あの、事故から・・・が
意識を失って、もう5日経った。
それなのに、相変わらずは目を覚まさない。
毎日、毎日・・・逢いたくて、病院を訪れるも
君は瞳も開けてくれない。
それだけで、無常に1日、1日が過ぎていく
色褪せていた世界が突如として、モノクロの世界へと変わっていった
「エーカー中尉!カタギリ技術顧問!」
「おはようございます、お2人とも。」
「あぁ、ジャック・・・それから、ハワードおはよう。」
「おはよう2人とも。」
ある日、廊下を歩いているカタギリと私を
背後から、私の部下であるジャック・ワトソンとハワード・メイスンが呼びとめ
私達は振り返り、2人に挨拶を交わした。
「おはようございます、中尉・・・中尉、どうかなされたのですか?」
「え?・・・あぁ、ちょっとな。」
「具合でも悪いんですか?」
「いや、そうじゃないが・・・。」
すると、ジャックが私の異変に気付き、声をかけてきたが
正直今の状態・・・良くはない。
なんだか、誰かと話すだけで・・・疲れる。
「すまない、カタギリ・・・先に部屋に行く。」
「あぁ・・・うん、コレカードキー。」
「ありがとう。・・・じゃあ。」
「あ、はい」
カタギリから研究室のカードキーを借りて
私は一足先にカタギリの研究室へと足を向かわせた。
今は誰かと話すより、一人で篭ってしまうのがいいと・・・私は思っていた。
色づいていた世界が突如として、白黒の世界に切り替わり
君が居ないだけどこんなにも、怖くて、寂しい世界なんだって・・・。
「・・・」
誰かに聞こえないように
ため息を交えながら私は愛しい彼女の名前を零した。
「中尉、どうかなさったんですか?」
グラハムがその場を去った後
やはり、彼の様子がおかしかったのかジャックが
カタギリに問いかける。
「やっぱり、そう思う?」
「やっぱりじゃなくて、100%どうかしてる証拠ですよ、アレは。」
「何ていうか、いつもなら『あぁ、おはよう!』って言って僕達に挨拶をするのに」
「いつもの元気が見られなかったですね・・・何かあったんですか、中尉」
ハワードの言葉に、カタギリはため息を零し
研究室に向かったグラハムの後姿を見て、再び目線をジャックとハワードに戻した。
「僕にもよく、分からないんだけど・・・事実、僕もこれ聞かされたのほんの2日前だし」
「何かご存知なんですか?」
「少しなら・・・理解はしてるつもり。本来なら彼の口から聞いた方がいいんだけど今現在、あんな状態だし。」
「あの、カタギリ技術顧問が理解してる程度でいいんです、教えていただけますか?」
ジャックの言葉に、カタギリは少し考え・・・
「・・・コレ、絶対口外しちゃダメだよ」
「え?そんなに重要なことなんですか?!」
「まぁ、彼のプライベートだし・・・あんまり首突っ込むと後が怖いだろ?」
「「確かに」」
「此処じゃなんだし・・・あぁ、確か展望塔の休憩室が確か空いてたね・・・其処に行こうか」
「はい。」
「あ、じゃあ僕ダリルさんも呼んできます!あの人も心配してましたし」
「あぁ、頼むよ。」
そう言って、ジャックはダリルを迎えに
カタギリとハワードは一足先に展望塔の休憩室へと向かったのだった。
「えぇええ?!中尉に、恋人が!?」
「バカ、声がでかいぞジャック」
「あ、す・・・すいません。」
展望塔の休憩室には
カタギリ、ジャック、ハワード、ダリルという面々が揃っていた
そして、カタギリはグラハムに恋人のという子の存在を明かした。
「まぁ、驚くのもそりゃね・・・だって、彼バレないようにしてたし。」
「バレるも・・・そんな素振りとか、まったく分かりませんよ。」
「中尉と付き合いの長い私でも、まさかって感じでした・・・それは事実なんですか、カタギリ技術顧問」
「うん、事実。・・・彼には、恋人がいる。まぁ、こんなことが軍内部の女子隊員たちが聞いたら発狂するだろうね」
「確かに・・・その、・・・お嬢さんが酷い目を見ますからね。」
軍内部でも、群を抜いて女性人気なグラハム
MSWADではトップパイロットで、しかもあの容姿・・・振り向かない女性はいない。
そんな彼に恋人がいるという事実が知れ渡れば、それこそ
怖いことが起こるのは目に見えている。
「その、さん・・・中尉と何の関係が?」
「知らない?5日前のショッピングセンターの事故」
「あぁ、あれですか。凄かったです・・・もしかしたら、テロの可能性もあるとかで動いてるみたいですが」
「もしかして、さん・・・その、事故に・・・」
勘付いたダリルが声を出すと、カタギリはゆっくりと頷いた。
「瓦礫の下敷きになってね」
「え?じゃあ・・・さんは、亡くなった・・・とか」
「いや、一命は取り留めたらしいけど、意識不明だって・・・まだ、目を覚まさないらしい。」
「そんな・・・っ」
「だから、中尉・・・なんか抜け殻みたいに」
「グラハム、相当思いつめてるみたい・・・自分が行っておいでって言わなければこんな事にならなかったって」
「で、でも・・・っ、事故は・・・防ぎようがないじゃないですか・・・突然、だし」
ジャックの言葉に、全員が黙り込んだ。
「そうだね。全部偶然に起こったんだよ・・・彼にも、もちろんさんにも否はない。だけど・・・彼は
自分を責めている・・・だって、大切な人を事故でこんな風にしてしまったんだから」
「中尉・・・」
「彼ね・・・彼女と一緒に居るようになって、2年前にあった事故のことや、いろんなことから
解き放たれたって・・・言ってたんだ。」
「あの、テストパイロットの・・・事故、ですよね」
ハワードや、カタギリにとっては苦しい記憶
2年前に起きたテストパイロットの事故・・・それが原因でグラハムは
『上官殺し』というレッテルを貼られた。
それからと言うもの、グラハム自身何かを押し殺し怯えて生きていた。
友人であるカタギリはただ、慰めることしか出来ず
部下であるハワードは、何と言っていいのか分からなかった。
「でもね、グラハム・・・さんが居てくれたから、今は自分らしく生きていけるって・・・僕にそう言ったんだ」
『今まで、私は・・・何を怯えていたんだろうか』
『どうしたの?』
『考えたら、笑えてしまうことだ・・・あの事故で”上官殺し“というレッテルを貼られ
何に対しても、ビクビクと怯えて生きていた・・・あの子に出逢うまでは』
『あぁ、・・・花少女の事かい?』
『あの子に出逢えて、私はようやく私のすべきこと、私自身の事、色んな事を見つめなおした。
そして、何よりあの子が私の光になってくれた。』
『惚れ込んでるの?』
『惚れるも・・・溺れてるよ。彼女という存在に。
私という世界にはあの子が居れば・・・あの子だけ居れば何もいらない』
「中尉、そんなにさんのこと」
「さんはグラハムの全てだ。彼を絶望の淵から、生きる希望を見出してくれた人なんだ・・・彼にとっては
無くてはならない存在なんだよ・・・。」
「・・・今は少しでも早く、お嬢さんが意識を取り戻すことを」
「祈るしか・・・ないんだな。」
そう言って、4人は
青々とした空を見上げた
少しでも早く・・・と願いを込めながら。
「・・・・・・」
私は、カタギリからカードキーを渡され
一足先に、研究室に居た。
だが、仕事が手に付かない・・・のことが心配で
私はソファーに転がり、目を腕で覆い隠していた。
「・・・・・・」
誰も居ない部屋
たくさん泣いて、たくさん名前を呼んだ
声が掠れてしまい
凄く今、虚しく部屋中に響いた。
「・・・何故、何故君じゃなきゃダメだったんだ・・・っ」
どうして?
どうして、君だけがこんな風にならなきゃいけないんだ
私が一体何をした?
彼女が一体何をした?
ただ、二人だけの世界・・・愛し合っていただけなのに
誰にも邪魔されず、2人で愛を囁きながら、体を重ねながら
確かめ合った、愛し合ってきた。
それなのに・・・どうして
「・・・・・・」
もう、何回と彼女の名前を呼んだのだろうか
数え切れないほど、呼んでいる。
美しい君の名前・・・初めて聞いたときから・・・大好きだった君の名前
聞いた時は、何度も何度も繰り返した。
だって、初めて私を理解してくれた・・・私に光を、生きる理由を与えてくれた人だったから
----------PRRRRRR・・・・!!!
すると、研究室の電話が鳴り響いた
私は気だるい体を起こし、電話に出る。
「はい」
『あぁ、エーカー中尉ですか?』
「そうだが。」
すると、どうやら通信室からの連絡らしい・・・私にということは、カタギリでは無いことは確か。
『エーカー中尉にお会いしたいという方がいらしております』
「私に?」
『女性の方ですが・・・そちらにお連れしましょうか?』
「いや、私が行こう。」
電話を切り、私は踵を返し・・・ドアを開ける。
今現在誰にも会う気力はないのだが、多分此処にやってきたのは・・・
「・・・エーカーさん・・・」
「・・・やはり、アンナさんでしたか。」
迎えに行くと、アンナさんが居た。
私は少しの笑みを浮かべて、彼女を迎えた。
「あ・・・あの、お話したいことがあって・・・」
「私に?」
「その、警察の方に預けてた・・・のその、荷物が帰ってきたから・・・」
「あぁ、そうですか。・・・此処ではなんです、こっちへ。」
「はい」
私はアンナさんを連れて、再びカタギリの研究室に戻った。
彼女がソファーに腰を下ろしたのを確認すると、私は彼女の前にコーヒーを出し
私も向かい合うように座る。
「それで、の荷物は?」
「あ、はい。」
アンナさんは持ってきた、のバックを私に渡した。
あぁ、覚えている・・・彼女がお気に入りにしていた白のバック。
あの日もコレで出かけて行ったな。
「・・・あの、それで・・・バックの中に・・・あるものが、入ってたんです」
「あるもの、と言いますと?」
すると、アンナさんは自分のバックの中から
細長い、綺麗にラッピングされていた箱を出した
<されていた>・・・つまり、今の状態は、もう綺麗な包装紙もメチャクチャで
巻かれていたリボンですら、ズタズタに裂かれている。
箱なんて、ヘコんで・・・少し原形を留めていない。
「コレ・・・が・・・エーカーさんにあげるものだったと・・・」
「え?」
そう言って渡された、箱を渡され
私は、箱を見て・・・丁寧に、ラッピングを解き・・・蓋を開ける
「・・・コレは・・・」
中に入っていたのは、腕時計だった。
しかも、有名なブランドの・・・秒針が時を刻む・・・アナログ時計
時刻はローマ数字で記されていた。
だけど、その腕時計は・・・時をもう刻まない
文字盤を覆いかぶさっていたガラスは粉々に砕け
秒針も酷い具合に曲がっている
腕に嵌める部分ですら・・・バラバラに、なっていた。
「・・・こんな高いものを・・・」
「あの子・・・コレ買う時・・・言ってたんです。”グラハム、時計欲しがってた“って」
「え?」
アンナさんの言葉に、驚きを隠せない。
・・・そういえば・・・3ヶ月前・・・
『んー・・・』
『どうしたの、グラハム?何か悩んだような顔して』
『あぁ・・・いや、時計をな新調しようと思って・・・デジタルは壊れやすいし、携帯を開いて見るのも面倒だしなぁ』
『時計欲しいの?』
『いいよ、は気にしなくて。自分で買うから』
『・・・ぅ、うん。』
それから、結局時間が過ぎて
時計を買う事すら忘れていた・・・だけど、あの子は覚えていたんだ
私が時計を欲しいと言った、3ヶ月前から・・・あの子は、覚えていたんだ。
「・・・っ・・・ッ・・・」
私は、壊れて動かなくなった時計の箱ごと
しっかりと胸に抱きしめた。
『グラハム、ハイ!・・・時計欲しいって言ってたでしょ?』
笑顔で、君がこれを渡してくれるはずだったのに
もう私の腕には粉々に砕け、壊れた時計だけがある。
君を抱きしめる腕が・・いまは抱きしめることが出来ない
「・・・・・・、・・・・愛してる、愛してるよ・・・だから・・・だ、から・・・」
お 願 い 、 目 を 覚 ま し て
腕にしっかりと抱きしめた
壊れた腕時計の秒針は、無常にも彼女が事故に遭った時間を差していた
壊れて砕けた、君からの贈り物
(腕時計の秒針を戻したら、君は戻ってくる?)