軍基地から少し離れた場所に私が彼女と出逢った場所でもあり
そして、彼女の養家でもあるダウンタウンの花屋にとやってきた。
しかし、車は家から少し離れた場所に止める。
窓を開けて、離れた場所から中の様子を伺う。
「彼処かい?さんの養家って」
「あぁ。降りて中を見てこよう。が居るかもしれない」
「でも中尉が行ったら、お嬢さん嫌がるかもしれないから僕が見てきましょうか?」
ジャックの言葉に私は後部座席に座っている彼を睨みつけた。
「す、すすす・・・すいませんでした!!ぼ、僕・・・車の番をしておきます」
「じゃあ僕も此処で待ってるよ」
「分かった。行ってくる」
私は車から降りて、花屋に近づく。
陰に隠れて中の様子を伺うも、何処にもの姿はなかった。
私は物陰から出て、中に入る。
「いらっしゃ・・・あら、エーカー中尉じゃないですか」
「お久しぶりです。あの、は此処に来てませんか?」
中に入るとの養母が優しく私達を出迎えてくれた。
私は軽く挨拶をしてすぐさまの所在を尋ねる。
「ならさっきまで、居ましたけど」
「何処に行ったか分かりますか?」
「あら?あの子、中尉に言ってなかったのかしら?」
養母は頬に手を当て考え込む。
言ってなかった、とはどういうことなのだろうか?
それもそれで気になる所だが、とにかく今はが何処に居るのかを
突き止めるのが先決だ。
「あの・・・それで、は?」
「この先に、グランシェロ公園というのがあるんです。ほら、貴方とが初めてデートするときに
待ち合わせに使った公園ですよ。其処にあの子嬉しそうに行きましたよ。
よっぽど、カイルに会えるのが楽しみなのね。大きな花束作って行ったし」
養母の口から零れてきた名前「カイル」。
やはり、はそいつに会いに行ったのだと分かった。
「ありがとうございます」
「あら、もういいんですか?」
「えぇ。が何処に居るのかが分からなかったもので」
私は店から出て、急いで車に戻った。
「あ、中尉おかえりなさい」
「で・・・さんは居たの?」
「いや。この先にあるグランシェロ公園に向かったらしい」
「其処に、さんは居るんだね」
「あぁ。どうやらカイルに会いに行ったみたいだ。急ごう」
そう言って車を発進させ、公園へと向かった。
ようやく公園に着いた私たちは近くに車を置き
を捜しに公園内に入る。
「本当に、此処に居るんですかね。お嬢さん」
「養母の話によると、此処でカイルと会うことになっているみたいだ」
私は辺りに気を配りながら、を捜した。
久々に会える人物に、が喜んでいるのは私としては嬉しいものだ。
しかし、それが彼女の想い人だとすれば、話は別になる。
私はを離さないと、引き取ったときから決めていた。
だから、想い人が居ようが・・・私は誰にも、を譲る気もなければ渡す気もない。
「中尉!!お嬢さんです!!」
「何っ!?」
ジャックの声で、私は彼の指差す方向を見る。
すると、其処には大きな花束を抱え辺りをきょろきょろと見渡すが居た。
私たちは草むらに隠れて様子を伺う。
「ちょっ、どうして、隠れるんですか!?」
「職業病だ」
「悲しい性だね」
ボソボソと草むらの中で私たちは会話をしながら
の動きを見ていた。
「グラハム。いつまでも見てないで止めなきゃ、さんがカイルに会う前に」
「そうですよ、中尉。今止めなきゃいつ止めるんですか?!今ですよ!!」
「カタギリ、ジャック」
の動きを見ていつまでも動かない私を見ていた2人に後押しされる。
「そうだな、よし!」
私は草むらから立ち上がり、彼女に声をかけようとした瞬間――――――。
「!」
声を出したのは、私じゃない
その声では、声の元を見つけ・・・優しい微笑を浮かべた。
そして、すぐさまそちらに駆け寄る。
目線でその先を追うと
其処には、私やカタギリよりも遙かに年上・・・40くらいの口ひげを生やした男が立っていた。
あまりの光景に目が点になる。
「グ、グラハム。彼がカイル、なのかい?」
「ぃ・・・いや、年からして・・・違う、はず」
「でも、あの人・・・中尉はおろか、カタギリ技術顧問よりも年上じゃないですか!?」
確かに、あの男がカイルとは思えない。
は持ったいた花束を男に渡した。
そっと近づいて、二人の会話を耳に入れる。
『これ・・・お花です』
『あぁ、こんなに。ありがとう、』
『いえ、いいんです。それよりもカイルは?』
の言葉に男がカイルでないことにホッと肩を撫で下ろした。
すると、がカイルの所在を聞く。
男は、私達が居る方向とは逆方向に指を差す。
生憎私たちが隠れているところからはその風景が見えない。
『カイル!!』
が嬉しそうにカイルの名前を呼ぶ。
ようやく、本物のカイルの登場というわけだ。
さぁ、どんな奴かこの目で私が見定めてやろう!
そして二度と私のを誑(たぶら)かすな、と厳重注意を促してやる。
そんなことを思いながら目を向けていると―――――。
「 ワン! 」
「・・・・・・」
「中尉、アレ」
「グラハム、もしかしてカイルって」
「犬・・・・だったのか?」
金色の毛並みをしたゴールデン・レトリーバーが
嬉しそうにに近づき、彼女は喜んで頭を撫でる。
『ワン!ワン!』
『カイル、どうしたの?あっ!カイル、何処行くの!?』
すると、犬が私達というか、私の方へと向かって走ってきた。
しかも至極嬉しそうに。
「えっ!?何か、こっちに来てますけど!?」
「グラハム。もしかして君にさんの匂いが付いてるんじゃ」
「なっ?!・・・・まぁ、考えてみれば確かに毎日を抱きしめているから
匂いくらいは付いているだろうし、がいつもブラウスにはアイロンをかけているしな。
洗濯だって彼女がいつも干してくれているし。私は毎日の匂いに包まれているようなもんだよ」
「誰も今君の惚気を聞いてる場合じゃないんだよ!!大型犬が差し迫って」
「ワンッ!!」
----ガバッ!!
「うわぁっ!?!?」
「グラハム!!」
「中尉!!」
犬に抱きつかれ、私は地に倒れこんだ。
多分私の服に、と同じ匂いがしたため犬が反応してやってきたのだ。
「すいません、お怪我は・・・・って、カ、カタギリさん!ジャックさん!」
「あ・・・ど、どうもさん。いい、天気だね」
「お、お嬢さん。今日も、ご機嫌麗しいことで」
カタギリとジャックは、焦ってどうにか言葉を繕う。
そして視線が一気に私の方へと浴びせられる。
「グラハム」
「・・・・・・」
何と言っていいのか分からず、私は犬で顔を隠していた。
「付けてたの?」
「・・・・・・」
「グラハム!」
「す、すまない。だが、しかしっ!」
「しかしもないわよ!カタギリさんとジャックさんまで巻き込んで。もう・・・カイル、おいで」
が言うと、犬は私の上からゆっくりと退いた。
私は彼女とまともに目を合わせることが出来ない、気まずい空気が流れる。
「出てきて。紹介するから」
に言われ、草むらから出た。
私は体中に付いた土を払う。
すると、頬に優しい感触が伝わってきた。
「」
「顔、汚れてる。拭いてるから動かないで」
「あり、がとう」
は自分が持っていたハンカチで私の顔に付いた土を
拭いてくれていた。
ただ、その間は黙ったまま何も話しかけてこない。
私は何も言えず、服についた土を払っていた。
「何で、付けてたの?」
「えっ?」
すると、沈黙が破られた。
でも、彼女は目を合わせてくれない。
「そんなに、私のこと信用してなかった?」
「違う。コレは、その、すまない」
「もういいわ。出来た、行きましょう」
そう言って、彼女は私の手を握り男の元へと連れて行くのだった。
数日振りに触れたの手は、とても優しくていつもと変わらない温もりだった。
君の温もり、
君の優しさ
(君の温もりはいつもと変わらず優しかった)