「。14日なんだけど、空いてる?」
「取材。無理」
ディモックと街で偶然出くわして、渋々ランチに付き合ってやることにした。
すると彼の口から14日予定は入っていないか・・・等との質問に
私は「無理」と即答してやった。
「せめて夜くらい、空いて」
「るわけないじゃない。何をアンタはバカなこと言ってんの?
ていうか、警察が仕事放ったらかしにしてイベント事に参加なんて、お門違いもいいところだわ。
イベント事にうつつ抜かすくらいだったら、仕事しろ」
「、其処まで言わなくても」
「私、仕事してる男が好きなの。仕事しない男は嫌いなの」
そう言って私はバックを肩に掛け席を立つ。
目の前のディモックは相変わらず悲痛な面持ちで私を見ていた。
彼の目からして捨てられた子犬のように思えるが
正直私にとってはどうでもいい。
「14日は空いてない、1日中よ。アンタとの予定入れるほど私暇じゃないの」
「だけど、・・・せめて14日くらい」
「この前パーティで知り合った社長令嬢とはどうなったのかしら?」
「なっ、何故それを!?」
私がとある筋から手に入れた情報を彼に差し出すと
目の前のディモックは焦りの表情を浮かべた。
「私を誘うより、彼女誘ったほうが良いんじゃなくて?きっと彼女なら
『ディモックさんありがとう〜喜んで空けるわぁ〜』って言ってくれそうじゃない?」
「違うんだ。彼女とは」
「あーはいはい。とにかく!・・・私は14日空けるつもりもなければ元々空いてないの。
それじゃあね、ランチご馳走さまでした」
「!待ってくれ!!」
彼の呼び止める声を振り切り、私はその場を後にした。
街を見渡せば、ピンク色のリボンに14日限定の商品がずらりと店先には並んでいた。
14日は・・・そう、バレンタインデー。
イギリスでは「恋人たちの日」なんてくくりになっている。
イギリスの風習には慣れたほうだが
こっちでは、日本の風習と違って「告白の日」ではなく
「愛する人の日」という、近親だけではなくカップルにはおめでたい日になっている。
しかも、チョコを渡すだけじゃなく
近隣の国に2人でお出かけ・・・なんて、そんな風習もあったりする。
お国が違うと、イベント事によっての行い方も違うんだなぁ〜・・・と
イギリスに来たての頃はそんなことを思っていた。
今となっては慣れたほうだけれど。
「14日かぁ・・・」
ふと、とあるお店の前に立ち止まる。
ディスプレイには色とりどり、様々なチョコレートが並んでいた。
しかも決まってハートの形がよりどりみどり。
「愛する人の日」って言われているからそれは、当たり前の形。
私はそれをジッと見る。
「シャーロックさん・・・こういうの、嫌いそう」
ふと、思い浮かんだシャーロック・ホームズの姿。
しかし彼にとってこういうのは「くだらん」と一蹴される形で
『愛』だの『恋』だの、そういうのに全く頓着どころか執着しないタイプの人間だから
渡した所で相変わらず嫌味な言葉しか返って来ない。
むしろ「君も意外にこういうので躍らされるんだな」なんて・・・鼻で笑うに違いない。
そう思ったら、ため息が零れた。
ディモックには14日空いていない、と答えたが正直暇している。
しかし、それは彼と一緒に居たくないっていう口実で
出来るなら一緒に居たいのは、シャーロック・ホームズ・・・ただ一人。
私から「ホームズさん14日空いてますか?」なんて聞いたら
「何かあるのか?」と聞かれるのがオチ。
俗世の事には非常に疎い彼だから、説明するのも面倒だ。
「やめよ。考えたら虚しくなってきた」
好きになった相手がひねくれ者で、俗世の事に疎い。
そして極めつけは高機能社会不適合者の、コンサルタント探偵。
いいところを見つけろ、褒めろ、と言うのが非常に難しいタイプの人間。
それがシャーロック・ホームズだ。
「無理だな。旅行に誘うどころか、プレゼントすら渡せないなコレは」
色々とシャーロックさんの性格的な部分を考えたら
旅行にも誘えないし、プレゼントだって渡せない。
コレは此処で諦めたほうが身のためだろう。
「とりあえず、渡せる人の分だけ買うか。
ジョンとハドソン夫人はチョコでいいよね。あとは〜・・・・・・」
一番の本命を後回し(むしろ除外)にして
他の人達に何をあげるかを考えながら、ロンドンの街、足を進めるのだった。
一人ぼっちのバレンタイン
(だって考えたら、何だかあげる気になれなくて・・・)