私の彼は今現在、治療中のため
黒い仮面を被っております。
それでもやっぱり容姿端麗なことには変わりなく
病室にはいつも色んな看護婦さんたちが行き来している。
そして、今日も・・・彼の病室に向かう前。
『1014号室の患者さん・・・素敵よねぇ〜』
『仮面被ってて、ミステリアス!って感じ?』
『私なんて今日”ありがとう、助かるよ“とか言われて微笑まれちゃった〜』
『いいなぁ〜・・・担当替わってもらいたーい』
若い看護婦さんたちはそんな会話をしていました。
微笑まれた・・・か。
私は彼の恋人としては少し複雑な感じです。
確かに、彼の美貌は誰もが羨むほど。
入院患者とはいえ、一国の有能なフラッグファイターであった事。
仮面を被っているとはいえ、その甘いマスクと声は健在中。
きっと誰も放っておかないわけない。
怪我をする前からそう、思っていたことだし
当たり前のようなことだったのだけれど、どうしてだろう・・・モヤモヤした感情がある。
「グラハム・・・元気?」
「!やっと来てくれた・・・待ってたよ。さぁ、こっちへおいで」
部屋を開けて、中の様子を覗くと
彼はまるで子供のみたいに、私が来るのを今か今かと待っていたように思えた。
そう喜ばれると・・・何だか照れる。
私はいそいそと、彼の側に赴いた。
グラハムの側に寄ると、彼は私の手を握り見上げる。
「遅かったね」
「早いほうよ、これでも」
「いいや、昨日より2分ほど遅かった。何をしてたんだ?」
「別に。・・・あ、でも車がちょっと混んでたかも・・・タクシーで来たから」
「そうか。まったく私のに足止めをさせるとは・・・いけないな」
もうコレだけのセリフを吐けるのでしたら退院させてあげてください。
貴方が看護婦さんたちに微笑むだけで
何だか腹立たしくて仕方がないのだから。
「ん?どうした、?」
「・・・・別に」
「機嫌が悪いようだが?」
「気のせいです。・・・病人は病気を治すことだけを考えてください」
「やっぱり・・・何かあったのか?」
「何もないわよ・・・気にしないで」
すぐにグラハムは私の機嫌が悪い事を見抜いた。
そうよ、機嫌が悪いわよ!
だって、何か・・・ムカつくじゃない。
怪我をして、こんなに元気なら家に連れて帰りたいのに
それも許可が下りないと連れて帰れないじゃない。
もう、やだ。
「?」
「ぃ、いやっ!」
私は思わず差し伸べてきたグラハムの手を振り払ってしまった。
自分でも驚いた・・・まさか、彼の手を振り払うなんて。
彼は少し驚いた表情を見せ、すぐさまベッドの中に手を収めた。
そして、無言の空気が流れる。
何やってるんだろ、私。
「ご、ごめん」
「いいさ・・・気にしてないから」
嘘ばっかり・・・本当は話してもらいたいくせに。
気にしてないなんて、嘘。
いつもの貴方だったら「どうしてだ?」とか「何故だ?」って言って
私に言い寄ってくるのに・・・どうして、何で?
「エーカーさん・・・点滴の時間です」
すると、看護婦さんが一人点滴の道具を持って
グラハムの部屋にやってきた。
しかも、若い看護婦さん。あからさまにグラハム目当てで来たことが丸分かりだ。
彼女の心の中はきっと浮かれているに違いないだろう。
「あぁ、すいません」
途端、グラハムが笑った。
やだ、やめてよ・・・笑わないで。
私以外の人に・・・・・そんなに優しく、微笑みかけないで!
「・・・?」
「・・・っ」
不満が限界を超え、私の瞳からは大粒の涙が零れていた。
涙を止めようとも、今は思わない。
「、どうしたんだ一体?」
「・・・・触らないで!」
「え?」
「ぁ・・・ち、違っ・・・これは」
グラハムが手を差し伸べて、私を落ち着かせようとしたが
それどころじゃない・・・もう脳内はパンクしている。
頭が混乱しすぎて・・・涙を、自分を抑えきる事が出来ない。
「・・・っ」
「!」
これ以上、彼の側に居てしまえば
きっと自分を止める事が出来ないと確信した私は
風のように、病室を飛び出していったのだった。
「はぁ・・・グスッ・・・はぁ・・・はぁ・・・グスッ」
私はしばらく走って
ふと、立ち止まり涙を拭った。
何をしてるんだろ。
こんな気持ち、いつものことじゃない・・・彼がモテるのは仕方のないこと。
以前だって・・・あの人はそうだった。
私が嫉妬したところで・・・何も解決されない。
それだというのに、どうして彼はあんなに優しい笑顔で
他の誰かを受け入れようとするの?
あの笑顔は・・・ずっと、ずっと私だけに微笑んでくれていたものなのに。
「ダメだなぁ。すぐ泣いちゃう」
彼が生きて帰ってきてくれたのは本当に嬉しい事。
だけど、それ以上に怖かったのは・・・私を忘れてしまう事。
彼は一途になると、とことん其処を突っ走る。
今回のことだってそう。
あまりにも執着しすぎて、命を顧みず、我を忘れていた。
「・・・ヤダ・・・ヤダよ・・・グラハム・・・グラ、ハム・・・っ」
彼自身、自分を忘れてしまう事は
私を忘れてしまうという事と同じだということだと私は思う。
チヤホヤされるのは仕方のないこと。
そういう容姿をしているのだから。
だけど、そう話題にされるだけで
貴方が私以外の誰かに笑顔を見せるだけで
それだけで・・・・・・怖かった。
「やだぁ・・・やだよぉ・・・・・・うっ・・・うぅ・・・」
貴方がまたどっか、遠くに行ってしまいそうで。
私から離れていきそうで。
不安が募りすぎて、もう自分自身・・・どうしていいのか分からない。
不満がたまりにたまりすぎて、私はその日
一人家に帰って、ベッドの上で泣いた。
「・・・億劫だなぁ」
次の日、私は相変わらず
グラハムの入院している病院に行った。
だって、昨日の今日。
合わせる顔がどこにあるというのだろう。
できる事なら、教えてほしいもの・・・と自分にそう問いかけていた。
正直来ないほうがいいのかもしれないけれど
体は勝手に動いて、彼の居る病院へ病室へと足を運ばせていく。
頭では「行きたくない!」と思っていても
体は染み付いた習慣に勝手に動いてしまう。
エレベーターに乗り込み
彼の入院している部屋の階のボタンを押す。
「すいません乗りまーす」
その声に若い看護婦さんたちが2人と同じエレベーターに乗り込んできた。
私は開いた状態のボタンを押し、乗り込むのを確認すると
すぐに閉まるボタンを押した。
「何階ですか?」と問いかけると「8階です」と言われたので
そのボタンを押す。
そして各々の目的の場所目指しエレベーターは動き始める。
「それよりも、聞いた?10階の患者さん」
「え?・・・あぁ、顔に火傷を負った・・・仮面の男の人でしょ?」
すると、突然看護婦さん2人が
なにやらグラハムの話を始める。
彼だと確信できるのは10階の患者と顔の火傷、そして仮面の男という部分で
すぐさまグラハムだと思った。
ああ、また彼はチヤホヤされているのだろうと、内心ちょっと涙がまた溢れそうになった。
聞き流しておこうと思ったが・・・・・・。
「昨日から様子がおかしいんだって」
「らしいね。何でも食事が喉を通らないみたい」
「ねー・・・今までちゃんと3食摂っていたのに、昨日急に”すまないが下げてくれないか“って言ったみたい」
「担当の人も、先生までも驚いてたみたいよ。この前まであれだけ元気だったのにって」
食事が喉を通らない?
嘘よ、だって昨日あんなに
元気だった・・・笑ってた・・・それだというのに、何で?
看護婦さん達の話を聞いて私の頭は困惑し始めた。
-------チーン!
すると、看護婦さん2人の目的地の階へと付いた。
2人とも会釈をして外へと出る。
私は扉を閉めると、エレベーターは私を目的地の階へと連れて行く。
「食事が喉を通らないなんて・・・何かあったのかな?」
ちゃんと食べていたのに、今頃になって何故?
やはり、病状が悪化したのだろうか?
無理な動きをしてしまったからなのだろうか?
顔も見たくないと思っているのに・・・心配して、もうそれどころじゃない。
10階に着き、私はエレベーターを降りて彼の部屋の前に行く。
昨日はあれだけ10階の廊下には看護婦さんがたくさん居たのに
先日のそれが嘘のよう・・・ポツポツと、居ても4〜5人ほどの看護婦がいたのだった。
一体昨日のうちに何があったのだろう?と
内心そう思いながら、彼の部屋の前に立ち、ノックをしようとする。
「あぁ、其処の患者さんのお知り合い?」
「え?・・・あ、はい」
すると、一人のベテラン風な看護婦さんに声をかけられた。
私はノックする手を止めて、その人の声に耳を傾けた。
「今、行かないほうがいいですよ・・・何か昨日から、機嫌が悪いというか・・・食事もまともに食べてくれないんです」
「・・・そ、そうなんですか」
「はい。かろうじて点滴や軽い検査は受けてくれるんですけどね・・・それ以外のことには」
「それ以外?」
彼女に手招きをされ、私はおそるおそる近づく。
そして、耳元で小さく囁かれる。
「昨日・・・此処の階、若い看護婦たちが行き来してたんです。多分看護婦の誰かがミスをして
それが原因で機嫌を損ねたのではないかと、皆噂してるんです。まぁ患者さんはそういったことを
する人は居ますけど・・・大抵の用がない限り、部屋に入れてくれないんですよ」
「そう、なんですか」
「挙句、必要な時間以外・・・鍵まで閉める始末で」
「え?」
「初めてですよ、こんな患者さん。機嫌損ねるならまだしも、鍵まで閉めるとか・・・まるで子供みたいですけどね」
一通り、看護婦さんは私の昨日の事情を話すと
会釈をしてその場を去っていった。
だから今日はこんなに静かなのか、とそう思っていた。
だけど、”必要な時間以外鍵を閉めている“となると・・・部屋に入れてくれないだろう。
だけど、とりあえずノックをしてみる。
『誰だ?』
「わ・・・私、だけど」
『入ってくれ』
え?
中に居るグラハムの言葉に私は思わず心の中で驚きの声をあげた。
鍵を閉めているんじゃないのか?と思ったのだが
当の本人が入ってきてと言っているからには、鍵は開いているのだろう。
入り口のボタンを押すと
ドアは自動で開き、中へと私を招き入れた。
私は、ゆっくりと一歩彼の部屋に入る。
「鍵をかけてくれないか」
「・・・ぅ、ぅん」
どうやら、私が来るまで鍵を開けていたらしい。
私はロックのボタンを押して、ドアの鍵を閉めた。
閉め終わり、振り返ると、グラハムがじっと私の顔を見ていた。
「こっちに来て」
「・・・ぅん」
グラハムに言われたとおり、私は彼の隣に行き
置いてあった椅子に座った。
私が座るのを確認すると彼は付けていた漆黒の仮面を取る。
「あっ、ちょっと!」
「大丈夫だ。検査をして異常はないといわれたのだから・・・外しても構わない」
「それなら、いいけど」
久々に仮面を外したグラハムの顔は
右半分は大きな火傷を負い、左半分は以前と変わらず美しいまま。
私は内心驚いた。
なぜなら、入院した当初は火傷が酷すぎて
仮面も外せない状態だったのだ。
「な、んで?」
「左半分は検査を繰り返した結果そんなに火傷は酷くなかったから再生治療を行ったんだ。
だけど、右半分が酷すぎてもう手の施しようがないと言われたよ」
「そう」
「一番初めに、に見せてあげたかったんだ」
「ぇ?」
一番、最初に・・・私に?
「君は献身的に私を看病してくれた。それこそ、毎日来たり・・・付っきりで看病してくれたりもあった。
だから、凄く嬉しい反面・・・・・昨日、怖かったんだ」
「グラハム・・・・・・ぁっ」
そう言うと、彼は私の腕をゆっくりと引き
自分の元へと引き寄せ、抱きしめ、私の肩に顔を埋めた。
「君に、嫌われたのかと思って・・・怖かった」
「ぇ?」
「本当はこんなところ、一分一秒と・・・居たくない」
「グラ、ハム」
「君と同じ場所に居たい、君の居る場所に居たい」
「早く・・・君の元に帰りたいよ、」
ふと、肩に温かな雫を感じた。
泣いてる・・・彼は泣いているのだ。
「寂しい・・・寂しいんだ。君が側に居なければ、私は生きていく意味がない」
「グラハム」
自分がバカだった事をようやく理解できた。
彼はこんなにも寂しくてつらかったのに
自分の醜い嫉妬で、彼をこんな風にまで苦しめていた。
グラハムは寂しさを紛らわすために笑顔を作って
素顔を仮面で覆い隠していた。
でも、本当は
とても寂しくて、泣きそうな涙を堪えていた。
「ゴメンね・・・気づいてあげれなくて。寂しかったんだね、グラハム」
私はそう言って、グラハムの背中を優しく撫でた。
彼はゆっくりと私の体から離れる、瞳にはかすかに涙が浮かんでいた。
私はそんな瞼に優しく、キスを落とす。
「みっともないな、君より大人なのに」
「そうかしら?いつもの事だから、気にしてないわ」
「ねぇ、」
「ん?何?」
「此処でちょっと・・・しないか?」
「え?!」
元に戻ると、グラハムは私に爆弾発言をした。
しようとは、つまり・・・・・・口では絶対に言えない事で、ましてや
病院の病室でやることじゃない!
バレてしまえば、それこそ私は出入り禁止になる。
「だ、ダメよ!」
「大丈夫・・・繋がりはしない。・・・ただ、を感じたいだけ」
「ダメったら!ダメ!!」
「したら、もう少し我慢して入院する。お願いだ・・・が足りない」
其処まで言われると私としては
恥ずかしい事この上ないのだが・・・正直なところ、私も・・・彼が足りてなかったりする。
あんまり大っぴらに口に出来たものじゃないから言わないでおこう。
なぜならそれを言ってしまえば、彼が調子に乗り始めるからだ。
「ちょ、ちょこっと・・・だけだからね」
「分かってる。さぁ・・・おいで」
病院でやることじゃないって分かってるけど
彼の言葉や表情には、私は逆らえない。
私は差し伸べられた手を握ると、勢いよく引かれ
ベッドにと押し倒された。
上にはグラハムが覆いかぶさる。
「ホントに、最後までしちゃだめよ」
「大丈夫だ。私も大人だ、それくらい考えている」
「誰も、入ってこないよね?」
「何のために鍵を閉めさせたと思ってるんだ?」
「あ」
まさか・・・こうなる事を見越して・・・。
「グラハムのエッチ」
「心外だな。・・・そんな事言うのは、何処の口だ?」
「っ・・・ぁん」
そう言いながら、彼の左手が服の中
胸の膨らみの部分へと侵入していく。
あまりに、久々なものだから背筋に思わず電撃が走った。
彼は手を休めることなく、膨らみを優しく揉みほぐす。
「あっ・・・あぅ・・・ふ、・・・んぅ・・・」
「・・・可愛い」
「グラ、ハ・・・ん・・・や、ぁあ・・・」
「下の方はどうかな?・・・誰も受け入れたりしていないだろうな」
グラハムはクスクスと笑みを浮かべながら
揉んでいた手を下へ、下へと滑らせ
太股を這い、下着へとゆっくり触れた。
「ぁんっ!」
「もう濡れてる。・・・感じてるのか、?」
耳元で低く囁かれながら、下着越し徐々に強く擦り上げられていく。
彼の手で生み出される摩擦と、下着の繊維で起こる摩擦。
双方が同時に起こり、私は思わずベッドのシーツを掴んだ。
「あぅ・・・あ・・・あぁん・・・グラハムゥ・・・も、もぅ・・・やぁあ」
「嘘はいけないな、。気持ちイイんだろ?」
「だ、めぇ・・・あ!・・・強く、・・・擦っちゃ・・・ぁあぁン!」
「静かにして。・・・誰かに気づかれるだろ」
「で、でもぉ・・・あぅ、ふっ・・・ンンッ!」
誰かに気づかれるとか言う前にしないでよ!
なんて言えるはずもなく、私は彼から与えられる快楽に感じることしか出来なかった。
言葉がうまく出てこず・・・ただ、擦りあげられる行為に甘く啼く事しかもう考えられない。
「ぁっ・・・あ、あ・・・ダメっ・・・グラハム・・・も、もぅ・・・」
「イキそうかな、」
「イッ・・・あっ・・・あっ・・・―――あぁあ!」
言葉が出る前に、絶頂に達してしまった。
何だか下着が汚れていく感触が手に取るように分かってしまう。
しかも、久々の行為に・・・私はぐったりとベッドに体を深く沈めてしまった。
「フフ・・・可愛かったよ、。ごちそうさま」
「バ・・・バカっ!」
「今度は帰ってから、2人で愛し合おうな」
「・・・なら、ちゃんとご飯食べてよ。私話聞いたとき心配しちゃったんだから」
「そうだな」
そう言うと、グラハムは私の横に転がる。
シングルサイズの白いベッドに、2人で寝転がるとやはり狭く感じる。
「愛してるよ、」
そういって笑うグラハムは、きっと本物の笑顔。
だけど、本当は寂しがり屋で、ちょっぴり泣き虫な・・・・・・―――。
「私もだよ、グラハム」
私の愛しい王子様。
笑顔の仮面と泣き顔の素顔
(笑顔の仮面の下の顔は本当は寂しがり屋の泣き虫さん)