14日。
この日は毎年のごとく、頭を抱えていた。

特に此処数年は
イギリスに来て、社交界デビューした時に増して
酷いものになっていたからだ。









「こちらの花束は、お医者様のアイザック・フォートン様からで。
こちらのケーキは・・・ああ、資産家のニュートリノ様のご子息で、トーマス様からでございます。
それからこちらのドレスはですが」


「あの、いちいち言わなくていいですよジャミンさん」






執事のジャミンさんの声を私は呆れながら止めた。






「しかし、お嬢様へのプレゼントですから」


「いや、量を考えてください量を。贈り主を読み上げていいような量じゃないですから」









バレンタイン当日。

朝から私はテーブルに頬杖をつきながら、頭を抱えていた。



目の前に並べられたバレンタインのプレゼント。
その量は、リビングの足場を失わせるほど覆い尽くされていた。

そしてひっきりなしに鳴り響く、呼び鈴。

メイドさん達が慌ててリビングと玄関を何往復もして
ジャミンさんに至っては、ご丁寧にプレゼントの贈り主の名前を読み上げていた。



「愛する人の日」ってイギリスじゃ言われているけれど
正直此処に贈られてきた人物たちは興味が全くないし、ぶっちゃけると
顔と名前が一致しない。

むしろ「覚えてますか?」と言われたら「忘れました」と答える。


それくらい、興味が無いのだ。








「年々増えてますねプレゼント」


「皆様お嬢様を射止めたいと思っていらっしゃるのですよ」


「バレンタインがコレだと、クリスマスはもっと酷いですね」


「毎年これが楽しいですよ私は。お嬢様が如何に、好かれているかが分かります」


「私を好くなんてよっぽどの物好きですよ」






私がそう言うと、ジャミンさんは「またご自分を悲観されて。いいですかお嬢様」等と
軽いお説教が始まった。


私はというと、頬杖をつきながら執事の説教を受け流し。
右から左にと言葉を逃していた。




正直、こんなプレゼントどうでもいい。


贈ってくるのは、好意もあるかもしれないが
大体が家の財産っていう、お金にしか目が眩(くら)んでない。

私って言う人間には興味が無いのだ。


プレゼントなんて、結局はご機嫌取りのモノにしか過ぎない。





今まで贈られてきた中で、私を喜ばせてくれるプレゼントなんてなかった。




昔も・・・きっと、今も。














家に居るとバレンタインのプレゼントの山に押しつぶされそうだったから
私は一旦家を出て、数日前に買ったプレゼントを持って
色んな人の元へと届けに行った。


貰うよりも、こうやって自分で与えた方が私としては気分が良い。




そして、ベイカー街のあの場所に足を止めた。








「あー・・・来てし・・・って来なきゃいけなかったんじゃんか。ジョンとハドソン夫人居るんだし」






残ったプレゼントはベイカー街221Bに住まう住人。

大家のハドソン夫人と、此処に住んでいるジョン・ワトソン。
確実的に2人にあげるプレゼントは用意していた。


しかし、約一名・・・私は用意していない。むしろ除外している。



そう、彼・・・シャーロック・ホームズの分は手元にない。



もし、居たらどうしよう・・・等と考えていたが
「なるようになれ!」と思い、扉を叩く。








「アラ、。いらっしゃい」


「こんにちはハドソン夫人」






扉を叩くとにこやかにハドソン夫人が出迎えてくれた。
そして優しく中に入れてくれて、部屋に通される。







「寒かったでしょ。温かいお茶でも淹れるわ」


「ありがとうござ・・・って、ジョン。何してんの?」


「・・・やぁ」






部屋に通されて、着ていたコートを脱いでいたら
テーブルに突っ伏して、何やら落ち込んでいるジョンを見つけた。







「傷心中だ」


「は?」


「あんまり触れないであげて」


「ハドソン夫人」






すると、小声でハドソン夫人が耳元に話しかけてきた。







「今日、本当は仲良くなったセラピストの子とドイツにね旅行に行くことになったんだけど
急に向こうからいけなくなったって連絡があったのよ。でも此処に戻ってくる途中、その子が他の男と
腕を組んで歩いている所を見ちゃったらしく」


「あー・・・成る程。それで傷心中か」







ようやく、机で突っ伏している上の階の住人が落ち込んでいる理由が分かった。

道理で「傷心中」なワケだ。






「まぁジョン・・・元気出して」







「ホラ、私からプレゼント」



「え?僕に?」



「後、ハドソン夫人もどーぞ」



「アラ!ありがとう







落ち込むジョンに渡した後、すぐさまハドソン夫人にも
バレンタインのプレゼントを渡した。

私がプレゼントを渡したのか、ジョンはプレゼントを握り
「僕も欲張らずこういうプレゼントに次からはしよう」等と
とりあえず、元気にはなったようだ。






。シャーロックにも渡してきていいのよ、お茶はその間に用意しておくから」


「アイツなら上に居るから、行って渡してくればいい」


「えーっと・・・その」








2人の気遣いは本当に有難いが、肝心の彼へのブツが無い。






「どうしたの?」


「無いんです」


「ま、まさか・・・シャーロックの分が無いとか、言うんじゃないだろうな?」


「傷心中のクセに、意外に鋭いわねジョン」









私の言葉に2人は顔を見合わせ驚いていた。

まぁ無理もないだろう。
確実にシャーロックさんの分は用意しているだろうと、2人の中ではそう思っていたに違いない。

だが、その思っていたこととは裏腹で
私は彼の分を全くもって用意していなかったのだ。







「おいおい。一番肝心な奴の分忘れてどうするんだ?」


「忘れたわけじゃなくて」


「じゃあ何だって言うの?」


「渡しても、多分・・・分かってもらえないっていうか。
ほら、ホームズさんってああいう人格者でしょ?俗世の事にはとことん疎いし。
それに・・・あの・・・だから、その・・・」









ふと、目から零れてきたあたたかいもの。


それを2人に悟らせない様に私は懸命に頬を伝うソレを拭う。
でも、溢れた思いは留まるところを知らない。







「あの・・・ごめんなさい。ホント、私・・・なんて言うか、今更ながらですけど最低ですよね。
一番、大事な人のを・・・用意してないとか・・・」


「泣かないで、大丈夫よ」


「シャーロックは疎いから大丈夫だ。こういうイベント事は気付かない奴だからな。
君が泣くほどじゃないし、心配しなくても大丈夫」



「ハドソン夫人、ジョン」





2人に慰めて貰ったけれど、やっぱり迷惑がられても
「何かあったのか?」って言われても、用意すべきだった。




だって、彼は私の「愛する人」だから。














プレゼントを渡し終えて、私は再び家に戻ってきた。

戻ってきたら、何やら家を出る前よりも
プレゼントの量は増えていて、リビングの扉を開けた途端足の踏み場がなく
私はため息を零した。





「完全に増えてるし・・・ていうか、増えすぎ」



「今年は凄い量ですよお嬢様!」



「ええ一目瞭然ですね」



お嬢様」



「え?あぁ、どうかしましたかハミーさん?」






突然背後からメイド長のハミーさんに話しかけられた。






「こちら、スコットランド・ヤードのディモック様からお食事の招待状が」


「とりあえず燃やしてください」


「え!?」


「行く気はないので燃やしてください」








諦めが悪いとは、このことだ。


旅行に行けないなら、食事でも・・・と思っての手段だろう。
だが生憎と、元から彼と旅行に行くつもりもなければ食事に付き合うつもりもない。

数日前のランチはたまたま付き合ってあげたまで。


調子に乗られては困る。



私が招待状を燃やせ、と言った途端ハミーさんは驚いた表情をしていた。








「しかし、お嬢様・・・っ。ディモック様は、お嬢様の事を一番」



「一番分かってるつもりで居るだけです!いいから燃やして!!
それだけじゃない、此処にあるもの全部燃やして!!分かってるつもりの人達からのプレゼントなんていらない!!」







上辺だけの理解者なんていらない。




本当に、一番私のことを分かっているのは・・・あの人だけ。



シャーロック・ホームズだけが・・・私を、一番分かってくれる。



彼だけが・・・私を、分かってくれた。






家中に響き渡るほど声を上げたのか、息切れしそうになる。
何とか呼吸を元に戻す。






「・・・・とにかく、燃やしてください。こんなに私・・・いりません」



お嬢様」



「部屋に戻ります。あの・・・怒鳴ったりして、ごめんなさい」



「お嬢様っ!!」









執事やメイドさん達の声を振り切るように私は自分の部屋にと駆け込んだ。


扉を閉めてベッドへと飛び込み
枕に縋りつくように、泣いた。




家の人達に、酷いこと言った分と

何より、シャーロックさんへのプレゼントを用意しなかった自分に腹が立って

枕を濡らすほど・・・私は泣いたのだった。






たくさんのモノより大切なモノ
(アナタへのプレゼント-気持ち-を用意しなかった私はバカだ) inserted by FC2 system

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