傘の中に招き入れられ、私は彼女の案内で
何処か分からない場所へと連れて行かれた。




着いた先は、とても鮮やかな色とりどりの無数の花が並んでおり
誰もが知っている花から、知らない花も、色んなのが揃っていた。


その光景からして、其処が「花屋」だと言うことが分かった。



中では、もう1人の少女が店頭に置いていた花を
雨に濡れないよう急いで店の中に運んでいた。








「も〜、何処行ってたのよ!!」


「ごめんごめん。あ、ちょっと此処で待っててください。タオルとコーヒーすぐ持ってきますから」


「ちょっと、片付け!!」


「すぐ戻るから!!」






少女は私に待つように言うと、すぐさまに店の奥へと入っていった。

すると、私ともう1人の少女と目が合う。






「貴方、何処かで見たような・・・?」


「はい?」


「あ!?・・・・も、もしかして・・・・貴方!?」








もう1人の少女は私の顔を見るなり、慌てて店の奥へと入っていった。

それとすれ違うように私に声をかけてきた少女が
タオルとコーヒーを持って戻ってきた。








「はい、どうぞ。これで拭いてください」


「ありがとう、ございます」


「コーヒー、此処に置いときますね」





少女はタオルを私に渡すと、レジカウンターらしきところに
コーヒーの入ったカップを置いた。


私は、貰ったタオルで体や頭を丁寧に拭きあげる。

わざと頭にタオルを掛けて、その隙間から少女の姿を見た。
するとこちらの視線に気づいたのか少女はニッコリと微笑んだ。







「雨が止むまでゆっくりしていってください。あ、どうぞお掛けになってください」






少女は小さなパイプ椅子を私の目の前に出した。

私はただ無言のまま椅子に腰掛け、コーヒーを一口飲んだ。
少女は私のその姿を見て安心したのか、カウンターに置いた籠に花を詰め込み始めた。








「あの・・・・どうして」


「はい?」







私は思わず、少女に話しかけた。

すると少女は声に気づいたのか、作業する手を止め私を見た。







「どうして・・・・私を、傘の中に入れたんですか?」


「え?傘、忘れたのかと思って・・・違いましたか?」


「プッ・・・・アハハハハ・・・・!!」






私は思わず笑ってしまった。

彼女の目にはそんな風に私は見えていたらしい。
そう思うと、笑わずにはいられない。







「え?!・・・・ぁ、あの・・・私」


「あ、すいません。ちょっと、笑いすぎましたね・・・失礼しました」





少女は自分の勘違いに気づき、顔を真っ赤にしていた。
私は笑うのを止め、謝罪をし少女を見た。







「まぁ、傘を忘れたのは・・・・少なからず当たってはいます」


「え?・・・・でもじゃあ、どうして?」


「そうですね。しいて言うなら、雨に打たれたかった。そうとだけ答えておきます」


「雨に、打たれたかった。・・・・何故ですか?」







少女は首を傾げ、私を見た。

私はカップを両手で包み込み、波打つコーヒーに目を移した。







「友人が・・・・・・戦争で死にました」


「ぁ・・・・す、すいません。不躾なこと聞いて」


「いいんですよ。・・・・私は、彼を助けてあげることが出来なくて、悔しいんです」







どうして、自分が彼と同じ戦地に行けなかったのか。

いや、行かせてもらえなかったのかが
今でも思うだけで腹立たしくて仕方がない。










「私は彼を助けてあげるべきだったんです。なのに、どうして彼を助けに行けなかったのか。
彼は命を懸けてこの国を守ったのに、私は命を懸けて彼を助けてあげれなかった。
それだけが悔しくて、悔しくて・・・・っ」







”エースは此処に居なくてはならない“

誰がそんなことを決めた?

「誰も」決めちゃいない、「誰かが」勝手に決め付けたんだ。





私を縛り、どこかへ行く事も、1人の人間としての尊重すら許されない。

そう「ただの人形-捨て駒-」として・・・・私はいい様に使われているだけなんだ。







「空に憧れて・・・・そして、友が出来て、彼と信頼を築いて。
でも、昔からの馴染みだったしお互いが分かり合える仲だったんです。
だけど・・・・それなのに、私は・・・・」


























『イタリアへ行く、だと?・・・・今最も激しい戦地に向かうというのか!?』


『あぁ、上層部の命令だそうだ。心配するな、グラハム。俺も1人のファイターだぜ?』


『なら、私も行くぞ。君の上司として、そして友として私も』


『お前は・・・・此処に残れだとさ』


『ど、ういう』


『お前は、上層部のお偉いさんたちには必要な人材なんだと。よかったじゃないか、グラハム』


『良いわけないだろ!!何故だ、私だって軍人だぞ!!こうなれば、上層部に直々に』


『やめろ!!お前は、此処に残らなきゃいけないんだ!!』


『しかし!!』


『頼む、残ってくれ。俺は、この国のために戦う。だからお前はこの国ために此処を守ってくれ』


『トム・・・・君は』


『頼んだぜ、グラハム・エーカー中尉!』










あの日が最後の会話で、あの日を境に彼が居なくなった。


そして・・・・・・――――。










「今日、彼が亡くなった知らせを受けて。私は、やるせなくて
彼を助けてあげれなかったことがどうしても・・・悔しくて・・・っ」







だから、いっそのこと・・・・死を選ぼうと考えた。


そうすれば、きっと楽になれると・・・そう、思ったからだ。




死ねば、きっと皆悲しむ。

でも、私はもう疲れた・・・・考えることも、戦うことも、全て。
いい様に軍に使われるくらいなら、いっそ自ら死を選んだほうがいい。



目を一旦閉じて、再び開くと目の前に大きな花束が現れた。


花束を出したのは紛れもなく、あの少女。
私は唖然とした表情でそれを見て、花束を出した少女を見た。









「あの」


「お代はいりません。それは、私からの気持ちです・・・・受け取ってください」






少女は笑顔で、私に花束を渡した。

綺麗に束ねられた数種類の花。

その鮮やかな色に、心が癒されていく。


すると、少女が花束の中のライトブルーの小さな花に指を差した。






「コレ、忘れな草って言う花なんです」


「忘れな草?」


「えぇ。・・・・『私を忘れないで』っていう花言葉を持ってるんです。
いつか、その人とは別の形で貴方とはまた出会うかもしれません。だから、安易に命を粗末にしちゃダメなんです。
貴方がその人を忘れないように・・・・貴方は、一生懸命生きなきゃダメなんです。
お友達さんはきっと、違ったカタチでまた貴方に会いに来ると思いますから
それまで忘れないであげてください」







その言葉に、私は胸を打たれた。
少女は悲しげな表情をしつつも私に言ってくれた。



私は思わず少女の顔を見つめた。








なんて、憂いを帯びた顔なんだ。

どこか、儚いのに・・・何故だろう、この表情が愛しく感じてしまう。



目線が外せれない。

心臓がドクドクと音を立てて、鳴り響いている。







「あ、雨上がりましたよ」







すると、さっきまで降っていた雨が止み青空が広がっていた。

私は店先まで出て、空を見る。









「え?あぁ、ホントだ。雨宿りに使って申し訳ないです」


「いいえ、とんでもないです。あの・・・・・もう、大丈夫みたいですね」







少女は笑顔で私を見た。






「え?」


「お顔、さっきよりも凛々しくなってます」





そう言われ、私はガラス越しの自分の姿を見る。


言われてみれば確かにそうかもしれない。

先程までの私の表情は本当に死の淵に立たされていたような表情で
目に色なんてないようにも思えた。

だけど今自分の顔を見ると、それが見違えるほど澄んだものに変わり
心まで晴れやかで、頭も何だかスッキリとした感覚だった。








「貴女のおかげかもしれません、ありがとうございます」


「とんでもない。ではお気をつけて」








少女は私を店先まで見送り、中に戻っていく。





胸打つ鼓動。


私に生きる希望を見出してくれた。



君は何て言うの?


だから知りたい・・・・君の・・・・――――――。











「君!」


「はい?」









「君・・・・名前は・・・・?」







思わず叫んで、呼び止めてしまった。

すると、少女は少し躊躇いながら・・・・――――。










「え?です・・・・ですけど」








・・・・か。









「そうですか。さんですか、美しい名前ですね。・・・・また来ます」


「ありがとうございました、またどうぞ」







そう言って、私は店を出た。









店を出て、しばらく歩き彼女からもらった大きな花束を見る。

目に入ったのは、ライトブルーの忘れな草。









「『私を忘れないで』か。いい言葉だ。なぁトム」







友の名を呟いたと同時に浮かんできた少女の、さんの表情。


まるで、彼女自身が誰かに訴えかけたように・・・・そう思えた。


そしてそれは私の心に響いてしっかりと掴んで離さなかった。






After the rain-勿忘草と君の名前-
(忘れたりしない。大切な友の存在と、優しくしてくれた君の名前を) inserted by FC2 system

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