「ただい、ま・・・エーカーさん、来た?」
「来た。今さっき」
「・・・」
私は、配達から戻り即座にエーカーさんが
店を訪れたのかアンナに問いかける。
すると、今先ほどあの人はこの店に居たというのを聞き
ホッとする反面、胸の奥でモヤモヤした気持ちが、湧き立っていた。
「ねぇ、私・・・配達行く際、聞いたよね?」
「・・・いつまで、エーカーさんを避け続けるのか・・・」
「いい加減にしなさいよ、。あの人も、自分がしたことすっごく悔やんでたよ」
「え?」
エーカーさんが・・・悔やんでた?
「え?・・・ど、どうして・・・?何でエーカーさん」
「理由は知らないわよ。相手のプライバシーに関わることだし。
でも、あの人はアンタに謝ろうとしてる・・・自分が悪かったって、言ってたよ」
「エーカーさん」
「それだというのに、アンタはエーカーさんを避けてばっかりじゃない。
このままの状態続けたら・・・いずれ、あの人来なくなるわよ。
仕事があるのに忙しい時間割いて、わざわざ来てくれてるんだから。
が向き合おうとしないんじゃエーカーさんがお店に来なくなるのは時間の問題でもあるのよ」
「・・・そ、そんな・・・」
あの人が、もうお店に来なくなる?
仕事をしていて、忙しい時間を割いてまで来てくれている。
もう、もう・・・―――――。
『こんにちは、さん』
「アンナ、どうしよ!!」
「へ?!」
私はアンナの両肩を掴んで迫った。
「わ、私・・・私っ!!」
「、落ち着いて」
「どうしよ、どうしよ・・・私・・・エーカーさんが来なくなったら・・・っ」
「分かったから落ち着いて」
私はあまりのことで混乱して、涙が出て止まらない。
エーカーさんがもし、店に来なくなったらどうしよう。
もう、もう二度と・・・話しかけてももらえない。
もし街ですれ違っても、気にも止めてもらえない。
お店にすら、来てもらえない。
「どうしよう・・・あの人に、あの人に・・・っ」
「エーカーさんに?」
「・・・嫌われたらどうしよ・・・」
色々考えたら怖い。
あの人に嫌われてしまうんじゃないのかと。
優しいあの人に嫌な子だと思われて
これからどう話しかけていいのかますます分からなくなってしまう。
「・・・アンタ、もしかして」
「ぇ?」
泣いていると、アンナが目を大きく見開き私を見ていた。
あまりの視線に私は涙が止まった。
「もしかして、エーカーさんのこと好きなの?」
「え?」
好き?
私が、エーカーさんのこと?
「ち、違う!!・・・そ、そんなこと・・・ないない!」
「だって、アンタ・・・今さっきエーカーさんに嫌われたくないって」
「そ、そうだけど・・・それと、好きとは・・・」
「違うっていうの?」
だって、あの人のあの容姿。
絶対彼女が居るに違いない。
花だっていつも買っていくのはその彼女へのプレゼントに決まってる。
私がもし、差し違えてあの人に好きなんて言ってしまったら
今以上に迷惑になる。
ていうか、何私あの人のこと気にしてるの?
あの人はただお客さんで、お友達みたいな人なのに。
「うわぁぁあ〜、どうしよどうしよ!!!どうしよ、アンナ!!!」
「とりあえず、落ち着いてってば」
エーカーさんの事を考えれば考える程、私はただ慌てふためくだけだった。
それから、3日が経った。
エーカーさんを避け続けてもう3日も経った。
相変わらずきっかけが分からず
私はエーカーさんを避け続ける日々を送っていた。
それでもアンナからは毎日のようにエーカーさんの事を聞いている自分がいる。
「いい加減に一歩進め!」とアンナからは言われているけれど
その一歩がどうしても踏み出せずに居た。
そんな中私は差出人が軍内部に届けるよう言われ
配達をしていた。
しかし持ってきたまでは良かったが
男の人2〜3人に絡まれていた。
もう、配達の途中で差出人は受取人の所までの花を待っている。
それだと言うのに思わぬ弊害に遭遇してしまった。
「ねぇ、今から俺たちとお昼しない?まだでしょ、奢るよ?」
「あのっ、結構ですから」
「いいじゃん、ね!ちょっとくらい付き合っても」
「きゃっ!?」
私は、男の人に手を握られ振り払おうとしたけど
やっぱり力の差は歴然としていて、女の私にとっては無理なもの
振り払えるはずがない・・・。
誰か助けて・・・!と、心の中で叫ぶと―――――。
「離したまえ。彼女が嫌がってるじゃないか」
すると、何処からともなく・・・聞き慣れた声に、私はハッとし
すぐさま声の方向に顔を向けた。
其処には―――――。
「エ・・・エーカーさん!」
エーカーさんが睨みを利かせ立っていた。
思わぬ助け舟に私は驚きを隠せない。
助けて欲しい、とは望んでいたけれど、まさかの人物に内心動揺しっぱなしだ。
「げっ!?・・・お、おい・・・あの人・・・」
「あぁ、い・・・行こうぜ」
すると、男の人は私から手を離し慌てた面持ちで
ゾロゾロと何処かへと引き上げていった。
「大丈夫ですか、さん」
「は、はぃ」
すると、エーカーさんがすぐさま私に近づいてきた。
しかも、その顔はとても心配そうな顔で、私を気にしていた。
私は戸惑いながらも大丈夫との、返事を返す。
「あの・・・エーカーさん・・・どうして・・・此処に?」
「え?!・・・あ、いえ・・・たまたま軍に外交上の用件で来ていたものですから。
ほら、私外交官ですので」
「あ・・・ああ、そうですよね」
そういうと、私たちはお互い黙り込んでしまった。
久々のエーカーさんに私は、どう話しかければいいのか迷っていた。
また、何だかエーカーさんも、同じような感じで迷っているみたいだった。
いい加減向き合わなければ、一生この人の前で嫌な子になってしまう。
もう二度と・・・お店にだって―――――。
「ぁ、あのっ」
「さん・・・すいませんでした」
「え?」
私が言葉を放とうとした途端、エーカーさんが謝ってきた。
すると、エーカーさんは左手で頭を掻く仕草をする。
「この前は貴女を、不安にさせるつもりじゃなかったのに
私の受け答えが不十分で困らせてしまって・・・ごめんなさい」
受け答えが不十分。
彼のその言葉を聞いて、何が悪かったのか気がついた。
違う。アレは貴方は全然悪くない。
「・・・・・・私がいけないんです」
「いや、私が貴女を・・・!」
「違うんです!」
「え?」
「あの時の貴方に私・・・お役に立てなくて・・・自分に、腹が立っただけなのに・・・私の方こそ、ごめんなさい!」
「よ・・・よかった」
「エ、エーカーさん!?」
エーカーさんは一気に体の力が抜けたみたいにその場に座り込んだ。
私は、すぐさまエーカーさんに近づく。
するとエーカーさんは顔を上げ、いつもの、優しい・・・笑顔で私を見ていた。
「これで、貴女といつものようにお喋りができると解釈していいんですよね?」
「え・・・あ、は、はい」
その笑顔を見た瞬間・・・心臓が、ドクンと動いた。
いつもの、優しい笑顔なのに。
こんなにも、心臓が鳴り響いて耳に聞こえて・・・うるさい。
うるさいと、分かっているのに耳障りと思わない・・・この鼓動は一体?
「さん。お詫びと言っては何ですが、今度私と出掛けませんか?
もちろん・・・2人っきりで、色々と歩き回りましょう。私が案内します」
「え?」
その言葉に、私はさらに心臓が大きく高鳴った。
どうか、この音が・・・貴方に聞こえてませんように・・・・と、私は思っていた。
Move-動き出した鼓動-
(鳴り響く、心臓の音は一体何を意味しているの?)