彼女、さんの住んでいる店に通いつめて、3ヶ月が経った。


毎日、さんの顔を見るだけで
無色透明な世界が色づいて、晴れやかになり、そして幸せだった。



でも、心の中では迷っていた。

いつまでこの状態を続けてて果たしていいものなのか・・・と。










「カタギリ、どう思う?」


「どうしたんだい、グラハム?」








私は研究室でぼそりと、呟く。

カタギリが私の声をすぐさま拾った。








「私は、どうするべきなのだろうか?」


「何だい、また花少女のことかい?今度はどうしたの?」






カタギリの言う花少女とは、さんのことだ。


私が花屋に通いつめてさんの名前を教えないので
カタギリなりに、考えた愛称のようなものだ。







「もう3ヶ月、私は彼女のお店に通いつめている。デートにだって遠回しに言ったけど誘った。だけど」


「何故か、距離を感じてしまう・・・だろ?」







カタギリの返答に私は押し黙った。




さんを好きだと自覚するまで、そう時間はかからなかった。


むしろ、かなり早い。




私の中で、まるで全力疾走のように彼女への想いが溢れて
今じゃ、彼女だけが・・・さんが側にいてくれたら
どれほど、幸せなことだろうと思って仕方がない。









「何?彼女が君を避けてるの?」


「そうじゃなくて・・・どこか、よそよそしい・・・というか・・・何か、思いつめてる、というか」






最近のさんは、どうも思い耽ってる姿が多い。


何かとボーッとして、心此処に在らずという感じで
「どうかしましたか?」と声をかけると、頬を少し赤らめて
「いえ、全然何ともないですよ!」とだけ返ってくる。








ふと、嫌な予感がよぎる。







「好きな人が、出来た」


「え?・・・何か飛躍し過ぎじゃない?」


「いや、有り得ることだ。・・・配達先か何かでそんなことがあったに違いない」






私は思わず、部屋の中をウロウロとせわしく動き始めた。



さんは真面目だ。

真面目な人ほど、好きな人が出来たりすると
物思いに耽る傾向がある。


私は無いにせよ、そういった話を聞いたことがある。




もし、彼女に好きな人が出来ていたら?


自分の恋はこのまま終わってしまうのか?



まだ「好き」と伝えてもいないのに。











「ねぇ、グラハム」


「何だ、今考えて」


「君はどうしたいの?」


「え?」








すると、カタギリがそう疑問を投げかけてきた。


私は、どうしたい・・・?






「どういう事だ?」


「君は、彼女とどうしたいの?友達のままで居たいの?それとも恋人になりたいの?」


「友達で満足するか!恋人になりたいに決まってるだろ!!・・・あ」








恋、人・・・。


そう、カタギリに大声で叫んだ自分の口を塞ぎ
胸に手を押えた。





あぁ、熱い。

心臓が、ドキドキと鼓動打って
目を瞑れば、さんのあの優しく、蕩けそうな笑顔が目に浮かんでくる。









「カタギリ、私は・・・!」


「ねぇグラハム。・・・いっそのこと、強行手段っていうのはどう?」


「は?」









カタギリの言葉に、私は再び頭を抱え悩むのだった。





















「・・・はぁ〜」


「あら、エーカーさん。いらっしゃいませ」


「あぁ、どうも」


「どうしたんですか?何か困ったことでも?」


「えぇ、まぁ」






昼下がり、いつものように
さんのいる花屋に私は来ていた。


だが、生憎彼女は配達に出て其処には居なかった。


頼りにしていたアンナさんも、居らず
店に居たのはさんの養母がにこやかに出迎えてくれた。









「あの、その・・・はぁ〜」


「ため息が多いですね。如何なされたんです?」


「私の旧友が、ちょっと・・・可笑しなことを口走って」


「それで思い悩んでると?」


「はい」


「それ。よろしければ、お話していただけませんでしょうか?」






彼女は、母のような微笑で
私の肩を叩き、優しく言ってくれた。








「実は・・・旧友が・・・彼女をさんを、好きならば」


「えぇ」


「引き取ってみてはどうだ、と言ってきたんです」


「引き取る?・・・つまり、エーカーさんのご自宅に住まわせるということですよね?」


「はい。・・・でも」








自分にはそんな自信が、あるのか心配だった。


確かに彼女の側に居たい。


ずっと、側に居てあの優しい声や微笑みなどを見れるのであれば
それだけで充分だと思っていた。








「確かに、私は・・・さんが好きです。大好きです。・・・でも、私の側に居たら彼女は」










ツライ思いをするだけだ。



私が軍人だと知らない彼女。


いつ死んでも分からない、私のこの命。


一緒に住んで居たりなんかしたら、きっと彼女をより一層悲しませてしまう。


そう、喜ばせるどころか・・・あの子の悲しみを見なくてはならない。








「大切にしたいです。彼女を、心から愛してあげたい・・・なのに、彼女の悲しい姿は見たくない」








せっかく幸せに暮らしているのに、私が引き取ったりなんかしたら
きっと不安で毎日泣いてしまうのかもしれない。


また、私が戦場で死んだりなんかしたら尚更だ。
両親の死もあるというのに、これ以上彼女に悲しい思いなんかさせたくない。











「なら引き取ってあげてください」


「え?」







養母から零れてきたそんな言葉に私は思わず驚いた。







「ちょっ、待ってください・・・私は」


「貴方は、どうやって困難を乗り越えてきたんですか?」


「え?」








どうやって困難を、乗り越えてきた・・・?



それは・・・・・・―――――。







が居てくれたからでしょう?」







トムが死んだとき、自分も死のうと考えた。


でも、命を粗末にするなと・・・あの時、さんに言われた。


私をいろんなプレッシャーや重荷から救ってくれたのは・・・・。











紛れもない、さんだった。










「私は」


「だったらエーカーさん。あの子、を救ってあげてください」


「え?」






すると、彼女は私に優しく語りかけてきた。







「6歳の頃、父親と母親の親族全員から蔑まれ一人ぼっちであの子は私のところにやってきました。
その時のの目には明るさがなく暗いままで、見ているだけでも辛かった」



「その頃のさんの事を考えただけで、胸が締め付けられて・・・痛いです」



「今でも心配してるんです。一生懸命明るい表情を見せているけど、どこかあの子は無理をしているように見えて。
本当にウチに来て幸せなのかしら、って考えることもあります」



「そうですか」



は強く見えて、本当のところは弱くて脆いんです。
いつ崩れてしまうか、毎日心配なんです。エーカーさん、どうか・・・あの子、の光になってあげてください。
きっとあの子を救えるのは、貴方だけだと私もアンナもそう思っています」


「私が、さんを救う光」








一瞬、その「光」になれるだろうか?と考えた。

でも彼女が居てくれたお陰で、私は絶望の淵から這い上がってこれた。

救いの手を差し伸べてくれたのはさん、ただ1人。



私を助けてくれたのは、さん。



それだと言うのに何一つ彼女に恩返しもしていない。



こうやって自分が今、生き長らえているのは間違いなくさんのおかげだ。

なのに、私は何一つ彼女に恩返しもしてない。

何一つ、お礼も言っていない。



私の闇に、太陽のような光を当ててくれたさん。





太陽の裏側には孤独という闇が存在している。


彼女の眩しい笑顔の裏には、寂しさ・孤独・存在意義、色々な深い深い闇が潜んでいる。



それに気付いているのに、私はこのまま引き下がっていいものなのか?






考えた。


深く、長く、考えなくても自ずと答えはすぐ見えた。




答えは「NO」だ。







引き下がっていいわけがない。


放っておけるわけがない。




今、此処で彼女の手を握らないと
私は一生後悔を引きずったまま生きなきゃいけない。



そんなの、真っ平ゴメンだ。



想いも伝えないで、引き下がるのは一番情けなくてカッコ悪いことだ。





だったら・・・決めよう。





いや、もう、決めた。









「あの」


「決心、できましたか?」



「えぇ」









もう、迷わない。


もう、道を踏み外したりしない。


もう、誤ったりしない。




決めた。



何もかも。









「私に、さんを引き取らせてください」






私が真っ直ぐな眼差しで養母を見ると
彼女は全てを分かったかのような優しい目をして
「あの子をよろしくお願いします」とだけ言い、深々と頭を下げた。






大丈夫だ。
さんを愛せる自信は誰にも負けたりしない。


私が愛してあげよう、君の全てを。


私を救ってくれたみたいに、私も君を救ってあげたい。




だから、もう悲しい顔をしないで欲しい。


ずっと、ずっと、私にその微笑みを見せていて欲しい。


君が悲しいときは、私が君を照らしてあげるから。












「ただいまぁ〜、配達終わったよ」








すると、其処にタイミングよくさんが帰って来た。





ねえ、さん。

私は今から君に重大なことを話すつもりです。
驚かないで聞いて欲しい。




私の、君に対する想いを。



今から伝えるから・・・私の、キモチを。





もう、君を1人になんかさせないから。





Determination-私に出来る事-
(君の為に私に出来る事は、私の側で君を愛し続けることです) inserted by FC2 system

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