「軍の薬学研究所?・・・そんなのがあったのか?」


「うん。もしかしたら其処に居る博士が多分作ったんじゃないのかな?」






車を走らせながらカタギリが研究所の話をし始めた。





「其処に居る所長がね若くして、薬学博士なんだって。薬剤や薬草の事には凄く詳しいらしい」


「それで?」


「何でも希少価値のある薬草や薬剤を唯一取り扱える人みたいで、彼の手にかかれば色んな薬剤が出来るとか」


「それだったら、その博士もこの実験に一枚絡んでるな。聞く価値はあるようだ」


「そうだね」








車をしばらく走らせ、研究所らしき場所に着いた。



表には【pharmacy technical center】と書いてある。

多分此処が薬学研究所なるものだろうな。


車から降りて、入り口に入る。
すると、研究員らしき人物が其処に居た。










「何か御用でしょうか?」


「MSWADのグラハム・エーカーが所長に会いたいと至急伝えてくれ」


「MSWADのグラハム・エーカー?・・・まさか、エーカー中尉!?・・・・只今!!」







研究員は慌てて中に入り、所長に取り次ぐよう手配をする。
数分とせずに研究員は戻ってきた。






「どうぞ、所長室へご案内します」


「ありがとう」





研究員に案内され、研究所内に入る。

しばらく歩き、1つの扉の前に来た。
研究員は、扉を叩き部屋の中に入る。







「所長・・・グラハム・エーカー中尉をお連れしました」



『ありがとう、もう下がっていいよ』



「どうぞ。では、失礼いたしました」








私とカタギリは所長室の中に通され、研究員はその場を去る。

すると、椅子から立ち上がり私の前にその人は現れた。







「初めまして。エーカー中尉、お会い出来て光栄です。私が所長のラルフ・アリシャスです」


「薬学博士とも聞いておりますが?」


「そんな、大した称号ではありませんよ」






所長のラルフは黒髪で、眼鏡をかけていて、白衣を着こなし
目は淡いブルーをしている。

至って好青年のように見えるが
多分カタギリと歳はそう変わらないはず。






「MSWAD所属グラハム・エーカーだ。こっちはウチで技術顧問をしているビリー・カタギリだ」

「初めまして」

「こちらこそ」






私の紹介で、カタギリとラルフの2人は握手を交わした。

「どうぞ、おかけになってください」とラルフに促され
目の前にあるソファーに私とカタギリは腰掛けた。


彼も私たちの目の前に座った。








「それで、今日はどういったご用件で?」


「実は軍が内密に行っている人体実験についてお伺いに来たのですが」


「ぁ・・・・・・そ、それは」








私は直球に話を持ちかけた。
遠まわしに言えば、それこそ時間の無駄になる。

私の大切ながその実験に巻き込まれ、挙句彼女の体は退化してしまったのだ。
もし、彼女の生命に関わることというのなら一刻を争う事態。

のろのろと話している時間はない。


私の話に、すぐさま彼は顔色を変えた。









「いかがなさいましたか、博士?・・・もしかして、触れてはいけない話題だったのでしょうか?」


「あっ、あの・・・・っ・・・も、申し訳ございませんっ!!」







すると、彼は私が追い詰めだした途端
突如頭を下げて謝り始めた。


あまりのことで、私とカタギリは目を合わせ驚いた。





「博士、あの・・・っ」


「本当はこんな実験、嫌だったんです。やはり退化など人類にあってはならないことで
それを無理矢理、薬の力で行うなど・・・それこそ世界のルールに反しているようなものです」


「確かに、そうですが・・・貴方は上の人たちに加担したんですよ?」


「分かっています!・・・ですが、私は・・・人体実験など聞いてはいませんでした」


「え?」








聞いていない?

博士の話を聞いて
何だか、話が噛み合っていない事に気付く。





「聞いていないとは、どういうことですか?」


「確かに退化実験を行っていました。ですが私はラットで全てを進めていたんです。
別に軍のためだとかそういうのではなく。たまたま、薬品が手に入ったので
私の、一個人として興味だけで進めていたものなんです」


「貴方の興味、それを軍が嗅ぎつけた・・・と?」


「はい。成功させたら早速他の動物で実験させてくれと言われて。
でも、まさか・・・人体実験などと恐ろしいことになるなんて思ってもみなくて」








ということは、軍は彼も騙したというわけになる。


確かに予想外のことが起きたのだ。
服用したもそうだが、それを作った彼が一番狼狽しているに違いない。






「しかも、その実験対象者が・・・エーカー中尉、貴方と分かった時もうどうしていいのやら。
お詫びの言葉もありません・・・むしろ、何と言っていいのやら」


「博士、もう落ち込むのはやめて下さい。それに、私は薬を服用してません」


「へ?」







私の言葉に博士は鳩に豆鉄砲を食らったかのように
唖然とした顔になっていた。








「では・・・退化しては」


「いません」


「中尉が服用なされてないのであれば、一体誰が?」


「お答えしますが・・・この件を内密に出来ますか?」


「もちろんです。あの、何故このような事を?」







私がおかしなな質問を投げかけたので、博士は困惑していたが
隣に居たカタギリがクスクスと笑いながら答えた。







「彼には僕や彼が信頼している部下以外へ流出できない秘密というものがありまして。
彼の口から話しますが、絶対に誰にも言わないで下さい・・・特に女性には」


「カタギリ。一言余計だぞ」


「心得ました。それで、あの・・・誰が、退化薬剤を?」








私は1つため息を零し・・・―――――。







「私の恋人であるという20歳の女の子が薬を飲みました」


「えっ!?ちゅ、中尉恋人がいらっしゃったんですか?!・・・しかも、その方が服用されたと!?」


「えぇ。おそらくお菓子か何かに薬を混ぜて飲ませたんだろうと推測しています。
今、彼女は退化して、10代前半くらいにまでに戻っていると思うんです。まぁ見た目で推測しただけですけど」


「成る程。と、言うことは・・・アレは作用していない事になるか?でも、時間は少なくとも
3時間以上は経っているわけだし・・・っ」


「博士・・・アレ、とは?」





すると、博士が独り言のように何か呟き始めた。

カタギリはそれを聞き逃さず、深く突っ込みを入れる。








「え!?ぁ、あぁ・・・いや、こちらのことです。あ、でも・・・お話、するべきかどうか」


「博士。何か隠しているのでしたら洗いざらい話したほうがいいですよ?
今、グラハムは外見平然を装ってますけど、相当怒ってますから」


「カタギリ、誤解を招くような言い方をするな」


「内心、腸煮えくり返るくらい怒りを何処かにぶつけたいとか思ってるクセに」





カタギリに言われて、私は反論しなかった。



正直、そんな感じだ。

街1つ壊滅させても足りないくらい、怒っている。
ああ、腸が煮えくり返る程に。

興味本位で薬を作ったラルフ博士に対しても怒っているし
他人から貰った物をバカ正直食べたにも怒っている。

だが、一番の怒りの矛先は私を実験対象にした軍の上層部に対して、腹が立っている。








「あのコレに関しては、本当に申し上げにくいのですが・・・話さなきゃいけませんか?」



「話してもらわないと困ります。下手したら彼女の生命だって関わっているのかもしれないんですから。
ですが、その内容によって貴方の状況が変わります。もし、最悪なのであれば」


「あれば?」



ユニオンフラッグで此処一帯、壊滅を行います
薬品や研究所諸共、塵になる事は覚悟しておいてください」



「ひぃい!?」



「とりあえず、博士。お話していただけますか?」








カタギリが優しく促す。

此処まで話されて、今更話せない何て言わせてたまるものか!


脅しをかけても(例えそれが本気であろうと)話してもらう。
すると、博士はようやく重い口を開き始めた。








「あの・・・その、実は薬の中にある薬草を入れてラットで実験したところ、退化に成功したんです。
ですが、その薬草はあまりにも希少価値が高く・・・滅多に手に入る物じゃないんです。何故だか分かりますか?」


「先ほどご自分で仰ったじゃないですか。希少価値が高いと」







私が言うと、博士は首を横に振る。






「違います。あまりにも危険すぎるんです、その薬草が。
猛毒とかではないんで、其処はご安心ください」


「分かりましたから、その薬草とは一体何です?」






「”サテュリオン“という・・・その・・・・・・一種の・・・
媚薬・・・なんです」




「なんだと?」

「び、媚薬って」







媚薬・・・だと?








私は彼のあまりの発言に、手の関節を思いっきり鳴らした。








「ひぃっ!?」



「そうですか、博士。
歯を食いしばってください



「あぁぁぁぁぁああぁっぁあああ、あの・・・ほ、ほほほほ・・・・本当に申し訳ございません!!!
もう何と言っていいのか!!ていうか、もう謝るすべしか私にはなくてですね・・・っ」



「謝る必要ありませんよ。
死んで詫びろとしか今の私には言えません



「ひぃいい!?!?」

「グ、グラハム落ち着いて!?」



「申し訳ございません!!本当に、私は・・・何て言う物を。本当にすみませんでした!!!」








カタギリに何とか宥められ、私は怒りを一旦は収めた。


しかし、ふと思う。

あの子の今、体の中に媚薬が流れ込んでいるということになる。




だが、さっき家を出るまで媚薬特有の兆候は見られなかった。






「今、彼女は普通に生活しているんですよね?」


「まぁ、そうですね。反応も見られなかったので」


「もしかしたらさんは陰性なのかもしれません」


「陰性。つまり、それに対する反応が無いということでしょうか?」


「かも、しれません。ですが・・・それが陽性の場合だと真逆です。正直、手に負えないかと」


「そんなに強力なんですか、その薬草は?」


「えぇ。現物は見たことないのですが、あるルートで粉末剤のものを分けてもらったんです。
ラットで試してみたところ陰性のラットは何ら変化無かったのですが
陽性のラットだと、もうあの時は殺すしかなかったんです」






博士の話を聞いてると、ますますが心配になってきた。

退化だけの問題ならどうにかなったものの
それに媚薬が含まれているなど、大問題だ。


そう考えたら、こんなトコロに一分一秒とも居られない。








「カタギリ、帰ろう。が心配になってきた」


「そうだね」


「解毒剤を今、急ピッチで精製してます。まだ未完成の段階でいつ頃出来るか目処が立ってなくて」


「いいんです。出来上がったら教えてください。それから、こっちの状況も何かの参考になると思いますので」





私は紙に、自分の携帯番号を書きとめ、博士に渡した。






「私の携帯の番号です。何かあったらすぐに連絡ください」


「分かりました。エーカー中尉、本当に申し訳ございませんでした」


「貴方は悪くありません。悪いのは全部上層部のクソジジィ共なんですから」


「そう言って頂けるのなら良いです。お気をつけて」


「ああ」






そう言って、私とカタギリは研究所を出て
マンションへと車を急いで走らせるのだった。

















、居るか?!」




家に急いで帰り、上がるもは居ない。

また寝室に篭ったのかと思い寝室に足を運ぶも
シーツは払いのけられたまま、彼女の姿がなかった。





「グラハム。さんは?」


「何処にも居ない。まったく、何処に行ったんだ」









―――ガチャッ。







玄関から扉の閉まる音が聞こえ、私はすかさず向かう。






!」


「おわぁ、グラハム。帰ってたの!?」







すると、が大きな紙袋を持ち
階段から降りてくる私を、驚いた表情で出迎えた。





「家に居ろと言っただろ、何で居ないんだ?」


「ご、ごめん。で、でも服無いから取ってきてたの」


「取ってくるって、何処からだ?」


「実家よ。あそこだったら、昔の服置いてると思って」


「携帯に連絡をいれてくれれば、私が取りに行った。頼むから家に居てくれ、心配するだろう」


「ご、ごめんグラハム」






家の何処にも彼女の姿がなく、本気で焦った。



私は小さなの体を抱きしめ
なんとか自分を安堵させる。

だが、ふと感じた。
何だかの体が熱い。



私はすぐに抱きしめていた体を離し、の顔色を伺う。


すると首筋に浮き上がる汗の雫。





「どうしたの?」


、汗をかいてるな・・・熱いのか?」


「へ?でもそういえばさっきから熱いけど、それがどうしたの?」


「カタギリ・・・まずい」


「もしかして・・・さんは」






私と、カタギリが再びを見ると
の息が徐々に荒々しくなっていく。





?」


「・・・なん、か・・・ハァ・・・熱ぃ」


!」


さん!」








そう言って、は私の胸に倒れこんできた。







彼女の小さな体を抱きしめた瞬間、頭の中でイケナイ事が頭を過る。
だが、彼女の事を考えたらそれも出来ない、と否定付けた。




しかし、悪魔が私を誘惑する。







彼女--を抱いてしまえ、と。





女神が愛した恋の麻薬は、違う意味で猛毒性を持っていた。





DRAG - サテュリオン -
(それは女神が愛した麻薬) inserted by FC2 system

テレワークならECナビ Yahoo 楽天 LINEがデータ消費ゼロで月額500円〜!
無料ホームページ 無料のクレジットカード 海外格安航空券 海外旅行保険が無料! 海外ホテル