「じゃあ、ちょっと行ってくるね」
「あぁ。外は雨が降っているから気をつけていくんだぞ」
「うん。行ってきます」
「行っておいで」
ある日、は養家に用事があるというので支度をして出て行った。
しかしながらの悪天候。
雨が降っているので十分に気をつけて行くように私は玄関から彼女を見送った。
「まさか、1人になるとはな」
私はを見送った後、ゆっくりリビングに戻ってソファーに腰掛けた。
いつもならがいて当たり前の部屋なのに
今は彼女がおらず、部屋が広く感じれた。
「2年前までは1人が、コレが当たり前だったのに」
2年前までは
と出逢うまでは部屋には私一人だけだった。
必要なときにしか帰ってこなかった部屋。
それなのに、彼女が、が来てからは
毎日と言っていい程返ってくるようになったし、部屋全体も明るくなった。
「そういえば、と出逢ったのも・・・こんな雨の日だったな」
私は雨降る窓の外を眺め、笑みを零す。
2年前のこんな雨の日に出逢ったことを思い出していた。
私はダウンタウンを1人歩いていた。
戦争の激化で
私はまた1人、友を亡くした。
とても信頼していた、部下であり、友と呼べる仲だった。
彼は、部隊の応援で戦地に赴き、そして戦死した。
私も彼と共に、部隊の応援に行っていれば彼を死なせずにすんだ。
いや、彼だけじゃなく他の人達だって助けられたのかもしれない。
それなのに、私は・・・・上層部の命令で本部に残っていた。
上層部は『君が此処に居なくては、誰が守るって言うんだ?』と
口を揃えて言っていた。
そうだ。
彼らは私ばかりを頼っていた。
彼らは私に全てを求めていた。
だから、私は完璧でなければならなかった。
人々は”エース“だの”トップファイター“等といって担ぎ上げていた。
だから私は完璧であると同時に
そんな周囲の期待に応える人物でなければならなかった。
私はそんなプレッシャーに耐えていた。
怖かった。
周囲の目が冷めてしまうことを毎日、毎日・・・・そんな思いに怯えていた。
ふと、髪に何かが当たる。感覚的に言うと「冷たい」。
其処から雨が降り始めてきたことが分かった。
小さく落ちていた雨粒が段々と強まり
本格的な雨へと変わっていく。
其処に居た人たちが早々と何処かへと去り
店を出していた者たちもすばやく何処かへと引き上げていく。
私は空を見た。
「お前は、私の代わりに泣いてくれるんだな」
愛しいこの空が、憧れていたこの空が、私の代わりに雨という涙を流していた。
泣けない私の変わりに、大粒の涙を流し泣いていた。
ため息が零れ、心の中で呟く。
もう・・・・疲れた。
戦うことも、生きることも、考えることも・・・・何もかも。
ふと、私はこのまま死ぬのも悪くないと思い始めた。
「いいかもな、それも」
膝を地面につけ、項垂れた。
冷たい雨粒の矢に突き刺され、冷えきって
このまま死ねばいい、ああそうだ・・・もう死んでしまえば楽になれる。
すべてのモノから、解放される。
煩わしいモノから、何もかも。
私はそう思えたら何だか楽になり、フッと笑みが零れた。
だが私が笑みを零した次の瞬間雨が止んだ。
項垂れた頭を上げると、雨が止んだ理由が見えた。
傘だ。
誰かが私の頭上に傘を差して、雨粒を遮っていたのだ。
誰だ?と思い、私は傘を差した人物を見るために
目線を横へと動かす。
すると、其処に居たのは・・・・1人の少女だった。
優しい顔で、私を見て・・・・彼女はこう言った。
「こんなところに居たら、風邪引いちゃいますよ」
その優しさに、重かった背中の重圧が剥がれ落ちた。
それと同時に、私はその少女に
自分でも今はよく分からない感情を抱いたのだった。
Rain-雨の日、運命の出逢い-
(2年前の雨の日。それが私と彼女の出逢いだった)