「外は異常がないようだ。今は安心してもいいだろう」



「ありがとう」






異常を確かめると言って出て行ったアーチャーが戻ってきた。






「その・・・大丈夫か?」



「私は平気だけど」



「いや、違う」



「え?」



「そこで落ち込んでいる君の母親だ」



「ああ」





最初は私の事を心配しているのかと思いきや
彼が言っていたのは私の隣に膝を立てて、落ち込んでいる母の事だった。

アーチャーが居ない間も何とか慰めていたのだが
大事に育てていた植物の場所が踏み荒らされて、母の精神的ショックは大きい。






「母さん・・・もう落ち込まないでってば」




「だって・・・だってぇ。10年も待って・・・やっと実になったんだから」




「だから私が次は育てるから」




ちゃぁ〜ん」







気分屋の母を宥めるのは本当に骨がいる。


喜怒哀楽が激しい母親を持つと苦労が絶えない。
唯でさえ、今現在私の抱えている問題は多いというのに
母にまでグズグズされてしまうと、体が一つでは足りない程だった。










「ん。あ、ああ・・・ゴメン、アーチャーだったよね名前・・・合ってる?」



「ああ問題はないが・・・実際の所、それは私の『本当の名前』ではない」



「え?」






彼の名前を確認して間違いがないと分かったが
それが本当の名前ではないことに私は驚きの声を上げる。







「アーチャーって、名前でしょ?」



「それは謂わば仮の名前といったところだ。本当の名前は別にある」



「じゃあそれ教えて。そっちで呼ぶから」



「断る」



「は?」




即答されて素っ頓狂な声を上げた。

本当の名前があるのにどうして断られる必要があるというのだろうか。
むしろ、こちらは本名で名前を言ったのだから
いくら英霊という尊き存在とはいえ、その筋は通して欲しいものだ。






「私、貴方のマスターだけど・・・。貴方だって私を主として認めたんじゃなかったの?」



「確かに主従関係としては、君と私の契約は成立している。しかし、君に私の名を教えるのは
今の段階では些(いささ)か問題があると判断した」



「判断って・・・それって自己判断ってことじゃない。いくらなんでも」





「うちの娘に”魔術師としての資質“がないから、”真名“を教えるわけにはいかないんでしょ?」


「母さん」





途端、私とアーチャーの話に母が割り込んできた。
しかし母の言葉に、彼は黙りこみため息を零す。







「あら?正解かしら?」



「え?そ、そうなの?ていうか、真名って・・・何?」



「どうやら、君には少しサーヴァントを持つ主としての知識が必要のようだな。
母親の方はその必要はないと思っていいようだが」



「尊よ、尊。好きなように呼んでいいわ弓兵さん」





先ほどの落ち込みようとは打って変わって、母は楽しそうにアーチャーを見ていた。
その母の表情は「面白いことを見つけた」という表情だった。

むしろ母が望む”騎士王“とやらのサーヴァントでなかったにせよ
呼び出せたのなら問題ないと言ったところだろう。


そんな事よりも、私は母とは違い魔術の事やら何やらに触れずに育ってきたから
”真名“だの何だのと理解不能状態だった。

それを説明してくれるのならば、こちらとしては願ったり叶ったりだ。






「真名は言った通り私の”本当の名前“だ。だが、これは謂わば弱点とも言えるモノでな。
その名を晒してしまえばその者の能力や武器、逸話などが全て明るみに出てしまう。
名を解放して爆発的な力を出すことも可能だが、同時に相手に弱点を晒すことにもなる。諸刃の剣、と言ったところだろう」



「諸刃の、剣」



。確かに君の魔力量は私が今まで出会った中で一、二を争う程のモノだ。
しかし技量ともなれば話は別になる。素人どころか、使わないとは宝の持ち腐れ同然だ。魔術師どこか魔術師以下だ」



「ちょっと。自分のマスターであるちゃんに其処まで言うこと」



「いいの母さん。言われて当然の事だし、それに対して私は言い返すつもりもない」



「ほぉ」



ちゃん」





アーチャーの言う事は正論だ。

質より量、なんて言葉があるが私に求められているのは「質」の問題だ。
量が質に見合っていない。

自分でもそれは分かりきっていることで、その点を突かれて言われても
私には反論の余地はない。

魔術を学ぶどころか、魔術を学ぶことを自分から放棄しているのだから。








「自分で分かりきっているのなら、魔術を会得するんだな。そうすれば私も真名は教える」



「それは・・・出来ない」



「何?」



「魔術は覚えないって、決めてるから」








思わず自分の手を握りしめた。

母に何度も魔術を覚えるよう言われ続けてきた。
しかし、私は何度もそれを頑なに拒み続けた。

拒否し続ける私にようやく母は折れて、私に魔術を一切教えなくなった。


覚えたところで、自分の状況は変わらないのだから。








「そうか。では私も真名は教えられないな」



「いいよ。アーチャーって名前があって、貴方って言うサーヴァントが居れば十分だから」



「君は本当に不思議だな。大体、彼処まで言われれば躍起になって魔術を会得しようと考えるだろ。
だが、君は逆にそれを拒みマスターという名ばかりのモノが残っただけだ。
悪い言い方をするようだが、君の選択はサーヴァントが魔力に困らない供給装置か、餌も同然だぞ」



「ホント悪い言い方ね。ちゃん、此処はやっぱり反論したほうが」




「それでいい。餌とか、装置とか、そういうのでいい。魔術を覚えるくらいなら、そっちの方がマシ」


「ちょっ、ちゃん!?」






魔術師となるか。


餌となるか。



そんな選択肢があるというのなら、私は後者を真っ先に選ぶ。



自分自身に立てた誓いは破りたくない。







「そうか。ならば私も無理強いはしない。君自身のことだ好きにしたまえ」



「ありがとうアーチャー。もし、強力な力を使いたい時はアーチャーの好きにして、私は何も言わないから」



「・・・・・・了解した」






私とアーチャーのやりとりに、側にいた母は反論をしたいと言わんばかりのため息を零した。
だが母が反論したところで私に何を言っても聞かないと分かっている。

母的に「使い魔ごとき好き勝手にやらせるべきじゃない」と言いたいのだろうけれど
私としては「魔術師以下の私にそういう権利はない」とねじ伏せるつもりだ。


母の言いたい事も分かるけれど、彼を呼び出し、彼の主は私だ。
いくら他の事を放棄しても、彼の事だ。私がマスターという所は尊重してくれるだろう。








「ところで、令呪の印は何処だ」



「令呪?」



「サーヴァントへの絶対命令権みたいな、印よ。確か3回だったわよね?」



「そうだ。大体手の甲辺りにその印が出てくるはずなのだが」






アーチャーに言われて自分の手の甲を見る。

しかし、印みたいなのは其処になかった。






「ない」



「令呪も無いと、本当に君が私のマスターで在り続ける意味が無くなるぞ。
唯でさえ、殆どの実権を私に譲渡しているようなものなんだからな」



「体のどっかに付いてるんじゃない?」



「ちょっ、か、母さん・・・ッ!?」






手の甲に無いのなら、体の何処かに何かしらの印が
浮かび上がっているに違いないと思い、母は私の服の後ろを襟を引っ張り中を覗きこむ。








「・・・ねぇ、アーチャー」



「あったか?」



「なんか、こう、丸っぽいのがそうなの?」



「丸っぽい?・・・ああ、まぁそんな感じだ。あったのか?」



「それらしいものがあるんだけど〜」



「よく分からないな。見せてみろ」




「・・・ダッ、ダメ!!!」



「!?」





近づいてきたアーチャーに私はすぐさま拒否の声を上げた。
あまりに突然の声に、彼は目を開かせ驚きの表情を見せる。





「か、母さん確認したでしょ」


「え・・・ええ。こう、円形の」


「だったらそれが令呪ってことでしょ」


「あ、ああ・・・そうだ」


「あったんなら見なくていい。何処かにあればいいのかが分かっただけで十分じゃない」


「そう、だな」





私の突然声にアーチャーは少し不信感を抱きつつも
令呪の印が「背中にある」と分かっただけで、これ以上の詮索を彼はやめてくれた。

やめてもらわなくては、私としては困る。

背中は、背中だけは私は誰にも見られたくないからだ。







「とりあえず、私からの説明はこんなところだ。
他に何か聞きたいことがあれば言ってくれ、私の分かる範囲でなら答えよう」


「ありがとう。今のところアレだけで十分だから、何か分からないことがあったら聞くようにする」


「承知した。とりあえず、君はもう休んだほうがいいだろう。
何せさっきの戦闘でランサーとやりあった後、少し君の魔力を貰ったからな」


「そうなんだ」


「それすら感じていないとは。君の魔力量はどうやら底なしのようだな」


「お褒めに預かり光栄だわ」





供給装置だろうと、都合のいい餌だろうと、構わない。

この力を絶やす人を私は待っていたのだから。
















「うーん。やっぱりちゃんのアーチャーだけじゃ不安だわ!
こうなりゃミコト様直々に騎士王を引っ張り出すしかないわね。久々の召喚儀、腕が鳴るわぁ〜。

『素に銀と鉄。礎に石と契約の大公。
我、不死の血脈を受け継ぐ者。この世の理、聖なる道から外れし我が異形の声を聞き入れよ。

降り立つ風には壁を。四方の門は閉じ、王冠より出で王国に至る三叉路は循環せよ。
閉じよ(みたせ)、閉じよ(みたせ)、閉じよ(みたせ)、閉じよ(みたせ)、閉じよ(みたせ)。

繰り返すつど五度。ただ、満たされる刻を破却する。―――――告げる。

汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。
世界の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ。誓いを此処に。
我は常世総ての善と成る者、我は常世総ての悪を敷く者。
汝三大の言霊を纏う七天、抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ――――!!!』」




そして新たな兵士が、また1人・・・。
(その日の夜、地下にまた1体サーヴァントが降り立った) inserted by FC2 system

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