「・・・・・・」


お帰り・・・どうしたの?」






私は呆然としたまま、花屋に戻ってきた。
戻ってきた私をアンナは不思議そうな顔をして迎えた。







「ア、アンナ・・・わ、私・・・ど、しよ・・・」


「どうした?」
















「エーカーさんに、今度2人で出掛けませんかって誘われた」


「はぁあ!?」










アンナは大きな声を出して、私の両肩を掴んだ。

お店に居たお客さんたちも目を丸くして、私たちを見ていた。






「ア、アンナ・・・!?こ、声大きい!!」


「だっ、だって・・・ちょっ・・・異例の展開だな」


「へ?」


「うぅん、なんでもない。それで返事はしてきたの?」


「え?」
















『2人っきりで・・・ですか?』


『あ、いけませんでしたか?・・・もし、イヤならいいんですよ』


『そ、そんなことないです!!・・・イヤじゃないです、全然』


『ホントに?』


『え・・・えぇ』


『じゃあ、待ち合わせ場所はお家の近くの公園で。日時は・・・此処に書いておきます』


『あ、はい』


『では、またその日に会いましょう。しばらくはどうしても仕事の都合で
お店の方には伺えませんので・・・すいませんさん』


『い、いえ・・・大丈夫です』


『そうですか。では、また出掛ける日に』





















「それで、コレ・・・渡された」




私はエーカーさんが書いてくれた紙切れをアンナに渡した。
すると彼女はそれをまじまじと見て、再び私を見る。






「日時と連絡先書いて、が受け取ってきたってことは、思いっきりOKの返事と見ていいわね。
まぁ話の内容聞く限りで既にOKしたも同然ね」



「そ、そうだよね・・・ぅ、うん」





夢なのでしょうか?



夢だったら覚めて欲しい。

だって、あの人の隣歩くなんて・・・私には勿体無いことなのに・・・!!




もし、あの人の彼女さんに見つかってしまえば
それこそ昼ドラ並の修羅場に成り兼ねない。



だけど、今更断るなんて・・・私には出来ない。









「ぅうう〜」


「何で悩んでるの?」


「・・・色々。それから、何着ていくか」


「何着ていくか考えてる時点で行く気満々なんじゃない。よし、来た!私も手を貸す」


「ふぇ?」





すると、アンナは私の腕を掴んで店を出る。







「ちょっ、ちょっと・・・!?ど、何処行くの!?」


「そうね・・・とりあえず、エステ行って・・・それから、洋服屋に小物屋に」


「えぇぇ!?・・・な、何で・・・っていうか、お店は!?」




「ママ、後頼んだ!」


「ハイハイ。いいじゃない行っておいで。
エーカーさんとお出かけするなら身なりは綺麗にしとかなきゃ」






ラグスお養母さんはニコニコしながら私とアンナを見送る。





「お養母さん、私別に・・・っ」

「ダメよ、女の子は綺麗にして行かなきゃね。アンナ、頼んだわよ〜」

「ラジャ!ホラ行くわよ!」

「いぁああ〜」





そう言って、私の断末魔が店中に響き渡り
私はアンナに連れて行かれるのだった。




















「うぅ〜・・・き、緊張してきた・・・っ」






3日後。ついにこの時がやって来た。



そう!エーカーさんと出掛ける日。



あの後、エステやら、何やらとアンナに連れまわされ
数時間後私はお店に戻ってきた。

丁度来ていたお客さん全員の視線に私は恥ずかしさのあまり
そのまま奥に引っ込んだのを覚えている。



そして本日はついに本番。
紙切れに書かれていた日時と前もって
言われていた待ち合わせ場所に私は30分前に来ていた。


しかし、緊張のあまりと
普段着慣れない服を来ているせいか
1人で居るのが何だか恥ずかしくてならない。







「・・・うぅ・・・今帰ったらダメかな」


「・・・、さん?」


「え?」







すると、聞き覚えのある声に私は振り返ると――――。










「エーカー・・・さん」


「すいません、遅くなって」






エーカーさんが驚いた表情で私に近寄ってきた。



いつもは黒のスーツと、青色のブラウスを身にまとったのに対し
今日は黒のトレンチコート、紺色のシャツに白のストライプが入ったギャザーシャツ
下はジーンズと、いつもと違うカジュアルな姿に私は思わず息を呑んだ。




この人、やっぱり何着てもカッコイイ。







「あの、どうしました?」


「い、いえっ!・・・別に」







見惚れてた、なんて口が裂けても言えない。






「すいません、遅くなって。女性を待たせるなんて私もダメだな」


「そ、そんなことないです!まだお約束の時間まで早いし・・・私が早く来過ぎて」


「そうですか。・・・じゃあ、行きましょうか」


「は、はい」






そう言って、私は優しく微笑むエーカーさんの隣を歩いた。

この人と肩を並べて歩くなんて・・・ちょっとドキドキして、心臓の音が
聞こえないでと何度も願った。







それから、いっぱいエーカーさんといろんな所を歩き巡った。


私にとっては全てが新鮮で、何もかもが新しくて。
今まで無色透明な世界が、一気に色鮮やかに染められた。


私一人で楽しんでいたけど
エーカーさんはただ、優しく私の笑った顔を見てて
時々照れくさくて、顔も見れないときがあった。




それでも、あの人は私にすごく優しい。

どうして、其処までするのかよく分からないけど
この人の優しさに包まれて、安心して全てを任せられていられる。

一人じゃないんだって、そう思える。




私はエーカーさんの顔を見つめる。







「ん、どうかしましたか?」


「え?!・・・・ぁ、い、いぇ・・・何でもないです」








するとエーカーさんと突然目が合って、思わず逸らしてしまった。

恥ずかしくて・・・まともに顔が見れない。



変な子とか思われてしまったのではないだろうかと思い
私はおそるおそるエーカーさんの顔を見る。






でも、見た顔は、やっぱりあの優しい微笑だった。







心臓が、ドキドキと音を立てて・・・すごく緊張してる。




いつも、こんなに感じないのにどうして今日だけ?


この人がいつもと違う格好だから?


2人っきりだから?





それとも・・・?








「あれ・・・エーカー中尉、どうしたんですか?」

「ホントだ。中尉じゃないですか」

「珍しいこともあるもんですね。中尉がこんなところに居るなんて」



「き、君たちっ!?」






すると、私服の男の人3人がエーカーさんに話しかけてきた。

エーカーさんは私から手を離し、すぐさま男の人3人組に駆け寄る。





ちゅうい?



何のこと?



私が首を傾げて、その風景を見ていると
エーカーさんと3人組の人たちは何やら話しこんでる。





「へ、へぇ・・・エーカー先輩・・・奇遇ですね」

「ですね。せ、先輩に会うなんて」

「エーカー先輩でもこういう所にいらっしゃるんですね」


「ま、まぁな」






すると、急に3人組の男の人達はエーカーさんを先輩呼びし始めた。

其処で納得がいく。
きっと仕事先の後輩なのだろう、と。



最初は軍人さん?と思ったけれど
エーカーさんに限って軍人なんてあり得ない話だ。

というか、ああいう容姿で軍人だったら
それこそ軍に居る女性たちが黙っちゃいないだろう。



1人で色々と肯定付けていると・・・・・・。







さん・・・彼らは私の仕事先の部下です」







エーカーさんが3人組の人たちを私に紹介した。



「そうでしたか。初めまして」


「初めまして。お名前は何と?」


と言います」


さん・・・綺麗なお名前ですね」






よく、お客さんからも言われているので、そう言われて嫌な気はしない。

私は笑顔で”ありがとうございます“とだけ答えると
男の人たちは顔を真っ赤にした。










「・・・っ、と、ところで・・・ちゅ・・・エーカー先輩・・・彼女、先輩の恋人ですか?」



「え?・・・あーその・・・友達だ」










チクッ・・・!







エーカーさんが部下の人にそう答えた瞬間
私の胸に針みたいなのが刺さった。


チクチクして・・・痛い。


どうして、痛いんだろう?




友達です、と言われて当たり前なのに
どうして痛いんだろう?




私とエーカーさんって
【店員とお客さん】で気軽に話す、友達みたいなもの。

それなのに、どうして・・・それで合ってるはずなのに
どうして、こんなにも胸が痛いんだろう。






エーカーさんだって、私に優しくするのは友達だから?




毎日お店に来て、花を買っていってくれる。


1人の時は、嫌とも言わないで側に居てくれた。


今日だって・・・仲直りのお詫びに、誘ってくれたし。


はぐれないようにって、手を繋いでくれた。







友達でも・・・こんなに優しくない。


じゃあ、どうして・・・この人は私に優しくするの?




ねぇ、どうしてですか・・・エーカーさん・・・?











さ・・・・・・さん!」



「はい!・・・ぁ」





エーカーさんに呼ばれ、私は我に返る。

すると、目の前にエーカーさんが心配そうな顔で私を見ていた。








「どうかしました?具合でも、悪くなりましたか?」


「ぃ、いえ・・・大丈夫です。部下の方達は?」


「彼らも休日ですし。それに今日は私とさんのお出かけですから。
それじゃあ、行きましょうか。まだまだ案内したい場所とかありますし」





そっと差し出された手を、私は少し躊躇いながら自分の手と重ねた。



でも、伝わってくる温もりは優しくてこの人の気持ちは嘘じゃないんだと思う。

じゃあ、この気持ちは一体何?




針のように突き刺さる胸の痛みと
貴方から伝わってくる手のぬくもりが私を迷わせていた。








Ambivalence-気持ちの戸惑い-
(胸の痛みと伝わる温もり、気持ちは迷うばかり) inserted by FC2 system

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