして電話に出た。
『……もしもし?』
先程の少女の声が聞こえる。
「えーと、さん?」
『沢田君……じゃないですよね?何方ですか?』
ほれ、とディーノはツナに携帯を手渡す。
二言三言交わしたあと、ツナは携帯を切り、困ったような表情をその顔に浮かべた。珍しいな、とディーノがその様子を暫く観察する。
「ディーノさん!」
「ん?」
「並盛公園までこの携帯、届けてもらえませんか!?」
「あ?…ああ、別に構わないがいいのか?」
「お願いします」
ぺこりと頭を下げられては何も言えず、ディーノはツナが用意した可愛らしい紙袋に携帯と何かを入れて(正確にはさっき京子がお土産で持ってきたケーキの紙袋だが)ツナの家を出た。
部下達は全員駅前のホテルにおいてきた。
ゆっくりと転ばないように並盛公園までの道のりを歩く。
どのくらい歩いたか、並盛公園と書かれた入り口の下を通ると目の前のブランコに腰掛けている制服姿の少女。
「……、さん?」
「え?」
ぎーぃ、ぎーぃ、と鎖独特の軋む音を中断させて彼女はゆっくりとディーノを見る。
黒いストレートヘアに黒い瞳。
「ツナに頼まれて携帯を届けに…」
言いながら鼓動が早まる。
確実に自分の好みな訳で。
「有難うございます。これ、ないと凄い不便で……」
ああ、そうだろうな、と思う。
ブランコから降りてはディーノの前に歩み寄る。その距離、約2メートル。
「すいません……私、ちょっと男性がダメで……」
ちょっと驚いた表情をした後に、ディーノは一瞬だけ哀しそうな顔をして持っていた紙袋をの方へ手を伸ばして手渡す。
それを受け取り、は申し訳なさそうな表情をした。
「「あの」」
二人の声がはもった。
お互いに顔を見合わせて思わず噴出す。
「変な意味じゃなくて、今度、お茶でも如何ですか?今日、届けてくれたお礼に」
「喜んで」
チャンスは最大限に生かす。
と言わんばかりにディーノは頷く。
「じゃあ、これ、俺の携帯番号とメルアドだから。…暇なら何時でもメールしてきてくれ」
持っていた紙にさらさらと書くとディーノは手渡す。
自然に。
なんでもないように、はそれを受け取った。
「はい」
紙に書かれている綺麗な文字。
「夜にでも必ず」
そういっては微笑んだ。
To Be Continued