グラハムと一緒に日本に来て3日が経った。

私は離れのお部屋で1人、ボーッとしていた。



本日は別行動・・・というわけではないのだが
明日カタギリさんのお見合いといういことで、2人で
お洋服を買いに行ったらしい。



昨日まで一緒に行動していたのだが
突然別行動(?)に移ると、こうも暇な事はない。
私は1人、タタミの上に転がる。






「つまんないの」





ボソッと呟いても、誰かかが答えてくれるわけもなく
私はタタミの上をコロコロと転がる。




すると昨日グラハムに買ってもらった、和風の手鏡が視界に入ってきた。











『そちらの妹さんにプレゼントですか?』








ふと、手鏡を買ってもらったお店のお姉さんの言葉が蘇ってきた。


私は焦るも、グラハムは笑いながら私の肩を抱き寄せ・・・―――。









『いいえ。私の恋人です』






サラリと答えたのだった。

その瞬間、嬉しかったと同時にちょっぴり不安になった。









「私って、子どもっぽいのかな?」







体をうつ伏せにして、手鏡を自分の元へと引き寄せ指でつつく。



確かに私とグラハムは7つも歳が離れてるし
向こうは私よりも数年と年を重ねているし、それなりに・・・恋だって。










は私が初めて心から好きになった人なんだよ」と笑顔で
彼は私にそう言った。

それは・・・そうかもしれない。
でも、私にとってグラハムが初めての恋で・・・彼と出逢った時
私はまだ・・・18歳と子ども、だったのかもしれない。




彼の周りを取り囲む女の人は、私よりも
少し年上の人ばかりで、みんな大人びている。

それに比べて私は・・・・・・―――。










「やめよ。何か虚しくなってきた」







考えれば、考えるほど・・・自分がますます
子どもに思えてしまい、虚しくなってきた。

















さん。ごめんなさい、お布団取りに来てもらえるかしら?」
「あっ・・・は、はい!」






離れの入り口からカタギリさんの叔父さんの
奥様の声がしたので、私は体を起こして急いで入り口に向かう。

其処に立っていたのは、白いお布団を抱えてやってきた奥様だった。






「すいません、わざわざ持って来てもらって。言ってくだされば、私自分で取りに伺います」

「いいんですよ。お客様なんですから、ゆっくりなさってください」

「あ、はい」





そう答えて、私は奥様から布団を1組受け取り、中へと運ぶ。








「それにしても」

「何でしょう?」
































「お2人とも毎晩お元気なんですね」


「きゃっ!?」












ドスン!!







奥様のあまりの発言に、私は思いっきりコケた。
幸い、布団がクッション代わりになってタタミに顔面直撃は免れた。






さん、大丈夫ですか?」

「は・・・はぃ。何とか」






大丈夫じゃないです・・・特に心臓辺りが。




でも、誰でも怪しむに決まっている。
毎日・・・ここ2日続けて、お布団をクリーニングに出してもらっているのだから。






「すいません。毎日・・・その、お布団を・・・」

「いいえ。いいんですよ、若いうちはそれくらい元気じゃないと」

「は、はぁ」




奥様は知らないだろうなぁ。

毎日私が気絶するほどしているんですよ?
それでもあの人は次の日すごく清々しい顔してるんですよ?
お布団だって、毎日1組使ってはダメにして、クリーニングに出しての繰り返しを。









だから「コンドームは?」と昨晩そんな事を
(勇気を振り絞って)彼に尋ねてみた。








「そんなもの・・・
私と君の愛には邪魔なものだ」






だって。



ちょっと待ってよ!いくら、私がお薬飲んでるからって
自分は何もしないでいいっていうのは、いかがなものかと思うわよ。











「ダ、ダメ!これ以上お布団汚したらご迷惑になるでしょう。・・・コ、コンドーム付けて」


「ヤダ」


「じゃあしない」


「それもヤダ。を感じれないのは死ぬのと一緒だ。だからスる」


「お布団汚れる」


「そうだな。じゃあ、明日買ってくるから・・・させてくれ


「ダメです」








しばらく、その攻防を続けて・・・・・・―――。






「・・・分かった」






ようやくグラハムは折れてくれた。
あぁ、お布団が綺麗なまま・・・清潔が保たれたと私は安堵した。










「なーんてな。私が大人しくここで引き下がるとでも思ったか?」

「はぁ!?ちょっ・・・きゃっ、ぁん・・・・グラハム!!」






が、グラハムはわざと諦めたフリをして私に襲い掛かってきたのだ。





「ちゃんと明日買ってくるから」
「ダメだって!あっ・・・や、何処触って!?」
「さぁ、今日もたっぷり愛し合おうな






そして私は本日
奥様に謝りながらお布団をクリーニングに出してもらった。

今返ってきたのは、1日目のお布団だ。












「別に悪い事じゃないですからね。そう落ち込まなくていいんですよ」
「本当にすいません」





私はもう一度奥様に謝罪した。





「でも、本当にグラハムさんはさんのことが大好きなんですね」
「え?」
「だって、出際にあの人・・・」

















の事、よろしく頼みます。もし、何かありましたら連絡ください。すぐに戻ってきます』









「・・・・っ」

「愛されてる証拠ですよ」








そうやって、心配してくれるのは・・・彼の優しさ。




大人で、余裕があるから・・・何でもこなせてしまう。




だから、私はグラハムに甘えちゃうんだ。









「あ、そうだ。今日主人も遅くなるし・・・ビリーやグラハムさんもお外でお食事してくるから
女2人、手を抜いて出前でも取りましょうか」

「そ、そうですね」






私は急いで笑顔を取り繕った。
今日はグラハムが居なくて良かったと
内心、私はホッとするのだった。






















―――チャポン!







「ふぅ」





奥様と食事をして、片づけをしようとしたら
「私がするから、さんは先にお風呂どうぞ」と言われたので
お言葉に甘え、私は一足先にお風呂を頂いている。

もちろん、母屋のお風呂。

ヒノキっていう木材で出来た、香りのいいお風呂。
入浴剤は何だか緑色の・・・木々のイイ匂いがする。




湯船に浸かっている間も、私はボーっとしていた。



もちろん、グラハムのことを考えている。



自分は出かけて、それでも
何かあったら急いで帰ってくると、奥様に告げた。



私と違って、彼には心のゆとりがあるからそんなことが言える。






「私って、やっぱり子どもだなぁ」






そう呟いて私はお湯の中に潜った。





子どもみたいな私をグラハムは何処を好きになったんだろう。



まぁ彼に聞いても、返ってくる答えは
「もちろん、全部に決まってるじゃないか!」とか言いそう。




そうじゃない、そうじゃないんだよ。

もっと、ちゃんとした答えがほしいの。

ねぇ、グラハム。

教えて・・・私の全部が好きなら・・・・・―――。


























「・・・・・・・・・」




アレ?・・・なんだろう、グラハムの声が聞こえる。




・・・・・・」





とても心配そうな彼の声。・・・何でそんな声してるの?









「グラ、ハム?」

「意識が戻ったんだな。よかった」






意識が戻った?
一体彼は何の話をしているのだろうと私は思った。

というか・・・――。






「アレ?私、お風呂・・・」




そう。
私はさっきまで母屋のお風呂に居たはずなのに
なぜか今は、離れの部屋・・・しかも、おでこには濡れタオルが置かれ
体は布団の上に寝かされていた。






。君は母屋の風呂でのぼせてたんだよ」

「えっ!?」





彼の発言に私は驚きを隠せなかった。


そういえば、確かに。
お風呂の中に潜って、其処からの記憶がない。







「丁度、君が入浴している最中に私とカタギリが帰ってきてな、奥方と談笑をしていたんだよ。
もちろん、君が上がってくるのを待っていた。
だが、中々上がってこないを心配して奥方が見に行ったら
案の定、君がのぼせていたわけだ」


「あ、ははは・・・・・すいませんでした」




恥ずかしい・・・!
生まれて初めて、私はのぼせました・・・しかも人様のお宅のお風呂で。
もう恥ずかしい事この上ないわ!!


恥ずかしさのあまり、体温の上昇が手に取るように分かる。

が、ふと気づいた。






「・・・・・・あ」

「どうした、?」

「・・・・・・見た?」

「何を?」

「私の・・・はだ、か」





私は顔を赤らめながら、彼を見た。

そう、着ている服に違和感を感じだから。
着ている服は、寝巻き用の浴衣なのだが・・・サイズが、男性物のような気がするからだ。

しかも、かなり大きい。






「はぁ。まったく、変なことを聞くんだな君は」

「じゃ、じゃあ・・・見てな」

「見たに決まってるじゃないか」

「っ!?・・・グラハムの、エッチ!!!!」







そう叫んで私は彼を叩いた。


もう、穴があったら入りたい!!入って二度と、死ぬまで出てきたくない!!






「バカ!バカ!!グラハムのバカ!!エッチ!変態!!」

「い、痛い。落ち着け」

「知らない!知らないもん!!グラハムのバカー!!」




私ってやっぱり子どもなんだ。
こんな風にすぐに彼を叩いて、泣きじゃくる私は・・・・・――――。












「私以外、の裸は誰も見ていない!!」


「ふぇ?」




瞬間、グラハムのその声に私は叩く手が止まった。
すると、グラハムは微かに顔を赤らめながら
横へと向け、ボソボソと喋り始める。








「私の、ワガママだ。・・・の肌は、例え旧友であるカタギリであろうが
女性である司令の奥方であろうが・・・み、見られたくないんだ。
だから、君を湯船から引き上げたのも、浴衣を着せたのも全部私がしたんだ。
浴衣は近くにあった司令の着物だから、サイズが大幅に違うんだよ」


「グラハム」


「子どもじみてるだろ?・・・こんな私を君は笑うだろうな」







グラハムは苦笑いを浮かべながらそんな事を言った。

ふと、浴衣の結び目を見ると
不器用に結ばれた跡・・・それは慌てて彼が結んだ証拠。
襟も・・・逆に重ねてある。


器用に何でもこなす彼が、唯一焦りを見せた瞬間にも思えた。

私は顔を伏せた。






「そんなこと・・・ない」

?」

「グラハム・・・大人だよ」

「いいや、私は子どもだ。君を独り占めしたい・・・おもちゃを独占する子どもと何ら変わらない」

「子どもは私なの!」





私は大声で叫んだ。
多分彼は驚きの表情を見せているに違いないだろう。









「子どもは私なの。グラハムが大人だから、余裕な顔ばっかりするから
一生懸命背伸びするけど、それでもやっぱり大人になれない。
だから、何でもなんでも・・・大人っぽく見せようとする。だってそうでもしなきゃグラハム、他の人に・・・取られちゃうから」





「でも、どんなに頑張っても・・・私子どもなの。グラハムの隣に立っても
妹みたいにしか見られなくて・・・そんなの嫌だし、ちゃんと恋人なのに」


、もういいよ」


「恋人に見られないから、嫌なの!グラハムの恋人は私なのに!・・・子どものままじゃ、いゃ・・・!!」






瞬間、体を思いっきり引き寄せられ
グラハムにキスされた。舌が、口の中に入ってきて・・・絡んでくる。

数秒して、彼が私から離れ私を抱きしめた。
肩に、彼の顔が当たってドキドキする。






「グラ、ハム」

「・・・君は子どもじゃない。むしろ、私のほうだ」

「ちが」

「違わない。私のほうが子どもなんだ。君は知らないだろうけど
外を出歩くたびに、皆を見てる・・・特に男達は・・・を見るんだ。
君があまりにも可愛いから、綺麗だから。君が笑ったりするだけで、私だけじゃない
男達は君に釘付けになる・・・だから、手を離したくなかったんだ」

「あ」








そういえば、昨日。
何処を歩くにしても、彼は私の手をずっと握ったままだった。

道を歩くときも、電車の中でも、彼は片時も私の手を離さなかった。
唯一離したのは・・・彼の義理のお兄さんのお店を訪れたときと、ご飯を食べてるときだけ。

それ以外はずっと、グラハムは私の手を握ったままだった。








「さっきも言ったように・・・私はおもちゃを独占する子どもと同じで
夢中になったら目すら離したくない性分でな・・・それこそ、取られたりなんかしたら
逆に怒りを露わにしてしまう。制御が、利かなくなるんだよ」



「グラハム」



「君をおもちゃと同じにするのはダメな考えかもしれない。
だけど、は私がずっと慈しみ、愛し続けてる人だから・・・・・・尚更、誰にも取られたくないんだ。
お風呂で君を助ける前・・・カタギリや、司令の奥方にも脱衣室には足を踏み込ませなかった。
の全部を見ていいのは、私だけだから」







どうしよう・・・何だか嬉しい。
嬉しくて、鼓動がすごく早まっていくのが分かる。

もちろん、彼の鼓動の音も聞こえてくる気がした・・・すごく早い。



こんな彼・・・初めてかもしれない。

じゃあ、今まで私は何のために悩んでたの?








「・・・・・・」

?・・・ちょっ!?」








私は、そんなグラハムを思いっきり布団に押し倒した。

あまりに突然の事で、彼は驚きのあまり
目を見開かせて私を見ていた。






、ちゃん?」

「バカ」

「いきなりのバカ発言にくわえ、この体勢は如何なものかと思うぞ」

「もうグラハムなんか知らない。私がどれだけ悩んだか分かる?分かんないでしょ。
いっぱい、いっぱい悩んだんだよ」



「居ない間も考えて、お風呂でも考えて、それでも答えは私が子供だからって言う理由にしか辿り着かなくて。
返してよ、私の悩んだ時間返して」

「そう言われても、過ぎ去った時間は返せない。どうすればいいんだ?いや・・・・・・」
































どうしたいんだ?」











分かったような声で、しかもグラハムは笑っている。

ホラ、すぐそういう顔する。
だから貴方は大人なの・・・私が子ども。

何でも、なんでも・・・貴方はお見通しなの。







「お仕置き、するもん」

「おぉ怖い。私は何をされるんだろうか」







分かってるくせに、そんな反応する貴方が・・・・・・――――。











「好き」

「私も好きだよ、










     
グラハム
余裕な、大人の態度。


      
わたし
我侭な、子どもの態度。





              
子ども
これは、ほんの小さな・・・私のイタズラなのかもしれない。











いたずら・おこちゃま/とらべる・ぱにっく
〜滞在3日目・前編〜
(悩めば悩むほど、自分が子どもに思えて。だから貴方に仕返しという名の悪戯を仕掛ける)


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