「冷え込んできましたね、大分」
「ですねー」
とある日の事。
年上の恋人である、諸伏高明さん(通称:コウメイさん)と
少し雪の積もった道を歩いていた。
積もったからと言って、足がすっぽり嵌るほどじゃなく
踝(くるぶし)にも届かない低い雪道だった。
「でも、いいんですかコウメイさん」
「何がですか?」
「いえ、だって今から」
「知ってますよ。敢助君のお宅に伺うことくらい、月1〜2回のペースで顔を見せに行くんですよね」
そう、高校に上がるまで
私は敢助さんのお家にお世話になっていた。
高校に進学すると同時に、一人暮らしをしたいと言うと
始めのうちは反対をされていたが
『月に2回・・・顔を見せに来い』という条件の下
現在、その途中だった。
それを丁度私が一人暮らししている部屋に
コウメイさんが訪れ、ワケを話すや否や・・・――。
『じゃあ、私も行きます』
というので、コウメイさんがふっ付いてきたのだった。
「敢助さん嫌がりますよ?」
「えぇ、幼馴染ですからね。彼からしてみれば私の顔も見たくないでしょう」
「それなのに、付いてくるんですか?」
「はい。・・・いけませんか?」
「ぃ、いえ」
いや、別にいけないというわけではないのだが
敢助さんとコウメイさんが出会ってしまうと、ケンカが絶えない。
「さんにとって敢助君たちは家族同然。そんな水入らずの中に、私はお邪魔ですか?」
「そ、そういうわけじゃ」
「それに私は君の恋人ですから。ご挨拶をしておかないと」
いや、何か違う気がするんですが。
むしろ、挨拶というよりか・・・・・・威嚇?
敢助さんのお家に戻ったときの
敢助さんの反応を考えると、なんだか修羅場が目に見えてるような気がして
私はため息を零し、後ろを振り返る。
「あ」
「どうかしましたか、さん?」
「ぃ、いえ、別に」
思わず声を上げてしまい、それにコウメイさんが
気づいたのか声を掛けるも私は”別に“という言葉で濁した。
思い出していた。
去年まで、この道は私一人で歩いていた。
だから、足跡が私のものだけだった。
白い雪という絨毯を
寂しく一人、トボトボと歩いていた。
雪の上に残る、足跡は何だか物寂しく切なかった。
だけど――――今は。
「どうしました、さん?」
「いえ・・・何でもないです」
私はコウメイさんの体に自分の体を寄せ
彼の服をそっと握った。
私の反応を見て、コウメイさんは・・・・。
「何か嬉しいことでも?」
優しく語り掛けてきた。
「えぇ・・・とっても、嬉しいことです」
「そうですか・・・それはよかった。君が笑ってくれれば私もそれだけで嬉しいです」
「はい」
私が笑顔で返事をすると
コウメイさんはにっこりと微笑んで
私の肩を抱いてくれた。
去年まで、寂しかった雪道には
私と、愛しい貴方の足跡が二つ・・・くっきりと残っていた。
振り返れば足あとふたつ
(寂しい雪道に、優しい足跡が二つ)