「遅いなぁグラハム」
とある日の夜のことだった。
夜前には帰ってくるはずのグラハムなのに
今日はいつも以上に遅いことに私は少し心配していた。
遅くなる時は必ずと言っていいほど連絡はしてくる。
それもないから余計心配が募っていた。
「携帯にかけてみようかな?」
-----ガチャッ!
『お邪魔します〜』
「え?・・・・・カタギリさん?」
突然玄関から、グラハムの友達である
カタギリさんの声がしたので私は慌てて、玄関へ向かった。
すると・・・・・・―――――。
「グラハム?!どうしたの!?」
「アハハ、いや・・・・ちょっとね」
カタギリさんに助けられながら、顔を項垂れていたグラハムが其処に居た。
そんな姿を見た私に、カタギリさんは苦笑を浮かべていた。
「リビングに運ぶよ。大丈夫かな?」
「え・・・・あぁ、はい。・・・・あのっ・・・・グラハム、どうしたんですか?」
「ああ・・・今日は、軍の慰労会でね・・・・彼、どうやら飲み過ぎて」
「それで遅くなったんですね」
でも、グラハムはお酒は強いほうだから
あまり飲み過ぎたというのはないのだが、初めてこんな彼の姿に
私は思わず笑みを浮かべてながら
グラハムをリビングに運ぶカタギリさんの後ろを歩いた。
「ソファーに寝かせておくね」
「すいません、お手数をかけて」
「いえいえ。でも彼がこんなに飲んだのは珍しいよ。結構飲んでもこんなになるまでって言うのはないからね」
「そうなんですか」
「起きたら水飲ませてあげてね・・・・あ、でも1つ注意して」
「はい?」
すると、カタギリさんが私に注意を促した。
「注意、というと?」
「いや、彼・・・・飲み過ぎると、その酒乱というか、絡んでくるから」
「絡み酒ってヤツですか?」
「それに近いかも。それから性格が少々荒く・・・・言葉遣いもちょっと」
「そんなに?」
「うん、まぁ・・・・さんだから、多分彼も加減はすると思うけど・・・・他の人の前だと」
「前だと?」
すると、カタギリさんは息を呑んで・・・・―――――。
「ある人からは”我々の憧れている中尉は何処に?“や、”これは悪夢なんだ“っていう人も少なくはないんだ」
「・・・・えっ・・・・と、そんなに?」
「まぁかなり。だけど、多分さんだし安心してもいいだろうけど、気をつけたほうがいいね」
「そうですね、気をつけておきます」
そんな話を聞いて、私はソファーで正しい寝息を立てながら寝ているグラハムを見た。
酒乱のグラハム・・・・ちょっと見てみたい気がするけど
そんなに危険なんだったら尚更、このまま寝かせておいたほうが無難だろう。
「じゃあ、僕は帰るね」
「すいません、カタギリさんわざわざ」
「いいよ。そのかわり注意してね」
「はい」
「それじゃあ、お休みなさい」
「お休みなさい、気をつけて」
そう言って、カタギリさんは帰っていった。
そして、私はリビングにと戻りソファーで寝ている彼を見る。
しかし、何故此処までして飲んだのだろうか?
飲みたい気分だったのかしら?
そんな事を考えながら、彼が起きたときの為に
私はキッチンに行って、コップに水を注いだ。
そのコップを持ったままリビングに戻ると・・・・――――。
「グラハム、起きたの?」
リビングに戻ると、ソファーで寝ているはずのグラハムが起きていた。
私はすぐさま彼に近寄る。
「大丈夫?飲みすぎたって聞いたけど・・・・お水、飲む?」
「・・・・・・・・」
しかし、彼は何も喋らない。
もしかして、戻しちゃうかな・・・・・?
「グラハム、グラハム・・・・大丈夫?」
私は何も喋らない彼がさらに心配になり顔を覗き込む。
ガシッ!
「?!」
突然、腕をつかまれたので私はあまりのことで驚いた。
「グラ・・・ハム?」
恐る恐る声を出して彼に話しかけると―――――。
「あ?」
「!?」
また、何とも言えない・・・・もう表現しづらいほどの
怖い顔が私の目の前に現れ、思わず怯える。
そんな顔が私を見てしまい、言葉は出るどころかもう怯えるしかなかった。
「ん?・・・・あ〜じゃないか。どうしたんだ、そんなに怯えて?」
しかし、私だと分かった途端
彼の顔は柔らかい、いつもの表情に変わった。
だからといって、いつもの表情というよりも
もう酔っ払ってヘラヘラと笑っているという表現のほうが近い気もする。
「べ、別に・・・・怯えて、ないよ」
「そうかぁ〜?ならいいけどな。・・・・それにしても、今日も可愛いなぁ〜」
グラハムはヘラヘラと笑いながら、私の頭を撫でる。
「い、いつも・・・・言ってるじゃない。貴方、私に可愛いって」
「いや!今日はいつもよりも綺麗だし、とっても可愛い」
「まだ酔ってるでしょ。もぅ、ホラお水持ってきたから飲んで」
私は酔っ払っている彼にコップに持ってきた水を渡す。
だが、彼はコップを受け取らずなぜか不貞腐れたような顔になる。
「な、何?」
「酔ってないぞ、何処を見てそんな事言うんだ?」
「あからさまに酔ってるからそう言ってるのよ」
「酔ってない!」
「酔ってる!お水飲んで!!」
「水よりも、酒。酒持ってきてくれ」
うわぁ〜ガラ悪っ!!
いつもの彼はこんなんじゃない!!
いつもの彼は何処へ行ったの!!!
私はこの時思いっきり泣きそうになった。
でも、へこたれません。
此処でお酒なんか飲ませたら、酒乱が上がる。
私は頑固な面を見せた。
「ダメ!もう飲ませません!!」
「持ってきてくれ、まだ飲み足りないんだ」
「充分飲んだでしょ。もうダメ、体悪くしちゃう」
「心配してくれてるのか?」
すると、彼はきょとんとした顔で私を見た。
「当たり前でしょ。体調管理は気をつけなきゃ、貴方が疎かにしてどうするのよ」
「そうか。そうだな・・・・分かった、やめよう」
とりあえず、ここでお酒をストップさせたから更なる暴走は回避できた模様。
まぁ今でも充分に暴走してるけど。
「ん〜〜」
「ちょっ・・・・重っ、グラハム乗っからないで!!」
「いいだろ〜別に」
「重いんだって、やだぁ〜」
すると、グラハムは私に乗りかかってきた。
男と女の体重差なんて、分かりきってるのにもう、誰か・・・・助けて!!
「は、俺が嫌いか?」
彼の言葉に耳を疑った。
一人称が”私“から”俺“に変わってますよ!!
聞いてて新鮮だったけれど、乗っかってるから重い!!
「き、らい・・・・じゃ、なぃ・・・・ぉも、ぃ」
「ホントか?」
「ぁ、たり・・・・まぇ・・・・で、しょっ」
嫌いだったら、こんなトコいないし
でも、今日の彼を見て養家に帰りたくなりました。
「そうか、そうか。よしよし、重かったな悪かった」
その答えを聞いて、彼は嬉しそうに私を抱き上げ
自分の膝の上に乗せ、抱きしめた。
ぉ、お酒くさい・・・・。
「もぅ、何杯飲んできたの?お酒臭いよ」
「そーだな。ビールを10杯と、ウィスキーストレートで5杯。
それからジンかウォッカを・・・・ストレートで6杯?いや、7だったけ?」
「飲みすぎ!!!もういくら自分がお酒強いからって、そこまで飲まなくていいでしょ!!」
「いいだろ、たまには。俺だって飲みたいときはある」
「私には飲ませてくれないクセに」
「お前は弱いだろ。飲ませたら俺よりも酔っ払うの早いくせに」
名指しが・・・・いつも”君“なのに今は”お前“になってる。
もう口悪い!!!いつものグラハム帰ってきて!!!
いつもの彼との違いに泣きたい気持ちが外へと涙を変えて溢れ出てきた。
「、どうした?何で泣いてるんだ?」
「うぅ〜ふぇ〜っ・・・・うぅ」
「、どうした?俺、何かしたか?お前が嫌がることしたか?」
もう充分してます!!!
いつもと違う彼を見れてそらぁ嬉しいですよ!
でも、限度が・・・限度があるでしょ!!
口悪いし、態度いつもより大きいし、お酒臭いし、よく甘えてくるし、その他諸々。
そんな彼の態度に私が思わず泣いてしまうのも当然だ。
「、ごめん。俺が、俺が悪かった・・・・だから、泣くな。ごめん、ごめんよ」
「うぅっ」
グラハムは私に謝りながら、頬を流れる
涙を自らの舌で拭った。
あぁ、此処だけはさすがにいつもどおり残ってる。
「ごめん、俺が悪かった。だから、もう泣くな・・・・お前に泣かれたら、俺はどうしていいのか分からない」
いつも言ってるその言葉。
私に泣かれたら、グラハム困るって、どうしたらいいのか分からないって
彼はいつも私が泣いているとそう言う。
あぁ、此処もいつもと同じ。
かすかには残ってるんだ・・・・そういう部分だけは。
「お前が可愛いから、苛めたくなるんだ。これは本音だぞ!俺は、お前を誰よりも愛してるから苛めるんだぞ」
「・・・・知ってる」
「じゃあ、機嫌を直してくれ。それとも、機嫌取りをしてやろうか?」
「・・・・・・はぃ?」
待って・・・・すごい、嫌な予感がする。
背筋が一瞬にして凍りつく。
「此処じゃなんだ、寝室に行くぞ」
「いえ、結構です」
「俺がお前に喜ぶことをしてやるって言ってるんだ。ありがたくその厚意は受け取るもんだ」
「その厚意は受け取れないし、むしろそんなの厚意じゃない!!」
相変わらず、ヘリクツ並べるところも酔っ払ってはグレードが上がっていて
彼は、私に迫ってくる。
「まったく、じゃじゃ馬め。俺の手を煩わせるつもりか?」
「別にそういうつもりではございません」
「行くぞ」
「嫌です」
「強行手段だな」
「きゃっあ!?」
すると、グラハムは私を担ぎ上げ
寝室へと歩く。
しかも、酔っ払ってるくせにちゃんと歩行は出来るとか
ありえない!!
「いやぁ〜いやぁ〜何でそうなるのよ〜!!」
「機嫌取りだといってるだろ。お前にシテやったたらいつも喜んでるじゃないか」
「文字が違ぁう!!!グラハムの言ってる<よろこぶ>は別のほうでしょ!!!」
「分かった分かった。はいはい」
「返事が軽い!!!」
「お前はやっぱり可愛いなぁ」
そう言って、寝室に運び込まれてしまった。
お願いです、もう二度と彼にお酒を飲ませすぎないで下さい!!!
Drunken Frenzy〜暴君紳士〜
(お酒はやはり誰でも変えてしまう危険飲料)