僕には、片思いしてる子が居る。

でも、その子には大好きな人が居て
大好きな人も、この子が大好きで

2人は本当に運命の赤い糸ってヤツで結ばれてるみたい。



僕は、蚊帳の外で
それでもいつも、気づけば彼女だけを見ていた。















「(はぁ〜・・・会議、まだ終わらないのかなぁ・・・)」





僕は、首を左右に動かしながら研究室に向かう廊下を歩いていた。

左手にはグラハムに渡し忘れた書類を挟んだクリアファイルを持って歩いていた。







「(まぁ、大した内容じゃないし・・・研究室に来たときでも伝えよ)」






旧友であるグラハム・エーカーは、現在会議のため別の場所に居る。


僕は渡し忘れた書類を届ける最中、面倒くさくなり
後で渡せばいいか、と思い踵を返し研究室に戻っていた。







「あ〜・・・ただいま〜・・・アレ?」





僕は研究室の扉を開け、中に入るといつも必ず来る人が来ない。

扉を閉め、部屋の奥に入っていくと・・・・・・――――――。







「おやおや。此処に居たんですか、さん」






午後の暖かい日差しが窓から差し込み
窓際に置いたソファーに寝転がっている人物を見て僕は笑みを浮かべた。






さん。




グラハムの恋人で・・・僕の、片思いの相手。




2年前、グラハムがダウンタウンで一目惚れをした花屋の子。

毎日の通い詰めの努力が実ったのか
さんはグラハムに心を開き、今では2人一緒に住んでいる。





僕は書類を机に置き
ゆっくり彼女の隣に腰掛ける。







さん・・・こんなところで寝たら、風邪引いちゃいますよ?」






そっと、さんの髪の毛を触ってあげる。



初めて触る彼女の髪。
柔らかな感触に心地よさを覚えた。

陽の光を浴びて、茶色の髪に艶が生まれ
手で優しく持ち上げると、指の間をすり抜けて零れ落ちる。







さん・・・起きて。風邪引くよ」


「・・・んっ・・・」





声をかけると、篭った声で返すもまだ眠りの世界に居るみたいだ。





さん」





あぁ、どうしてだろうな・・・愛しくて、しょうがない。




初めて、君を見たときから心臓の高鳴りが止まらなくて
想いを伝えたいのに、どうすることも出来ない歯痒さに
もどかしくて・・・胸が張り裂けそうだ。





さん・・・起きて」


「んんっ・・・」



少し意識のある声が聞こえてきた。
すると、彼女は上半身を起こし周囲を確認するように首を動かす。






さん・・・おはよう」


「・・・・・・」





僕が声をかけると、さんは僕のほうに顔を向ける。
その顔は、まだ少し眠そう・・・そして、とても可愛い

グラハムはいつもこんな顔を独り占めしてるんだなぁ、と思うと羨ましく思う。






「お日様が気持ちよくて、寝ちゃってたんだね」


「・・・ム・・・」


「え?」


「・・・グラ、ハム・・・」


「えぇ?」






すると、眠気眼のさんが僕に迫ってきた。
あまりのことで僕は戸惑う。

そして、一気に視界が上から下へと急激な変化を迎え
頭に少しの痛みを感じるのだった。






























-----カッカッカッカッ・・・




「(こ、怖いよ・・・)」

「(耐えろ、ジャック・・・俺だって、怖い)」

「(相当アレはお怒りだぞ)」

「(アホ)」





一方、会議中であるグラハムはご立腹だった。

手袋越しに爪を机に何度と叩いて、その心情を表している。




彼の右隣に座っているジャックはあまりの恐怖に肩身が狭い。

左隣に座っているのがハワード、そしてハワードの隣に座っているのがダリル。

ジャックの隣に座っているのは、彼の先輩であるジョシュアであった。





その場に居る全員がこれ以上グラハムの機嫌を損ねないよう慎重な態度をとっていた。





「そ、それで・・・あ、の・・・」


「報告は?・・・まだ続くのか?」


「あ、と・・・15分ほど・・・」







――――ガンッ・・・!!







『!?』


「そうか、分かった・・・続けろ」


「は、はぃ」




グラハムは机を膝で思いっきり、怒りをこめ蹴り上げた。


あまりのことで周囲は、更に彼の逆鱗に触れた事に気づく。
隣に居るジャックはあまりの恐怖に耐え切れず白目をむいていた。







「(僕・・・もう・・・耐えれません)」

「(耐えろ、後15分)」

「(ジョシュア先輩、変わってくださいよ!!そんな事言うんだったら)」

「(コイツの隣になんて、死んでもゴメンだ)」

「(ダリルさん、変わってくださいよ・・・!!)」

「(俺、ハワードの面倒見るだけで充分)」

「(そうだぞ、ジャック!!俺だって怖いんだぞ!!)」





グラハムを挟んで、4人は目線での会話を続けていた。

その間、グラハムは相変わらず爪で机に叩き
更に急げと言わんばかりに、今度は踵をカツカツと規則正しい音を立て始めた。







「(まったく、後15分も延びてしまった・・・早く終わらせるつもりだったのに。
そうすれば、と有意義に話が出来ると思った私が迂闊だった、というわけか)」






彼の脳内では、恋人の一色であった。

会議が早く終わると予想し、グラハムは研究室に居る
あれやこれやと、するつもりだったのに現在15分の延長を強いられ
怒りはMAXらしい。


やろうと思っていたことを、邪魔されるのが一番彼は嫌いであった。







「(あー何でもいいから・・・早く終われ!!)」




表情を敢えて表に出さず、爪の音と踵の音だけで
彼は自分の今現在の気持ちを周囲に撒き散らしていた。



























「・・・・・・どうしようか、この状況」




僕は、体がソファーに沈んでいた。
目に映るのは、灰色の天井・・・何故この状況になったのか。



理由は、僕の胸の上に乗っかっている人が一番の原因である。






さん・・・起きそうにないしな」







数分前、さんは僕とグラハムを間違え
寝ぼけたまま僕の胸に乗っかってきた。

そして、そのまま彼女は再び眠りの世界へ。

一方の僕は、動くことも出来ず頭を掻く。








「・・・グラハムが来たら、僕怒られちゃうな・・・」






「何をしてるんだ、カタギリ!」とか言いながら凄い形相で
怒られるんだろうなぁ、としみじみ思う。

別に何もしてないのに・・・多分怒られる事は確実だろう。










「あーあ・・・もうさんがいけないんだよ。君を好きな男の部屋で、無防備にお昼寝なんかするのが」






僕はそう呟いて、自分の胸の中で眠っているさんの頭を優しく撫でた。





柔らかい、髪の毛の感触。

いつまでも触っていたいという欲。

でもこれ以上触れてしまえば、きっと彼に怒られてしまう。











『ビリー・・・貴方は優しすぎるのよ』








ふと、大学時代・・・ある人に言われた言葉を思い出す。

よく、彼女からはそんな風に言われていた。


どうしても1歩が踏み出させず、結局【優しい人】で終わってしまう。


だから、そんな僕を見て、彼女は苦笑を浮かべながらいつも言っていた言葉だった。











「・・・そうかも、しれないねクジョウ」











彼女・・・クジョウの名前を出して
僕も優しい日差しを浴び、心地よい眠りへと誘われたのだった。





























「(ぉ、終わったぁ〜・・・地獄だった)」
『(同感!)』




ようやく会議が終わり、グラハムは手に書類を持って見ながらいそいそと
の居るカタギリの研究室へと足を進める。


その、彼の後ろをジャック、ハワード、ダリル、ジョシュアが付いて行く。





「この報告書の件だが、ジャック・・・どう見る?」


「へぇ!?・・・あ、いや・・・予算の削減が必要かと、さすがに15機しかないカスタムフラッグですから
下手に予算は使えません」


「そうだな・・・私もそう思う」




きびきびと歩きながら、グラハムは持っている書類を一つ一つ
切り捨てていく。




「しかし、この計算書は・・・不備が多い。・・・ハワード、ダリル・・・後で書き換えて上に提出しろ」

「え!?・・・あ、はい!」

「私のサインは、・・・まぁ、適当でいい。ハンコでも何でもしておけ」

「わ、分かりました」





重要な仕事じゃないのか?と4人は思いながらも
グラハムは計算書をハワードに渡した。





「それから、ジョシュア。君はドッグに行って残りのカスタムフラッグの整備を整備班に伝えておけ」


「電話で言えばいいだろ、んなの」


「君だけ仕事がないんじゃ、意味ないだろ。いいから行け」


「へぇへぇ分かりましたよ」







そう言って、ジョシュアは踵を返し
全員とは逆方向に向かって歩き始めた。








「(敢えて、ジョシュアだけ本部に行かせたって事は)」

「(多分、お嬢さんのことがあるからでしょうね)」

「(ジョシュアだけは相当隊長も敵視してるみたいだ。・・・さんの事になると)」






ハワード、ジャック、ダリルはそう小声で会話をしながら
グラハムの後ろを歩く。






「(しかし、カタギリからの書類が1枚足りない。私に1枚渡しそびれたな。
まったく、研究に現を抜かすといつもこうだ。彼にも注意を促したほうがいいな。
それから、貰った書類にも誤字が多すぎるだろ!!パソコンで打ってるにも関わらず何だこの誤字の多さは)」






グラハムはカタギリから貰った書類にも文句を付けるつもりで
研究室の扉の前、ドアノブを捻り開けた。








「カタギリ、この書類だが・・・・・・カタギリ?」





研究室を開けるも、いつも座っている椅子に彼の姿はなかった。
後ろを付いてきていた3人も不思議そうな顔をする





「アレ?カタギリ技術顧問いらっしゃらないんですか?」


「いや、今日は出勤してきてたぞ」


「そういえば、さんの姿も見当たらない」






そう言って、4人は部屋の中へと入っていく。







「カタギリ、居ないのか?・・・カタギリ・・・・・・カタ、ギ」






すると、グラハムの言葉が突然止まった。
研究室、奥の部屋の入り口でグラハムの足が止まっていた。

突然止まった彼の動きに、ジャックたちは気になり
奥の部屋を覗き込む。








「ぁ」

「コレは」

「また何とも」







窓から差し込んでくる温かい午後の日差し。

窓際近いソファーでカタギリと、はすやすや眠っていた。


しかも、カタギリの上にはが無防備にも眠って
カタギリはそんな彼女の頭の上に手を乗せていた。



そんな光景にグラハムは言葉を発するどころか、動こうともしない。






「た、大尉?」

「や、ヤバイぞ」

「止めた方が」












―――ガン・・・!!!!!













「!?・・・え!?うわぁっ!?」


「ふぇ?あ、・・・きゃあっ!?」




『(遅 か っ た・・・!!)』







ジャックたちが止めに入る前にグラハムは
あまりの光景に、その場にある机を蹴った。

しかも、机を蹴る表情はまるで阿修羅像の顔にも似ていた。



突然の大きな音で、寝ていたカタギリとはソファーから落ち
床に頭をぶつけた。









「っ・・・ぃ、・・・痛ぁ〜い・・・」


「!!・・・あぁ、。ゴメン、大丈夫か?」


「ぁ、あれ?グラハム・・・?」


「頭ぶつけたのか?大丈夫か?」


「あ・・・ぅ、うん・・・ちょっと、ぶつけたけど大丈夫だよ」


「そうか。よしよし、痛かったな・・・ゴメンゴメン」



『(何、その態度の変化・・・!?)』




先ほどの阿修羅像の顔が一瞬にして穏やかな顔にへと変化し
を抱きしめ、頭を優しく撫でる。









「イテテ・・・」

「ぁ、カタギリ技術顧問」

「起きたみたいだな」







の起きた数秒後、カタギリもようやく
頭をさすりながら、体を起こした。








「・・・あ・・・
グラ、ハム・・・」

、痛かったなぁ〜・・・ゴメンゴメン(てめぇ、何してんだ?)」

「・・・(こ、怖い)」






カタギリは目を覚まして早々、を抱きしめて
頭を撫でているグラハムと目が合う。

だが、彼の表情は穏やかなものではなく
完璧に怒りを含んだ、阿修羅の顔へと変わっていた。








「・・・
「え?・・・ンッ?!」



「(うわぁっ!?)」

「(此処でするか!?)」

「(見せ付けてる、のかも)」





すると、グラハムはの顔を両手で優しく包み込み
突如として唇を重ねた。

あまりのことで、その場に居た全員が驚きを隠せない。






「んっ・・・んン・・・んぅ・・・は、・・・ぁぅ・・・」






唾液を絡める音が、研究室中に響く。

の口端から漏れる声にジャック、ハワード、ダリルは顔を真っ赤にし
一方のカタギリは、青ざめていた。







「・・・ッ・・・ぁ・・・・はぁ、グラ、ハム・・・どう、したの?」

「いいや別に。さぁ、帰ろうか・・・





そう言って、グラハムはの肩を抱いて、研究室を出る。








「カタギリ」

「!?・・・な、何?」






すると、グラハムは足を止め首を捻りカタギリのほうを見る。
カタギリも突然自分の名前を呼ばれたので肩をビクッと動かした。









後で、電話する(着信拒否するなよ)

「ぅううぅ・・・うん、ゎ、分かったよ」





そう言って、グラハムはを連れて
その日の執務を終え、帰っていったのだった。






















「・・・カタギリ、技術顧問大丈夫ですか?」
「・・・え、・・・ぅん、まぁね」




グラハムが帰って言った後、僕は床にしりもちを付いたまま
ジャックに声をかけられるまでその場に居た。





「大尉、会議が長引いて相当怒ってましたから」

「そうなの?」

「えぇ、ですから・・・先ほどの光景はもう、爆弾投下でしたから」

「アハハハ、アレはね・・・ちょっとした事故なんだ」






僕は、軽い笑いで頭を掻いていた。

どうやら、僕は彼の逆鱗に触れてしまったみたいだ。

どう謝ったら許してくれるだろうか彼は?














『ビリー・・・貴方は優しすぎるのよ』










「プッ・・・アハハハハハ・・・!!」

「うぇ!?カ、カタギリ技術顧問?!」

「ついに頭がいかれたか」

「バカ、失礼だろハワード」






僕は思わずクジョウの言葉を思い出し盛大に笑ってしまった。
ジャックやハワード、ダリルの3人は突然の僕の笑いに驚きを隠せない。








そうか、僕は・・・だから、優しすぎるんだ。


でも、そうでもしなきゃ、一番好きな人の側に居れないと分かった。


一番は彼に譲ろう。


でも、二番と優しさだったら
誰にも譲らない・・・彼女を思う優しさだけは、彼に負けないくらい
僕は自信があるからね。








「アハハハ・・・ハハハ・・・ハハ・・・あー、すっきりした」





たくさん笑って、ようやく心が晴れた。

クジョウ、僕は確かに優しすぎるかもしれない。

でも、その優しさを武器にいつでも好きな人を振り向かせる事だって
出来ること、ようやく気づいたから。









優しさは時に武器となる
(君を優しくする気持ちなら、誰にも負けない自信あるよ?) inserted by FC2 system

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