「えっ?・・・ショッピング?」
「あぁ、久しぶりに服を新調しようかと思ってな」
私の突然の発言には目を開いて驚いていた。
「どうしたの、突然?」
「イヤだったか?」
「そうじゃないけど・・・まぁ確かにそろそろ衣替えの季節だし。
新しい服も欲しいな、とは思っていた頃なんだけど」
「だろ?・・・家で篭りっぱなしで、カタログ広げてみるより現物見て選んだほうがいいだろ?」
「そうね。貴方が持ってくるのは全部コスプレ雑誌だし、あんなので選べるわけないし」
「何を言う!いいか、・・・アレだってれっきとした服」
「洋服ですけど、アレはお遊び用の服です!!あんな服で外出歩けるわけないでしょうが!!」
の一喝で、私は肩身が狭くなった。
しかしアレは姉さんが持ってきたもので
あの雑誌に載っている服は全部に着て欲しいと思ってるものだ。
「はぁ・・・とりあえず、準備してくるから」
「行ってくれるのか?!」
「行くに決まってるでしょう。とにかく待ってて」
「あぁ!」
はため息を付き
階段を上がって、寝室へと向かった。
久々にデートらしいデートができるようで、
少し呆れて着替えに向かった彼女だったが・・・満更、イヤではないとすぐに分かった。
「(あー・・・早く降りてこないかなぁ・・・)」
早く降りてこないかと、ウズウズしながら
私は久しぶりのとのデートに、年甲斐もなく浮かれていたのだった。
-----------バタン!
「グ、グラハム・・・こ、此処・・・って」
「私の行きつけ・・・というか、私の家の贔屓にしてる店だよ」
数分後、私は着替えを済ませ
グラハムが運転する、黒のスポーツカーで
何処に向かうのかと行ったら・・・・・・。
街の中心地、色んなブランドの店が並ぶショッピング街。
そして、今私とグラハムがいるお店は
そのブランドショッピング街の一番の売り上げを誇り
アメリカ全土に関わらず、全世界の女性から愛されているブランドショップ。
「チ・・・【ChiCo】じゃない此処!!え?何エーカー家の方々は此処の愛用者!?」
「知ってるのか?」
「知ってるも何も、メチャクチャ有名で・・・メチャクチャ・・・た、かい」
高級ブランド【ChiCo】(チコ)。
有名な歌手や、スゴイ女優さんや俳優さんが愛用してるとされるブランド。
花屋で働いてるときから、此処のブランドには憧れてたけど
絶対手に届くはずないと思っていた。
ファッションセンスはずば抜けて、そして・・・価格もそれなりに・・・高いという。
一般庶民の私には到底手に入るなんて思ってない。
「グ、グラハム・・・此処で買い物するの!?」
「当たり前だ。私は此処しか知らない」
「へ!?ちょっ、ちょっと・・・で、でも此処のお店高いって・・・!」
「気にするな。私が全部出す」
そう言ってグラハムは私の手を握りぐいぐいと引っ張って店の中に入る。
いや、グラハムは確かに
此処のブランド愛用しても分からなくもないけど・・・けど!!!
私は、今でも一般庶民としての肩書きを忘れたくない手前
いくら高級マンションの最上階で寝食をともにしているグラハムの収入がいいからと言っても
そんな彼にムリな買い物だけはさせたくない。
「グ、グラハム〜」
「気にするな、ほら行くぞ」
私の心配する声を他所に、グラハムは
嬉しそうに自動ドアの目の前に立ち、ドアは自然とお客さんだと認識したのか扉が開く。
「いらっしゃい・・・アラ?」
「お久しぶりです、マダム」
「久しぶりね、グラハム坊や」
「やめてください。もうそんな風に呼ばれる歳じゃないですから」
「そうよね、ごめんなさい」
お店に入ると
ダークブラウンの少しパーマのかかった髪に
後ろで小さなお団子が出来て、口元は真っ赤なルージュ。
容姿端麗な女の人がニコニコしながら私と、グラハムに近づいてきた。
しかも、話の内容を聞くところ・・・やっぱりご贔屓にしてることが伺える。
「アラ?そちらのお嬢さんは?」
「あぁ、紹介が遅れた・・・」
「え?あ、はい!」
突如私はグラハムの隣に並べられた。
女の人は不思議そうな顔で私の顔をジロジロと見ていた。
あまりに視線に私の体は強張る。
「、紹介しよう。此処のオーナーで・・・マダム・チコさんだ。昔から家とは仲がいいんだ」
「あ、は・・・初めまして・・・・です」
「まぁ、礼儀の出来たお嬢さんだわ。初めまして、チコ・オリーゼと申します。
皆は私のことを”マダム“って呼んでるけど、好きなように呼んで頂戴」
「あ・・・はい」
「それで、この子とは一体どんな関係なのかしら?坊や?」
マダムさんはニヤニヤしながら、グラハムの顔を見ていた。
「マダム、坊や呼びはやめて欲しいな」
「だって、私の中じゃ”坊や“は”坊や“よ。・・・質問に答えなさい、この子とは一体どんな関係なのかしら?」
「決まってる・・・恋人ですよ、私のかけがえのないたったひとりの女性です」
「グ、グラハム!?」
グラハムは私の肩を抱き寄せながら、自信満々にその場で言い放った。
あまりにも、唐突かつ
大胆な発言に、私は思わず顔を赤くした。
一応此処は公共の場。
そんな公衆の面前で堂々と言われてしまえば誰だって恥ずかしいに決まっている。
「そう。・・・坊やに、そんな人がいつの間にか出来てたのね」
「私だって男ですから」
「フフフ。それで、其処のお嬢さんの洋服を新調するために来たのかしら?」
「えぇ。私の知ってる店は此処しか分からないので。それにマダムだったら他のお店もご存知でしょう?」
「そうだけど・・・まぁウチのお店で何か買っていくのが条件で教えてあげてもいいわよ」
「貴女も手厳しい人だ。仕方ない、じゃあ」
「ふぇ?・・・あ、はい」
思わず私の意識はどこかに飛んでいたが
グラハムの一声で、何とか現実世界に戻ってこれた。
「服、選んでおいで」
「い、いいの?・・・此処のお店、高いんだよ?」
「それは承知している。だが、にいつまでも、私の側で美しく綺麗であって欲しい。
そのためだったら私は何だってしてやるさ」
「グラハム」
サラッと、口説き文句を言われ、思わず顔がまた赤くなってしまう。
「じゃあ決まりね。ハナエちゃん、エミリちゃん、さんをよろしくね」
「はい、オーナー」
「待ってくれ、マダム・・・後者なら分かるが・・・前者は頼むやめてくれ」
「アラ、結構ハナエちゃんも見込みあるのよ?」
すると、グラハムの顔が真っ青になっている。
ハナエっていう名前を聞いただけなのに、スゴイ真っ青というよりも・・・嫌そうな顔していた。
「あっら〜〜〜ん・・・エーカー先輩じゃないですかぁ〜〜」
すると、お店の奥から出てきた人に・・・・私は唖然とした。
コレをどう言葉で伝えていいのか分からないけど
一言でいうなら、「ちょっとマッチョな人が、女性の服を着こなして・・・ブリブリな態度でやって来た」と。
「マダム!本当にこんな奴に任せるのか!!」
「アラ、いいじゃない」
「良くはないぞ!・・・他にもいるじゃないかスタッフは!」
「まぁまぁ、貴方の相手は私。お嬢さんの相手はエミリちゃんとハナエちゃんで。じゃあ、エミリちゃん頼んだわよ」
「はい。・・・じゃあコチラへ」
「え?・・・あ、はい」
そう言って、私は2人・・・というか1人の女性と、1人のニューハーフさんに連れられながら
奥の試着室に連れて行かれるのだった。
「さて、えーっと・・・」
試着室に着くなり、目の前の
私よりも幾分年上な女の人は悩ましげにしていたので
とりあえず、自己紹介をする。
「です・・・よろしくお願いします」
「そう、さんですね・・・・私、エミリ・・・エミリ・マーティーンといいます。で、こっちが」
「エミリ・・・誰この子?」
すると、次にマッチョなニューハーフさんが私を見て言ってきた。
「ハナエちゃん・・・聞いてなかった、んだよね・・・エーカーさんの恋人さんだって」
「なっ・・・何でぇすってぇええ!!!!」
「!?」
「はーい、大声出さない・・・怯えてるでしょ」
私は思わず大声を上げたマッチョなニューハーフさんに驚き
エミリさんに抱きついてしまった。
「ごめんなさいね、驚いてるでしょ?気にしないでいいから」
「あ、あの・・・ハナエさんって・・・」
「あの人、あぁ見えて・・・って見てすぐ分かるか・・・男で、昔エーカーさんの部下だった人なの」
「えっ!?」
だから?だから、グラハムスッゴイ嫌そうな顔してたの?
まぁ、確かに・・・元軍人が、しかもニューハーフになって、こんなブランドショップで
働いてるんだから・・・しかも、グラハムの部下だし。
「もぅ、エミリちゃんったら・・・それは過去の話よ、今はハナエ・キャンデルとして生きてるんだから」
「本名は”ディビット・キャンデル“で、元軍人」
「お、男ーっ!?しかも元軍人さん!?」
「もう、恥ずかしいわ・・・女の過去は探らないのが常でしょ?」
「いやアンタ男だから、どう見ても」
でも、もしかして・・・この人・・・・・・。
「あの、ハナエ・・・さん」
「ん?何よ」
「(こ、怖い)・・・もしかして、グラハムのこと・・・好きなんですか?」
「・・・お嬢ちゃん・・・」
きっと、この人・・・・グラハムのこと好きだから、振り向いてほしいと思ったに違いない。
だけどそれが叶わないから、いつも訪れる此処にわざわざ軍人辞めてまで
この人はここに居るんだ、と私は思った。
「ハナエさんは・・・乙女心があるんですね」
「・・・・・・」
「ハナエちゃん・・・すぐに見透かされちゃったわね」
「初対面の小娘に分かられちゃ、私もお手上げよ」
人って不思議だと思う。
好きだからこそ
近くに居たいとか、側に居たいとか、綺麗になりたいとか。
誰かのために想う気持ちが、人を動かしていく。
「さて。とりあえず・・・服選びと行きますかね」
「あ、ハナエちゃんが久々にやる気出してる」
「エーカー先輩が受け入れてる人なら・・・私も頑張ってサポートしちゃう」
「ハナエさん」
「その代わり、私が選んであげた服・・・もし採用だったら、エーカー先輩に言いなさいよ」
「・・・・・・はい!」
だから、頑張って・・・ちょっと背伸びしてみようかなって思った。
「それで」
「何がですか急に」
の服選びの最中、私は椅子に座り
コーヒーを出されて、私は口に含みながらマダムと話していた。
「とぼけないの。・・・珍しいこともあるものね、貴方が女の子をお店に連れてくるなんて」
「そうですか?」
「そうよ。・・・以前は恋人が出来たって言っても・・・お店には入って来ようともしなかったクセに」
「よく見てますねマダム」
「外で見かける程度だったけど・・・今までの女の子達は、体だけの関係だったのかしら?」
マダムの意味深な言葉に、私はコーヒーカップを
ソーサーの上に置き、目を閉じて数秒、閉じていた目を開き、笑みを浮かべた。
「確かに・・・そうかもしれませんね」
「アララ・・・今までの女の子達が可哀想だわ。何人とお付き合いしてたのかしら?
星の数ほど?私の指じゃ多分足りないかしらね」
「それはマダムのご想像にお任せします」
「孤児だった貴方をエーカー家の皆さんが引き取って、貴方は充分な幸せを手に入れたわ。
それでも足りなかったのは・・・何?」
「愛ですよ・・・マダム」
確かに、今までこの店に入ることを拒んできた。
幼い頃は、母さんの後ろに付いてこの店に来ていたが
徐々に体が発育し恋を覚えた。
だけど全てに真剣にはなれず
私に優しくしてくれたマダムにさえ、好きな人というか”体だけの関係“を持った
彼女達を紹介するわけにはいかなかった。
それは、私に”愛する心“が足りなかったから。
「自信がなかったんですよ。ただ。貴女に誇れて紹介できるような・・・女性達じゃなかった」
「じゃあ、あの・・・ちゃんは誇れるのね」
「えぇ、自信を持ってそう言えます。私が心から愛せる唯一無二の存在です」
「おぉ、言い切った。・・・それほど惚れこんでいるのね、彼女に」
惚れこんでいるどころか、溺れている。
四六時中、頭はのことばかりで
あの子のためだったら、何だってしてやりたい。
喜ぶことだったらなんでも・・・全て。
「坊や、変わったわ」
「もういい加減その呼び方やめてください、マダム」
「坊やは坊やよ。でも、変わった。それだけで貴方の成長を奥様と共に見てきた私としては嬉しいわ」
「マダム」
マダムはニコニコしながら私の髪を撫でた。
ただ、私はそんなマダムに笑みを浮かべるしかなかった。
「オーナー・・・お電話です」
「アラ?誰かしら・・・ちょっと失礼するわ」
「えぇ」
すると、マダムは電話が入ったと聞いて
私の側から離れた。
私は、ソーサーに置いたコーヒーを口に含みが来るのを待っていた。
SpicA&Girl's minD
(乙女心は複雑で、きっと誰にも分からない不思議な気持ち)