それはバレンタイン前の事。






「シャーロックが珍しく私に頼ってきたの。贈り物がしたいって言うから」


「お!やっぱりに何かプレゼントしようと思い立ったか」





ジョンの助言?でシャーロックがようやく重い腰を上げ
へのバレンタインのプレゼントに何を贈ればいいのかと
ハドソン夫人に助言を求めやってきた模様。


ハドソン夫人は、ジョンにそれを話す。






「どういうのがいいの?って聞いたら、よく分かりませんってあの子答えたのよ」



「アイツらしい返答ですね」



「あの子、あんまり恋愛に頓着しないじゃない。むしろ他人を観察してるほうが大好きだし」



「まぁ、確かに」








シャーロックの性格を知っているハドソン夫人と
彼をよく観察しているジョンの意見は一致した。







「女性が喜ぶものって具体的に言われると、助言の仕様がないのよね。
こういうのはジョン・・・貴方がやっぱり適任よ。部屋に戻ってシャーロックにアドバイスしてきてあげたら?」



「僕が?僕なんかが助言していいのかな?」



「シャーロックよりも、星の数ほど女性の扱いは慣れてるでしょ?
プレゼントだって、何をあげたら喜ぶかなんて分かってる方じゃない」



「ハドソンさん。とりあえず褒め言葉として受け取っておきます」






ハドソン夫人の言葉にジョンはため息を零し、天井を見る。
そう、上の部屋に居る同居人の事を考えていたのだ。



きっと彼は何を贈ろうか考えながら部屋をウロウロと歩き回っているのか。

それとも暖炉前のソファーに座り込んで考え込んでいるのか。



どっちにしろ上に戻れば、彼の状況が把握できる。



ジョンは椅子から立ち上がり、ハドソン夫人の部屋を後にし
階段を上がり自分の部屋へと戻っていった。



リビングに続く扉を開けると、予想通りと言うべきか
彼は暖炉前の一人掛けのソファーに膝を立て座り込んで
両手を合わせ、指先を口元に付けて考え込んでいた。

集中して物事を考えるとき、シャーロックはいつもこのポージングになる。








「シャーロック」



「・・・・・・」






ジョンが話しかけても、シャーロックは返事もしない。


彼はため息を零し
シャーロックと向い合って置いてあるソファーに自らも腰掛ける。


真剣に、シャーロックの目は暖炉の火を見て考え込んでいた。
ジョンはため息を零し、少し身を乗り出してもう一度彼に話しかける。






「シャーロック、聞こえてるのか?」



「うるさい黙れ。僕は今考えている」



へのプレゼントをか?」



「は?え?・・・あ・・・・・・・・・・・・」








ジョンが言い放った言葉にシャーロックは手を解き、目を泳がせた。

ほんの少しの動揺に、ジョンは笑う。








「当たりだな」



「・・・・・・ハドソンさんに助言を貰いに行ったがいい返答は貰えなかった」



「君が分からないって答えたんじゃ、ハドソンさんだって答えにくいに決まってるだろ。
それで、に何をあげようと思ってるんだ君は?」



「彼女が・・・何を貰ったら喜んでくれるのかが分からない」



「其処がディモック警部との差だ」



「あの男と僕の差は大して変わらない。むしろ僕のほうがリードしてると思ってほしいな」



に何あげるかって悩んでる時点でリードしてるもへったくれもないよ」








ジョンの言葉にシャーロックは渋そうな顔を浮かべ、ソファーに深く身を沈めた。








「そんなに悩むことか?」



「僕にとってはね。星の数ほど女を知っている君にとっては容易い問題かもしれないけれど
君のようにメールに陳腐な詩を打ち込めもしないし、君のように女を口説けて、フラれる資質も僕にはない。
ああホント、君が羨ましいよジョン」



「貶してるのか?」



「褒めたんだ」









完全に貶してる、とジョンは心の中でその言葉を吐き捨てながらも
咳払いをし、再び目の前の考えこむ男を見る。


いつもより気難しい表情を浮かべるシャーロック。


事件以外でもあるもんだな、等とジョンは思いながら口を開く。








「僕で良ければアドバイスするけど?」



「君が?僕に?ハァ・・・ジョン。僕にアドバイスする前に君と一緒に旅行に行く
セラピストの女の喜びそうな品定めでもしてろ。僕のは君が選ぶ女とは全くかけ離れた性格をしているんだから
君からのアドバイスなんて何の役にも」



「”僕の“?」



「は?え?ち、違う。今のは聞き流せ」










シャーロックは咳払いをし、ジョンから目線を逸らした。

そんな同居人の動揺する姿をジョンはニヤニヤと笑う。










「僕の、ねぇ〜」



「聞き流せって言っただろ」



「いつからは君の所有物になったんだ?」



「ジョン。今さっき僕が言った言葉頭の中から全部消去しろ」



「・・・はいはい」









少し焦るシャーロックにジョンは笑いながら返事をする。

完全に自分で墓穴を掘った、とシャーロックは心の中で悔しがるも
否定という形はとらなかった。


ジョンもそれは分かっていたが、其処は敢えてツッコミを入れなかった。








「街に出て、選んでくれば?」



「目的も無しに街に出て、選んで失敗したらどうする?」



「君の好みで買うんじゃなくて、の好みを考えて買うんだ。
お得意の観察眼で、の身に付けてるもので彼女に一番似合いそうなもの選べばいいだろ」



「だが・・・」



「ソファーに座り込んで考えても意味ないだろ。つべこべ言わず行ってこい!」



「お、おいジョン!?」






すると、ジョンはシャーロックの体をソファーから引き離し
彼が愛用しているコートとマフラーと共に部屋の外へと放り出し
扉を閉め鍵を掛けた。


2人の身長差はかけ離れているものの
ジョンは”陸軍“に所属していた身。体は確実に鍛えられている方だ。
痩せ型のシャーロック1人を外に投げ出すのは彼にとっては容易いことだった。







「ジョン!開けろ!!」



『プレゼント買ってくるまで戻ってくるなよ。君がへのプレゼントを買って戻ってくるまで
僕は部屋の鍵を開けないことにしたからな』



「・・・僕にこんなことをした罰は必ず君に降り掛かってくるからな。旅行、お流れにならないことを祈ってるよ」





意味深な言葉を小さく言い残し
シャーロックはコートを羽織り、マフラーを首に巻いて
ロンドンの街へと繰り出したのだった。

























街に出たシャーロックは、目線だけを色んな店へと向けていた。






大きなぬいぐるみの置いてある店。






「(ぬいぐるみっていう、ガラじゃない)」







有名ブランド店のバッグや財布。








「(あんまりそっちの関心はなかったはず)」







ジュエリーショップのウィンドウに飾られている艶やかな宝石に装飾品。






「(宝石はあんまり付けないし、むしろ好まない)」







時計店。






「(記者だからな。でも、今付けているので十分だとこの前言っていた)」









色んな店に目を配らせているが
一向に彼女が喜びそうな品物が見つからない。

自慢の観察眼で、アレやコレやとの特徴を思い出すけれど
なかなか目ぼしい物が見つからずシャーロックはため息を零した。









「あー・・・全く。何をあげればいいって言うんだ」








ため息を零し、彼は立ち止まった。



人々が見ているのは、通りや、人や、車。


だけど、シャーロックの目に映っているのはそんなモノじゃない。
「殺人事件」や「奇怪な事件」という、戦場。

多くの血を見て、多くの恐怖を見てきた目。


しかしいざ、その視点を切り替えて考えるとなると
事件解決よりも非常に難しいことに悩まされる自分にシャーロックは失笑した。





再び足を進めようとしたら、視界に映ったあるモノに足が止まる。
そして、それを食い入る様に見てすぐさま店の中に入った。







『ありがとうございました』







「ま、こんなもんだろ」







数分後、彼は店から綺麗な袋を持って出てきた。
口では「楽勝」と言わんばかりだが、その表情は「何とかやり遂げた」といった所。

袋を手に持ち、彼の足は住まうベイカー街のアパートへと進む。


ふと、自分の手にさがりゆらゆらと揺れている袋を見て―――――。










「喜んでくれたら、いいんだがな」








愛しい、愛しい、彼女の事を考えながら
シャーロックは笑みを浮かべ、ベイカー街へと帰っていったのだった。



これはバレンタイン当日になる前、ある探偵の
プレゼントを求め彷徨う?お話である。




贈り主の贈り物探し
(これはバレンタイン前の、贈り主のお話) inserted by FC2 system

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