「さん、いい加減グラハムを許して」
「できません」
「・・・私が悪かった。でもな・・・私は切実に君との」
「知らない」
「〜」
カタギリの言葉や、ましてや私の言葉もは
耳に入れたくないほど怒っている。
こんな状態だけは、避けたかった。
本気で今、まさにとの関係が、絶たれようとしていたのだ。
どうしてこうなったのか、話は昨日の事に遡る。
ある疑問が事の起こりで
こんな状態にまでなってしまったのだ。
ある日の午後、私とはのんびりと過ごしていた。
そしてふと、ソファーで本を読んでいるを見て疑問に思う。
毎日、私の愛を注ぎ込んでいるのになぜ子供ができない?
そんな疑問から事は始まる。
と同棲して2年が過ぎようとしていた。
始めは彼女の事も考えて避妊具をしようとも考えた。
だが私は軍人。
何時死んでもおかしくはない命。
せめて自分の遺伝子を受け継いだ子供の顔を見てみたい気にもなるし
ましてや愛しいが産んでくれる子供とあらば、その子の成長も見届けたい。
だから、それを付けるのをやめて私の愛を彼女に注ぎ込んでいる。
次の日が非番の時は、それこそが気を失うまで・・・抱いてることもある。
なのに、何故だ?
何故、子供ができない?
つわりが始まるどころか、そんな素振りも一切見られない。
毎朝優しい笑顔で私を送り出しては、優しい笑顔で私を迎えてくれる。
いや、それはそれで凄く幸せなことなんだろうけれども。
何故だ?
何故なんだ?!と、疑問に思い何度も自分に問いかけた。
そう思いながら、私は思ったことをぶつけてみた。
はコーヒーを口に含み、本を読み続けている。
「」
「ん?どうしたの?」
「子供がほしい。産んでくれ私の子供を」
「んぐっ!?・・・ゴホッ、ゴホッ、ゴホッ、ゴホッ・・・ゴッ、な、何よ!!急に」
私の突然の発言で、はむせた。
「子供がほしいんだ、・・・君と私の子供が」
「は?何どうしたの?!」
「君と暮らして、2年。私は君との間にできた子供がほしいんだよ、」
「へ?ちょっ、きゃっ!?」
そう言いながら、私はをソファーに押し倒した。
「大丈夫、君と私の子だ。きっと可愛い子が産まれてくる・・・安心していいぞ」
「安心も何も、今の貴方の状態見て安心できないわよ!!」
「女の子だったら、アンとかマリーとか可愛い名前が良いな」
「ちょっと・・・」
「男の子だったら、ケイトとかジャンとかカッコイイ名前が良いな〜」
「ちょっ」
「この際、双子・・・いや、三つ子がいいか?それとも」
「人の話は聞きなさいよ、バカハム!!」
―――ガフッ!
「グハッ!?」
は持っていた本で、私のみぞおちを殴った。
あまりのダメージに私はソファーから落ちその場で蹲る。
「い、痛い・・・っ。な、何故だ・・・・・・ッ・・・愛を、感じれないぞ!」
「変な事言わないで!・・・私からの制裁です」
「愛の制裁なんだな!そうなんだな、!!よし、今から子作りに」
痛みなんて何のその!
私は飛び起き、の手を握った。
だが、当のは肩を震わせ・・・――――――。
「?」
「もう、グラハムのバカー!!」
「で、その湿布はさんに殴られた後なんだね」
「フン!愛の証と言ってもらいたいな」
「自信満々で言うことじゃないでしょ」
次の日、私はカタギリの研究室に居た。
前日とのケンカ?で、私の頬には一枚の湿布が貼られていた。
「まぁ最初は本でみぞおちとかを殴られたんだが」
「おー」
「最後にはグーで殴られた。もう、ショックだ・・・にグーでだぞ?グーで殴られた」
「平手じゃなくて、グーパンチってとこがすごいね、さん」
「感心するなよ、カタギリ。あーダメだ、グーで殴られたことがショックすぎて仕事が手につかない」
「コラコラ、職務怠慢だよそれ」
私は椅子に深く寄り掛かり、天を仰いだ。
空気に目を触れさせると、乾いて涙が出てくる。
でも、今は彼女に殴られたのがショックすぎて本気で泣きそうだ。
「でも、どうして急に子供がほしいなんて言ったんだい?」
「純粋にとの子供がほしい、ただそれだけ。でも2年も一緒に暮らしているのに、子供ができたー!とか
そういう騒ぎには一切なっていないんだ。あー2年間も、私はめいいっぱい彼女に愛を注いできているのに!!」
「ちょっと待って」
「何だ、どうしたカタギリ?」
すると、カタギリはまるで
はとが豆鉄砲を食らったような顔をして私を見ていた。
「2年って・・・君、もしかして・・・さんが18のときに手を出したの?」
「あぁ」
「犯罪!!ちょっとは考えようよ大人でしょグラハム!!」
「無理なことだ」
愛しい彼女を前にして、手を出さないなんて・・・私には出来ないことだ。
歳がいくつ離れていようが
私には自分の欲を抑え続けるのは耐えられなかった。
だからが18歳の時に私は彼女を――――抱いたのだ。
「即答しないでくれよ。あぁ、なんだかさんが不憫に思えてきた」
「何だと?・・・不憫なのは今の私だ!と話がしたいのに、あの子は喋ろうともしてくれない」
「話の発端からして君が悪いよ」
「私は嫌われたのか?」
「100%嫌われたんじゃないの?」
―――グサッ!!
カタギリの言葉に、心に100万のダメージ。
いかん。
あまりにも心のど真ん中を貫かれて立ち直れん。
「嫌われ・・・嫌われた・・・に、に・・・嫌われ・・・ぁあぁあぁああ〜」
「あーもう冗談だよグラハム・・・落ち着いて」
「に嫌われてしまったら、私はどうしたらいいんだ!どうやって生きていけばいいんだ!!」
「グラハム、いいから落ち着いて!僕も、何か力になるから!!」
カタギリの言葉に、私は一旦落ち着く。
「ホントか?」
「ぅ、うん・・・君にこれ以上ヘコまれると、仕事進まないし処理が大変だからね」
「ありがとう、カタギリ!それでこそ、私の旧友だ!!」
「ぃ、いいえ」
そんな感じでカタギリを家に連れて帰り・・・話は最初に戻る。
「、その・・・昨日はな」
「・・・・・・」
私が話しかけるも、喋ってもくれない。
むしろそっぽ向いて、私の顔すら見ようともしない。
年甲斐にもないが本気で泣きそうなレベルだ!!
「さん。グラハムも自分で言ったこと反省してるみたいだし」
「カタギリさんは黙っててください。これは、私とグラハムの問題ですから」
「あ・・・は、はぃ」
いつもは、カタギリに甘えるも
今回ばかりは強気な姿勢で言い返す。
あまりの豹変振りに、カタギリも反論できず、押し黙る。
「私が、何で怒ってるか分かってる?」
「え?」
すると、が少し怒った口調で私に話しかけてきた。
「どうして、私が怒ってるか・・・貴方分かってるの?」
「ぁ・・・えっと・・・その・・・子供がほしいって、言ったから」
「そうね、怒ってるわ。だって、貴方・・・何も考えてないんだから」
「え?」
何も、考えてない?
の口から放たれた言葉に私は理解することができなかった。
私とカタギリはお互い顔を見合わせ、彼女を見る。
「確かに、2年も・・・2人で過ごしてきた時間は長いわ。・・・でも、私・・・嫌なの、できちゃった結婚なんか」
「へ?」
「できちゃった、結婚?」
つまり、子供ができてから結婚という意味だ。
それが何故嫌なんだ?
「何故それが嫌なんだ、?」
「だ、だって何か、嫌じゃない。怖いし・・・それにできたから、別れるっていう・・・話が多いから」
「成る程。それで、さんはグラハムに対して怒ったんだね」
「軽く見ないでほしいの。赤ちゃんだって、生きてるんだよ。
産まれてこなきゃよかったなんて思わせたくないじゃない・・・好きな人の子供なのに」
「・・・すまなかった」
命の大切に関したら、は誰よりも敏感だ。
周囲が良しと認めてはいないの出生、彼女の生い立ちがそうさせていたに違いない。
だから、私のちょっとした態度がの怒りに触れたのだった。
「、別に軽く見ていたつもりじゃないんだが君にそう解釈させてしまったのなら、謝る・・・すまない」
「じゃあ、どうして言ったの?子供ほしいなんて」
「2年間も、君の側に居て、君に愛を注いで・・・でも、君は一向に子供ができたなんて素振りをしない。
それに私はいつ死んでもおかしくない命だ。だから君との間にできた子供が欲しかったんだ」
「そうだったの。でも私、まだ20だよ?・・・もう少し、時間がほしいから・・・その、ごめん薬飲んでるの」
「は?」
「薬・・・あぁ、なるほどね」
つまり、は私の知らないところで
避妊薬を飲んでいたのだった。
だったら道理で子供ができないわけだ!!
「待て。いつから避妊薬を?」
「2年前から。なんとなく、してきそうだなって・・・思い始めた頃から・・・飲んでる」
「今も?」
「飲んでる。さっき飲んだ」
「はぁ〜・・・私の苦労はなんだったんだ」
「グラハム、骨折り損だったね。結論は彼女が薬を飲んでいるっていうことだよ」
カタギリは、軽く笑いながら私を見ていた。
私はちょっとムスッとした顔でカタギリを見た。
「うるさい。どーせ、骨折り損だ」
「面白いものも見れたし、僕はそろそろ退散するね。仲良くするんだよ、二人とも」
「君に言われてなくてもそうするつもりだ」
「カタギリさん、ごめんなさい・・・ご迷惑おかけして」
「いえいえ、いいんだよ。面白かったし・・・じゃあね」
そう言って、カタギリは出て行った。
私はソファーで肩を落としていた。
結局は薬を飲んでいたから子供ができなかっただけで
ケンカしたのは、ただの私の軽はずみな発言。
そして、自分一人で空回りして・・・――――。
「(あー・・・カッコ悪ッ)」
「グラハム」
「・・・」
すると、私の隣にが腰掛けた。
私を見つめる目は、とても心配そうな顔をしていた。
「ごめんね、今まで黙ってて」
「・・・いや、いいんだ。私も悪かった・・・君が一番怖がっているのに」
「あのね、それから殴って、ごめんね・・・痛かったでしょ?」
は、そっと湿布の貼ってある頬を優しく撫でる。
触れてきた手がとても温かくて落ち着き
私はその手と自分の手を重ねた。
「いや・・・当然の報いかな。君が怒るのも分かる・・・いいんだよ、」
「グラハム」
「だから・・・・・・・・・・・・今度から薬を飲むのをやめてくれないか?」
「へ?」
「今度こそ、子作りに励むぞ」
「ちょっ、だから早いって!!」
「そうだな、じゃあとりあえず籍でも入れにいくか?」
「えぇえ!?」
「それとも・・・・・・」
私は、の手を握ったまま彼女の耳元で囁く。
『今からたっぷり愛し合うか?』
愛で生まれるのはやっぱり、愛でしょ!
(「子作りも兼ねて、さぁ行こうか愛の巣へ!」 「ちょっ!?・・・も〜どーして貴方はいつもそうなの!!」)