時間は無情にも過ぎて
気付けば1年半と時が流れていた。
「凄い回復力です、大尉。体のほうは今のところ異常ありません。ですが、お顔は」
「仕方ないことだ。これは私の勲章として、残しておくさ」
戦争が終わり、国同士が一つにまとまろうとしていた。
それで2年が経った。
半年前に、目を覚まして・・・・元に戻ることのない顔になって
1年半で動けるなんて、医者もビックリするほど。
ただ、一番胸を痛めているのは―――彼女を、を拒絶し続けて
もう2年になるのだということ。
「後は、リハビリだけですね。それさえクリアすれば、完璧です。復帰も近いでしょう」
「そうか。色々とすまないな」
「いえ、では・・・・失礼します」
そう言って、医師は病室から出て行く
そして入れ違うかのように、カタギリがやってきた。
「元気そうだね」
「まぁな。今日検査では何処も異常はないそうだ・・・・近々リハビリに移る予定だ」
「あんまり無理しないことだね、またさんが心配するだろ」
すると、カタギリがの名前を出した。
私は急に胸が締め付けられて、痛みを感じた。
「もう、に逢わなくなって2年になる。目を覚まして1年半前か・・・・あの子の声しか聞いてない」
「この間、電話したら君の帰り待ってるって・・・・君の部屋で」
「・・・・そう、か」
元気なんだな、と心の中で思っていた。
いや、本当は元気でも何でもない・・・・きっと毎日泣いてるに違いない。
何故、1年半前自分だけを病室に入れてくれなかったのだろうと、思い悩んでることだろう。
「もう、いいじゃないか・・・・グラハム、君もそのマスクしてるんだから」
「これか?・・・・案外不便でな、顔が痒くて仕方がない」
「僕の話、聞いてる?・・・・どうして、さんと逢ってあげないのかって聞いてるんだけど」
突然、カタギリが真剣な表情で私に言ってきた。
「にどの面下げて逢えって言うんだ?私は、もうこんなマスクをしてなければただの醜い男だ」
「でも、せめて逢ってあげるだけでも」
「怖いんだよ、カタギリ」
「え?」
「彼女に、に嫌われてしまうんじゃないかって」
1半年前、目を覚まして私はどん底に突き落とされた。
顔が見違えるほど、皮膚が焼け爛れ、唯一目元だけが奇跡的に助かっていた。
命が永らえたことに、神に感謝した。
しかし、顔をこんな風にまで醜くした神を憎んだ。
「怖いんだよ、あの子に何を言われてしまうのか。
きっと、怖がられてしまう。だから、敢えて・・・・そうならない前に」
「彼女を突き放したんだね・・・・君なりに」
「を愛してるからこそ、そうしなければならないと、心が叫んだんだ。
もう、私にはあの子を愛する資格はないんだ」
「グラハム」
醜くなってしまったこの顔。
君にだけは絶対に見られたくない。
だから君に見てほしくない、こんな私を・・・・。
----コンコン。
「はい?」
『失礼します、お花・・・・お届けに参りました』
すると、病室の外で花を届けに来たと声をかけられ
カタギリはすぐさま扉を開ける。
「君は」
「ぁっ。・・・・あの、どうぞ・・・・失礼しました」
すぐさまカタギリに花束を渡し、部屋から去った。
「何やら、面識があるみたいだね・・・・グラハム」
「の養家の、娘さんだ。何度か話したことがあるから覚えている」
「へぇ、そうなんだ」
花を届けに来たのは、の養家の娘・・・・アンナさん。
をよく知り尽くしているから、彼女に助言をしてもらったもんだ。
「彼女が届けに来たって事は・・・・送り主は、ホラ」
すると、花束の中から一枚のカードをカタギリが取り出し
私にそれを寄越した。
「『グラハム・エーカー様へ ・より』・・・・まさか、」
「さんが一番辛いと思うよ。何せ、この2年間・・・・彼女は出入りをしてないからね」
「・・・・ッ」
「それでも、君は彼女に逢いたくないって言う口かい?」
私はカードをくしゃくしゃになるまで握り締めた。
逢いたくないわけない・・・・本当は凄く逢いたい。
逢って、たくさん話したい。
逢って、いっぱい抱きしめてあげたい。
で も―――――。
「・・・・ゴメン、ッ・・・・」
怖くて、踏み出す勇気がない。
君に嫌われてしまうんじゃないかと怯えてしまう。
怯える日々に逢えない年月
(逢いたいのに、怖くて、逢えない)