「こんにちは。・・・あの、さんは?」
「そそくさと、配達に出ました」
「そう、ですか」
それから数日。
花屋を訪れても、さんは居なかった。
あの日以来、さんは私に顔を合わせようともしてくれない。
自分のの不注意で起こしたこと。
さんはなんら悪くない・・・全部私が悪いことだ。
だから一言謝って・・・済まされるような問題かどうかは分からないけれど
それでも何か言わずには居られないから、相変わらず足繁く通っているのだが
肝心の彼女のほうが私を避けていて、話すどころじゃなかった。
「すみません、引き止めること出来なくて」
「いえ、いいんですよ」
「エーカーさん、貴方自分で悪い事したって分かって反省なさってる所は偉いと思います。
普通の男だったら自分のせいにしたりしないから」
「彼女を悲しませた、という自覚があるんで、当然です」
「そうですか。でも、もうすぐエーカーさん来るよ?ってに言うと
あの子店の奥に隠れたり、配達出たり、貴方を避けるような行動して。
貴方が真面目に向き合おうとしているのに・・・あの子ったら」
「いいんです。私が悪いので、さんが私を避けて当然なんですよ」
「エーカーさん」
そう、それは自分の責任なのだ。
スレーチャー少佐の墓前で、自分を見失っていた。
私の曖昧な受け答えに彼女の心が傷ついたんだ。
彼女が悪いわけじゃない。
彼女を困惑させた私が悪いのだ。
「まぁ頑張りますよ、謝るのは男の義務です」
「私も、できるだけ貴方に会う様を説得してみます」
「ありがとうございます。では、さんによろしくとお伝えください」
「はい」
今日もまた、私はさんに会わず
軍へとまた足を戻し歩き出した。
あぁ、いつになったら彼女の顔を見て話せるのだろうか。
あれからもう3日は経った。
3日間喋りもせず、顔も合わせずをしていると何だか不安でたまらない。
彼女に嫌われたくないと、一番に気をつけていたことだというのに
何処で間違えたのか?と考えたらこの前、さんを後ろから
抱きしめるように眠ったバチが当たったのだと・・・思ったのだった。
「中尉、お昼にしませんか?」
「おいしいランチの店、知ってるんですけど・・・どうです?」
「あぁ・・・もう、そんな時間か。今行く」
私は緩めていたネクタイを調え、軍服の上着を簡単に羽織る。
久々、デスクワークに追われていた。
始末書やら、報告書やらと、部下の失態を押し付けられ
嫌々ながらそれを全てこなしていた。
そして、仲間から昼だと言われるまで時間に気づかず
仕事に没頭していた。
それでも、頭の片隅には
さんとの仲直りの方法を考えていた。
でも、結局はその方法すら見つからず・・・な状態。
私はため息を零した。
「いかがです、書類は?」
「え?ああ・・・間違えだらけだよ。訓練よりも先に、書類の書き方を教えてやらなくてはな。
あと、報告の仕方もな。この前のは演説を聞いているようで酷すぎる」
「訓練生の時には教えてもらえませんからね。仕方ないですよ」
「まったくだな」
私は、仲間数人と訓練生上がりのフラッグファイター達の話をしていた。
まぁ新人教育も上司の務めか、と思いながら再び私はため息を零す。
『ねぇ、君・・・可愛いね、一般人?』
『ぁ、あの・・・私、その・・・配達の途中なんで・・・』
『花屋さんで働いてるの?・・・可愛いねぇ〜名前は?』
『あのっ・・・その、仕事が』
「おい、ナンパしてぞ。ったく、いいよなぁデスクワークな奴らは」
「体力勝負の俺たちとは違うんだよ。それなりに、暇なんだろ?」
仲間たちが、数mと離れた場所から
他の部署の奴らが女の子をナンパしているのを見つけた。
私もそちらに目を移すと・・・―――――。
「君たち、先に行っててくれ」
「え?!中尉・・・!?」
「どちらへ!?」
私は、その光景を目に入れた瞬間
羽織っていた軍服の上着を脱ぎ、離れた場所へと足を急がせた。
仲直りの方法が見つからない。
何を言って話を始めればいいのか分からない。
その「きっかけ」が私には欲しかった。
だけど、そういうものは突然とやってくるものだということが分かった。
「さん」
何度謝っても、貴方が私を許してくれる根拠はないかもしれません。
だけど私はもう・・・耐えられないんです。
貴女の顔が見れなくなるのも。
貴女とお喋りが出来なくなることも。
貴女の側に居れなくなるのも。
私には、死ぬよりも耐えられない。
だから、どうかお願いです。
もう一度私に話しかけてください、私に微笑みかけてください。
私は、困っていたり悲しんでいる貴女を
心の底から「助けたい」と望んでいるのですから。
そう、心の中で言いながら
悪魔に誑(たぶら)かされそうな天使を救いに向かうのだった。
Save-もう一度-
(貴女を救いたい。困っているのなら、私の名前を呼んで欲しい)