「ただいまぁ〜・・・配達終わったよ」


さん、お帰りなさい。配達お疲れ様」


「あ、エーカーさん」






私が配達から帰ると、まるで私が戻ってくるのを待ったいたかのように
エーカーさんが笑顔で出迎えてくれた。





あぁ、私この笑顔が・・・大好きなんだ。





いつも、優しく私に接してくれるエーカーさん。


笑顔で、私に話しかけてくれるエーカーさん。





だから、好きになっちゃうんです・・・貴方のことが。








。今からエーカーさん、貴女に大切な話があるんだって」


「え?私に?」






すると、お養母さんが優しい笑みを浮かべながら
配達から戻ってきた私に言う。

エーカーさんから大切な話、とは何だろうと思い私は彼の人を見る。



私が彼を見ると、何時にもまして真剣な眼差しと面持ちでこちらを見ていた。

あまりの事で思わず緊張してしまう。



しかし、なかなかエーカーさんは話を切り出して来ない。
表情からして何を言おうとしているのか、戸惑っているようにも思えた。



自分から声をかけようと思ったら、ふと肩に感じる温かなぬくもり。

目線を横に向けるとお養母さんが優しい表情で私を見ていた。








「お養母さん」


「あのね。エーカーさん、貴女のこと引き取りたいんだって」


「引き取りたいって・・・え?あ、あの一体どういう?」


「エーカーさんにのこと話したら”私にさんを引き取らせてください“って言ってきたの」


「そ、そんな・・・っ」







お養母さんの言葉に私は焦った。

いくら、好きな人でもそんな風にしてほしいなんて望んでいない。

むしろ私は・・・彼にとって迷惑なんじゃないのかと思ってしまう。




私は思わず彼に駆け寄った。







「エ、エーカーさん・・・困ります!!私を引き取るなんて」


さん」


「私なんか、別に何の役にも立ちませんし・・・それに・・・あの」








次に続く言葉が出てこなかった。




これ以上大切な人を作ってしまえば
貴女はまたツライ思いをしなきゃいけない。

パパやママも、死ななくていい命だった。






これ以上、もう・・・大切な人を失いたくない。





パパやママと同じように、エーカーさんを私は失いたくない。



このままでいい。

このままで・・・この人を心の中で想っていれば、それだけで――――。









私は手で口を覆い隠し、溢れる涙を必死で堪えた。







さん」


「っ、エーカー・・・さ」









すると、私の目の前に・・・先程とは打って変わって
あの、いつもの優しい微笑みを浮かべた、エーカーさんが立っていた。







「私は貴女が側に居てくれたおかげで救われたんです」


「ぇ?」







救われたって・・・一体・・・?


引き取りたい、という話と並行して放たれた言葉に
もう私の頭は混乱状態になっていた。

でも、自分から話すとどんな言葉が出てくるのかが分からなかったので
私はただ、黙って彼の言葉に耳を傾けた。






「貴女と最初に逢った日、私は友を亡くしたと言いましたよね?」


「え、あ・・・はぃ」


「そのとき、私は死を選ぶつもりでした」


「え?」







初めて聞く彼の告白に、私は少し戸惑いを隠せない。




見るからに、芯の強そうな人・・・そう、私の目には映っていた。


だけど、そういう人に限って
その弱さを決して周囲に見せないよう振舞っている人も、少なからず居る。




エーカーさんはきっと、そういう人だったんだ。





「もう耐えられなかったんです、色んなものに押し潰されそうになって。
あの雨の日・・・丁度彼が亡くなったと知らされた日・・・私も、死のうと思いました」




「エーカー・・・さん」




「煩わしいもの全てから解放されたかった、辛かったんです・・・私自身。でも、そんな時・・・」
















『こんなところに居たら、風邪引いちゃいますよ』














「貴女が、私を助けてくれた。貴女の、優しい微笑みを見て・・・背中にのしかかっていた重荷が
一気に、剥がれ落ちていったんです。それからです、貴女が私の生きる糧になりました」







エーカーさんと逢った、あの雨の日。

傘を忘れたようにも思えたけれど、それだけではない予感がしていた。
だから傘の中に招き入れて、コーヒーをご馳走して、勿忘草の入った花束を渡した。





ほんの少しの手助けしか出来なかった私。


だけど、あの人は救われたと言い・・・自らの生きる糧を、見出した。








「だから、毎日・・・来てくれてたんですか?」


「はい。毎日なんて異常だ、って旧友に言われたんですが1日1回、貴女に逢わなければ何だか落ち着かなくて。
ご家族が日本に出かけたあの日。貴女を一人に出来なかったのは怖い記憶を思い出してしまうのではないかと恐れたからです。
お出かけに誘ったのも、お詫びという言葉に託(かこつ)けてただけなんです。本当は、貴女をもっと知りたかった。
もっと貴女の側に居たかった。貴女の存在を側で、感じていたかった」








私が、この人の生きる糧になった。




私に、逢う為に毎日お店に来てくれていた。




私の事を考えて、この人はあの日此処に留まってくれた。




私の存在を、側で感じたかったから2人っきりで出かけようなんて誘ってくれた。









それってつまり、エーカーさんは私のこと・・・―――――。



















「貴女が好きだから、毎日逢いに来たり・・・色々、したんです。
別に、私の気持ちに気付いてもらおうだなんて思わずしてました。
本当に一方的な、私の好意です。貴女の迷惑にだけはなりたく、なかったから」












彼のその言葉を聞いた瞬間、胸が熱くなった。


嘘、嘘よ。

この人が、私のこと・・・好きだなんて・・・信じられない。









「正直、自分でもこんな気持ち初めてで・・・驚いてるんです」



「え?」






すると、エーカーさんは頭を掻きながら、私を見る。

その顔から見られる、頬が微かに赤い。









「誰かを好きになることなんて、今までの私にはありませんでした。
人を好きになるって・・・時々苦しい時もあったけれど、幸せなものなんだと・・・知りました。
それを教えてくれたのは、さん・・・貴女なんですよ。
空にばかり魅入られていた私に、他にはない幸福を貴女は教えてくれた」









エーカーさんは、本当に嬉しそうに私に言ってくれた。




この人は、本当に私のことが好きなんだ。


この人なら、エーカーさんなら・・・全部、愛してくれる。











私 の 抱 え て る 悲 し み 全 部 。









「・・・エーカーさん・・・わ、たしっ」


「貴女が側に居てくれたら、もう安易に死を選ぶなんて事しません。
それよりも、私は貴女を失いことが何よりも怖いです」


「・・・っ、エーカーさん」


「だから、貴女の抱えてる悲しみを私に全部預けてください。もう、一人で抱え込まなくていいんです」








そう言って、エーカーさんは私を優しく包み込むように抱きしめてくれた。









「私・・・あの・・・っ」


「苦しかったでしょう、今まで。もういいんですよ―――私が側に居て貴女を守ります。
約束しましょう。だから、どうか・・・悲しみを、苦しみを1人で抱え込まないでください。
此処で誓います。私が貴女を守り、愛すると」


「エーカーさん・・・っ」











その言葉を聴いた瞬間、内なるものが溢れるように外へと
涙に変わって出てきた。


エーカーさんは何も言わず私の頭を優しく撫でてくれた。



辛かった、あの6歳の日から。


生まれてこなければよかったと言われ、自分の存在意義が失われた。

親族皆からは喜ばれるような生まれも育ちもしてない。
パパとママの子供だからといって、皆私をまるで物を捨てるかのように言って追いやった。



だから大切な人を作っちゃいけない。

失ったときにツライ思いをするだけだ、と自分に何度も言い聞かせて。



それだけが怖くて、無理をしていた。












「私、私本当は怖かっただけなんです」



「うん」



「誰かを想ってしまえば、きっと早からず私の前から去っていくって。
だから・・・エーカーさんの事も、そう思ってて」



「うん」



「でも、そう思われない様にしていただけで・・・本当は、本当は言いたいことがいっぱいあったんです。
だから・・・あの、私・・・ずっと、ずっと言いたかった事があるんです」




「何をですか?」








ほんの少し、間を置いて。

私は目に涙を溜めたまま・・・顔を上げ、エーカーさんを見る。










「貴方が、好きです」






さん」









胸にしまい込んでいた想いを、ようやく外へと出せた。


そして、一番伝えたかった人に伝えることが出来た。







「よかった、さんもそう・・・想っててくれて、嬉しい」







そう言って、エーカーさんの優しい声を耳に入れて
私は顔を上げた。










「エーカーさん」


さん。あと一つ、驚かないで聞いてほしいことがあります」


「え?あ、は・・・はい」


「実は、私・・・」






すると、エーカーさんは胸の内ポケットから
手帳のようなものを取り出して、それを開き私に見せた。







Graham Acre(グラハム・エーカー)

Class(階級):First Lieutenant(中尉)

Troops belonging(所属部隊):MSWAD(ユニオン直属米軍第一航空戦飛行隊)










「ぐ、軍人っ!?エーカーさん、軍人なんですか?!」


「はい」








それを見た瞬間、今までのこと以上に私は驚いた。


私は手を震わせながら開かれた手帳をまじまじと見る。
顔写真があることから間違いなく其処に映っている人物は
自分の目の前にいる人、その人なのだと分かる。


MSWAD(エムスワッド)・・・といえば、アメリカ軍では有名な、MS(モビルスーツ)軍隊。

其処を目指して軍に入る人も少なからず存在する。


今まで外交官、だと思っていた人が蓋を開けてみたら
アメリカきっての・・・しかも、有名な部隊に所属している軍人。






「すいません。その、騙すつもりとかなかったんです。でも、なんて言うか
自分が軍人であることをなかなか言い出せなくて。外交官と偽っていたこと・・・謝ります。
本当にすいませんでした」


「皆、知ってたんですか?エーカーさんが、軍人だって」







私がお養母さんを見ると、お養母さんは頷いて
すると店の奥に居たアンナもいつの間にか其処にいて
彼女もまた、頷いていた。



つまり、エーカーさんが軍人だと知らなかったのは・・・私だけ。





3ヶ月。

私はエーカーさんと毎日のように喋っていたにも関わらず
それを知る要素が無かった。




しかし、思い返せば・・・・・・―――――。











「この間の、デートの時・・・エーカーさんの仕事先の部下って人たちが
エーカーさんのこと”ちゅうい“って・・・仰ってたのは、本当に貴方が軍人で・・・中尉という階級にあったから」



「あの時は本当に驚きました。まさか部下達が通って、声をかけてくるなんて思ってなかったもので」



「私が軍内部に配達で訪れて男の人達に絡まれてたのを偶然助けた時
たまたま近くを通ったって言ってたけど」



「部下達とランチに行く途中でした。たまたま通ったのは本当です」







つまり、この人が軍人だという要素は
この3ヶ月間で私は見抜くことができなかったということになる。

しかもヒントは数多く隠されて居たのにも関わらず、私はずっと
エーカーさんを「外交官」だと思い込んでいた。



そう考えただけで、恥ずかしくて・・・穴があったら入りたい気分だ。








「すいません。何か、私・・・エーカーさんの職業のこと勘違いしてて。
そんな偉い人だなんて知らなくて・・・っ」


「偉い人、だなんてとんでもないです。中尉でも、扱いは下と同じですから。
それにちゃんと素性を明かしていればよかったまでの話ですから気にしないでください」



「エーカーさん」






私の勘違いでも、エーカーさんは優しく笑って言ってくれた。





この人なら、この人となら、もう怖がることないんだ。



この人なら、私を全部愛してくれる・・・信用できる。



私の全部を、この人に預けることができる。









「あの、答えを先走らせる事をあんまりしたくはないんですが。
さん、私の家に・・・一緒に住んでくれますか?私の側に、ずっと、居てくれますか?
すぐに答えろとは言いません。ご家族と話し合ってゆっくり考えてもいいんです。それまで私は、貴女の返答を待ちます」









この人が決めたのだから、私も決めよう。








「お養母さん、アンナ」



「どうしたの、?」

「何?」








この人となら、きっと・・・―――――。












「私、エーカーさんと一緒に住みたい」


さん」









私は、幸せになる事ができるのかもしれない。







「私はエーカーさんよりも子供だし、未熟かもしれません」


「それでも私は構いません。誰かとともに成長していくのも、人のあるべき姿です。
貴女と共に、歩める時間があるというのなら・・・それが許されるというのなら、どうか・・・私の側にいて下さい。
必ず私が幸せにします、必ず私が守ってみせます。それだけは、今此処にいる人達の前で誓いましょう」


「エーカーさん」







「お養母さん」





私とエーカーさんの側にお養母さんが優しい表情で寄ってきて
私達の手を重ね合わせ、自分の手をその上から重ねた。







。今まで辛かった分・・・うんと、幸せになりなさい」


「お養母さん・・・っ」



「中尉さん。を、よろしく頼みます」


「神に誓って。そして今までさんを育ててきた皆さんに誓って、私は彼女を愛し続けます。この生命が尽きるまで」







エーカーさんの言葉に、お養母さんは頷いて「ありがとう」と答え手が離れた。


そして其処に残ったぬくもりは
いつも感じていた、あの人の・・・大好きな人のぬくもり。






グラハム・エーカーという、私の大切な人。





私が彼をじっと見ていると、彼は不思議そうな顔をして私を見ていた。





「あの」


「はい?」


「エーカーさん・・・大好きです」





私の言葉にエーカーさんは頬を赤くして、頭を掻きながら
「まいったな」とだけ笑いながら答えてくれた。





18歳のあの日。

エーカーさんと、出逢って3ヶ月したあの日。

ようやく、お互いの気持ちが伝わり合った瞬間が訪れたのだった。



Cross-伝わり合う想い-
(雨の日の出逢いから3ヶ月後。私と彼の気持ちは交わり、想いが通じ合った) inserted by FC2 system

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