今日は2月14日。

何と言ってもバレンタインデー!


2日前、チョコレートをたくさん買い込んで
敢助さんや由衣さんの分を作って、そして大本命のコウメイさんの分を作った。


敢助さんや由衣さんには忙しそうだったので
前の日である13日に渡した。


そして、本日14日。
今日はコウメイさんがお迎えに来てくれる日なので
私は校門でコウメイさんに渡すチョコレートの箱を見ていた。







「喜んでくれるかなぁ、コウメイさん」





男の人用で、ビター味で作った生チョコ。
ミルクチョコレートと比べて、甘さは充分控えめ。


ワインのお供にもなるし、というので私は浮かれながら
そして、コウメイさんのことを想いながら
一生懸命に作った。

きっと喜んでくれるよね?



そう綺麗に包装した箱に思いを乗せて、私はカバンの中に箱をしまった。







さん」


「あ、コウメイさん」





すると、外国製の車に乗るコウメイさんが現れた。
私はすぐさま右側の助手席に乗りこみ
乗るのを確認すると、コウメイさんは車を発進させた。










「(い、いつ渡そう)」







車が私の住んでいる家に向かう途中
私は心の中でカバンの中に忍ばせたチョコレートを
いつコウメイさんに渡そうか考えていた。


私はちょっと横目でチラッとコウメイさんを見る。



だけど、なんだかコウメイさんの顔色が良くないことに気づいた。






「コウメイさん?・・・どうか、しましたか?」


「え?・・・・・あぁ、ちょっと」







もしかして、気分でも悪いのではないかと私は思った。
だって、こうやって時々ではあるが
仕事の合間を縫って、私を送り迎えしてくれるのだから
もしかしたら疲れているのではないのかと思っていた。






「今日、何の日かご存知ですよね?」


「え?・・・えぇ、バレンタイン・・・ですよね」




私は自分のチョコレートの存在をバレないように
コウメイさんに話を合わせる。





「それが、どうかしたんですか?」


「その・・・私、あまり甘いものが好きではないんです。特にチョコとかはホント苦手で」


「え?」





チョコ・・・・・コウメイさん、チョコ、好きじゃないの?

コウメイさんの言葉に私は愕然とした。






さん?どうかしましたか?」


「えっ・・・あ、い・・・いいえ!何でもないです」




「そうですか」とコウメイさんは私の声に返事をして
再び運転に集中する。

私はというと心の中で落ち込んでいた。



これじゃあ・・・チョコ、渡せない。



私、バカだな。

前もって敢助さんに聞いて、コウメイさんの苦手なものとか
そういうものを把握しておけば
きっと、チョコじゃなくても別のものを考えて
あげたはずなのに・・・・・・コウメイさんがチョコ、苦手とか。









「(何、やってんだろ・・・・・・私)」







好きな人の好きなものや嫌いなもの、苦手なものくらい
把握しておくべきなのに、それすら気も回らず
コウメイさんが苦手とするチョコレートをバレンタインにプレゼントしてしまう
私は本当にダメだなと思った。




















「・・・はぁ〜」




コウメイさんに送ってもらい
「また後で来ますね」とかの人は私に言い
再びお仕事に戻っていった。

そして、日も暮れ
夜がやってきて私は一人、部屋で
コウメイさんに渡すはずの生チョコの入った箱を見つめていた。



味見程度でたくさん食べたし
今更敢助さんや由衣さんに渡しても、多分敢助さんがコウメイさんに
すごい勢いで怒鳴りだすだろうと思うからやめよう。


可哀想だけれど。





私はゴミ箱の前に足を進め、箱ごとゴミ箱に捨てた。









「・・・うっ・・・ひっく・・・」






ゴミ箱にチョコを捨てた途端
私の目から涙がポロポロと零れ落ちてきた。


きっと喜んでくれるだろうと思って頑張って作った。


だけど、苦手なものをあげても・・・喜んでもらえない。


無理して食べてもらっても、ちっとも嬉しくない。





気づかない私が悪いんだ。


何で、なんで・・・・・・気づかなかったんだろう。










――――ピンポーン!






突然、インターフォンが鳴った。
多分コウメイさんだ。と思いとりあえず
覗き穴から外を覗くと、コウメイさんが立っていた。





「今、開けます」




私は涙を拭い、泣いてる事を悟られないように
鍵をゆっくり開け、ドアノブを下ろした。






「遅くなりましたね」


「いえ、そんなこと。あ、寒かったですよね?コーヒー淹れます」


「ありがとうございます」





コウメイさんを家に上げ、かの人はリビングに
私はキッチンに向かい、お湯を沸かしながら
コーヒーの準備をする。



泣いてたの、バレてないよね?




カップの中に粉末のコーヒーを入れながら
私はチラッとリビングに居るコウメイさんを見る。


私の行動にも気に留めず、なにやらキョロキョロしている。

いつも来てるのに、どうしたのだろうか?

まぁいいや。うん、大丈夫。


泣いてるのはバレていない感じだったので
私は沸騰したお湯をカップの中に注ぎいれ
優しく掻き混ぜた後、それをリビングに居るコウメイさんの元に持っていく。







「はい、どうぞ」


「ありがとうございます。・・・・・さん」


「はい、何ですか?」




カップをコウメイさんに渡して
私は一口コーヒーを口に含んだ。

するとコウメイさんが私を呼んだので、コーヒーを飲み込み終えてすぐに返事をした。








「これ、何です?」



「!!」








コウメイさんの手に持たれていたのは、さっき私がゴミ箱に捨てた
チョコレートの入った箱。

普通にゴミ箱に放り込んでしまったのがまずかった。

そんなことしたらすぐにバレるはずなのに
もう、何してるのよ私!






「これ・・・もしかして、私に?」


「ち、違いますよ!ちょっと失敗しちゃって・・・上手くいかなかったから捨てたんです。コウメイさんのじゃありませんよ」


「でも、すごく真新しい。ちょっとの失敗で捨てるような代物でしょうか?」


「や、やだなぁ〜コウメイさん。疑いすぎですって!お仕事で疲れちゃってるですね、きっと」


「ですが」


「それはコウメイさんのじゃありませんよ」






お願い・・・開けないでください。


開けたら、全部分かっちゃう。




私がコウメイさんのために作ったモノだって。


コウメイさんが苦手なチョコレートが入ってるって。



お願いです・・・・・開けないで。









――――ガサガサガサ。






瞬間、コウメイさんが包装紙を丁寧に開け始めた。
紙の擦れる音がする。



もう私はコウメイさんの顔も見れなくなり、思わず自分の顔を伏せた。








「・・・・・・これは」






すると、コウメイさんが声を出した。

多分蓋を開ける一歩手前。
其処に私はあるものを、挟んでいた。








【Happy Valentine  コウメイさん、大好きです】






名刺サイズのバレンタインカードに
可愛く色ペンでメッセージを添えていたのだ。




これが見つかってしまえば、もう言い逃れが出来ない。







さん、どうして?・・・・・どうして、嘘をついたんですか?」





コウメイさんの低く優しい声に
思わず止まった涙が再び溢れ出てきた。

私は涙を拭いながら、震える声でコウメイさんに言う。







「苦手なのに・・・あげれません。無理して、食べてもらっても・・・私、嬉しくないです。
だったら、いっそのこと・・・・・捨てたほうが、いいじゃないですか」






苦手なものをあげれない。

それをあげても、喜んでもらえないのなら

いっそのこと、想ってた気持ち全部・・・一緒に捨ててしまえばいい。




嫌われる前に、無くなってしまえば――――いいんだ。






「そうでしたか。・・・・・では」




「え?」






コウメイさんの言葉に頭を上げると
箱の蓋を開けて、突然チョコレートを食べ始めた。







「えっ?・・・あっ、あのっ・・・やだっ」






どうしてですか?


何でですか?


苦手なんですよね?



じゃあどうして―――食べてるんですか?





気づいたら、箱の中の生チョコは
コウメイさんの口の中に全部入っていった。






「な、んで?」


「だって、さんが作ったモノでしょ?食べないと罰が当たります」


「で、でも・・・コウメイさん、苦手って」


「確かに苦手ではありますが、これくらいの量なら可愛いものです。ただ、今日は新野署の人たちから
たくさんのチョコを貰って正直見るのも嫌だったんです」





そういえば、帰り道。

街中はバレンタイン一色で、お菓子屋さんのショーウィンドウには
チョコレートがたくさん並んでいた。






「あの時の私の言葉で、君をそんな気持ちにさせてしまったんですね。私の不注意でした・・・ごめんなさい、さん」





コウメイさんは優しく私に言う。



ダメだ・・・また涙が零れてきた。
私は必死にそれを拭う。






「嫌われ・・・嫌われたかと思って・・・。私、コウメイさんのこと・・・好きなのに、苦手なものとかも分からなくて。
ごめんなさい・・・ごめんなさい、コウメイさん」



「謝らないでください、さん。君は何も悪くありませんよ」




そう言いながらコウメイさんは
私の隣に来て、頬を包み込んで
優しくキスしてくれた。







「コウメイさん・・・甘い、です」


「だって、チョコ・・・食べましたから。キスも甘くて当然ですよ」


「そう、ですよね」






ようやく涙も止まり、私はコウメイさんに笑いかけた。
私の笑顔が見れたのか、コウメイさんも釣られて笑ってくれた。







「素敵なチョコ、ありがとうございました。美味しかったですよ」


「どういたしまして、です」


「このお返しは、倍にしてお返ししますね」


「い、いいですよ!私は・・・わたしは」


「?」



















「コウメイさんが側に居てくれれば、それでいいんです」



さん。・・・
してますよ」


「はい」




そう言ってまたコウメイさんは
キスをしてくれた。


それは、
ビターチョコの味。

ほろ
く、でも時々かった。







ビターチョコキッス
不安の心ほろ苦く
愛の囁き甘く

(私の想い、貴方の心に届いたでしょうか?)

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