養家にも戻っていない。


となれば、思いつく相手は1人しか居なかった。




彼女が拾い、育てた犬の引き取り主。





ドリュー・アンジェラ。




彼に家に訪れて、其処にが居ると分かったけれど
彼女が私と話してくれるのかが不安でならなかった。


だが、予想は見事に的中。





私とカタギリが此処に現れた途端
は部屋の扉を閉め、鍵を掛けて閉じこもった。






!・・・鍵を掛けたみたいです」


「おやおや。鍵まで閉められたみたいだね、グラハム」


「相当避けられてるな、私は」






私と話がしたくないのか、それとも顔が見たくないのか。


多分の心情を察すれば両方だろう。






「あの・・・これは一体?」


「話せば長くなるんですが・・・・今はと話をさせてください」


「いいですが、あまり負担をかけないようにしてください。最近食事もまともに食べてないので」


「分かりました」





私は案内された部屋の前に立ち、部屋に居る彼女に話しかける。










・・・私だ、グラハムだ。此処を開けてくれ」


『やだ』









即答されてしまった。

しかし、諦めず私は言葉を投げかける。






「君と話がしたい」


『其処でいいじゃない、話せば?』


「君の顔を見て話がしたいんだ、開けてくれ」


『やだ』





これじゃあ、会話が成立しない。


やっと聞けた君の声なのに。






どこか、冷たい。


どこか、寂しい。


どこか、儚い。











「この間のことは謝る。本当にすまなかった」


『今頃、謝らないでよ。そんなことされても、私、どうしていいのか分からない』


「じゃあ、どうすればいい?君が6日も家を空けて、私は・・・・」
















行 き 場 を 失 っ た 仔 犬 の よ う で 。













「君を捜してたんだ。ようやく、手掛かりが見つかってこうやって逢えたのに、君は」


『だって・・・・どうしていいのか分からないじゃない。あの時の貴方にどう声をかけていいのか分からないよ』


「あの時は私も頭に血が上っていただけで、今は冷静だ。なぁ、・・・・顔を見せてくれ」


『嫌よ。もう、貴方に逢うなんて・・・・私できないっ』








小さく蹲って泣いている彼女の姿が目に浮かんでくる。

扉一枚挟んで、こんなものが今は憎たらしくてたまらない。


泣いているを抱きしめられない。


すぐにでもこの扉を壊して、君を抱きしめたいのに。










『もう・・・・ガンダムなんて・・・・居なくなればいいのに』











すると、ドア越しにが泣きながらそんなことを言ってきた。







聞いてくれ。奴らは、戦争根絶なんていう無理なことを掲げて
この戦争をより混乱させているだけなんだ・・・・だから、私はそれを」


『もういい!!』


「・・・っ!?」


『もぅ・・・・いいよ、聞きたくなぃ。・・・・そんなこと、もっ・・・・聞きたくないよ』










ドア越しの彼女は更に泣きながら言う。









『貴方はいつも、ガンダムガンダムって・・・・自分の命を顧みずに』


「それは私が・・・・軍人だから」


『そうね、貴方が軍人だからよ・・・・そんなことを言うのは。
でも、でもね私・・・嫌なの・・・っ』




























『 こ れ 以 上 大 切 な 人 を 失 い た く な い 』
















その言葉が心に響いてきた。


は6歳のとき、ユニオン軍の軍医として戦地に赴いた両親を失った。

この子が、一番命の重さや大切さを知っている。

戦争で一番大事な人を亡くして、1人ぼっちになっているのだから。






『どうして戦争を続けるの?続ける必要があるの?大切な人の命が消えていくだけなのに』





『これ以上続けて、たくさんの犠牲が出て何が平和よ!!ただの人殺しじゃない、そんなの!!』





あまりのの言葉に、言葉が出なかった。

その場に居た、カタギリも多分言葉が詰まっただろう。








『嫌よ・・・・嫌だよ、もう誰かが死ぬのなんて。貴方が死ぬなんて・・・・考えたくない』


「私は死なない」


『そんな根拠何処にもないじゃない。いつ死んでも、おかしくないって自分でも分かってるでしょ』


「そ、それは・・・・っ」







何も、言い返せなかった。





『ホラ、分かってる。私、貴方を失ったら、どうしたらいいの?』


。私なら大丈夫だから、そんなこと考えなくていい。君の幸せは私がずっと守っていく」


『もぅ、いいよ。私は、貴方の側に居ないほうが、いいのよ。私、貴方の重荷になるだけだから』


「何を言ってるんだ!!私は、、君が側に居なくては。側に・・・・居てくれないと」











何も出来ない。


惨めで、ちっぽけで、小さなただの人間だ。




軍ではトップだとか、エースだとか言われているが
私にだって、出来ないことがある。




完璧を求められている、完璧でなきゃいけないんだ。



そんなプレッシャーに毎回押し潰されそうで、苦しかった。








「私は、君に逢うまでは・・・・毎日が地獄で苦しかった」


『グラハム』







戦地で亡くなった古い友人。

助けてあげれなかった後悔の念。

背中に重くのしかかっていた罪の十字架。

何もかもに耐え切れず、死を選ぼうとしていた私に
君が手を差し伸べてくれたおかげで、そんな苦しい思いが一蹴された。









「君があの時、私に優しく手を差し伸べてくれた。だから、君の力に、君の側に居たいって思った」


『自分がいつ、死ぬか分からない世界に居るのに?』


「それでも、自分が死ぬまでの時間を君と過ごせたら幸せだと思った」


『私は嫌。貴方が死ぬなんて・・・・考えたくない』


「でも、君はそんな私を愛してくれた。それだけで今も幸せだ。たとえ、いつ尽きるか分からない命でも」








君との時間に捧げられるのであれば、それでいい。





戦地でいつ、死ぬか分からないこの命。

無駄にしていいなんて前は思っていた。


だけど、の悲しむ顔なんて
見たくないと思ったときから死ぬのが怖くなった。


軍人らしくもないが、死がこれほど怖いものと分かったときが
彼女が側に居るときだった。











「君がいれば、私は死なない。君が居てくれたら、この命も無駄にはしない。必ず帰ってくる」











だ か ら 顔 を 見 せ て 。





も う 一 度 笑 っ て 。





私 の 心 に 光 を 当 て て く れ 。
















、だから・・・出てきてくれ」










―――――ガチャッ・・・・!








すると、鍵を開ける音が聞こえ扉がゆっくり開く。















「何処にも、行かないでっ・・・・死んじゃやだ」









泣きながら、がその場に立ち尽くし私を見ていた。


あまりにもそんな彼女が小さく見えて、私はすぐ腕を引いて
力いっぱい抱きしめた。










「死なない。一人残して、死ねるはずないだろ」


「・・・・ぅん」








ようやく腕の中にをおさめることができた。

でも、抱きしめた彼女は少し痩せていたように思えた。








「痩せたな、少し」


「そう?」


「後、目が赤い。相当泣いたな」


「だって、色々悩んだら涙止まらなくて」


「随分悩ませたんだな、すまなかった。それから迎えに来るのも遅くなって」


「いいよ。私が勝手に飛び出したんだから。貴方も少しやつれた?ちゃんと寝てた?」







すると、は私の頬に優しく触れた。

優しい温もりに目を閉じ、首を横に振る。




「いや、あまり寝てない。君がどこに居るのか分からなくて。ずっと落ち込んでいた」


「そう。ごめんね、グラハム」


「いいんだ。私が君を傷つけたのが全ていけなかったんだ。
あんな風に言うつもりなんてなかった。今、後悔してる」


「もういいよ、ごめんね」


「私のほうこそ、すまない」






そう言って、私は彼女の肩に頭を埋めた。






「グラハム?」


「すまない。何だか、安心したら急に眠気が襲ってきたみたいだ」


「いいよ、寝ても」


「しかし、此処は」


「いいですよ、お休みになってください。此処はの家でもあるんですから」


「この際だし、一休みしたらグラハム。僕は今から病院にいかなきゃ行けないから。さん、後任せてもいい?」


「カタギリさん。あの、ごめんなさい。あんなこと言うつもりじゃ」


「いいんだよ。言われて当然なことだから・・・・じゃあね、グラハム」







カタギリは挨拶をして、この家を後にした。

私の眠気も限界に来ていた。
もう話を聞き取ることもままならないだろう。

返事を返すことも出来ないほど、疲れていたみたいだ。






「ドリューさん、あの寝室は?」


「ああ、いいんだよ此処で寝かせてあげなさい。
を心配して多分一睡もしてないみたいだから」


「でも、此処奥様の部屋です」


「いいよ、好きにお使い。君も少し寝なさい、4日も寝てないだろうから眠いだろ?」


「私は全然平気です」


「それなら、側に居ておあげ。彼が目覚めたら君が側にいたほうがいいだろうからね」


「はい」


「す、すいません・・・私まで」






いいんですよ、エーカー大尉さん、という彼の言葉に甘え
私はを抱きしめたままベッドに倒れこんだ。


突然大きな音がしたものだから、の近くに居たカイルが吠えるもすぐに大人しくなった。






「グ、グラハム!?」


「このまま」


「え?」


「このまま、寝せてくれ。もう何処にも、行かないでくれ


「うん、何処にも行かないよ。その代わり、貴方も無理はしないで・・・・ちゃんと寝て」


「あぁ」






そして、優しい温もりを抱いたまま私は眠りに就いた。











君という温もりを、永遠に離したりはしない。



だから、君も私から離れたりしないでくれ。






愛優
(愛しさと優しさ、ようやくこの手に戻ってきた) inserted by FC2 system

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