興味が無い、という訳ではない。
ただ、私は自分の『色』が分からなかった。
「また、こんなに買ってきて」
部屋のベッドに置かれた無数の紙袋を見てため息を零した。
コレを置いたのは母だろうとすぐさま分かった。
袋の中を開けると、目が痛くなるほどの明るい色の服やら小物やらが入っていた。
私は袋を全部回収して、それを持ち母の部屋へと向かった。
両手が塞がっているため、行儀が悪いが
足で母の部屋をノック。
『はい?』
「母さん。私だけど」
『あ!ちゃん!今開けるわね』
部屋の中の母は嬉々とした声で扉を開けた。
その瞬間私は思いっきり手に持っていた全部の袋を母に押しやった。
「え?ええ?!何で!?」
「母さん、こんなに買ってどうするの」
「だって、可愛いと思って買ってきたのに」
「いらない。それにお金は大事にして。無駄遣いしない。
唯でさえ、ウチにいる人間が増えて生活費が前以上に上がったんだから」
収入源は母にあるのだが
家計のやりくりを一切しない母に代わってそれを私が全部こなしている。
いくら自分の収入だからと言っても無駄遣いをされては困る。
養う人間が我が家には増えているのだから。
「別にいいじゃない。食費なら問題ないでしょ?
ギルやアーチャーは魔力がご飯みたいなもんなんだから」
「それでもギルガメッシュは私のご飯を食べてるし
アーチャーは控えてくれてるからいいけど、他人の前に自分のエンゲル係数を考えろ」
「だからって、全部突っぱねること」
「いらないから突っぱねるの。頼むからこういう買い物は今後控えて」
そう念押しをして、母の部屋を後にし、夕飯の買い出しにと出かける。
明るい色が嫌いというわけではない。
「可愛い」とは思考的には理解している。
だけどいざ自分にそれを置き換えてみると、色に拒まれているように思えた。
ふと、立ち止まり
ウィンドウのマネキンが身に纏う可愛い服に目が行く。
「可愛い」と思うのに、欲しいという欲が全くない。
「ダメだな。似合わない」
欲がないには原因があった。
自分に「似合う色」が見つからないせいだった。
母の好みは元から自分とは合わないと分かってはいるが
時々その中から見つけるモノを着てみたい、という気持ちにはなる。
でも、「なる」だけで実際袖を通そうとしない。
どの色も私の似合う色ではないから。
私が拒んでいるように周囲には見えるかもしれないが
実際は「色」が「私」を『拒んでいる』ように思えて仕方ない。
私には「似合う色」もない。
そして段々と「色を失う」自分が居た。
『。食事を作っている所悪いが、少しいいか?』
「アーチャー。いいけど」
夕飯の準備をしている最中。
霊体化しているアーチャーに話しかけられ返事をする。
すると彼は実体化して、私の隣に立った。
「どうしたの?」
「君は何故、色を拒む?」
「え?」
「ミコトがまた落ち込んでいた。それに最近、私は彼女の愚痴を延々と聞かされている。
が買ってきたモノ全部いらないと言って突っぱねる、と」
アーチャーはため息を零した。
良く出来た男が珍しく疲れた表情を浮かべている。
理由はどうやら母にあった模様。
ギルガメッシュはどうした?と尋ねたかったが
多分母の愚痴を聞くのに飽きて逃げ出したか、とすぐさま理解できた。
そして自分のサーヴァントである金ピカが居なくなり、愚痴の吐き場に選んだ先が私のサーヴァントだったらしい。
「母さん、ギルガメッシュがいないからってアーチャーを捕まえてたのね」
「霊体化していても捕まる始末だ。君が原因で私は疲労困憊になりそうだよ」
「私が原因、か。悪いことしてるね、ごめんねアーチャー」
今まで無表情で彼の話を聞いていたが
私が原因となれば、何だか申し訳なくなり苦笑を浮かべ彼に謝罪の言葉を返した。
そんな表情を見たアーチャーは一瞬驚いた表情になるも
すぐさまいつもの気の引き締まった顔に戻る。
「別に君を責めている訳ではない。ただ、私も気にはなっている。君が『色』を拒む理由を」
「拒むっていうか、そういうつもりはないんだけど。多分、私には似合う色が無いんだと思う」
「似合う色?」
「そう。アーチャーだったら赤で、ギルガメッシュだったら金とか。そういう感じの」
「成る程。自分に相応しい色が無い、と君は言いたいんだな」
「うん」
似合う色がある、というのは正直私からしたら羨ましい限りだ。
アーチャーにせよ、ギルガメッシュにせよ。
何かしら似合う色が彼等にはある。
だけどそれが私には無い。
無いから困る、というわけではないのだが
色彩というモノから避けられているようで、探す気にもなれなかった。
「まぁぶっちゃけ、母さんの趣味とか色はあんまり好みじゃないっていうのは本音」
「確かにミコトの選ぶピンクやら民族柄は好みではないだろうな。
私でもアレは目が痛むほどだ」
「だから私にはね暗色系が一番良いの。似合う色が無い私には、それがいいんだ」
無いのであれば、灰色や黒と言った色で自分を固めるしかその選択肢しかなかった。
「そうか。ならば、これを身につけるといい」
「え?」
するとアーチャーは手のひらにあるモノを乗せて、私に見せてきた。
「赤い、リボン」
「すまない。出来合いのモノで、こんなのしかなかった」
そう言いながらアーチャーは私の横髪を少し束ね
赤いリボンを其処へと巻き付け始める。
「しかしだな、こういう色を少しは見に付けるべきだぞ、」
「え?」
「暗がりだと、正直捉えにくい。目立つ色を少しは身に付けろ。
他から隠れてもいいが、その姿が捉えられないと君のサーヴァントである私としてはどうする事もできない」
「は、はい。すいません」
私の命を守る彼からすれば、私の格好は見えにくいも同然だ。
軽く怒られているように思えて私は自分の非を認め、彼に謝る。
少しして、彼が離れた。
その表情はとても満足した面持ちだった。
「うむ。やはり私の見立ては間違いではなかったようだ」
「え?」
「、君には赤が似合う」
「赤が・・・似合う?」
「ああ。君は赤がよく似合っている」
色を失っていた私に、色が与えられた。
それだけで胸が熱くなる。
リボンの巻かれた髪にそっと触れ、ふと思い出す。
「そういえば、アーチャーも赤、だよね」
「ん?ああ、そうだ。赤は、まぁ私のシンボルカラーみたいなモノだ。それがどうかしたのか?」
彼と同じ赤を身につけた私。
「じゃあ私、アーチャーとお揃いだね」
同じモノ−色−を誰かと共有する喜びに湧いた。
初めて「似合う色」と言われ嬉しかったからだろう。
「まったく。君は」
「え?」
「何でもない。独り言だ」
「顔赤いけど、大丈夫?」
「あ、あまり見ないでくれ。その、何でもない。気にするな。
と、とにかく・・・そのリボンは解くな。君だと分かる目印代わりで私が付けたんだ」
「解かないよ。だって、アーチャーが似合うって言ってくれたから」
多分、いや、ずっと外すことはないだろう。
私が死に絶える時まで。
この「赤い糸−リボン−」だけは。
貴方が『似合う』と言ってくれた色だから。
「ちゃ〜ん、お腹すいたぁ〜。アラ?どうしたの、そのリボン?」
「アーチャーがくれたの。私に似合うって言って」
「なっ、・・・今、言うところでは・・・ッ」
「ズルいー!!何でアーチャーのプレゼントは素直に受け取って、私のは全部突っぱねるのよ!!
贔屓よ!!えこ贔屓!!アーチャー、私の娘を誑(たぶら)かさないで!!」
「誑かしてなど・・・ッ。、ミコトを何とかしてくれ!」
自分の色が無いとばかり思っていた。
だけど、ちゃんと私にもあった。
彼の纏う「赤」だけが、私の似合う色なんだと。
赤色を身に纏う人
(私の似合う色は彼の纏う「赤」だけ)