我が家の、特に、私のサーヴァントは万能でした。
「あら?・・・・・・ねぇ、ちゃん。電子レンジ動かないんだけど?」
「え?昨日までちゃんと動いてたはずだよ」
母の言葉に私はキッチンへと行き、電子レンジの元へやって来た。
しかしボタンを押しても、電子レンジは動く気配を見せない。
先日まで元気に料理の手伝いをしていた家電機器が本日突然反抗期を迎えてしまった。
「おかしいな。昨日はちゃんと動いてた」
「え〜!じゃあ何もチン出来ないの〜!!」
「動かないんじゃ温める事も出来ないよ、母さん」
「ちょっとぉ!コレ、最近出たばっかりの電子レンジでしょ。故障とか有り得ない!
さては、あの電気屋のバカ息子・・・このミコト様に不良品を掴ませたわね・・・許すまじ」
電子レンジが機能しないと分かり、母の怒りの矛先が
どうやらこのレンジを購入した家電店の息子へと向けられた。
相変わらずの八つ当たりっぷりに、ため息が零れる。
「母さん。電気屋の息子さんは格安でこのレンジを買わせてくれたんだから、そういう事言わないの」
「何言ってんのちゃん!!あのバカ息子、貴女の前で良い格好しようとしてコレを買わせたのよ!!
あんな錆びれた電気屋にこーんな最新の家電機器置くわけ無いでしょ!!ちゃんに逢いたいがばかりに
わざと不良品掴ませて、修理がてらにやってくる貴女目当てなんだから!!」
「母さん」
むしろ、母はその息子さんの私への恋心を利用して
電気屋で電子レンジを格安で購入したのを覚えていないらしい。
(いや覚えているのだろうけれど、自分の事は棚に上げてしまう性格なのが私の母だった。)
しかし、私からすればどちらとも悪知恵だけは一人前に働いている、と褒め称えたくなる程だ。
「とにかく、電気屋さんに電話して修理してもらおう」
「えー・・・電気屋行くのぉ?あのバカ息子にちゃん会わせたくなーい」
「電子レンジが使えなくてもいいの?」
「それは嫌」
「じゃあ電話持ってきて」
「えー」
「母さん」
「何を2人で言い争っているんだ」
すると其処に、夕飯の買い出しに出てもらっていたアーチャーが
荷物を手にキッチンへとやって来た。
「。言われたものは買ってきた、後で確認してくれ」
「ごめんねアーチャー。お遣いに行かせて」
「構わない。それで、何を2人で言い争っていたんだね?」
荷物を置いたアーチャーに問いかけられ、私はため息を零し動かない電子レンジを見た。
「電子レンジがご機嫌斜め、というか、反抗期みたいでね」
「つまり、動かないと?」
「そうなのよアーチャー!それでね、電気屋に修理に出そうってちゃんが言うんだけど
私としてはね、電気屋のバカ息子にちゃんを会わせたくないの!!
もう、ちゃんに気があるの丸分かりな態度だし、アイツ絶対ちゃん会いたさに私に不良品売り飛ばしたのよ!!
どう思う!?コレって酷くない?ねぇ酷いと思わない、アーチャー!」
「ミコト、とりあえず落ち着け。言いたいことは何となく分かった」
「あら、そう。それならいいわ」
舌をまくし立てるかのように、アーチャーに言い寄る母に
一方の彼は激しく困り果てていた。
電気屋の息子が私に対して気がある云々はさておいて。
とにかく電子レンジが直らない限り料理が進まない事もある。
私本人もあまり電気屋の息子には会いたくはないが背に腹はかえられない。
家電機器、特に調理機器が動かないとなれば手間が色々とかかる。
その「手間」を除いてくれるのが何を隠そう電子レンジだ。
コレが動かなければ、手間どころか色んな面でお金がかかる。それだけはできるだけ避けたい。
「光熱費掛けたくないし、修理代で光熱費がかからないって考えたら安いもんでしょ。
ホラ、母さん・・・電話持ってくる」
「うー」
「、ちょっといいか?」
「え?アーチャー?何するの?」
愚図る母に電話を持ってこさせようとしていた矢先。
アーチャーが電子レンジの前に立ち、右手でソレに触れた。
彼が電子レンジに触れた途端、緑色に発光して線で全体を往復し始める。
「うむ。中の回路が少し焦げて緩んでいるみたいだ。工具はあるか?」
「え?・・・あ、ち、地下にあるけど、持ってきた方がいい?」
「ああ、頼む」
アーチャーにそう言われて、私は急いで地下から工具入れごと持ってきて
彼にと渡した。
すると、彼はテキパキと作業を進めて
あっという間に電子レンジを簡単に解体し、修復を施す。
すべてを終えて、レンジは再び姿を戻し元あった場所にと置かれた。
「よし、コレでいいだろ。試しに何か温めてみたまえ」
「う、うん」
彼に言われ、試しに何か温めてみると
先ほどまで動きもしなかった電子レンジが動き始めた。
「ウソっ!!凄いじゃないアーチャー!!
流石はちゃんのサーヴァントだわ。ていうか英霊って何でも出来ちゃうのね。
貴方を改めて見直したわ。ギルガメッシュもこういう所見習って欲しいものだけど
まぁアイツにそういう器用さ求めても無駄か」
電子レンジが見事復活して、母は大喜び。
私としても内心、修理代が浮いたのが大助かりといった所だろう。
しかし、気になっていたことが一つ。
「でも、どうやってやったの?」
彼がどうしてこんな荒業?をやってのけたのかが気になっていた。
戦闘にも長けており、日常生活面ですらもほぼ完璧の領域にいる彼が
修理という分野にまで詳しいとは思ってもみなかった。
「構造把握という、私の常套手段の一つだ。それに昔からこういうのは得意だったのでな。
投影もそうだがそっちは後から身についたモノで、どちらかと言えば、構造把握や強化と言った魔術の分野の方が
先に身についていた。だからよく壊れた機械をこうやっては自分で直していたんだ」
「そうだったんだね」
「アーチャーが居れば、もう電気屋にわざわざ行くこと無いわね。
だって壊れた家電品は全部アーチャーに直してもらえばいいんだから。
よし、次に何か壊れたらすぐ知らせるわ。
おやつも温まった事だしミコト様はお部屋に戻るとしまーす!夕飯出来たら呼んでねぇ〜」
「母さん」
母は嬉々としながら、それだけを言い残し
電子レンジが好調に稼働し始めたと分かったのか、気分よく其処を去って行った。
相変わらずの変わり身ように、ため息が零れる。
「あの様子だとミコトの機嫌も治ったようだな」
「電気屋に見せに行くって言ったら散々私を困らせた挙句愚図ってたしね。
でも、母さんの気分があったにせよ、ある意味助かったかな。ありがとうアーチャー」
「ああ。君がそういうならお安い御用、と言ったところだろうな」
彼に御礼の言葉を述べながら、買ってきてもらった食材を
冷蔵庫へと詰めていく。
すると、背後に気配。
振り返るとアーチャーが立っていた。
「アーチャー、どうしたの?」
「しかし・・・その、なんだ。本音を言えば、私も本来ならばこういう事はしたくなかったんだ」
「こういう事?電子レンジを直すの?」
「ああ」
彼が言うのは確かに、と思った。
なにせ彼は『英霊』という存在の立場にある。
いくら構造把握というモノとかが得意であるとはいえ、英霊に
家電機器を直してもらう、というのはいささか問題だろう。
彼が「本当はしたくなかった」と愚痴を零すのも頷ける。
「そうだよね。ごめんねアーチャー。その、何か私と母さんが電子レンジが壊れたぐらいで騒ぐから
何か、したくもない事を無理やりさせちゃったみたいで」
「いや、その点に関しては別に構わない。ただ私もくだらない事で対抗意識を燃やしてしまい
自分の中ではあまりしたくないと思っていた事をしてしまったようだ」
「対抗意識?」
「君の前で良い格好をしたかっただけ・・・そういう事だ」
「え?じゃあ、アーチャー・・・もしかして」
「あまり言わせないでくれ。君たち2人の話に出てた”電気屋の息子“とやらに嫉妬していたんだよ。
彼にを会わせたくなかったから、私はコイツを修理したんだ」
彼が珍しく率先してやっていると思って見ていたが
どうやら電気屋の息子に対して、嫉妬していたと彼の言葉を聞いて
自分の顔が赤くなっていくのが手に取るように分かった。
まさかアーチャーのような人が
そういう理由で電子レンジを直してくれていたなんて思ってもみなかったからだ。
「あ、あの、アーチャー」
「何だ?」
「み、見返りは如何(いか)程で?」
「見返り?・・・フッ、君にしては珍しい発言だな。
まぁ見返りを貰えるというならば、そんなのは聞かずとも決まっていることだろ」
見返りなんて、いつもなら有り得ない話だ。
だが彼の真意を知り、流石に何も無しでは彼に申し訳ない気持ちになった。
私はしどろもどろでアーチャーにそれを訊ねると
彼は不敵な笑みを浮かべ、冷蔵庫を閉めた後其処に優しく私を押さえつけた。
「構造把握を使って幾分か魔力が減った。大した量ではないが、少量程魔力を貰い受けたい。
まぁ、魔力を貰った所で君の膨大すぎる魔力量は大して減らないだろうが」
「お遣いにも出てもらったし、拒むことはしない」
「ああ、そういえば遣いの件もあったか。ならば、その分も頂戴しても構わないのかな?」
「ご、ご自由にどうぞ」
「今日は気前がいいな。では、遠慮なく頂くとしようか、マスター」
『魔力供給』なんて良い言葉に託(かこつ)けた触れ合いに私はいつも戸惑うばかり。
それでも彼が少しだけ見せた嫉妬と、独占欲に胸が弾み躍った。
いつの日か私自身も彼の魔術に、全てを把握されてしまうのだろうかと思うのだった。
万能すぎる英霊(サーヴァント)
(万能すぎて、若干困って心臓が持たない)