「知ってる、グラハム?」
「何がだ?」
カタギリの研究室に相変わらず私は入り浸っていた。
カタギリは研究資料を片手に、パソコン処理をしており
私はというと、ソファーに座り書類に目を通していた。
突然のカタギリの質問に私は書類から目を離しカタギリを見る。
「ウワサ。なんでも、君のウワサが流れるみたいだよ」
「私のウワサ?ほぉ・・・で、それはどんなウワサかな?」
いつものこと
他愛もないウワサだ、と思い込み
私は笑みを浮かべながらコーヒーを口に含んだ。
「君に恋人が居るって言うウワサ」
「ブッ!!・・・ゴホッ、ゴホッ・・・ゴ、ホッ・・・な・・・何だと?!」
は?
どういう事だ?
まさかの返答に、私は飲んでいたコーヒーを外に吐き出し、むせた。
そして、唖然とした顔でカタギリに聞き返す。
「だーかーら・・・君に恋人が居るって言うウワサがこのMSWAD中に流れてるんだよ」
「誰だ、そんなウワサ流したのは!!」
「知らないけど。でもそれって事実でしょう?君に恋人が居るのは」
「だが、なるべく仕事場にそういった恋沙汰は持ち込みたくないんだよ」
「仕事場に持ち込みたくないねぇ〜」
カタギリは疑わしい眼差しで、私を見る。
当たり前の話をしている。
色恋沙汰を仕事場に持ち込むなんて、プライベートを
持ち込んでいるのと一緒だ。
力説をしたにも関わらず何やらカタギリの目が冷ややかだ。
「な、何だその目は」
「別に〜」
「やめろその目。私をバカにしているのか?」
「そういうつもりじゃないけどさぁ・・・何かねぇ」
「だから何だ?カタギリ、いいか?言いたいことがあるならはっきりと」
----ガチャッ。
「ねぇ、グラハム。これなんだけどね?」
「ん?何だい、」
すると、別室から恋人である・が
少し困った表情をしながら出てきた。
彼女の声を聞くなり、私はソファーから立ち上がり
すぐさまの側に駆け寄る。
「それが色恋沙汰持ち込むなっていう人間の態度?変わり身早すぎだよ君」
「うるさい黙れ」
「え?何の話?」
「は気にしなくていいんだ」
カタギリの言葉を一蹴して、私はの方へと向き直した。
「それで?どうしたんだ?」
「あのね、これなんだけど」
「ん、何処かな?」
「ちょっ、グラハムくっつきすぎ!」
「そうか?・・・いいだろ、私と君は恋人同士なんだから」
「だからって、カタギリさん居るでしょ!」
私はカタギリが居るにも関わらず
の腰に自らの手を回し、自分の元へと引き寄せた。
「それで・・・は何処が分からないのかな?」
「み、耳ッ!・・・ぃ、息が・・・っ」
「は耳が弱いのか?・・・そうかそうか。可愛いな」
顔や耳を真っ赤にし、体をよじらせる様を見ると
悪戯心に火が付いてやめられなくなる。
本当には可愛くてたまらない。
「ちょっ、・・・やめっ・・・吹きかけ、なぃ・・・で」
「ん?どうした?顔を真っ赤にして」
「や・・・グラ、ハム・・・もぅ」
「2人とも―・・・イチャつくなら、他行ってやるか、ウチに帰ってからにしてよ」
私は微笑を浮かべながら
其処にカタギリが居るということも知りながらも
やはり、をからかうのは本当に楽しくて
愛らしい彼女を見れるのは、からかうのをやめたくなくなる。
--------ビーッ!
すると、突然研究室の扉の呼び出し音が鳴った。
カタギリは呼び出しに応えるよう受話器を上げ
私とは動きを止め、彼を見る。
「はい?」
『カレン・マリアートだ。・・・こちらに、エーカー中尉がいると聞いて来たんだが』
「ちょっとお待ちを。・・・マリアート大尉だよ、グラハム。君がいるって聞いてきたみたい」
すると、カタギリがニヤニヤしながら、私を見た。
多分彼的にはおじゃま虫が来たぞ、と意思表示をしたいのだろう。
せっかくのとの戯れが邪魔されてしまったが、致し方あるまい。
私はため息をつき、を見た。
「」
「何?」
「しばらく、隣の部屋に居てくれないか?」
「え?・・・あ、そうだよね。うん、分かった」
そう言って、私はを別室へと入れた。
ジャックやダリル、ハワードの3人には知れているのだが
他の隊員達にはなるべく秘密にしている。
いや、下手に騒がれるのが嫌なだけであって・・・深い意味はない。
一番の理由として・・・奴らにを見せたくないのが最大の理由。
小さな理由として、一般人を軍内部に入れるなんて他の誰かに知れたら、謹慎どころの問題じゃない。
だから、なるべく他の誰にもを映さない様に。
が別室に入ったのを確認して
元居たソファーに腰を下ろし、書類を手に持ち
あたかも「仕事をしていた」ような振る舞いを見せる。
「今開けます」
『ありがとう』
私の準備が整ったのが分かると
カタギリが部屋のロックを解除し、外に居た彼女は研究室へと入ってくる。
しかし、その表情は・・・何とも怒った顔に近い。
「何用でしょうか、マリアート大尉?」
「昔のように、カレンと呼ばないのか?」
「歳や階級から言って、私は貴女に敬語を使われるつもりはありません。・・・貴女の自由に喋ればよろしいでしょう?」
「そう。・・・じゃあ、自由に喋らせてもらうわ」
私の言葉を聞いたのか、軍隊口調からタメ口へと変わる。
「ねぇ、グラハム・・・ウワサは本当なの?」
「ウワサ?さて・・・何のことでしょうか?」
「とぼけないで!・・・貴方に、貴方に・・・恋人が居るって言うウワサよ!」
ココでウワサが本当ですなんて、口を滑らせてしまえば
の危険が高くなる。
「高々ウワサでしょう?そんなウワサで踊らされるとは、貴女らしくない」
「高々ウワサですって!?・・昔付き合ってたのに、そんな事言うの!!」
は?
付き合ってた?・・・私と、カレンが?
見に覚えのない記憶だぞ、それは。
「ちょっ、お待ちください大尉。私は、貴女と付き合った記憶は」
「覚えてないの?・・・4年前、貴方私に言ったじゃない・・・好きだって・・・言ってくれたじゃない」
カレンは泣きそうな声で、私に訴えかけてきた。
いやいや、ほんとに・・・記憶がない。
本当に私にとっては見に覚えのない記憶だ。
「グラハム!貴方覚えてないの?私達付き合ってたじゃない!!」
「大尉。何かの間違いじゃ」
「私、認めないわよ。貴方のこと理解して、愛してるのは私だけなんだから」
「ちょっ・・・え?」
「マリアート大尉落ち着いて」
「カタギリ技術顧問は黙ってなさい」
「・・・はぃ・・・」
カレンの恐ろしさに、カタギリも肩身が狭くなった。
彼女のほうが君よりも1つ年下なのに、何をそんなビクビクしてるんだ。
もうちょっとガツンと言うべきだろう・・・とカタギリを見る。
「グラハム・・・私、認めないから」
「あの、ですから」
「恋人ですって・・・?そんなの私が許さないわ」
「えーと・・・とにかく大尉、私の話を」
「もし、恋人とか居たら・・・その時はその子を目の敵にするからね」
「ちょっ!?」
あまりの発言に心臓が恐ろしいくらいの早さで鼓動する。
を目の敵にするだと!?
可愛らしい彼女に手を出したら・・・いくら私だって黙っておかない。
階級や歳を無視してもだけは守りきらなければならない。
「じゃ、それだけを伝えに来たから。失礼するわ。
グラハム?いいこと・・・覚えておきなさい」
そう言って、カレンは颯爽と踵を返して部屋を去っていった。
あまりのことで私は唖然として、頭が働かない。
「付き合ってたの?大尉と?」
「記憶にないぞ、そんなの」
「じゃあ彼女の勘違い?」
「良くは分からん。・・・あ、をこっちに連れてこよう。あまり一人にさせるのは可愛そうだ」
「過保護というか、溺愛というか・・・ホントさんが大好きだねグラハム」
カタギリの言葉を聞き流しつつ、を入れた別室へと入る。
「、もういいぞ。・・・・・・?」
だが、別室に入るなりが膝を抱え、蹲っていた。
私はすぐさま近づき、肩を叩く。
「、どうした?・・・具合でも悪いのか?」
「・・・か・・・」
「え?」
「バカって言ったのよ!!」
すると、は目に微かに涙を浮かべて私を睨みつけた。
この目・・・知っている。
そう、この目は私に対しての反抗する目だ。
「へぇ、そう。私のほかに、彼女が居たんだ」
「いや、・・・違う、その・・・違うんだ」
「何が違うのかしら、グラハム?」
「・・・・・・」
笑顔になるが・・・目が笑っていない。
私は一気に背筋が凍った。
「・・・コレは、私には身に覚えが」
「もう、貴方とは別れます!!」
「なんと!?」
彼女は大声を上げて、私にそう言った。
あまりのことで、私の心に100万のダメージが与えられてしまった。
浮かび上がる過去の彼の事情
(違う、断じて・・・二股などとしているつもりはない!)