「いいんですよ、わざわざ」

「いえ。手を怪我しているんですから無理をしたら大変です」

「は、はぁ」





私は今、コウメイさんの車の中に居る。



2日前、私は手に怪我をしてしまって
病院に丁度居合わせたコウメイさんに見つかり
お説教をされたのだが
次の日、コウメイさんが私の家の前にやってきて―――。







『しばらく送り迎えします』








と、突然そんなことを言われ
拒むに拒みきれず現在に至っている。






「コウメイさんだって頭に怪我しているのに・・・大丈夫なんですか?」

「私は大丈夫ですよ」

「で、でも・・・っ」

「大丈夫だからこうやって車の運転をしてるんです。気にしないでくださいさん」







気にしないでと言われても
頭を殴られ気絶させられたコウメイさんに比べたら
私の手の怪我なんて蟻んこのようなものだ。

でも、自分の考えは頑として曲げないコウメイさんなので
何を言っても言いくるめられてしまうので
私はコウメイさんに勝てない。









「あ、すいませんさん。グローブボックスを開けてもらえませんか?免許証を入れてると思うんですが」

「え?・・・あ、はい」








コウメイさんはハンドルを握ったまま
私の足元のグローブボックスを開けてと
頼まれたので、私は取っ手に手を引っ掛けて開けた。






「あ、この本」


「え?あぁ・・・それはちょっと」





グローブボックスを開けると
其処には綺麗に整頓されたモノと一緒に
1冊の本が置いてあった。








【2年A組の孔明君】








グローブボックスにそれが入ってることに
私はちょっと不思議に思った。


だって、これは児童書で・・・コウメイさんのような
大人の人が読むようなものじゃない。
(まぁ読む人は居るのかもしれないけれど)









「意外ですね。コウメイさん、読まれるんですか?」


「え?・・・えぇ、まぁ」







私の質問にコウメイさんは言葉を詰まらせながら答えた。
何か聞いちゃいけないことだったのかな?

聞こうと思ったけど、やっぱり聞いちゃいけないと思ったので
私はあえて聞かなかったのだった。

























「コウメイの車のグローブボックスに?」

「そうなんです。児童書が入ってました・・・確か【2年A組の孔明君】っていう本です。
私も小学生の頃読んだことあります」








それから数日後。
私はやっぱり気になって敢助さんに尋ねてみた。

だって小学校からの付き合いなら何か知ってるはず。
本人に聞いても絶対話してくれなさそうだし。









「あぁ、その本のことか」

「知ってるんですか!」






敢助さんは新聞を広げながら話す。
私は思わず机を叩いて立ち上がった。









「いきなり立ち上がるな!ビックリするだろ」


「か、敢助さん・・・知ってるんですか?ていうか、何で知ってるんですか!?」


「話してやるからとりあえず落ち着け、そして座れ」


「は、はぃ」





敢助さんにそう言われ、私は大人しく座った。






「あの本のモデルはコウメイだ」


「へぇ〜・・・・・え!?」




た、確かに・・・主役の探偵君は
コウメイさんっぽいよなぁ〜と思い出してみたら
まさか本当にそうだったとは。





「作者がな、俺たちの同級生で。コウメイをモデルにしてそれを書いたんだ」


「そ、そうなんですか。同級生さんだったら今度会わせて」




























「死んだよ」




「え?」









敢助さんの言葉に私の心臓が動いた。






「3年前にな。心臓発作を起こして死んだ・・・元々病弱なヤツだったからな、小橋は」


「小橋?」


「作者の小橋葵だ。そしてコウメイの初恋の相手だ」


「は、初恋」


「ちょっと待ってろ。事件資料だったが写真がある」









そう言って敢助さんは立ち上がって自分の部屋に向かった。


一方、私の頭の中で
鐘がゴーンゴーンと低く響いていた。

は、初恋?
コウメイさんの初恋が・・・あの児童書の作者さん?

ていうか、コウメイさん・・・好きな人、居たんだ。

そもそもそんな話聞いたことない!!!!



もう私の頭はパンク寸前。
だ、ダメだ・・・もう帰りたい。







「ホラよ。これが小橋葵だ」







すると、敢助さんが私に写真を渡してきた。
私はそれを受け取ると――――愕然とした。









綺麗な女性だ。





綺麗だし、何かおしとやかって言うか
優しいそうだし、大人しそう。


ふと、自分の手を見た。

いまだ癒えることのない打撲の包帯。


毎回毎回コウメイさんを困らせている私に比べたら
この小橋葵さんは・・・コウメイさんにとって理想の女性。








?・・・、どうした?」


「・・・今日、帰る気分じゃないのでお泊りしていいですか?」


「お、おう」








ダメだ。
亡くなった人とはいえ・・・コウメイさんが好きだった女性。

しかも綺麗だし・・・コウメイさんの中では理想の女性像(なのかもしれない)。


思わず自分と比べて
私は落ち込んでしまい、その日家に帰る気も起きず
敢助さんのお家に泊まる事にした。























。上原が来たぞ』
ちゃん、私よ。開けて』




その後、私は自分の部屋に引きこもった。
もう頭がパンクして何も考えたくない。

いやむしろ、放っておいてほしいと思ったのだが
吐き出さないと余計苦しいと悟り
私は敢助さんに頼み、由衣さんを呼んでもらった。

私はフラフラしながらドアを開けた。




「由衣さぁ〜ん」

「どうしたの?」

「・・・・・・へこみ街道をまっしぐらしてるんです」

「は?・・・まぁとにかく話し聞いてあげるから。敢ちゃん、ホラ」

「あ?・・・わ、分かったよ」







由衣さんが敢助さんを私の部屋の前から
追い払うと、由衣さんは私の部屋に入ってきてドアを閉めた。

私がベッドに座ると、由衣さんも私の隣に座った。











「それで・・・どうしたの?」

「コウメイさんに初恋の人が居て、へこんでるんです」

「諸伏警部の初恋の人?あぁ・・・小橋葵さんのこと?」

「あーーもう何かその名前を聞くだけでへこみます」








私は思わずベッドに倒れた。






ちゃん。でも、葵さんは3年前に」

「知ってます。敢助さんから聞きました」

「なら」

「自分でも、バカげてるって思うんです」

「え?」






私は倒した体を元に戻しながら
ゆっくり、何とか頭を整理させながら喋る。









「亡くなった人に嫉妬するとか。ホント、私・・・何してるんだろ。
小橋さんは凄く綺麗な人で、きっと生きてたら・・・コウメイさん、私と居るよりずっと幸せだったのかなぁって」


ちゃん」


「そう考えたら・・・何か悲しくなってきて。・・・私、コウメイさんとも・・・逢えなかったのかなぁって」







自然と涙が溢れてきた。



もし・・・もしもの話。


小橋さんが生きていたら、コウメイさんは幸せだったろう。
本当に好きな人の側に居れる・・・その喜びに満ちていたに違いない。

そして、私と逢うことも無かっただろう。

私と出逢って、恋することも・・・無かっただろう。



町ですれ違っても、きっと――――振り返ることも。












「もう・・・色々考えたら・・・・・・止まらなくなって・・・・」


「そっか。今さ・・・諸伏警部に逢いたい?」


「今、逢う気分じゃないです。むしろ、しばらく逢いたくないです」


「う〜ん。・・・じゃあ、逢わないようにしようか」


「でもっ、どうやって?」







逢わないようにするなんて、どうすればそんな上手いことができるのだろうか?






「敢ちゃんに頼むの」

「え?敢助さん?」

「ちょっと敢ちゃんに頼んでみるわね。待ってて」





すると由衣さんは笑いながら
私の部屋を出て、敢助さんの居るところへ向かった。

私は自分の部屋のドアを開けて、会話を聞く。
















「と、言うわけなの」

「だーかーら、俺に何しろって言うんだよ」

「可愛い娘が男に逢いたくないって言ってるの。もう此処まで言えば分かるでしょ?」

「・・・・・」

「だから電話でも何でもして、ちゃんが逢いたくないって伝えて。ちゃん、今諸伏警部に逢いたくないそうだから」

「・・・・・・分かった」













え?本当にするの?

まぁそりゃあコウメイさんに逢いたくはないけど
まさか本当に敢助さんが手を貸してくれるなんて思ってもなかった。

さらに私は耳を澄ました。












「コウメイ、俺だ。がしばらくお前と逢いたくないだと。・・・はぁ?知るかよ。
本人が逢いたくないって言うんだから、そうさせろ。俺が理由知ってるわけないだろ!
話?・・・する必要ねぇよ。いいな、とりあえずに逢うな・・・じゃあな」










あ、本当にやっちゃった。


でも、これでコウメイさんが納得するわけない。
多分・・・・・しばらくしたら、ここに乗り込んでくるに違いないだろう。

























「何なんですか、さっきの電話は?」

「言ったまんまだ」






「(玄関先が修羅場になってる)」







数分後。
本当にコウメイさんはやってきた。

どうやら私の家にも寄ったらしいが
部屋の明かりも点いていないことから居ないと悟り
すぐさまやってきたのだろう。


相変わらず私は部屋で由衣さんと待機。
部屋のドアを開けて、二人の声を聞いていた。












「アレだけの言葉で納得いきません。さん居るんでしょ?話をさせてください」

「お前も聞き分けのできねぇ大人だな。本人が逢いたくないって言うんだからそうさせろ」

「私とさんとの交際が気に食わないからといって、口から出任せを」

「何だと!?」






「(あの〜・・・これ収拾つかないと思いますけど)」
「(敢ちゃんだけに任せた私がバカだったわ。ちょっと行ってくるね)」






そう小声で会話を終えると
由衣さんが部屋から出て、玄関先の修羅場へと向かった。










「諸伏警部。ちゃん本当に逢いたくないんです」

「二人揃ってそんなことを。さん、居るんでしょう?出してください」

「本人の意思を無視して、出してくださいと言われても出せません」

「嘘をつかないで欲しいですね」

「事実です」

「とにかくさんと話をさせてください。私は納得行きません、アレだけの」












「あ、逢いたくないものは、逢いたくないんです!!」











私は部屋のドアから、精一杯の声を出した。

多分、みんな驚いてるに違いない。











「今、本当にコウメイさんに逢いたくないんです!!か、帰ってください!」



さん」



「私の、気持ちの整理がつくまで・・・・・・逢わないでください。電話も、メールも・・・しないでください」



「・・・・・・分かりました」











私がそう言うと、コウメイさんはその言葉だけを残し
敢助さんの家を後にした。


車のドアの閉める音がして

エンジンのかかる音がして

走り去っていく音が・・・・・・。







今は、これで・・・・・いいんだよね。










ちゃん」


「・・・・・今は、これでいいんです。少しの間、だけですから」


「・・・そう」








由衣さんの言葉を聞いて、私は泣いた。



何で泣いたのかよく分からないけど
胸がつらくて、苦しくて・・・言葉が出てこない。

その代わりにきっと涙が出てきたんだと思う。










少しの間、少しの間だけ・・・私に
時間をください。




今、醜い
嫉妬に覆われた私を貴方に見せたくないんです。



きっとそんな私を見たら貴方は
私を
嫌いになってしまうと思うから。









醜い嫉妬
どうか早く
居なくなれ

(嫉妬を餌に獣に取り付かれた私。そんな私を貴方に見られたくない)

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