私の主(マスター)は色を知らない。








「じゃあ母さん。私、夕飯の買い出しに」


「ねぇちゃん。買い出しに行くならこのコート着て行ったら?」








夕食の買い出しに行こうとしたを、彼女の母親のミコトが呼び止めた。


ミコトは嬉々として外に出て行くに袋からコートを取り出し差し出した。
しかし、そのコートの色を見た瞬間はため息を零す。







「着ない。自分の着ていく」



「え〜!せっかくママが買ってきたのに着てくれないの〜?」



「そういう、ピンクとか・・・私、着ない」



「女の子なんだからこういう服着なきゃ。ちゃん、いっつもそのグレーのコートでしょ?」




「何を着ようが私の勝手。じゃあ買い出しに行くから。アーチャー、すぐ戻るから準備よろしくね」



「了解した。何かあればすぐ駆けつける」



「ありがとう」








そう言ってはグレーのコートを羽織り、暗がりの外へと駆け出していった。


私はの言われた通り台所へと足を進める。
その傍らでミコトがため息を零しながら、ピンク色のコートを袋へと戻すのを見た。


私は台所へと進めていた足を一旦止め、ミコトの方へと向かう。






「ミコト」



「あ。アーチャー・・・せっかく可愛いコート見つけて買ってきたのに、ちゃんにフラれちゃった」



の好みではなかったのだろう。仕方あるまい」



「うーん・・・でも女の子なんだから、もうちょっと派手めの色とか持てばいいのに。
私の娘なんだけど、何処で育て方を間違えたかしら?」







ミコトは更にため息を零した。
彼女の言葉を聞いて、私はふと思い出す。






「そういえばはあまり原色系を持っているイメージがないな。部屋もどちらかと言えば、灰色だ」



「ちょっと、何で私の娘の部屋の色知ってんのよ。さては覗いたな」



「覗くも何も、は私のマスターだぞ。
それに近くにいなくては、命を狙われる身なんだ。私が部屋の色を知ってて当然だ」






正論を述べるとミコトは冗談なのに、と呟いた。


しかし思い起こすとの部屋は『女の子らしい部屋』とは言い難く
それとは真逆に殺風景で、色味がどこにもなかった。

どちらかと言えば、暗い。








「母親としては、もうちょっと明るいモノを持ってほしいのよね。
だって見てるだけで気分が明るくなりそうじゃない?」



「私にはよく分からないな」



「とにかく少しくらい明るめのモノを身につけさせたいの!コートがダメなら、次は何を買おうかしら」






そう言いながらミコトは一人掛けのソファーから立ち上がり
ブツブツと何か言いながらおそらくだが、自分の部屋へと戻っていった。



私の主(マスター)は色を知らない。


ただ興味がないだけなのか?


度々ミコトがアレやコレやと明るい色の「何か」をに与えようとしているが
は頑なにそれを全て拒んでいた。

今し方も桃色のコートは拒まれ、灰色のコートは受け入れられた。




目でははっきりと色彩は捉えられているはず。

何がいけないというのだろうか?

何をそんなに拒む必要があるのだろうか?




彼女の目には『色』そのものが『毒』なのだろうか?




私はそんなことを考えながら、主の帰りを待つのだった。














。食事を作っている所悪いが、少しいいか?』


「アーチャー。いいけど」




とある日の夜。

私は霊体の姿から実体に戻り、台所に立つの隣に姿を現した。


私の出現には調理の手を止めこちらを無表情で見る。






「どうしたの?」



「君は何故、色を拒む?」



「え?」



「ミコトがまた落ち込んでいた。それに最近、私は彼女の愚痴を延々と聞かされている。
が買ってきたモノ全部いらないと言って突っぱねる、と」






最近、事あるごとにミコトに捕まっては愚痴を聞かされ続けている。
本来ならこういうのは彼女のサーヴァントである英雄王の仕事?でもあるのに
肝心なときに限って奴は何処かへと逃げおおせていた。
多分ミコトの愚痴が聞き飽きたのだろう、と推測しているがあながちそれも間違いではないはず。


霊体化していても、ミコトには私の姿はどうやら丸見えのようで
その姿で逃げても私は捕まり、愚痴を聞かされて続けていた。







「母さん、ギルガメッシュがいないからってアーチャーを捕まえてたのね」



「霊体化していても捕まる始末だ。君が原因で私は疲労困憊になりそうだよ」



「私が原因、か。悪いことしてるね、ごめんねアーチャー」







無表情からゆっくりと苦笑を浮かべながらは私に謝罪の言葉を零した。

何だかそんな表情をされてしまえば、何も言えまい。
惚れた弱みと、知ってか知らずか。









「別に君を責めている訳ではない。ただ、私も気にはなっている。君が『色』を拒む理由を」



「拒むっていうか、そういうつもりはないんだけど。多分、私には似合う色が無いんだと思う」



「似合う色?」




「そう。アーチャーだったら赤で、ギルガメッシュだったら金とか。そういう感じの」




「成る程。自分に相応しい色が無い、と君は言いたいんだな」



「うん」







『色』を知らないわけではなかった。


『似合う色』が無いという事だった。







「まぁぶっちゃけ、母さんの趣味とか色はあんまり好みじゃないっていうのは本音」



「確かにミコトの選ぶピンクやら民族柄は好みではないだろうな。
私でもアレは目が痛むほどだ」



「だから私にはね暗色系が一番良いの。似合う色が無い私には、それがいいんだ」



「そうか。ならば、これを身につけるといい」



「え?」





私は自分の手のひらにあるモノを乗せていた。
それを目にしたは目を見開きながら、驚いていた。









「赤い、リボン」



「すまない。出来合いのモノで、こんなのしかなかった」







そう言いながら私はの横髪を少し束ね、其処に赤いリボンを巻きつけていく。







「しかしだな、こういう色を少しは見に付けるべきだぞ、



「え?」



「暗がりだと、正直捉えにくい。目立つ色を少しは身に付けろ。
他から隠れてもいいが、その姿が捉えられないと君のサーヴァントである私としてはどうする事もできない」



「は、はい。すいません」








ちょっとした説教を終えたと同時に
髪に巻きつけたリボンも蝶々結びで止めた。

巻き終えて、を改めて見る。







「うむ。やはり私の見立ては間違いではなかったようだ」



「え?」



、君には赤が似合う」



「赤が・・・似合う?」



「ああ。君は赤がよく似合っている」







そう言うとは髪に巻かれたリボンに触れ、顔を上げる。








「そういえば、アーチャーも赤、だよね」



「ん?ああ、そうだ。赤は、まぁ私の象徴みたいなモノだ。それがどうかしたのか?」








そう訊ねると、は―――――。









「じゃあ私、アーチャーとお揃いだね」










嬉しそうに、私に微笑んだ。



滅多に見せないその表情。
不意をつかれたも同然。








「まったく。君は」







ますます、私が溺れてしまうズルい主(マスター)だ。






私の主(マスター)は色を知らない。
だけど、唯一私の纏う「赤色」だけが似合う人だった。





赤色の似合う人
(君が似合うのは私の纏う「赤」だけ) inserted by FC2 system

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