「・・・・・・」
「・・・・・・」
「誰?」
「それは私の言う台詞だと思うのだが?」
私を見下ろす浅黒い白髪の男の人。
それは英霊と呼ばれる、モノ?でした。
コレを呼び出す事に至ったのは数時間前になる。
「ちゃん、お願いだからママの言うこと聞いて!!貴女は危険なの」
「それは知ってる」
「無表情で知ってるって言われても緊張感の欠片も見えないわよ!!」
「母さん、離して。夕飯買い出しに行かなきゃ」
「いーーやーー!!ちゃんがママの言うこと聞いてくれないと腕離さないんだから!!」
とある昼下がり。
私は今晩の夕食の買い出しのために家を出ようとしていた。
だが、玄関先で母親の尊(みこと)に引き止められ、挙句の果てには腕を掴まれ身動きが取れずにいた。
このやりとりをやって、すでに一週間は経過している。
事あるごと。
家を出ようとする私に対して母はこのような事をしているのだ。
「母さんが餓死してもいいというのなら、いいですよ」
「嫌よ!!ちゃんのご飯は食べる!!」
「じゃあ離せ」
「それも断る!」
「母さん!」
私は思いっきり母の手を振り払った。
滅多に出さない大声を出して、手を振り払ったのか
母は其処から動きを止め、落ち込んだ表情をする。
良い歳した大人に、しかも母親。泣きそうな顔をされるとこっちが悪者のように思えてくる。
「もう一週間だよ。いい加減やめようよ」
「ダメよ!だって、ちゃんの命が狙われてるって思ったら、ママ居ても立ってもいられないのよ!」
「・・・・・・」
母がこのような行動を起こすには訳があった。
私の命が狙われている。
普通なら有り得ない話なのだが、我が家は他の家と違って少し特殊な家庭環境なのだ。
それを踏まえて母は心配している。
「お願い。お願いよちゃん。ママの言うとおりに、何でもいいから呼び出すの!」
「呼び出すって言ったって、何を呼び出せば」
「何でもいいわ!自分の命を守ってくれる使い魔とか、幻獣とか、何でも!」
「(またアバウトな)」
「地下にね、魔法陣書いてきたから。それに手を添えて念じるだけでいいの!
ホラ、これならちゃんでも簡単に呼び出せるわ」
目の前の母は嬉々とした表情で私に言う。
母は「魔術師」とか言う属種というか職業?らしく
私達が住んでいる土地では「ミコトさん」なんて愛称で住民たちからは
親しまれる魔女みたいな人だった。
そういう母には「魔力」というものが備わっていて、それは私にも同じことが言える。
しかし、私は母とは違い、魔術を使いこなすという訓練を受けたことがない。
私が持っているのは膨大すぎる魔力量だけ。使いこなすなんて私は一度もしたことがない。
だから一端の魔術師から言わせれば多分「宝の持ち腐れ」というものなのだろう。
「あ!ねぇねぇちゃん。呼び出すなら英霊がいいわ!」
「英霊?英雄の幽霊、みたいな?」
「まぁそんなところ」
何を呼び出せば、なんて迷っていたら母はおかしな事を口走り始める。
「その英霊っていうのはサーヴァントって言われててね。
昔は聖杯戦争なんて戦争があって、その戦争で主のために働いたのが英霊、つまりサーヴァントってワケ」
「ふーん」
「聖杯戦争の為に呼び出された使い魔だけど、今となっては聖杯戦争なんてお伽話みたいなもんだからね。
まぁ、でも、英霊の座から引っ張りだすくらいの威力は魔法陣に仕込んどいたから問題ないでしょ」
「ちょっ!?きょ、強制的に呼び出すの?マズイよ母さん。絶対アンタ祟られる」
自分の母親だが、今凄まじいことを口にした。
確実にこの人は祟られるだろうし呪われてもおかしくない。
いくら魔術師と言えどやって良い事と悪いことの区別くらいはつけてほしい。
「命を狙われるのと、祟られるの、どっちが嫌?」
「どっちも嫌だけど、ぶっちゃけ祟られる方がすごく嫌」
「ダメよ!命守らなきゃ!!」
「結局は死に急ぐもんじゃない。祟られるくらいなら、命狙われてた方がマシ」
「ちゃ〜ん。お願いだからママの言うこと聞いて英霊を呼び出して。
大丈夫。騎士王さえ召喚すれば、問題ないわ。アレは完全なる善の塊みたいだって書物に書いてあったし。
むしろちゃんの魔力なら騎士王の1人くらい呼び出せる!」
本当にこれが一週間も続いている。
今日で一週間目。遂には英霊を呼び出せば問題ない、と言い始めた。
しかも大分限定して。
「呪い殺されるから呼び出しません」
「命狙われてるのに何でしないの!?」
「祟られるわ。いくら魔法陣書いたのが母さんでも、呼び出すのが私だったら私が祟られる。
祟られて死ぬくらいなら、命狙われて死んだ方がいい。というわけで、夕飯の買い出しに行ってきます」
「あっ!ちゃん、ダメよ!!1人は危ないんだから!!」
そう言って私は母の言葉をかいくぐり、外に出ることに成功した。
家を離れて小走りしながら考える。
「英霊、ねぇ」
そんなことを呟き、夕飯の買い出しに私は急ぐのだった。
寝静まった夜。
母が寝付いたのを見計らい、私は地下室へと降りる。
コンクリートの上にはチョークでご丁寧に魔法陣が綺麗に書かれていた。
私は其処に座り込み、手を当て目を閉じた。
魔力が沸々と流れ出ていくのが少なからず分かる。
呪文の類など全然分からない私はただ、目を閉じて念じる事だけに集中する。
「(ぶっちゃけ、祟るなら私じゃなくて母さんを祟ってください)」
そんな事を念じていたら途端、手に電撃が走り
私は思わず目を開けて、魔法陣から手を離した。
手のひらを見ると、代償と言わんばかりの血がべっとりと付いていた。
確実にさっきの電撃で皮膚が破けたに違いない。
「・・・・やっぱり、私には無理か」
呪文も何も知らない私には何かを呼び出すどころか
英霊を呼び出す事も出来ないのだから、拒否反応みたいなのが起こって当然なのだろう。
ふと、感じる人の気配。
しかも、目の前。
見上げて目線が合った。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「誰?」
「それは私の言う台詞だと思うのだが?」
浅黒い体色で白髪。
鍛え上げられた体は赤い服に身を包んでいても分かる程。
そんな知らない男の人が私を見下ろしていた。
「君が私を呼び出したのか?」
「多分」
「そうか。ならば、君が私のマスターというわけだな」
「おそらく」
「曖昧な受け答えをするマスターだな、君は」
曖昧な受け答えをせざる得ないだろう。
私の頭は未だに混乱して、何をどうすればいいのか理解していないのだから。
未だに私を見下ろす白髪さんは曖昧な受け答えをする私を見て
苦笑を浮かべ、ため息を零した。
「マスター。名は?」
「。・・・・白髪さん、そういう貴方は?」
「白髪さんって。まぁいい」
そう言いながら彼はゆっくりとした動作で私の目の前で膝を付き
血まみれの手を優しく握った。
「私はアーチャー。、私は君のサーヴァントだ」
「サーヴァントって、つまり英霊?」
「そうだな。私はそういう事になる」
ハジメマシテ・・・
(私のマスター(サーヴァント))