「コウメイさんと歩いていると、やっぱりお父さんに間違えられます」
「それは私とさんとでは歳が違いすぎますからね。間違えられて当然なんですよ」
椅子に座って優雅に新聞を読んでいる人。
それは私の好きな人、おまけにすごく年上。
そして、父がもっとも信頼していたとされる刑事さん。
諸伏高明(もろふし たかあき)さん。
あだ名はコウメイさん。
親しみを込めて呼んでいるので、コウメイさんはまったく嫌がることはない。
「でも・・・お付き合い、してますよ・・・コウメイさんとは」
「それは、そうですね。ですが、さんだって私のことをご友人の前では”親戚のおじさん“と紹介しているじゃないですか」
「こ、コウメイさんだって・・・私のこと、”知り合いの娘“ってこの前言ってたじゃないですか」
「まぁアレはそう切り抜けるしかないでしょう。
私と貴女の歳を考えて”付き合っている“と大っぴらに言ってしまえば
それこそ犯罪ですからね」
「・・・確かに・・・」
そりゃあ・・・私、まだ10代だし・・・コウメイさんも30代で・・・歳はかなり離れている。
お互いがお互い、そうやって隠して(というわけではないのだが)
お付き合いをしないと・・・それこそ、コウメイさんの立場がなくなってしまう。
「しかし、父親というポジションは許せませんね」
「え?今頃、何ですか?」
最初の話に戻るように、コウメイさんは読んでいた新聞紙を閉じて私を見る。
「確かに、私は30代でさんは10代・・・父親と娘。間違えられても当然かもしれません」
「はぁ」
「しかし父親というポジションだと、幾分不利が生じます」
「え?」
不利?・・・一体なんの?
「あの、コウメイさん・・・意味がよく・・・」
「気づきませんか?」
「はい」
「父親というポジションだと・・・・・・」
「手が出せませんからね」
「っ!?」
不意に微笑まれた顔には紳士の顔もあったが
それはまるで悪魔にも似たような顔だった。
「だから、不利なんですよ・・・さん。お分かりですか?」
「・・・・・・はぃ」
「よろしいです。では、また今夜にでも」
そう言って、私の手を握って小さくキスを落とし
新聞を持ったまま、かの人は仕事へと向かうのだった。
”今夜にでも“
あの人はまた、やってくる。
寂しい夜を過ごす私の側に――毎日。
部屋の隅で蹲(うずくま)っていると、優しく声を掛けて、包み込んでくれる。
父親じゃない・・・あの人は、私の恋人。
優しく、包み込んでくれる・・・私のもっとも愛しい人。
「(お父さん。親不孝な娘を許してください)」
天国にいる父に私はそう謝ってみたのだった。
歳の差カップル
親子じゃなくて
私たちは恋人です
(でもやっぱり外見は”親子“に見えちゃうのが悲しい性)