あれから、何日経った?何日過ぎた?

時間をはぐらかすように、自分に言い聞かせていた。

実際が目を覚まさなくなって・・・もう、何週間と過ぎようとしていた。




















「聞いたかい、グラハム」
「何がだ?」





カタギリがソファーに座っている私を
見下ろすように言ってきた。






「あの事故・・・・・・自爆テロ、だってさ」

「・・・・・・そうか」






”あの事故“というのは
もちろん、が巻き込まれた事故のことを指している。

私は苦し紛れ、軽く笑った。





「制裁の、加えようがないじゃないか。何処の国がケンカを吹っ掛けてきたのか
やった本人が死んでしまった以上、仕返しの仕様がない」

「グラハム」

「出来れば、この手で・・・同じ思いを味あわせてやりたかったが・・・それも無理か」






テロの犯人も、きっと愛すべき人がいたはず。
なら、もしこの世に未だ生きているとしていたら、同じ思いを
味あわせてやりたかった。


愛しい人を、奪われたという恐怖に・・・。







「グラハム・・・手に持っているそれは?」

「ん?・・・あぁ、コレか?」







私は手に持っていた、から貰うはずだった
粉々に壊れた時計をカタギリに見せた。






「時計だ。壊れてしまったがな」

「でも今時珍しいね・・・アナログなんて」

「あぁ。・・・あの子が、が・・・私に渡すはずのものだった」

「彼女が。・・・・・・そう」






こっそりと、私を驚かす目的で
彼女は時計を買ったに違いないだろう。

だが、私の手に渡ったときにはもう・・・・・・。







「粉々だ。・・・・・もう、この時計は、時を刻まない」

「グラハム」

「あの子は、私が喜ぶと思って・・・驚かせようとして、買ったはずなのに・・・」







私の手に渡った時は、もう粉々に壊れてしまった時計があった。


本当なら、笑顔で君はコレを私にプレゼントするはずだったのに。


どうして、君はずっと眠りに就いたままなの?


どうして、君がそんな風にならなければならなかったの?


どうして・・・どうして・・・・・・っ。



















が・・・私の名前を呼んでくれないんだ・・・・・・っ」















毎日、毎日
早く目が覚めないかと、病院に
足を運んでいるも、は一向に目を覚まさない。

規則正しい、機械音が
彼女の心臓の鼓動を伝えているだけ。

酸素マスクを通じて、君の息遣いが聞こえる。

心臓は、動いているはずなのに・・・・・・何故、何故、目を覚ましてくれないんだ・・・!









「不安だよ、カタギリ」

「何故だい?」

「このまま、ずっと・・・彼女が目を覚まさないかと思うと・・・不安で、たまらない」

「グラハム。・・・大丈夫だよ、きっとさんは」

「目を覚ます保証が何処にあるって言うんだ!・・・私には、が・・・が必要なんだ。
あの子が居なくては・・・私は、生きていく自信がない。・・・あの子を失ってしまえば・・・私は・・・・・・っ」






















「 
 っ て  ん で し ま い そ う だ 」








壊れた時計を握り締めたまま、髪を掴み
顔を伏せ、嗚咽を零した。






私の世界に、光をくれた

この世でもっとも、私が慈しんで愛している

が居なければ、私は成り立たない。

が居なければ、私は生きてはいけない。








私の世界に、が居なければ、死んでしまう。












・・・・・・・・・・・っ!」

「グラハム」

「嫌だ・・・嫌だ・・・行かないでくれ・・・・・・何処へも、行かないでくれ・・・・・・」




















私の愛しい、


























軍をすばやく退勤し
私は、今日もの入院している病院に来た。

未だICUから抜け出せない彼女を
私はガラス越し、見ていた。

相変わらず、無数の機械に囲まれ
彼女は深い眠りについている・・・心臓は規則正しく動いているのに。










ガラスに手を当て、彼女の名前をボソリと呟く。

きっと君の耳に届いているはず・・・そう信じて、何度も、何度も此処で
私は彼女の名前を呼び続けていた。


あぁ、美しい君の名前。
ねぇ、いつになったら君は目を覚ましてくれるんだい?












「ママー、パパー・・・このお姉ちゃんだよ。このお姉ちゃん」




すると、一人の幼い少年が
精一杯の背伸びをして、眠っているの姿を誰かに伝えていた。

私は少年を見ていると、廊下の数m先から
彼の両親らしき人たちがやって来た。

目線が合うと、二人は私に会釈をして
こちらにやって来た。

父親が、少年を抱き上げ姿を見せる。





「間違いないのか?ジャン・・・このお姉ちゃんなのか?」
「うん。このお姉ちゃんだよ」
「あのー・・・この女性の、お知り合いの方でしょうか?」

「え?・・・あぁ、はい・・・そうですが」



すると、今度は母親が私に話しかけてきた。
私がの知り合いとわかると、彼女は涙を溢れさせ
深々とお辞儀をしてきた。










「息子を・・・息子を、助けていただき・・・ありがとうございます!」

「え?」







助けた・・・?

一体、何がどうなのか私は頭の中で混乱を起こしていた。







「私たちが目を離した隙に・・・この子が事故に遭って・・・瓦礫の下敷きになってしまい。
ですが・・・この女性の方が・・・助けてくださったと、この子から・・・聞いて」

「病院中、息子の記憶を頼りに・・・助けてくれた方を探していたんです。助けてくれたお礼を
しなければならないと・・・そう、思って」




少年の両親は涙を流しながら、そう言ってきた。





「でも、まさか・・・息子を庇って・・・このような状態にしてしまい・・・・・本当に申し訳ございませんでした」

「い、いいえ・・・頭を、上げてください」

「ですが・・・!」

「彼女は・・・きっと、息子さんを助けなければならないと思ったのでしょう。この子は、そういう子ですから。
命を誰よりも大切にする・・・優しい子です。死んでいい命なんて、一つもないと思っているので」

「ありがとうございます!・・・ありがとう、ございます!!」





泣きながら、少年の両親は
必死に私にお礼の言葉を言っていた。

きっと、それは眠っているにも届いているはずだろう。












少年とその両親は
お礼を言い終えると、どこかへと去っていった。

去り際に「早く目が覚めることを祈っておきます」とだけ残し、行ってしまった。



私はまた、眠っているを眺める。




「君は、自分の命を顧みず・・・子供を助けたそうじゃないか、




子供の頭には、包帯が巻かれ
そして、足には軽傷と思われるガーゼが貼ってあった。





「子供は、君のおかげで軽傷で済んだそうだ・・・・・・・よかったな、





命を重んじている君だからこそ
消してはいけない未来の灯火(ともしび)を生きながらえさせた。


だけど・・・・・・・・・。







・・・ッ・・・・・なぜ、・・・何故・・・・・・っ」






涙が、溢れて止まらない。

未来の命の炎を、君は救った。

だけど、君自身の命の炎と引き換えにしなくても

2人とも、助かる方法を考えれば・・・よかったのに。






「・・・・・・・・・・・・・・・ッ・・・・・・








目を覚ましておくれ。


時よ戻っておくれ。


私の名前を呼んでおくれ。


君の声を、君の鼓動を、私の側で聞かせておくれ。








「目を、覚まして・・・・・・ッ」







お願いだよ。




もう一度、君の側で、君の美しい名前を




呼ばせておくれ。








彼女の僅かな命の灯に、私の命を・・・
(自分の命を削って彼女に分け与えたい、そうすれば君は目を覚ますだろう)


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